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転生したくなかった!!-2

あ、あれ、生きてる!?

僕、スライムに襲われて...そこから助けてくれた人がいる...つまり、それって!?

そこから始まる異世界ラブストーリー(大嘘)

頭を内側から砕くような痛みに吐き気がこみ上げてきた。


「う゛っ、ぇ....」


前頭葉に鉛でも埋め込まれたように頭が重い。


「ぁ゛...う、ぅぅ...」


思わず手元にあった何かを強く握りしめる。痛みを我慢するために噛み締めた奥歯がぎちぎちと不快な音を鳴らす。

やっばいこれ...3徹した時でもこんなに頭痛くなったことないぞ...。

うめき声を漏らしながら身じろぎを繰り返す。荒い自分の呼吸音が耳障りだ。

ぐわんぐわんと、自身の周りの天地がひっくり返ったような。世界がボウルの中の溶き卵みたいにかき混ぜられている。

平衡感覚が荒ぶっている。自分が今仰向けなのかうつ伏せなのかもわからない。

手探りの感覚だけを頼りに、なんとか地面らしき方向へと顔を向ける。

全身が内臓の存在を拒否するかのように蠢く。まぶたを開ける気力もなく、ただただえづく。


「お゛えっ....ぅ゛....ぁ...」


胃液が喉の奥からせり上がってくるのがわかる。

口内を不快な酸味がじわりじわりと占めていった。

吐き気とめまいに妨害されて、思考が絡まっていく。

自分が何者なのかはかろうじてわかる。でも、ここは、時間は、なんで僕は生きているのか。少し考えようとすると、鈍く、激しい頭痛がガンガンと内側から頭を割ろうかとするように遮ってくる。


...ふと、カロン、とブリキのバケツが転がったような無機質な音がなった。

それと合わせたように、まぶた越しの光でなにか大きな影が自身に覆いかぶさるのがわかる。


なんだ、なんなんだ。

正体不明の何かに抗おうと必死に体を動かす。そうとする。

当たり前だけど、そんな考えが混迷、体調不良の極みであるような自分の体に通用するわけもなく。

なんとか持ち上げた腕も空を切り、力なく地に落ちた。

それで力尽きたように指先は痙攣するように震え、いうことを聞かない。

ずぐり、と、脇腹に何かが差し込まれるのがわかる。

皮膚を突き抜け、肉をかき分け、肋骨の隙間から何か、鋭利なものが差し込まれる。

ずぶ、ずぶり。

何か硬い切っ先が確実に体内に入り込んでくる。当たり前だが、初めての感覚に背筋が硬直するよう悪寒が走る。五感が死滅した分、体内に集中した感覚のおかげで、侵入してくる硬い切っ先から金属的な冷たさすら感じる。

でも、痛くない。なんでだ?

混迷する意識に全てが錯乱、思考が錯綜し、わけのわからない灰色が脳内を埋め尽くしていく。

ただ、そんななかでも唯一わかることがあった。

脇腹。冷たい、鋭い切っ先が侵入してきた場所から、全身へと水面を波紋が広がるように、気だるさと鉛のような重さが癒えていくことが。


「っは、ぇ....?」


少しずつ体が軽くなっていく。

脇腹からそのまま胸、太もも、首、二の腕、そのままそれぞれの先端へと。

生きることを否定するかのように暴れまわっていた内臓たちは、ゆっくりと平常の落ち着きを取り戻していく。


「..っはぁ....ぁ...」


なんとか喘ぐようにこぼしていた吐息は、次第に深く、平穏を含んだ深呼吸に変わっていった。

僕の呼吸が落ち着いてくると、それを確認していたのか覆いかぶさっていた何かが離れていく。

鉄のように重く、視界を閉ざしていたまぶたもすっかり軽くなり、僕はやっとの思いで目を開けた。最初に視界に飛び込んできたのは、緑色のゲルが撒き散らされた土と草だった。

そりゃそうだ、吐きたくて四つん這いに近い体勢になっていたんだから。

あれ、でも、てことはここに散らばっている緑の粘性のある物質って...僕が吐き出したやつってことか。

吐き気とめまいがすっかり過ぎ去ったことで、直前の記憶とクリアな思考が舞い戻ってくる。

そう、そうそう、そうだ。

森の中で、スライムに襲われて。壊れかけのブリキのおもちゃみたいな人 (?)が草むらから出てきて...。

っ、そう、そうだ!

スライムに襲われて僕の意識は完全に落ちたはず。正直、そこで死んだと思った。

ド●クエは嘘つきだ。スライムに取り込まれた時の感覚がまだ体のそこかしこに残っている。粘性の高いゼリー状の肉体に飲み込まれ、少しずつ体が麻痺していき息の詰まっていく、あの感覚。今思い出しても吐き気がする。

しかし、僕は生きていた。つまり、あの状況から僕を助けてくれた何者かがいたわけで...。

そして、先ほどの治療行為 (?)。あれを受けてから劇的に体の状態はよくなった。

僕を助けてくれた人と同一人物だと考えても不自然ではない...っ。

すっかり明瞭に、晴れ渡った脳内をフル活用し、刹那に思考を走らせる。

ふと、ブリキバケツの影が脳裏を一瞬よぎったが、それに構わず期待と羨望の視線を湛えたまま顔をあげる。

この絶望的な意味のわからない状況から、脱出するための手段が手に入ったことはほぼ確実と言ってもいいだろう...!!


