第ニ話 発症
さて、じゃあ肝心の『中二病』とはどういう症状なのかを早く説明しろと多くの方
(そもそも、この話を多くの方が読んでいるか?という疑問はさておいて)
が思っている事だろう。
順を追って説明することを許していただきたい。
そう、最初にそれに気づいたのは、中学2年生になり、ちょうど一週間が過ぎた朝の事だった。
その日はいつもと変わらぬ普通の朝であった。
目覚まし時計が鳴り、睡魔との闘いに無事に勝利した俺は、
自分の部屋をでて、1階に降りて(俺の家はマンションではなく、一戸建てだ)行き、
母が用意してくれている朝食を食べるべく、キッチンに向かった。
「おはよう。早く朝ご飯を食べて、学校に行かないと遅刻するわよ~」
と母がいつものように声をかけてくる。
朝ご飯といいつつも、パンが用意されている事に、特に突っ込みはしない。
「おはよう。今日も父さんは早いの?」
いつもの事なので、母親の方を見もせず、食卓には存在しない父親とその朝食を食べたあとを見ながら、
返事を返す俺。
母も、俺が降りてきたのを確認しつつも、こちらを見ることもなく、俺の分の目玉焼きを焼きつつ応える。
「そうね、来月からしばらくタイの工場に単身赴任になるから、その準備で色々と忙しいらしいわ。
まったく、しばらく家族に会えなくなるのだから、こんな時期ぐらいゆっくりさせてくれたらいいのにね」
と説明的な台詞を返してくる母。
「すぐに帰ってくると言っても、1~2年は向こうに居なきゃいけないのだから、
こっちの仕事の引継ぎなんかで、大変なんだろうさ」
とこれまた説明的な科白を返す俺。
「あんたも、あの人と一緒で、淡白よね~。
寂しくないの?」
「中学生にもなって、父親が単身赴任で寂しがるってーのも、それもどうなのよ?」
「…まあ、それもそうね。
はい、目玉焼きできたわよ~」
といいつつ、お皿にのせた目玉焼きを持ってくる母親。
そちらを見つつ、
「サンキュ………」
とお礼を言う途中で、かたまる俺。
「どうしたの、あんた。
豆が鳩鉄砲を食ったような顔をして」
「……それを言うなら、
鳩が豆鉄砲を食らったような だろう」
「そうね、最近の若い人の間ではそう言うようね」
「いや、最近の古い人の間でもそうとしか言わないよ」
「……そんなことより、早く食べて学校に行かないと遅刻するわよ」
ごまかすつもりか… と思いつつも、実際あまりのんびりしていられない時間でもある。
俺は急いで朝食(決して朝ご飯ではない)をとることにした。
おかげで、母の頭の上に浮かんでいる『数字』について訊くことができなかった。