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転生したくなかった!-6

洞窟の奥にいたのは、謎の二人組の少女だった。...ぱっと見ただならぬ関係の。

どうやら届け相手はこの二人で間違いは内容だったけれど、変な光景を見られてしまった獣耳少女の怒りは治らなくて。そして、なんとかなだめすかそうとする僕たちの背後には、一つ大きな黒い影がにじりよってきていた...。

「....とりあえず、この覗き魔を記憶なくなるまでぶん殴りますね?」

「「...え!?」」


何事もなかったように、地面に突っ伏していた少女が立ち上がり平然とそういった。

突然のことに、先ほどまでその尻尾を撫で回していた人と驚きの声がシンクロする。

こげ茶色の耳はピンとたち、先ほどまで垂直に伸びていた尻尾はその不機嫌さを表すかのように、ぶんぶんと左右に勢いよくふられていた。


「いや、いやいやいや、ちょっと待ってください、ごめんなさいわざとじゃなかったんです!!」

「そ、そうそう、ね、ぬこちゃん落ち着いて?こんなとこまで覗きにくる人なんているわけないでしょ!?」


勢いよく起き上がり、唐突な敵意と誤解をなんとか解こうと手を顔の前で振る。

背の高い方の少女も、なぜか必死に止めに入ってくれる。


「いえ、問答無用です。私の痴態をみたことは万死に値します。さ、歯を食いしばってください」


丁寧な口調から滲み出る確かな殺意。

その発言通り、文字通り。問答無用、その敵意が緩む様子はない。

その小さな手がぎりり、と音がするくらい硬く握り締められる。

もう片方の手には、どこから取り出したのか、しっかりと持ち手がテーピングされ、なぜか先端に変なこぶのくっついた堅そうな木の棒を握っていた。


「いや、ちょっと、その、ほんとごめんなさい。その変な棒とか、その、いったんしまってもらってもいいでしょうか」

「ダメです、あとこれはスーパーお仕置き棒くんグレートマークツーです間違えないでください」


なんでそんな御大層な名前がついてるんですか...っ!


「いや、ほんと誤解なんですほんとすいません勘弁して下さい」


抱えた皮袋を地面に起き、姿勢を正してなんとか手を合わせて懇願する。

訳もわからず殴られるのはいやだ、本気で勘弁して欲しい。というか、記憶のリセット方法があまりにも野生的すぎる。


「ダメです。さぁ、両手を地面について頭を前に出して下さい。そうしないのなら、まずそのお腹にスペシャルお仕置き棒くんグレイトマークツーの一発、もらいますか?」


氷のように冷たく、冷静な、淡々とした声。

いやなんかちょっと名前変わってるし。

無表情のまま、ゆっくりと彼女はこちらに近づいてくる。すぐに目の前まで彼女は辿り着き、その手に持っていたスペシャルお仕置き棒くんマークツーとやらをゆっくりと振り上げた。

逃げ出せばいいのに、なぜか体が動かない。本能的な恐怖のようなものに体が縛られ、手と足が震える。

あまりにも間の抜けた、それでも、確実に予想できる痛みを前にして混乱が諦観に変わりかける。


「...っほら、ぬこちゃん、違うよ!この人配達してくれた人だから!!!」


半分、というかほぼ諦めかけていたその時、突然横から助けが入る。

僕がさっき地面に放った皮袋を片手に、もう片方の少女が中身の瓶を手にもって叫んでいた。


「ね!?ほら、ここにポーションあるから!これであたしたちやっと帰れるから!ね!」


その必死な訴えが少し答えたのか、振り上げられたお仕置き棒くんが一瞬止まる。

獣耳少女の視線が僕から、隣の少女へと写り


「帰ろ!ね!一回帰ってから考えよ!!」


効いていると判断したのか、畳み掛けるように言葉を重ねる。


「いえ、この変態はここで殺します」


でも、効果はなかったっぽい。

再度、お仕置き棒くんが高く振り上げられた。

諦めたように目をつむる。

その時だった。


「っ!?」


背筋を焼くような熱気に、思わず振り返る。

冷たく、それでいて全身を焦がすような熱気。いや、熱気なのか?

