第50話 宰相様の執務室 交渉成立の後
「交渉は成立したようですね」
きっちり1時間後、宰相は戻ってきた。
なぜか、後ろにティータイムセットのワゴンを持った侍女を従えて。
「はい。任務として受けます」
セドリックの態度が改まっている。さっきまでの態度はどこへやら。
「では、第5部隊を任せます。もともと貴方の部隊だが卒業前に隊長に就任ということにしましよう。それと、私の持ち駒を必要に応じ貸し出しましょう」
「ありがとうございます」
「それと、リナ様」
「あ……はい」
「今、寮で使ってる侍女を自宅に戻して下さい。庶民の出である彼女を危険な目に遭わせるのは、忍びないでしょう?」
「そうですね。そうします」
そうか、そこまで考えが及ばなかった。私が危ないって事は、私の周りも危なくなるんだ。
「代わりと言っては、何ですが……。この者をお連れ下さい。女子寮での護衛になります」
宰相と共に入ってきた侍女が私に礼を執る。
「ライラでございます」
栗色の髪を後ろで引っ詰めている。どこにでも居そうな侍女だ。
「リナ・ポートフェンです。よろしくお願いします」
相手がどういう身分なのか分からないので、令嬢としての礼を執る。
まさか、この場に入れる人間の身分が庶民では無いだろう。
「おやめ下さい。そのような挨拶をされる立場ではありません」
ライラから窘められてしまった。
でも、私は子爵令嬢だよ。わりと使用人と仲良いよ。
「でも、うちの侍女にもこんな感じですけど、私。さすがに自分の侍女に敬語は使いませんが」
「かしこまりました。そちらの侍女の方と引き継ぎさせて頂きます」
セドリックはじっとそのやりとりを見ていて、宰相の方に話を振ってる。
「あれは、大丈夫なのですかね」
「使いこなせなければ、そもそも今回のことは無理な話でしょう?」
わざと聞かせているんだろうな、2人とも。何なの、この不穏な会話は。
夕方、女子寮に戻ってきて、マリアだけ私の自宅に戻ることを伝えた。
マリアはショックを受けたようだけど、マリアとライラどの間で、さくさく引き継ぎは終わっていった。
元々、マリアも侍女としてはかなり優秀だ。
優秀だからこそ、1人この貴族だらけの寮に侍女として連れてこられたのだから。
そして、ライラは完璧にマリアをトレースした。
これなら、侍女が変わったことなど、誰も……学園では、兄以外気づかないだろう。
アル兄にも、話さなきゃ。私から離れるように。
純粋に子爵令息という身分しか持ってない兄は、この間のように現場処刑になったときに、抗うすべが無い。




