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転生したくなかった!-5

なんとか目的地に辿り着き、役目を終えたテニスボールを持って配達にのぞむ。

けれど、薄暗い洞窟の中を進んでいくことでやっと頭の整理がついたせいで今の状況の異常さを理解してしまった。

とりあえずの情報を求めて進む僕、彼を待つものとは....。

依頼、いらい、要は仕事なわけで。

訳もわからないまま、生返事で受けてしまった。


「えっと、それじゃこれが届けて欲しい物品ね。装備とかの指定はなくて...場所も、ガイドボールがあるし大丈夫でしょ」

「っぇ?ちょ、うわ」


押しつけられるように皮袋を渡される。

メカテニスボールと剣で両手が埋まっていたせいで、無理やり抱き抱えるようにして受け取った。

普通に焦る。

話ではこの皮袋の中身はビンのはずだから落とすわけには行かない。


「えっ、と、配達期限が今日の夜までだから...うん、今から行けば余裕で間に合うね」


慌てる僕を他所に、リンダさんはカウンターに置いてあった紙を手にとって、からからとキャスターを鳴らし扉の方へと行ってしまう。

手帳とテニスボールを無理やりポケットに押し込み、剣と皮袋を手に持って急いで後を追う。


「ほらほら、見送るまでが私たちの仕事だから」

「あ、はい、すいませんっ」


外では、目が覚めたときには中天に浮かんでいた太陽が少し傾いてきていた。

リンダさんは気持ちよさそうに太陽を見上げていた。手をかざし、眩しそうに空を見上げている。


「えっと、それじゃあ再確認するけど...」

「あ、はい」


リンダさんが再度紙を広げ、その内容を確認するかのように喋りだす。

...なんか勢いにつられて、返事してるから運動部の後輩みたいになってしまってるな。


「届ける場所は、ここ、木漏れ日の森にある大樹の虚。場所に関しては、君ここくるのは初めてみたいだけど...まぁ、ガイドボールがあるから大丈夫だよね?」

「えっ」


ここ、という部分で彼女は地面を指差した。

初耳だ。ここ、木漏れ日の森っていうのか...っていうか、ガイドボールがあるから大丈夫って、ちょっとまって、ごめんなさい知らないからなんもできないです。


「ん?あれ、もしかして、ガイドボールの使い方わからない?」

「は、はい、すいません」

「...ふーん、まぁいっか、ちょっと貸して」


ついつい謝ってしまう。生前身につけた処世術が条件反射のように発動した。

小さく頭を下げて、差し出された手にあの青いメカニカルテニスボールを渡す。


「これはね...こうして」


リンダさんが、テニスボールの表面をなぞるように指を走らせる。

すると、パックリ、青いテニスボールが真ん中で二つに割れた。


「ええ!?」

「んで、ここをこうして...」


目が点になるっていうのはこういうことか。

ただの球じゃないのはなんとなく分かっていたつもりだが、その開きかたは普通にびっくりした。

驚く僕を他所に、リンダさんはテニスボール...いや、ガイドボールをいじり続ける。

パックリと開いたその中に指を突っ込み、いじり続けている。


「こうすると...」


うゔぃぃぃぃん。

奇怪な音が響き渡る。

パックリ問われたガイドボールの割れた隙間から、プロペラらしきものがにょきっと飛び出し、高速回転し始めた。

そのままリンダさんの手を離れ、空中に浮遊する。


「うぉ」


うゔぃいいんと機械音を立てながら対空すると、そのまま、勢いよくガイドボールは、ある方向に向かって飛んでいってしまった。

突然のことにぽかんとしてその様子を眺める。


「ちょっと、何してるの!?追って追って!」

「え!?追えばいいんですか!?」


焦るようなリンダさんの言葉。

ブンブンと手を振り仕切りに促してくる。

その勢いに背中を押されて、テニスボールを追っかけて走りだしてしまった。

...あぁ!

頭の中でその名前と、動きから納得がいく。

ガイドボール...これ、要は目的地まで連れていってくれる、案内役ってことでいいのか?


