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転生したくなかった!-4

やっとたどり着いた建物、そこではなぜか、やってきたばかりの世界で孤立無縁なはずの僕を知る人と出会う。

なんで僕のことを知ってるのか、あとここはどこでどうすればいいんですか僕は。

混乱は深まるばかり、そろそろ解決策ください...。


「...これ、君だよね?」


植物さんが、筋肉の間からやっと解放された僕に写真...?にしてはどこか画質の悪い、一枚の紙を差し出してくる。


「...」


そこに描かれていたのは確かに僕だった。

毎日、身嗜みを整えるときに鏡に写っていた、見飽きたしょぼくれた顔。中途半端にのびた黒い髪と痩せた首筋。ご丁寧に、少しだるそうな目元までしっかりと書いてある。

そして、紙の一番上にはイロハ・イツキの文字。

...間違い無いですねこれ。


「はい、僕...だと、思い、ます」


いまだに頭が周囲に追いつかない。

なんで、さっきこの世界にやってきたばかりの僕の姿絵?似顔絵を持っている人がいるんだ。


「んん、てことはメリルクンが言ってたのは君のことだったのか」


いつの間にか僕のそばを離れ、カウンターでグラス磨きに戻っていた店長さんがいう。


「ウチの常連の運び屋さんだヨ。最近はここを拠点にしてくれててネ」


みるからに疑問符を浮かべている僕に、店長さんが助け舟を出してくれた。

なる、ほど。常連の運び屋さん...か。

それはいいんだけど、なんで僕のこと知ってるんだ。


「あれ、面識とかないんですか?」

「まぁ、はい、知らない人ですね」


僕の返答に、不思議そうに植物さんが首を傾げる。

今更だけど植物さんって呼び方、ちょっとあれだな...勝手に心の中で読んでるだけだけど、申し訳ないというか。


「ンン〜、となると、あの依頼状は彼向けってことじゃ無いのかナ?どう思う、リンダクン」


磨き上げたグラスを戸棚にしまいながら店長さんがいう。

あぁ、この植物さんリンダっていうのか、ありがたい。

それはそれとして、以前状況が飲み込めない。

植物さん...あらため、リンダさんもよくわかってないのか首を傾げている。


「でもてんちょー、メリルさん結構細かく条件指定してましたよね?」

「其れは確かにネ、実際彼女のいう通りに彼...イロハクンも現れた訳だシ」


細かく条件指定?その通りに僕が現れた?

意味がわからない。

僕の知らない人が僕の行動を把握して、なにか指定してた...?


「え、っと、それって...一体、どういうことですか?」

「ん?あぁ、ちょっとまって...今考えてる」


当然のように溢れた疑問を口にするも、リンダさんに止められる。

えぇ...僕は一体どうすればいんですか...。

暖かい日差しの差し込む宿屋の中、分のわからない疎外感に包まれる。


「確か、彼女の指定は魔力計で、14時半頃だったよネ」

「はい、そうです。それでこの人相書きと、依頼書、あとは道具をいくつか置いて行って..」

「ふム...彼についてなんて言ってたっケ?」

「確か....」


二人で真剣に話始めてしまった。もうすでに僕の居場所はここには無いような気がする。

とりあえず、カウンターの端にある椅子を借りることにした。

やっと一息つけた...ような気がする。

改めて店内を見渡す。

落ちついた木の壁と、木製の家具。カウンターの内側にある棚には、色とりどりの液体が入ったビンと透明なグラスが並んでいる。壁にはどこか見覚えのある機械、多分時計だと思う、そんなものがかけてある。この世界に時計ってあるのかな...さっき魔力計とか言ってた、それがあれなのかもしれない。

カウンターには写絵がいくつかと、花瓶が飾ってあった。黄色い花が綺麗に咲いている。

二人は、カウンターを挟んで話し続けている。ときどきちらりと投げかけられる視線がなんか怖い。

表の看板、あそこに書いてあったことは嘘じゃ無いんだろう、そんなことがよくわかる内装だった。

...正直、コメントすることも何も無い。

やることないなら立ち去るのも選択肢の一つかもしれないけれど、なぜか僕の情報を持っている人がいる...それだけで、ここに止まるのは十分だった。

5分ほどすると、二人のひそひそ声がやんだ。

やっと何か決まったのかと、周りを見渡していた視線を店長さんたちの方へと再度向ける。

店長さんはその視線に気づいたのか、いかつい顔を緩めてに、と笑いかけてくれた。

真意が読めなくて少し怖い...というか、さっきの話し合いどうなったんだ。結果くらいは教えてくれても良さそうなんだけど。

そういえばリンダさんはどこに行ったんだろう。

店長の微笑みに慄いていたら何処かへと姿を消していた。

目の前に、トン、という音と一緒に綺麗な、薄緑色をした液体がなみなみと継がれたコップが置かれる。


「これ、ウェルカムドリンク。出すの遅れてごめんネ」

「は、はぁ...どうも、ありがとうございます」


めっちゃいい笑顔の店長さんがいつの間にか目の前に立っていた。

さっきからこの人の移動する気配がほとんど感じ取れないんだけど。なんだ、この人ほんとは超やり手のアサシンかなんかなのかな。それとも僕が酷く疲れているだけなのか。

訳のわからない疑念を抱きながらコップを手に取ると、店の奥からきゅるきゅるとキャスターを動かす音と共にリンダさんが戻ってきた。その手には一つの、皮袋を持っている。

何が入ってるんだろう、なんて思いながらコップに口をつける。

止まった思考のまま、中の液体をゆっくりと口に含んだ。

甘い...けど、ただ甘いだけじゃなくて、なんだろうこれ、どこか不思議な爽快感がある。喉に流れ込む、その瞬間に全身に活力が漲るような。体が、この液体を心の底から求めている、そんな錯覚に陥るような感覚。

気づいたら、僕は一気にそのコップの中身を飲み干していた。


「お?気に入ってもらえたかな、ひまわり亭特性ポーション入りグリーンソーダは」


その飲みっぷりに感心したのか、店長さんがめっちゃいい笑顔でこちらをみていた。

全身の隅々にさっき飲んだ液体...ポーション入りグリーンソーダとやらが染み渡っていくのを感じる。

これ特性ドリンクなのか、もしかしてこのお店かなりいいところか?


