15話
「子供のときってさぁ、自分の今が未来にどう直結するかわかんないもんなんだよね」
斎藤さんは、あー疲れたと言って、ヒナちゃんのベッドにガニ股で腰をかけ、首をコキコキと左右に鳴らしながら話を続けた。…どうでもいい話だが、斎藤さんのような見た目が華やかな人が中年男性のような仕草をするとギャップがあるな。悪い意味で。
「今が辛いって言って現状を放棄するのは楽だけどさ、絶対それはあとからしっぺ返しが来るんだよね」
「……それは経験則?」
「…まぁ、そうかな。私は嫌なことばかりから逃げて来て、やるべき事をやって来なかった人間だから。それで後悔することの方が多いってことを知ってるから。だから未来がある愛ちゃんやヒナにはちゃんと当たり前のことが大事だってことを知っといて欲しいんだよね。死ぬほど今が辛くても、絶対にやるべき事はやらないと。じゃないと近い将来死ぬほどじゃなくて本当に死んじゃうことになるかも。別にさ、そのやるべき事ってのが自分で理解してやれてるならなんだっていいの。でも、愛ちゃんもヒナもやるべき事を見いだせていないくせに現状からは逃げている。具体的に将来のビジョンを映し出せていない子は、今やるべき事が分かってない子は」
「大人しく学校に行ってろと?」
「超要約するとね」
「今のヒナちゃんのやるべき事っていうのは自殺した親友の死因を突き止めることなのかもね」
「冗談‼︎言っちゃ悪いけどそれは今するべき事じゃないし、親友の死因を探る事と生きてる人間の将来を天秤にかけたらどっちが上かなんてわかることじゃない!」
「ヒナちゃんにとっては親友の死因の方が自分の将来よりも今は勝ってるんじゃない」
「それで?もし原因が見つかったら?ヒナになんかできるの?死因は家庭環境かもしれないし、全然違うことかもしれない。まぁ仮にいじめだったとしたら卒業前に復讐くらいはできるかもだけど。けど、復讐したところで死者はかえってこないんだよ」
「そんなこと僕に言われても」
斉藤さんは、はーっと深く、大きいため息を吐くとそれもそうかぁ、と言ってベッドから立ち上がり、体を伸ばした。それから小さな声で、ごめん八つ当たりした、と言った。
「結局ヒナ、愛ちゃんのこと知らなかったね」
「学校が同じでも関わったことがないなら仕方ないよ。斉藤さん今日はありがとう。ヒナちゃんも、良い印象は残せなかったと思うけど、お礼言っといてもらえる?」
そもそも斉藤家には愛崎さんのことをヒナちゃんに聞くために訪れたのだ。
収穫はゼロだったがそれは仕方がない。一種の賭けみたいなものだったし。
「ねぇ、私はヒナにも愛ちゃんにも良い学校に行って、良いところに就職して幸せになってほしいって思ってるけど、時久はどうしてヒナに聞いてまで愛ちゃんを学校に行かせたいの?」
「僕も、斉藤さんと一緒だから」
僕は斉藤家をあとにした。