「じゃ、初めての仕事頑張ってねぇ〜」


無駄にいい笑顔で見送ってくれるリンダさん。

なんだ、なんでそんなに気持ちいい笑顔なんだ。

そんなリンダさんの背後、勢いよく扉が開き先ほど僕を包んでいた筋肉塊、もとい店長さんが現れた。


「これ、忘れ物だよォ」


という言葉と共に、思い切り振りかぶった...と思うと、勢いよく何かをぶん投げてくる。


「あ、っは、い!?」


目の前を飛ぶガイドボールを見失わないように走りながら、なんとか受け取る。


「頑張ってねェ〜」


呑気な声が、午後の森に響いた。




     ✳︎     ✳︎     ✳︎


「...っは、はぁ、はぁっ....っぅ」


額から滴る汗をぬぐい、膝に手を当てて、荒く呼吸する。

心臓が痛い、足元がふらつく。

呼吸が酷く、落ち着かない。思わず地面に座り込んだ。


「はぁ、はっ...っく、そ、もう...速すぎだろこいつ...」


手元に転がるは青いテニスボール。

あれから、僕は大体時間にしては10分から15分ほど全力疾走をし、目的地と思われる大穴の前にたどり着いていた。

僕の真横には大きな木、その根本に開いた巨大なうろが口を開けていた。

風が流れ込む音が空の中に響いている。


「っは、ふ、ぅ....」


なんとか息を整えて立ち上がる。

どうやらガイドボールの役目はここまでらしく、穴の目の前についた時、一度大きく跳ねて地面に落ちてから動きを止めていた。


「...いくか」


先ほど、店長さんが僕にむかってぶん投げてくれたのは剣を腰につるすためのベルトだった。皮の、しっかりとしたベルトを腰に巻きつける。

...サイズぴったりだな、どうなってんだろほんとに。

地面に転がったままのガイドボールを拾い上げ、皮袋を腰につるす。

そういえば今まで触れてなかったけど、僕まだあの時の、制服を着たまんまなんだな...。ワイシャツの袖をめくり、剣を腰に刺した。


「いくかぁ...」


とりあえず行くしかない。

よくわかんないけど、なぜか僕のことを知っている人がこの中にいるわけで。

とりあえず情報が欲しい、なんでこんなところにきてしまっただとか僕はどうなってるだとかそこらの根本的なところじゃなくていいから。

深いため息をこぼしてから歩き出した。



穴の中はひんやりと涼しかった。

外と違い日の光が入ってこないせいで薄暗く、空気が少し湿っている。

幸いなことに道は複雑に枝分かれしているわけではなく、ただ、平坦とは言えない少し曲がりくねった道が続いているようだった。


「ひぇ...いや、ま、そりゃそうか...」


少し進めばすぐに太陽の光は届かなくなくなり、黒に包まれた。

当然のように暗闇に慣れていない目では、全く周囲の状況を把握できなくなる。

そう言えば、と少し思いつきで腰の皮袋を漁るも、支給品にはランプみたいなものは入っていなかった。

でも、ガイドボールが導いてくれた場所はここだから...間違ってる、ってことはないだろう。

ダリアさんが契約書みたいな、あの紙を読み上げていた時にも確かこの、穴の中にいる...ってなってたはずだから。


「っ!?う、ぉっ」


やっと暗闇に慣れてきた、そう思ったとたん、足元の何かにつまずき、体勢を崩す。

なんとか両手で支えようとするも、そのまま地面にひざまづくように倒れてしまった。がツッ、と鈍い音を立てて腰に下げていた剣と皮袋が衝突してしまう。


「うわやったかも...いぇぇ、大丈夫かな...」


急いで袋の中身を確認する。確かポーションとやらが5つと、樹液?だっけか、それが一つ...よし、大丈夫そうだ。

少し表面にかすり傷はできてしまっていたが、中身に問題はなさそうだった。

でもやらかしたなぁ...これからいろいろ話を聞きたい人の場所へいくのに、その届け物を壊しそうになって、傷をつけるなんて。すこし下腹部に圧がかかったように痛くなる感覚。

あぁ...メリルさん、だっけ、その人が温厚な方だといいんだけど...。事前情報がなさすぎて怖い、というかいろいろと知らないことが多すぎる。

自分でも、この状況でよくパニックを起こしていないなと不思議だった。いろいろ変なことが起こりすぎたせいだろうか、妙に僕の心は平静、それに近い状態を保っていた。


「...よし」


皮袋をしっかりとベルトに固定し、剣を下げ直す。

一本道だから、このまますすめば辿りつくことはできるだろう、そう自分に言い聞かせる。

この先の分かれ道の可能性を脳裏で否定しながら、再度足を踏み出した。



目が暗闇に慣れてきたせいで周囲の状況がよくわかる。

どうやらこのウロ、洞窟は木の根っこか幹かなんかで作られたものらしい。壁はまんま木で、足元の地面は基本土だが、所々木になっている。先ほど僕がつまずいたのは、どうやら土から露出し、盛り上がっていた木の根っこだったらしい。

