第十七話 変化
そして、翌朝。
母の『数字』は安定の変化無し…………ではなかった。
『数字』が1だけだが増えていた。
昨日までは、末尾3桁は間違いなく「114」だった。
だが、今は「115」になっている!
昨日最後に確認したのは……夕食の時だ。
となると、昨日の夕食の後から、今日の朝までの間に『数字』に関わる事をした訳だ。
一瞬、買い物関係が浮かんだものの、帰宅時、と夕食時に間違いなく確認したので、
買い物関係では無い事は間違いない。
そして、一昨日から昨日にかけては変化が無かったから、
昨日から今日にかけて、いつもと違った事は…………
父が不在であることか?
または、木曜日から金曜日にだけする何かとかか?
あるいは、たまたま昨日だったのか?
特定するには情報が少なすぎる。
例によって、あまり時間はないが、
朝食を食べながら、探りをいれてみるとするか。
と思っていたら、母から話しかけられる。
「ねー、ねー、今時、携帯電話が通じない所があるなんて思わないわよね?
仮にあるとしたら、すっご~い田舎だと思っても仕方ないよね?」
「えっ?何のこと?」
「昨日の夜、9時頃だったかな?
家族用携帯に、知らない番号から電話がかかってきたのよ~」
「??携帯使えているじゃん?」
ちなみに家族用携帯というのは、ウチではいわゆる、固定電話契約をしていない。
そこで、自宅の連絡先用に家族の誰のものでもない携帯電話を家に常備している。
これが通称 家族用携帯 である。
何らかの連絡で電話番号が必要になる時に、
普段使いのスマホの番号を伝えたくない場合に重宝している。
「ウチのじゃないわよ~
相手先の番号が、携帯電話じゃなかったのよ」
「別に携帯電話からかかってこないからって、
携帯電話が通じないとは限らないんじゃないか?」
「お父さんの会社の人からの電話だったのよ。
お父さんの携帯にかけても、連絡がつかないので、
急ぎだったので、緊急連絡先のこの携帯に電話してきたって言うのよ。
それで、急に出張になったと伝えたら、
『あっ、あの件ですか、そうかそれじゃ携帯がつながらない筈だ。
どうも、失礼しました』
って、感じだったのよ」
「はぁ?」
何が言いたいのだろうか?
この母は。
「だ もんだから、お父さんってば、携帯の電波が届かないような僻地に出張しているのかなぁ~
と思っちゃったのよ」
「ああ、そう話が繋がってくるのか」
我が母ながら、判り辛い。
まぁ、ある意味、ウチの母クオリティーとも言えなくも無い。
「そうしたら、そのちょっと後ぐらいに、今度はお父さんから
私のスマホに電話があったのよ。
お父さんのスマホから
携帯が通じない所に行った筈の、お父さんから。
その電話に対して警戒してもおかしくないわよね?
私は悪くないわよね?」
「…………そう、かもね」
「だから、私電話にでるなり言ってやったのよ!
『あんた、いったい何者?
私は俺々詐欺になんかに騙されないんだからね!』
ってね」
「…………」
俺は朝食を食べるスピードを最速にまであげた。
嫌な予感がする………いや、嫌な予感以外が存在しない。
嫌な予感率100%だよ!
「まあ、結果的には、色々揉めたあげく、
本当にお父さんからの電話だったんだけどね」
「……ごちそうさまでした、そして、行って来ます」
俺は逃げ出した!
「あら、どうしたの?
まだ、時間なら大丈夫じゃない?」
母からは逃げられない!
えっ!
いつから母は大魔王になったんだ!
「え~~と、そう。
今日、俺、日直だったのを思い出して…」
「へ~ぇ、月曜日も日直だったわよね。
一週間に2回も日直が回ってくるなんて、
少子化も随分すすんでいるのね?」
しまった!
そういえば、そうだった。
やばい!
他に何か理由は……無い
どうする?
誰か俺に3択のカードを提示してくれ!
古すぎて、誰にも伝わらんわ!
この状況を逆転するには……
ん、逆転……そうか!
「母よ!
俺は1ミリも悪くないぞ!」
「えっ!どうしたの急に」
「確かに、俺は、
父が、携帯の電波がとどかない所に行く事を聞いていた。
それは認めよう!」
「何が言いたいの?
あんた?」
「だが、俺が父から頼まれた伝言は2つのみ。
・急な出張になったこと
・今日(今となっては昨日だが)の夕食がいらないこと
そして、俺は間違いなくその2つを伝えている。
つまり、俺に非は全くもってない」
「……あ~、そういうこと。
この件で私が怒っていると思っていたのね?」
「あれっ?
怒って……いないのか?」
「むしろ逆ね!
よくやったわ!」
「????
我、詳細希望!」
「そうね、話すと長くなるから、簡潔に。
前から、いいなぁ~と思っていたブランドの新作バッグがあるの。
それが私のもとにやってくることが決まったの」
「…………」
父よ、俺が悪かっ……
いや、俺は悪くないわ。
強いて言うなら、運が悪かった。
出張から帰ってきたら、第3のビール、いや、せめて発泡酒、
いや、あの金色のビールを冷やしておくよう母に言っておいてあげよう。
実行されるかどうかは、
母のみぞ知る
だけどな。




