市長マルテ
かつて人々が生きていたこの街――エピリア――は水没してからもその面影を残していたのです。人々が死んだのは雪が十数年ぶりに降った日のことでした。その島は経度が低いため人々は雪を見たことはあまりありませんでした。だからその雪は何か奇跡を興してくれるのだろう、と考えた人々は家から出て外に歩み、巻き上げた雪たちが静かに沈んだのです。まだ、夜は遠かったのです。その夜は真冬のその地方にしては寒い日でした。たきぎで火をつけた人々がいました。市の広場に集まりました。そこで市長――彼の名前はマルテ・ルートと言いました――が現れました。市長のマルテ・ルートが涙を流していました。その理由ならエピリア市民は誰もがわかっていました。そう、この街エピリアは静かに音もなく消え、永い夜が流れ、永い朝が来て、そして人々は死ぬのです。