初心者向けのブービートラップみたいなの、本当に勘弁してください...。

そして、道は相変わらず一本だった。つまづいてから10分ほどは歩き続けていると思うけれど、まだ幸いなことに曲がり道には遭遇していない。...でも、依頼主にも遭遇していない。

最初の説明では中にいる、ということだったけど...ここ、下手したら相当広いんじゃないだろうか。

そんな嫌な予感がちらりとよぎる。

というかいくらなんでも、届ける場所の指定が曖昧すぎなんじゃないでしょうか。

外から見た感じ、一周するのに10メートルくらいかかる大木にこの穴はできていた。まぁ、そのくらいだし大したことはないだろうと高を括っていたんだけれど...。

実際、歩き始めてから30分ほどはゆうに経過している気がしていた。目は慣れてきたけれど、周囲の壁や床には一向に変化がない。

道は一本だが所々で大きく曲がりくねっていたり、上りや下りがあったりしたせいで少しずつだけれど疲労感も溜まってきていた。さっきなんて、少し大きなホールのような場所にも出たりしたっけ...。道が枝分かれしてる、なんてことはなかったから助かったけれど。


「...はぁ」


一度立ち止まって小さくため息をこぼした。

これどこまで歩けばいいんだろう。軽く振り返るも、薄暗い穴の奥までは見通すことはできない。目の前は曲がり角になっていて、先が見えない。

なんかとんでもないところにきてしまった気がする。興奮状態にあったんだろうか、真っ暗な洞窟に明かりなしで入ってくなんて我ながら無謀すぎる。

少しやけになりながら、勢いよく歩く。

壁に手を突き、転ばないように気を付けながら目の前の曲がり道を通り抜ける。

その時だった。


「...にゃぁぁぁぁん...」


洞窟の奥の方から、何か、人の声らしきものが聞こえてきた。

にゃぁん...?猫か...?

曲がり道を進んださ先は、また先ほどとは逆方向に曲がりくねった変な道で、相変わらず先を見通すことはできない。


「...猫?いや、でも、ここ洞窟だし...」


訳がわからない。でも、何かが鳴き真似しているような声ではなかった...気がする、うん。


「にゃっ、ぁ、ぁぁぁん...」


まただ。とりあえずこの道の先に何かがいることは確からしい。

ふと、ついさっき自分の体を丸呑みにしたスライムを思い出す。

とりあえず目の前のことをこなすことに必死になりすぎたせいで忘れかけていたけれど、そう言えば僕のいる場所は当たり前な安全を保証された現代社会じゃなかったんだ。

それに今考えてみれば、さっきガイドボールを追っかけて走り続けていたときにまたスライムと遭遇していてもおかしくなかったんだ。

なんとも無謀すぎる自分の行動に、今更ながら呆れそうになる。

今も平然と進んできたが、この洞窟にもそういったクリーチャー的なものがいる可能性も捨てきれないわけで。

思わず立ち止まり、冷や汗を拭う。


「...にゃっ、は、ぁぁ....ん、っ...」


先ほどよりも声が近くなってきている。

そして...なんだろう、声に艶がかかってきているような。


「あ、はっ...んに、にゃ、にゃぁ...ぁ...」


いや、明らかに色っぽくなっている。

自分から鳴いている、というより何かに無理やり鳴かされているような。

...とりあえず行ってみる、しか、ないのか?

突然やってきた情報が複数ある上にめちゃくちゃで判断に困る。


「にゃっは、はぁぁぁぁんっ、にゃぁっ!!!」


えぇ...。

唐突に上擦った謎の声に混乱は深まるばかり。

でも、なんにせよ依頼主さんはこの先に進まなきゃ会えないんだよな...。

運がいいことに、この洞窟の道はかなりねじ曲がっている。少し距離をとって、慎重に曲がり角から様子を伺えば大丈夫かな?