異様なまでの圧力のような、必ず殺すという殺気のような。

いや、正しくは先ほどまで、目の前の獣耳少女から感じていた圧力が何十倍にもなったかのような、そんな感覚。


「ちょっと変態郵便屋さん、突然動かないでください、狙いがずれたら首飛びますよ?」


いやこっわ、こっわ。

記憶を飛ばすとかいってたけど、その威力だと僕完全に死ぬと思うんですけど。

背後から迫る、隠すことのない敵意に背筋を凍らせながら後ろを見る。そこには先ほど僕が通ってきた暗い道があるだけだった。ただ、先ほどの圧力は確実にそこにある。

...なんなら少しずつ近づいてきているまで、あるかもしれない。


「...っ、う.....」

「...イロハくん?」


先ほどとは比較にならない量の冷や汗が滝のように流れ出る。

こちらの状態をなんとはなく感じ取ったのか、背が高い方の少女が心配そうにこちらを見た。


「ちょっと、変態さん?話聞いてます?」


獣耳少女が不服そうに近づいて、怪訝そうな目で睨み付けてくる。

でもそれどころじゃない。思わず先ほどまでの体勢をくずし、後ずさる。


「....んぅ、無視しないでください、本気で飛ばしますよ?」


吊り上がっていた目尻がさらに高く上がり、不機嫌そうに結ばれた口元がさらに曲がる。


「...や、待って、ぬこちゃん」


長身の少女が獣耳を抑えるように手を前に出した。何かを感じ取ったかのように、僕と一緒に道の奥の闇を見つめる。


「...先輩?なんですかもう、先輩まで」


獣耳少女が、不服そうに手に持ったお仕置き棒くんを下げた。


「っ、ぬこちゃん、引くよっ!!」


ワイシャツの襟を勢いよく掴まれ、そのまま一気に引っ張られる。少女が飛ぶように後退し、体がその動きに合わせて宙に浮き上がる。

彼女の言葉を聞いた獣耳少女も、一寸の迷いを挟まずに後ろへと飛んだ。


「んぅ、ぐっ!?」


首がしまる、当然のように息が詰まる。

だけれど、それどころじゃない光景が元、僕のいた場所に広がっていた。確実にその場に止まっていたら、この命がなくなっていただろうと予測させるような光景。この身の安全が確実に脅かされていたことが予想できる光景。

正しくいうと、地面がどろっどろに溶け、腐っていた。


「っ、おぶっ」


どすっ、と彼女の着地と同時に僕の体も放り出される。勢いよく体が地面に衝突し、転がり、そのまま壁に激突する。

本日何度目かとわからない地面とのお友達タイム。

口元に入った土を吐き出し、咳き込みながらなんとか起き上がった。


「イロハくんごめん、大丈夫!?」

「っぅ、げほっ...あい、大丈夫です...」

「先輩、そんなやつに気なんて使わなくていいんですよ?」


華麗な着地を決めた長身さんが申し訳なさそうにこちらを見てくる。彼女に続くように、軽やかな足音と共に獣耳の少女も着地した。こんな状態でも、その悪態が治ることはなさそうで。

でも、その体は先ほど僕が入ってきた入り口の方へむいていた。

警戒したように構えた体勢を崩す様子はない。

つられるように視線をそちらへと向ける。

僕が無残に両手をついて許しを求めていた場所。そこには見たこともない、巨大な紫色の蜥蜴が鎮座していた。


「...っはぁ!?」


蜥蜴...いや、蜥蜴というには少し禍々しすぎるかもしれない。大きさは3メートル...いや、4メートルはあるだろうか。

のっぺりとした頭と、爬虫類特有の無機質な瞳が焚き火の明かりでぬるりと光る。

妙なテカリのある鱗に覆われた全身からは、紫色の粘液が滴っていた。ぴちゃ、と音を立てて粘液が地面に落ちるたびに、何かが焼けるような音と共に地面に黒いあとができる。


「...コカトリス、ですか」


獣耳さんが苦々しく呟いた。


「コカトリス!?」


思わず驚きの声が出る。こんな時に名前なんかに拘っている場合ではないんだろうけど、自身の中での情報と、今目の前にいる化物との食い違いがひどすぎる。


「...そうだね、コカトリス。イロハくんが知ってるのとは随分違うだろうけど」

「い、いや、随分って!僕もそんな詳しくはないですけど、いや、いくらなんでも違いすぎやしませんか!?」

「うっさい変質者ですね、今から記憶失いますか?」


パニくる僕に間髪入れずに手厳しいツッコミが飛んでくる。


「んま、仕方ないか、そっちの世界では、たしか鶏みたいな感じだったしね~」

「形がなんでも、毒をばらまくってことはどうせ同じなんでしょう?やたらめったらこうやって」


長髪さんに続いて、獣耳少女が苦々しく呟いた。

獣耳さんの言葉通り、ぼたぼたと蜥蜴の体に生えた紫色の鱗から粘液が垂れ流されている。


「...というかこいつ、かなりやばくないですか?てかそもそもここって、コカトリスなんて大物いましたっけ...?」


蜥蜴が大きく裂けた口をゆっくり開き、シュルルル...と布が擦れるような音を漏らす。吐き出した黄色がかった息が木の壁に触れると、そこがゆっくりと変色していった。数刻と待たずに、腐ったような嫌な匂いが鼻を突く。


