第六話 撮影
家に帰ると母の『数字』が消えて……
…いるなどという都合のいい展開はなく、
恐らくではあるが、朝と変わらぬ『数字』がそこにはあった。
やっぱりメモを取っとかないと、駄目だな。
「ただいま」
「おかえりなさい、今日は早かったのね」
あぁ、そういえば、この『数字』の事ばかり考えていて、部活をサボってしまった。
まぁ問題ないだろう……多分。
五月蝿く言う奴はいるが、まあいい……事にしておく。
「え~と、今日は部活に行かなかったから」
「そうなの―――
う~ん、別に体の調子が悪いようではなさそうね。
まっ、あんまサボんなよ!」
しばし、俺の顔を観察した後、そういって洗面所の方へ向かっていく母。
「へ~い」
細かいことに五月蝿い親でなくてよかったと感謝しつつ、自分の部屋へと向かおうとして、
手洗いうがいをしていないことに気づき、結局俺も洗面所に向かう。
手洗い・うがい、大事。
母には特に用事は無かったのだが、ある事を思いつき、
スマホを取り出し、
「は~い、母さん、撮るよ~」
「な、何よ、突然、ちょっ、ちょっと待って」
「駄目、待たない」
カシャ、スマホの電子音が鳴る。
「ちょっと、いきなり何よ!
突然撮るから、いい変顔ができなかったじゃないの!」
何故に変顔?
それにいい変顔って何?
母よ、未だに貴方がよくわかりません。
「大丈夫だよ、素のままでも十分面白い顔だから」
「あらっ、そう。
………………それって、褒めてる?の?」
「褒めてる、褒めてる。
じゃあ~ねぇ~」
テキトーに返事をしながら、
色々と突っ込まれる前に、自分の部屋へと退避する。
さて、何故に今更、母の写真などを撮ったのか?
疑問に思う方もいるかもしれない。
察しの言い方は、既に気付いているだろうか?
何の事はない、ただ単に『数字』をメモるのが面倒くさかったからだ。
クラスの皆や、先生などの『数字』もこの手段をとれれば、楽だったのだが、
仲の良い友達だけならともかく、クラス全員や、先生の写真を撮りだしたら、
さすがに怪しまれるだろうと思い、実行しなかった。
決して、今思いつたからでは……、
………駄目だ、さっき ある事を思いつき って言っちゃってたよ。
すまん、本当は、今さっき気付きました。
理由は、完全に後付けです。
いや、言い訳させてもらうなら、
あの時は、自分の迂闊さというか、
莫迦さ加減に頭が一杯で、そこまで考えが及んでいなかった。
もっとも、気付いていた所で、さっきの理由で不可能だったけどな。
まあ、過ぎた事は仕方ない。
大事なのは、反省し、次に活かす事だ。
よし、母の『数字』を確認だ。
…………あれっ!
……ないっ!!!
何でだっ!!