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第7章 ぶっ飛ばしてやる

 一面、瓦礫の山。水岡はそう思った。

 レドラとデスジラスの戦いが、町中をメチャクチャにしていた。竜神岩のあった広場は勿論(もちろん)だが、少し離れた場所にあった公園でも、入り口がどちらの怪獣にかは分からないが踏み潰されたらしく、ひしゃげていた。とある民家では屋根が丸ごと消えていた。そこら中で、まだ火がくすぶっている。

「よっ・・・と」

 水岡は瓦礫の山の頂上によじ登った。

 そこからは、破壊された町の風景が一望(いちぼう)できた。町はほとんど原形をとどめていなかった。

その上、これだ。水岡は、目の前に横たわる巨大な残骸を見た。真ん中から折れた電波搭が横倒しになって潰れ、その下にデスジラスが埋まっている。たぶん死んでいるのだろう。

 まさか、生き返ったりしないだろうな?

 自衛隊は既に戦闘不能のようだし、レドラもどこかに飛び去ってしまった。水岡はデスジラスの顔が埋まっている辺りを、なるべく音を立てないように通り過ぎた。近くに自衛隊員も大勢いるが、やはり怪獣の鼻先を通るというのは、少し気が引ける。

 不意に悲鳴が聞こえ、水岡は危うく瓦礫の山から落ちそうになった。一体何事かと、自衛隊員が大勢声のしたほうへ走っていった。水岡も慌ててそちらに向かった。

 声の主は、マスターだった。自分の店の前で叫んでいるようだ。

 水岡は目を見張った。なんと驚くべきことに、店はほとんど無傷で残っていた。戦闘でこれだけ町が破壊されたにも関わらず、最初壊された入り口以外はなんとも無いのだ。看板(かんばん)が多少焦げている様だったが、マスターは気にしないだろう。あまりの幸運、というかここまで来ればもはや、奇跡(きせき)以外での何者でもなかった。

「マスター、良かったじゃないですか!」

 そんな言葉が口をついて出た。しかし、当のマスターには感激の悲鳴で聞こえていない模様(もよう)だ。状況がさっぱり呑み込めずキョトンとしている隊員達を押しのけて、吉崎が現れた。

「おぉ、良かったじゃねえか!」

 そこで初めて、マスターは二人に気が付いた。

「ああ、二人とも・・・・・」

「本当に良かったな!なぁオイ」

 水岡は頷いた。

「本当に、店潰れてるかと思いましたよ・・・・・。なんで無事だったんでしょうね?」

 聞かれて吉崎は、首を傾げた。

「さあねぇ?日頃(ひごろ)(おこな)いが良いからじゃねえか」

「ハハハ・・・・。そう言ってもらえると、ありがたいですよ・・・・・」

 それまでの緊張が切れたのか、マスターはヘタッとその場に座り込んだ。三人の口から、自然と笑いが漏れた。


 不意に、その声はした。

「ハハハハハハハッ!!!アッハッハッハッハ・・・・・・・・」

 それまでの和やかな雰囲気(ふんいき)が、あっという間に崩された。突然聞こえてきたその不愉快(ふゆかい)な笑い声に、吉崎が「あぁ?」と声のしたほうを睨みつけた。

 声の出どころは町長だった。揉み手をしながら、誰かの側で馬鹿みたいに笑っている。やたらとデカイ話し声が、水岡たちの耳に届いてきた。

「これだけ派手(はで)に壊れてくれれば、予定より大きなのが作れそうだなぁ?」

「へへっ。(おっしゃ)る通りで、社長!」

 町長に『社長』と呼ばれた男は、真っ黒のスーツに丸眼鏡、シルクハットは(かぶ)っていないが手元に扇子(せんす)を広げていた。どうやら、町長と同じセンスの持ち主らしい。見た目が成金(なりきん)そのものだった。

 あんなのが実在したのかと水岡は(いぶか)ったが、その前に聞こえてきた会話に、考えが(およ)んだ。町長は明らかにゴマを()っているから、二人の関係は容易(ようい)に想像できる。と、いうことは・・・・・・・。

「・・・・もしかしてアイツ、町長とグルなんじゃないか?」

 マスターが、「あっ」と声を上げた。

「そうか、だから竜神岩を!?」

 吉崎も合点(がてん)がいったらしい。要するに、時代劇で言う”お代官様”だ。町長は自分の利益(りえき)のために、この町の象徴を破壊しようとしていたのだ。

「あのクソ町長・・・・・ぶっ飛ばしてやるっ!」

「あっ」と叫んで、マスターが吉崎の肩を捕まえた。

「吉崎さん、やめて下さいっ」

「うるせぇ、止めんな!!」

 もがく吉崎は、マスター一人では止められそうにない。水岡も慌てて手を貸した。周囲の自衛隊員も何人か、吉崎が暴れているのを見て駆け寄ってきた。

「あの ― クソ ― 町長!!」

 水岡とマスターを含めた五人で抑えているのに、まだ吉崎に引きずられる。恐ろしい怪力だ。

「吉崎さん!そんなこと言ったって ― 殴ったりしたら ― 吉崎さんの方が捕まっちゃいますよ!!」


 突然、ドーン!!!と言う衝撃音がした。その場にいた全員が硬直し、瓦礫の山に目がいった。塔の残骸を跳ね飛ばし、デスジラスが立ち上がった。

「デ、デスジラス!」

「まだ生きてやがったのか・・・・!?」

 背後で機関銃を構え、慌てて無線に叫ぶ自衛隊員の声が聞こえた。

「ア、アワワワワ・・・・ヒィ~ッ」

 町長と成金は、二人揃って腰を抜かしていた。

 たった今、水岡は恐ろしいことに気が付いてしまった。自分達は瓦礫の影に隠れているが、町長と成金の周囲には、何の障害物(しょうがいぶつ)も無い。そして、二人はデスジラスの足元にいる。

 あっという間の出来事だった。恐怖で叫び続ける町長と成金に、デスジラスが襲い掛かった。逃げる間もなく巨大な口が二人を(くわ)え込み、次の瞬間には呑み込んでしまっていた。

「ちょ、町長たちも食われた!」

 マスターが悲鳴を上げた。

 とりあえずの腹ごしらえを終えると、デスジラスは海の方に向かって歩き出した。

 射撃許可の出た隊員たちが、既に発砲を開始していた。だがデスジラスは気にも()めない。すぐに浜辺まで到達してしまった。デスジラスは海に入っていき、そして消えた。


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