「だね...『虚に棲むモノ(ガーディアン)』って名前がついてるのは、伊達じゃなさそう」

「はへ!?札付き(タングル)なんですかこいつ!?」


やれやれと行った様子で苦笑いする長身さんに、獣耳さんが半分悲鳴をあげるように言う。

ん?んん??がーでぃあん?たんぐる?

緊急事態に加えて、突然でてきた聞いたことのあるようなないような単語で一気に頭の中が交通渋滞状態になる。


「ちょっと先輩早く言ってくださいよ!!普通の魔物くらいならまだしも札付きって...!!」


先ほどまで、臨戦体勢に入っていた様子の獣耳さんが少し後ずさる。

ずしり、とコカトリスの重みのある足音が目の前から迫ってくる。

距離を詰めてくる化物のせいで、狭い空間に漂う悪臭が一段ときつくなった。


「...先輩、は、やれます?」

「んや、無理だね〜...なんせ、ここから出るのも厳しいんだし。あと一回くらいだけかなぁ」


どうやらかなりヤバイと言うことは、うん、なんとはなく感じ取った。

随分と余裕をもって謎の遊びに興じていた二人からも、尋常ならざる緊張感が伝わってくる。

こちらの緊張と恐怖を帯びた空気を感じ取ったのか、コカトリスが動いた。

太い、紫色の足が地面を掴み飛び上がる。巨体が宙に舞い、体に纏った粘液が広間の中に飛び散った。

壁、床に毒液が撒き散らされ、焦がすような音と共に空間が変色していく。

でかい、でかいでかい。

横に広く裂けた、巨大な口が迫る。


「っ、ひっ」


遠巻きに見ていたおかげで少し落ち着いていた心臓が、一気に暴れだす。喉がひりつき、踏まれたカエルのような声が漏れた。

全身が金縛りにあったように、固まった。腕が、足が全く言うことを聞いてくれない。

やばい、やばいやばいやばい。

あの重量でのしかかられて、耐え切れるような頑丈な体なんてしてない。ましてやその体から壁や床を溶かすような粘液が溢れ出ているわけで。もしうまく避けることができても、ただで済むことはないだろう。

爬虫類特有の生命を感じさせない機械のような目を前に、自分の無残な死体の姿が脳裏をよぎった。


「...じゃ、一度退却っ!!」

「...はい?」


やたらと元気な掛け声が、緊迫した空間に響いた。

固まった体が、一瞬緩む。


「『理の手(ことわりのて)』、掴んで、グラマティカ!」


掛け声に続いて、聴き慣れない単語が先輩と呼ばれる少女の口から飛び出た。


「っお、おおっ!?」


なんとか立ち上がった体を、突然後ろから何かに羽交い締めにされる。硬いような、それでいて柔らかいどこか生き物のような不思議な質感。

ぐん、と全身が浮くような感覚に包まれる。次の瞬間、勢いよく後ろに引っ張られた。


「うぉ、ぉ、ぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおっ!?」


訳もわからないまま、全身が高速で移動する。

広間を照らしていた焚き火と、腐臭を撒き散らすコカトリスの姿は瞬きの合間に見えなくなった。

耳元を高速で過ぎ去る空気の音がうるさい。

僕の体は、曲がりくねったトンネルを勢いよく、すり抜けるように飛んでいく。


「はいはい、直行便ごあんなーいっ」

「っおわ、ぁっ!?」


どこか楽しげな声と共に、薄暗い通路に放り出された。

ごろごろと土の通路の上を転がる。

僕は今日だけで、何回地面と仲良くすればいいんだろう...。

「やぁ、恥ずかしいとこ見られちゃったね〜...そして、他にもいろいろと。イロハくんにはちょっと、ほんのちょっとだけ悪いことしちゃったかも...?」


<神託の巫女兼運び屋/16歳/lv??/Mさんのコメント>



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