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第28話 リネハン伯爵邸の夜会 書類の奪還

 私は、適当に動きやすそうな、ワンピースをちょっと豪華にした感じの服に着替えた。ズボン欲しいな。

 前世じゃ、ずっとパンツスーツだったし。

 事前に準備して隠し持ってた道具を外して、夜会服(ドレス)はクローゼットの中に押し込んだ。


 さて、時間は惜しいけど、最低限の確認事項をしないといけない。

「今回、優先事項があるんですけど…。エイリーン様の生還。これが第一条件です。その次が書類。その書類は必ず国王陛下の元に届くようにしないといけません」

「書類が第一では無いの?」

 私の代わりはいるのでは? エイリーンは言外に言っている。

 ある意味正しいが。


「書類の内容は最悪、後からでも調べられます。けど……」

 問題はジークフリートなんだよね。ゲーム通りの人柄なら大変やっかいだ。

 奴はゲーム内で、恋人(しゅじんこう)のために後先考えず、悪役令嬢(エイリーン)を断罪している。

「エイリーン様は、王太子殿下に愛されてますから、代わりはいません」

 だから、私たちの為にも生き延びて下さい。


 エイリーンは、そっと溜息をついた。

 そして、まじめな顔になって言う。

「リナ様。わたくしの命。貴女に預けます。きっと道を切り開いてくださいますよう」

 ああ、そうか守られる側にも覚悟がいる。負けられないんだ、私。

「お守り致します。姫」

 ひざまずいて、騎士様がするような礼を執る。


 次の瞬間、2人で吹き出し笑った。

 エイリーンはすごい。最悪自分も死ぬかも知れない状況で笑ってる。

 なんかジークフリートが大切に思う気持ちも分かるな。

 敷地内には、セドリックも兄もいるんだ。

 戦闘力皆無だけど、そこまでたどり着けたら何とかなるだろう。


 エイリーンにベッドカバーを頭から被ってもらった。

 書類を持ってもらったときに分かりにくくなるのと、何かの破片が飛んできても怪我をしにくくなる。気休め程度だけど。

 ちなみにシーツだと、薄いし白いので薄暗い中目立つんだ。

 カギを開けるのは、簡単。何とこの世界のカギ、昔いた小学校のピアノのカギと同じなのだ。

 準備してた小さな金属板を隙間にさして体重をかけて縦に思いっきりスライドした。

 カタンと小さな音がしてカギが開いた。


「すごいわねぇ~」

 エイリーンが妙なところで感心する。

 そーっと、扉から顔だけ出して、誰もいないことを確認する。なるべく壁に沿って歩くようにして、廊下を移動した。

 結構長い廊下だと思うけど、誰にも出くわさない。

 女2人では何も出来ないと思って油断したか。それとも……。


「ねぇ、今更なんだけど。こんな役目させられて後悔してません?」

 いや、本当に今更だよ、エイリーン。

「後悔なんて、1秒ごとにしてるに決まってるじゃ無いですか」

 く…ぷっ。エイリーンが必死で笑いをこらえている。

「笑ってないで先進みましょう」


 やっと、執務室に着いて、さっきの要領でカギを開けた。

 なんとか机にたどり着く。ランプ使わないとさすがに分からないなぁ。

 ランプの芯をギリギリ下に下ろしてマッチで火を付けた。

 いや、ご都合主義の乙女ゲーム設定で助かった。マッチ……向こうの世界じゃ19世紀まで存在してないよ。


 机の上に書類や手紙がまとめて置いてあった。

 やっぱり協力してくれてる。

 中身を確認しながら持ってきた自作のエコバッグに入れていく。

 それをエイリーンに持ってもらった。

「誰だっ」

 ランプ……。かなり暗めにしてたのに見えちゃったか。私設の警備兵らしき人がやってきてしまった。

 私は、持参した袋のうちの1つにサッと手を突っ込んで中の(パウダー)をつかみ取る。手がピリピリするな。


 前世の私ならともかく、この外見ならいけるかな。

 ふんわり軽い印象のいたいけな美少女…自分で言うなって? 元はゲームのアバターだよ、所詮。

 エイリーンに布を深く被って、目と口をしっかり閉じてそばから離れないように言う。合図したら走って……はお約束。

 黙って兵士を見つめる目、怯えて口もきけない風に見えるだろうか。


「お嬢ちゃんたち、迷ったのかい」

 兵士が近付いて来る。黙ってコクッとうなずく。

 今、私たちは夜会服ドレスを着ていない。招待客じゃ無いのは一目瞭然だろう。それなのに、こういう言い方をするのは……。

「怖くないよ。さぁ、お兄さんが安全なところに連れて行って上げるからね」

 そうね、スケベ心全開のお兄さん。もっと近くによって下さいな。

「さぁ」

 こちらに手を差し伸べ、顔を近づけてきた。


 その瞬間、私は握ってた(パウダー)を兵士の顔に押しつけた。

「ぶっ」

「走って」

 即座に、エイリーンの手を引っ張って走る。

 相手の動きが止まっている一瞬の隙を突かないと逃げられない。

 闇雲に暴れ出したら私たちじゃ手に負えないだろう。


 ランプと書類を持って私たちは兵士の横をすり抜けた。

 後ろで「ギャ~ッ、目が~」と叫んでるのが聞こえる。

 ハバネロ+αの(パウダー)の威力はすごい。


 やはり、あいつは暴君だった。

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