第9話 衝撃的な出来事と元の世界
午前中は気分がすぐれないので、午後になってから私はお屋敷内の庭の散策をしたり、のんびりお部屋で過ごしたりしていた。
この世界は、正確に妊娠していることが分かるお医者さんはいない。
まぁ、エコー検査とかないからね。
だから、妊娠初期は、妊娠したかもしれない状態で過ごすことが多いらしい。
万が一、間違った診断でも下した日には、お医者さんも処罰されることもあるし、奥方も恥をかくのでお互いの為なのだろうけど。
私がお庭を散策していたら、キースがやってきた。
王宮から戻ってすぐに、私の側に来たみたいだ。まだ、剣を腰に下げている。
「リリアーナ。少し、屋敷の側の森にでも行ってみないか? 丁度、果物がたくさん採れる時期だし、栗なんかも落ちてるから」
何だか、不自然だ。私に付いていた侍女を下がらせ、王宮の近衛兵を連れている。フルアーマーで、顔も見えないけど。
「体調が悪いので、馬車には乗りたくないですけど」
馬車の振動を加えたら、流産してしまうかもしれない。
「なぁに、歩いて行ける距離だよ。お屋敷の警備の一環で作った森だ」
そう言いながら、私をグイっと引き寄せた。後ろにいた近衛兵が、一瞬警戒したのが分かったけど。
「最近、屋敷に籠りっぱなしだろ? 里奈の気分転換になるかと思って」
ぼそぼそと、悠人の口調で言ってきた。
なるほど、そういう事。
「歩いて行けるのでしたら……」
私は、そう言ってキースと連れ立って歩き出した。
木漏れ日がキレイ。
日本の秋の様に、木には果物が生っているし、足元には落ち葉に紛れて栗が落ちている。
私たちは、水の流れる音が聞こえる方まで進んでいった。
崖の下に川が流れている。
私がそちらの方に、気を取られていると。
「リリアーナ。すまない」
そう言って、キースがいつの間にか抜いていた剣で私を貫いた。
一瞬、頭が真っ白になる。お腹が熱い。
痛い……じゃ無くて、本当に熱いと感じた。
剣がもう一度、グッと深く刺さってから、抜かれたのが分かった。
口からゴフッと血があふれ出す。
なんで? お腹には赤ちゃんがいるかも知れないのに。
キースに会ったらその事を伝えようと思っていたのに……。
私は、その場で倒れてしまっていた。
落ち葉の上に、ドクドクと血が流れていくのが見える。
体がだんだん冷えて来ていた。
「遺体は持ち帰れないからな。崖から落とすしか無いか」
キースが誰かとしゃべっている声がする。
なんで……こんな。
「ああ。その為の検分役だからな、俺は。王太子殿下も、これでお前の忠誠を疑う事はしなくなるだろう」
近衛兵の方が兜を脱いでそう言っていた。
あれ……は、マリユス・ニコラ。
もう目もかすんで良く見えないけど、あいつだけは見間違えたりしない。
アンセルム殿下専属、王室の暗部の1人。
キースが私の体を、持ち上げる。
丁度、お姫様抱っこしているみたいに……。
「こんな帰し方しか出来なくて、すまない。向こうの悠人によろしくな」
そう小声で言って、キースは私の体を崖から放り投げた。
後は暗闇が広がるばかりで…………。
「……奈。里奈。ったく、ヘッドセット着けたまま寝落ちすんなよ」
体がゆすられている。
へ? なんか、真っ暗だと思ったら……。
VRゲームのヘッドセットを外して、悠人を見た。
「何、泣いてるの。泣くようなゲームしてたの?」
外から帰ってきたばかりだろう悠人が訊いてくる。
私はクーラーが効いた部屋で寝てたので体が冷えているけど、悠人は汗だくだ。
自分の頬を手で触れた。
何で泣いていたんだろう? 覚えてないや。
「よしよし。可哀そうに、怖い夢でも見たんだね」
「だー! やめて、汗だくの体で抱きしめないで……」
悠人に抱きしめられそうになって慌てて逃げた。
いや、今抱き着かれたら私までシャワー浴びないといけなくなる。
「ビール買ってきたから、風呂から上がったら飲もうぜ」
悠人も本気で抱きしめる気は無かったみたいで、ビールの入った袋を渡して来た。
「うん。じゃ、何かつまめるものでも作っとくよ」
「やったね。早く上がって来るから」
私は冷蔵庫にビールを入れて、冷凍枝豆と他に何か一品と思って、食材を探す。
もう、何で泣いていたのかなんて、頭の隅にも残っていなかった。
おしまい
ここまで、読んで頂いて、感謝しかありません。
ありがとうございました。