「...ね、ねぇ君、大丈夫?」


気づいたら隣にリンダさんが座っていた。

ひらひらと手を降っている。

どうやら少し意識が吹き飛んでいたっぽい...我ながら何をしてるんだ。


「んっふハハ、どうやらよほどウチの特性ドリンクを気に入ってくれたみたいだネ」


店長さんが腕を組んで得意げに笑っている。


「は、てんちょーあれ飲ませたんです!?散々不評だったじゃないですか!!」


え、ちょっと待って僕何飲まされたの。

思わず口元を抑える...けど、そんなとんでもないものを飲まされた感覚はない。というか、先ほどまでぼんやりとしてた思考が綺麗さっぱり、すっきりと整理されているような。むしろ、全身に渦巻いていた倦怠感が全て消えているような、そんな気さえする。


「...ったく、もう...特に何もないようだからいいですけど...」


リンダさんが僕の顔を覗き込んだ後、安堵し、どこか呆れたようにため息をついた。

...この宿、きてまだ一時間も経ってないけど、なんとなくこの二人の関係性がわかってきた気がする。

リンダさんが体を動かし、こちらに正面から向き直った。

ん?なんだろう、先ほどの秘密話の結論でも話してくれるんだろうか。

なんとはなく、こちらも椅子に座り直し、リンダさんを見つめる。


「えっと、イロハ・イツキ君、あなたに依頼をしようと思います」

「...依頼?ですか?」


はい?


「ええ、依頼です。メリル・クリサンセマムに代わり、案内・宿泊所ひまわり亭に所属するリンダ・バークがあなたにお仕事を依頼します」

「...は、い」


メリルさん、からの依頼。先ほど話に出ていた、僕の写絵を持ってきた人か。

とりあえず意味もわからず返事をする。

ぽかんとしている僕を他所に、カウンターの上に、リンダさんが紙を一枚広げる。

契約書...か?

どこか形式ばったものを感じる紙には、細かな文字がいくつも書き込まれている。いちばん下には、誰かのサインと思しきものとハンコもひとつ。


「ポーション5つと、樹液の小瓶を一つ。これを木漏れ日の森の中にある大樹の虚、その中にいるメリルさんに届けてもらいます」

「はぁ」


たんたんとリンダさんが紙に書いてあることを読み上げる。

届ける...届ける?郵便配達的な?


「依頼の対象者はイツキ・イロハ君、つまり、君が指定されています。」

「はぁ」


僕を指定、してるのか。ついさっき、この世界にきたばかりの僕を。


「この依頼の遂行において、依頼者から支給品とひまわり亭からの補助が設定されています」

「はぁ」


補助、支給品。


「えーっと、依頼者からパイロットボールとジョブノート、あと依頼者の用意したショートソードを支給します」

「はぁ」


リンダさんが、先ほどの皮袋から青い、どこか機械的なテニスボールほどの大きさの球と、一冊の手帳、そして30センチほどの、質素な剣を取り出してきた。

紙の横に並べ、こちらに確認を促すように視線を投げてくる。

カウンターの中に仁王立ちしている店長に救いを求めるように振り返るも、ただそのものを取るように促されただけだった。

訳もわからず、促されるままに手帳、謎のメカニカルテニスボール、剣を手に取る。


「ひまわり亭からは、イロハ・イツキ殿への依頼の伝達および物品の受け渡し、依頼の受領および開始の確認、その他依頼の受領者との応対を補助として行います」

「はぁ」


これを渡すのが補助、と。

手元の物品を改めて見つめてみる。剣は別になんか特別って訳もなさそうで、質素な皮の鞘と木製の持ち手には特に飾りやら紋様やらは刻まれていない。テニスボールはもうよくわからない、なんだこれ。


「では、確認します。イロハ・イツキ殿はこの依頼を受領しますか?」

「はぁ」


渡されたものに気を取られて、思わず先ほどの流れで生返事してしまう。

返事をした瞬間、ぞくっと背筋を冷たい感覚が走った。すごい嫌な予感がする。なにか、自分の大切なものを握られたような。

あ、やっば、ちょっとまってこれ...。

思わず顔をあげるも、もう遅かった。

瞬間、カウンターに置かれた紙が輝いた。正しくは、その下の方に書かれたサインらしきものが輝く。


「うっ、ぉ!?」


思わず身構える。

...が、特に何ごともなく光は治った。

おそるおそる、腕の隙間から紙の様子を確認する。

先ほど発光していた、紙に記されたサイン。その真下に、なぜか僕の名前が刻まれていた。


「んん!?」


おおっと待ってくれちょっと待ってくれどういうことだこれは。


「...はい、よし、依頼の伝達および受領完了、と。それじゃ、イロハ・イツキ君、頑張ってね」


リンダさんが、その長い髪を揺らしてにこりと笑った。











「...依頼って何、っていうかこのメカニカルテニスボールは本当に何、あとなんであの紙光の...本当びっくりするからやめて...」


<所属不明/16歳/lv0/Iさんのコメント>

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