...いや、なんにせよ迷っててもしかたない、とりあえず行ってみればわかる、だろう、多分。

自分の中で無理やり踏ん切りを付けて、再度歩き出した。曲がりくねった道を進んでいく。

歩いている最中にも、断続的に猫の鳴き声?らしき声は聞こえてきていた。進むごとに、声が大きくなっていった。

どうやらこの道の先にいるのは確実なようで。

いくつかの曲がり道を超えたところで、道の先に光が指しているのが見えた。


「んにゃは、ぁっ、にゃぁぁぁぁっ、ぁっ!」


声もかなり大きくなり、もうすぐ近くにいるのがわかる。

光は時折ゆらゆらと揺れ、その中に影も混じり込んでいる。

先ほどよりも慎重に、壁に寄り添うように体をくっつけて、足音を立てないようにして壁伝いに距離を詰める。

そして、そっと、曲がり角から明かりの元を覗くように頭だけだす。


「あ、はにゃ、あぁぁ、んにゃぁっ」

「よぉしよし、あとちょっとだからねぇぬこちゃぁん、頑張ってねぇ...よしよぉし」


洞窟の中、少し開けた場所の中心でパチパチと焚き火がはぜて火の粉を散らしている。

その真横、地面に突っ伏して、お尻を高く突き出した少女が一人...と、そのお尻からにょろりとのびた尻尾を、恍惚とした表情で撫でくりまわしている、少し背の高い少女が、一人。

灰色の髪を顔の横から垂らし、ハンチング帽を被ってオーバーオールを身に纏った背の高い少女。そして、焦げ茶色の体毛をもった、獣耳と尻尾を持った、背の小さな少女。...二人とも、同じ服を着ている。

背が高い方はネバっこい発音で喋りながら、夢中になって縦に伸ばされた尻尾を撫でくりまわし、それに反応するように突っ伏した方が、先ほどから聞こえてきている鳴き声をあげている。


「...はぁ?」


シンプルに意味がわからなかった。ただただ、謎のインモラルさだけを感じる。

この人たちが今回の配達の届け先...で、いいのかな?


「よしよぉし、もっといい声で鳴いてくださいねぇ...?」


うわなんかまたいってる。

背が高い方が手を動かせば、楽器のように突っ伏した方が鳴く。ただただそれが繰り返されている。

この変な二人組の片方が、僕のことをなぜか知っているメリルさんとやら、なのか...?

先ほどまでしていた悪い予感を塗り替えられるような、それの方がまだマシだったと思えるような、奇想天外が一番合う、そんな状況下に軽くめまいを覚える。

伸ばされた尻尾の毛並みはよく、火の明かりを受けて光っている。

そこをなぞるように、細い指先が蠢く。根元から上までゆっくりと撫であげたあと、キュっ、とその先端を摘み上げた。


「んにぃ゛っ!!」


先ほどとは全く違う、どちらかというと叫び声に近い声。


「...っ!?」


驚き、体が跳ねる。壁に寄っかかっていたせいで、思い切り頭を湾曲していた壁に打ち付けてしまった。

ごすっ、と、聞き逃すほどの小さな音と共に頭に鈍痛が走る。


「ちょっとせんぱぁい...突然やるの勘弁してくださいよぉ...」

「んゆふふ、ごめんごめん、久しぶりだからぬこちゃんかわいくてさぁ...」


いってぇ...。

呑気に話しているインモラル二人組を他所に、こちらは頭を抑えていた。

痛い、普通に痛い。

軽くふらつきながら、なんとか体のバランスを整えようとする。


「いつつ...って、おぉっ!?」


足元、まるで用意されたかのように地面にあったのは、盛り上がった木の根だった。

ヤバイこれ既視感あるっ!?

爪先が思いっきり隆起した部分に引っ掛かり、そのまま不安定だった体勢が一気に崩れる。しかも、開けた場所の方へ向かって。

ドスっ、と鈍い音と共に、僕は地面に倒れるようにして、二人のいる空間に転がり出た。

なんとか、腰に下げた皮袋を地面にぶつけないようにお腹の方に抱える形で倒れ込む。


「「.....」」

「......あ、はは、えっと、その、どうも...お届け物、です?」


なんとか喉の奥から絞り出したセリフに返ってきたのは、ぽかんと開いた口と何が起きているのかわからないという視線、そして痛いほどの沈黙だった。

「....とりあえず、そこの覗き魔を記憶なくなるまで殴りますね」


<運び屋/14歳/lv53/デミのEさんのコメント>

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