第三話 考察(絞殺に非ず)
朝食を食べた後、気になったので、歯を磨きながら鏡を見てみるが、
自分の頭には『数字』は表示されてないようだ。
どうせならと、あまり時間がないというのに、わざわざTVをつけて見て、
出演者の頭に『数字』が表示されていないか確認してみるも、そんな事は全然無かった。
今のところ頭に『数字』が表示されている人物は母だけのようである。
やはり、母に尋ねてみようと思ったところで、ふと気づいた。
今は朝なのだから、母だって顔を洗うなり、化粧をするなり、身だしなみを整えるはずである。
俺のようなガサツな中学生男子でさえ、少なくとも一度は鏡を見るものだ。
ならば、母が一度も鏡を見ていないことなどあるだろうか、いやない(反語)
となると、幾つかの仮説が浮かんだ。
A.この『数字』は俺にしか見えない。
B.母にはこの『数字』は見えない。
C.俺は母の『数字』が見えるが、俺には俺の『数字』が見えない。
D.同様に、母には俺の『数字』が見えるが、自分の『数字』が見えていない。
E.母にしかこの『数字』は表示されない。
A.は今のところ検証しようがない。保留だ。
B.母の性格から言って、この『数字』が見えているならば、この話題に触れないはずがない。
よって、この可能性は高そうだ。
C.D.については、相手の(あるいは自分以外の)『数字』は見えるが、自分の『数字』は見えない。
と置き換えるべきだろうか。
B.でも検証したが、母の性格からして、例え自分の『数字』であっても、見えているならば話題にしないはずがない。
ましてや、息子の頭に『数字』があれば、必ず何らかの反応をするはずだ。
また、俺自身が俺の『数字』を確認できないので、自分自身の『数字』は見えない はありそうだ。
俺自身の数字が表示されているのか、それとも表示されていないのかは、とりあえず置いておき、
母には『数字』は見えていないは、確定でいいのではないだろうか。
E.については、テレビの出演者に『数字』は表示されていなかった。
この場には俺と母以外の人間は存在していない。よって、この可能性は高いかもしれないが、
要検討だな。たまたまテレビに出演している人も表示されない人だったという可能性も捨てきれない。
だめだ、朝のせい(としておく)か頭がうまく働かない。
が、母にはこの『数字』が見えていない事はほぼ確定でいいだろう。
よって、今現在この『数字』を話題にすることは止めておく方がいいだろう。
下手をすると、俺がおかしくなった(その可能性も否定できないのだが、俺自身は認めたくない)と、騒ぎ出し、
病院に強制連行の可能性が高そうだ。
うん、話題にするのは止めておく。
もっとも学校に遅刻するという差し迫った理由もあるせいでもある。
俺は黙ったまま家を出ることにした。
もっとも、
「いってきます」
とは言うけどな。
日々の挨拶は大事だぞ、人として。
「いってらっしゃ~い、車を轢かないように気をつけるのよ~」
母よ、あなたの息子は車に喧嘩を売る趣味は無いし、
素手で車に勝てるほどの腕力を持ち合わせてはいないぞ。
母のこのような小ボケはいつもの事なので華麗にスルーする。
心の中のツッコミは見なかった事にしてくれ。
そうそう、忘れるところだった。
母の頭に表示されている『数字』は刻々とカウントダウン……することはなく、
かといってカウントアップするでもなく、同じ『数字』を表示したままであったことを記しておく。