...果たして、その視界の先にいたのは。


パチパチと、小気味好い音を立てて爆ぜる小さな焚き火。

使い込まれた、可愛らしい小鳥のデザインの折りたたみ式の椅子。

年季の入った、ところどころ汚れで変色したズタブクロ。

茶色の布が巻かれた、二メートルはありそうな大剣であろう物体と、その鞘。

どろりとした緑と赤の入り混じった何かがべったりと付着したナイフ。

そして、極め付け。

その怪しいナイフを握った、バケツを頭からかぶったようなデザインの鎧を身につけた2メートルはありそうな巨大な騎士。


「.................................................................ぃぇっ」


変な声出た。


バケツの表面に開けられた、視界を確保するためであろう二つの穴。その奥に秘められた、茜色に輝く双眸らしきものとバッチリ目が合う。

まるで、夜闇の中で怪しく輝く猫の瞳のように。

らんらんと輝くその二つの光は、じっ、とこちらを見据えたまま微動だにしない。


「ぁ......」


なんとか、喉の奥から声を絞り出す。

緊張と混乱で声帯がわけのわからない震え方をしているのがよくわかる。


「.....」


その声に対して、バケツ騎士からの反応はない。

あいも変わらずこちらをじっと、一切の瞬きをせずに見つめてくるだけだ。いや、たまたま僕と瞬きのタイミングがかぶってるだけかもしんないけど。


「助けてくれた....ん、です、よね....?」


恐る恐る言葉を紡ぎ出す。

それでも、バケツ騎士からの返答は一切帰ってこない。

彼は無言で、ナイフにこびりついた謎の物体を指でこそぎ落とした。

キュリ、と金属同士が擦れる音と地面に捨てられた粘着質の物質が飛び散る音。

...なんだろ、イエスってことなんだろうか。

一切の言葉のキャッチボールの行われない、まるで警戒している猫や犬...いや、サイズ的に熊か。と、なんとか意思の疎通を測ろうとしているような。

なんとも言えない気まずさと困惑、そして微妙な恐怖。不思議と緊張感はその瞳を眺めている間に薄れていた。

...と、とりあえず。

この状況からしても、彼が...多分、彼が僕を助けてくれたことは間違いないだろう。その背後の意図や、今後の成り行きに関してはもう、本当に、考えたくはないけれど。

なら、何を迷っているのか。僕がやることはただ一つだ。


「....あ、ありがとう、ございます...?」


そう、お礼を言う。

確証が持てないせいで語尾が少し上がってしまったが...そこはご愛嬌と言うことで許してほしい。

僕の反り上がった語尾が空気に溶けると同時に、再度静寂が訪れる。

彼の瞳は相変わらず、バッチリと僕のものと交わったまま微動だにしていない。

ん、んん...?

ダメか、違ったのか?僕を助けたのは彼じゃなかったのか...?

もしこの状況でこの意味不明な騎士 (多分)の機嫌を損ねてしまっていたのなら...。

そんな考えと、想像したくもないこの後の顛末がくるくると脳内を走り回る。 

かちゃり、と言う音と共に、彼はその手に持っていたナイフを落とした。

草地に、物騒なものが転がる。

ここからが、早かった。

バケツの騎士は勢いよく立ち上がると、先ほどまで腰掛けいた小さな椅子を一瞬で畳み、ずだ袋を手に取るとその中に投げ込んだ。ずだ袋に手を伸ばした動作で同時に大剣も手に取り、そのまま勢いよく背負う。

次にズタブクロの中から迷うことなく水筒らしきものを取り出せば焚き火にふりかけ、上から焚き火を踏みつけた。ぷすぷすと音を立てて焚き火が鎮火したのを確認すれば、ずずい、とこちらに距離を詰めてくる。


「っ、ひっ!?」

「......」


男子高校生とは言えないような悲鳴をあげた僕をガンスルーして、何も言わずとある方角を強く指差した。


「あ、えっ、と、そっちに行けと...?」


多分合っていたんだろう、僕のその言葉を聞いたのか、再度二、三度そちらを強く指させばそのまま勢いよく歩き出そうとする。

...なんだったんだあの人。

ふと、地面に転がっている先ほどまであの人が握っていたナイフが目に止まった。

あれ、これあのバケツ騎士さんのだよな...。


「...あ、あのこれっ」


ずんずんと力強く歩み去ろうとする騎士さんのあとを追いかけるようにして呼び止める。

ガシャッ、と勢いよく彼は動きを止めると、ぎぎぎ...と軋んだ音がしそうな動作でこちらに振り向いた。


「....忘れ物、じゃないですか...?」


バケツが、ゆっくりと僕の手元を見るように傾く。

ナイフを視界に捉えたのか、重たい甲冑を纏った手がゆっくりと差し出したナイフを受け取った。

ぎゅるん、と再度勢いよく180度方向転換すると、バケツ騎士さんはそのままがサリがさりと森の木々をかき分けて去っていってしまった。


「......なんだったんだ、あの人...?」


異様に手際よく後片付けをし、謎の方角を力強く指し示したバケツ騎士さんを、僕はただただ見送ることしかできなかった。

『.....................。』


<住所不定/年齢不明/Lv未測定/バケツ騎士(通称)さんのコメント>

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