第十五話 激変
父親がこんなに早く、帰ってきたから……
………確かに、それも驚くべき事ではある。
けれど、それぐらいで、こんなに驚いたりはしない。
じゃあ、何なのか。
父の『数字』を最後に確認したのは、昨晩だ。
朝は、目覚まし時計との激しい戦(以下略)
なので、朝は確認していない。
うん、間違いない。
この瞬間ほど、
なぜ自分は早起きをしなかったのだ!!
と悔やんだのは、今までに一度も無…………
かったとは言わないが、
ベスト10に……ベストではないか…
とにかく、10位以内にランクインするぐらい後悔した。
正確な『数字』はメモを見ないと思い出せないが、
少なくとも、末尾3桁が「777」だった事は覚えている。
そして、今の父の『数字』の末尾3桁は800を超えている。
数字が20以上も増えている。
こんなに増えているのを確認できたのは父が始めてだ。
しかも、最後に確認してから24時間も経過していないというのに。
こいつは、すげぇぜ!
ただ、惜しむらくは、
朝の父の『数字』を確認していないので、
・昨晩から、朝までの間に増えたのか?
・朝から、この夕方までに増えたのか?
・あるいは、朝・昼・夜関係なく、満遍なく増えたのか?
のどれであるのかが、わからないという事だ。
「…ょ…じ、お…、ひょ…じ、お~い、雹ニ!」
っと、いけね、
考え込んでしまった。
「なに?」
「大丈夫か?
どこか具合が悪いのか?」
「いや、そんな事ないよ
それより、父さんこそどうしたん?
こんなに早く帰ってくるなんて」
「そうか、まあ、見たところ調子が悪そうではなさげだな。
まあ、もうガキじゃないんだから、調子が悪かったら病院に行けよ!
で、雹ニがいるなら丁度いい。
母さんに伝言をお願いしていいか?」
「伝言?」
「ああ。ちょっとトラブルがあったので、急に出張しなければならなくなった。
荷物を取りに来たが、すぐに出発しなければならない。
早ければ、来週の月曜日には帰れるはずだ。
その辺は、夜にでも改めて母さんに連絡するよ。
多分、地下の現場になるから、作業が終わるまで、連絡がとれなくなるから、
ちょっと遅めの時間になるかもしれない。
とりあえず、今日の夕飯はいらない事、出張になった事を伝えておいてくれ」
「わかったよ」
「頼んだ。
本当、時間がないから、すぐ出なければならないんだ。
悪いな」
そう、言うや否や、書斎に向っていき、何かケースを持って出てくると、
寝室に向かい、キャリーケースを持って出てくる父。
この間10分もかかっていない。
「何だ、まだ玄関にいたのか?
じゃあ、すまないが行ってくる。
留守は頼んだぞ!」
と言いながら、玄関のドアを開けて出て行く父。
あまりの事に、こっちから質問する暇もなかった。
『数字』に関する事を聞き出そうと思っていたのに……
しかも、何なら、今日から明日にかけて、明日の朝、
それでも駄目なら土日と、父を観察していれば、
何か掴めていたかもしれないのに、そのチャンスさえも失ってしまった。
やっと、解決の糸口を見つけたと思ったのに。
なまじ、ちょっと期待してしまった分だけ、落ち込んでしまった。
まさに、持ち上げて、持ち上げて…………落とす みたいな。
あまりのショックに、母が戦場から帰ってくるまで、
玄関でボケッとしていた。
帰ってきた母に、
「父さんから伝言。
急な出張になった。
今日の夕食はいらない。
詳細は、今晩父から連絡するってさ」
と伝えて、自分の部屋に戻った。
俺が落ち込んでいるのを察したのか、
「お父さんが、急な出張であんなに落ち込んで、
来月からの単身赴任の時、大丈夫なのかしら?」
と、間違った心配をしている呟きが聞こえてきたが、
訂正する気にもなれなかった。




