表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/11

第3章 分析

 3人が外に出てきた。マスターは、潰された入り口の辺りを心配そうに眺めている。だがしばらくして、彼も水岡と吉崎に続いて電波搭の頂上(ちょうじょう)辺りを見た。

 怪獣は首を支点(してん)にしてぶら下がっているように見えた。元々不安定な電波搭が、余計に不安定に見える。

「スゴイことになったなぁ・・・・・・」

 水岡がつぶやく。

 その時、車のエンジン音が聞こえてきた。マスターが振り向くと、町長の運転する黒のオープンカーが走ってきた。

「・・・・・あ、町長」

 二人とも振り向いた。

 町長は三人の横に車を止めると、電波搭の上を眺めた。町長はしばらくの間固まっていた。が、ふと我に返り、水岡の方を向いた。

「み、水岡クン。君が言っていた怪獣というのは・・・・あれかね!?」

「え、ええ」

 水岡も、慌てて答えた。

「さっきまで紅いドラゴンと戦ってたんですが・・・・負けてああいう状態(じょうたい)に」

 町長が目を見開いた。かなり驚いているようだ。

「あ、紅いドラゴン。それなら私も見たぞ・・・・?」

 今度は水岡たちが驚いた。

「え・・・・町長もですか」

 マスターが、再び怪獣を見た。

「・・・・・・一体、何がどうなってるんだ」


 数時間後。

 到着(とうちゃく)した自衛隊のヘリが、チェーン付きのくさびを発射し怪獣を電波搭に(しば)り付けていた。今は動かないものの、油断(ゆだん)はならない。報道(ほうどう)のヘリも飛んでいた。電波搭の下では自衛隊員が、集まってくる野次馬(やじうま)を下がらせるのに必死だ。


 町役場の一室。テレビの置いてある会議室(かいぎしつ)で、水岡、町長、自衛隊員たちが話をしていた。自衛隊員の隊長(たいちょう)らしい人物が、怪獣の分析(ぶんせき)データを読み上げている。

「・・・・・身長約8m。巨大な頭部に(するど)い牙、さらに長い爪を(ゆう)することから、当然といえば当然なのかもしれませんが・・・・・・きわめて凶暴(きょうぼう)であると推測(すいそく)されます」

 そこで、隊長は一息ついた。

「・・・・・怪獣か」

 その後を、もう1人の自衛隊員が引き取って言った。

「現在は電波搭に突き()さったまま活動を停止(ていし)しており、いつ動き出すか分からない状態にあります」

「もう、死んでいるんじゃないのかね?」

 町長が口を挟んだ。

「センサーによると、あの怪獣の頭部の周りで、二酸化炭素の濃度(のうど)が常に増減(ぞうげん)()り返しています。これは、呼吸(こきゅう)が行われている証拠(しょうこ)・・・・・・。まだ、生きていると考えるべきでしょう」

 隊員の答えに、町長は不満げに鼻を鳴らした。

「・・・・では、第一発見者である、水岡宗司巡査部長からどうぞ」

 指名された水岡に、全員の視線が集まった。

「水岡です。いや・・・・私もよく分からないんですが。先程(さきほど)自衛隊の方が仰ったようにあの怪獣はとても凶暴で。・・・・・・既に一名、犠牲者(ぎせいしゃ)も」

「その、怪獣に食い殺されたとかいうのは確か、ヤクザじゃなかったのかね?」

 町長が、くだらんという風に言った。

「犠牲者は犠牲者です」

 水岡は少しムッとして言った。

 彼にしてみれば、ヤクザたちは迷惑者(めいわくもの)ではあるものの、死ぬべきだとは思っていない。第一あんな死に方をしたのは、あまりにも可哀想(かわいそう)だった。

「まあまあ。ところであの怪獣なんですが、ひとつ興味深(きょうみぶか)いことが・・・・・」

「興味深いこと?」

 水岡が聞いた。町長も、少し身を乗り出してきた。隊員は説明を始めた。

「ええ。(ねん)のためあの怪獣の全身を、スキャナ等で調べた結果・・・・・全身のいたる所が、機械でできていることが判明(はんめい)しました。」

「機械!?」

 水岡は驚愕(きょうがく)した。自分の聞いた機械音は、本物だったのだ。

「・・・・・・じゃああの怪獣は?」

 隊員が(うなず)いた。

「そうです。言わば・・・・・サイボーグ怪獣」

 そこに集まっていた人々の間に、ざわめきが走った。

「サイボーグ・・・・・・・・じゃあ一体誰が・・・・?」

 あの怪獣を作ったのか、ということだ。サイボーグが自然に生まれる訳は無いから、誰かが作ったということになる。並大抵(なみたいてい)の技術ではないだろう。それに何の目的で?一体誰(だれ)が?

「・・・・・次に、話にあった紅いドラゴンのことなんですが」

 感慨(かんがい)にふけっていた水岡の耳に、隊長の声が飛び込んできた。慌てて顔を上げる。

 と、自分の目の前にいた町長がデカイ声を出した。

「フッ、それなら心配無用!空を飛んでいく姿が、偶然(ぐうぜん)にもここの監視(かんし)カメラに映っていたのだよ。今、そのテープをこちらに持ってこさせている」

 やけに自慢(じまん)げな町長の声が終わると同時に、会議室のドアが開いた。早速(さっそく)テープが届いたようだ。町長が受け取ってデッキに入れると、その人物は用は()んだとばかりに部屋から出て行く。やけに動きがギクシャクしてるな、と思って水岡がよく見ると、人間ではなくロボットだった。

 水岡がロボットを見ている間に、映像は再生されていた。

 役場の入り口から見える、青い空が映っている。と、しばらく後、風を切る音が聞こえてきた。そして映像の空が暗くなったと同時に、そこに紅い影が現れた。誰かが、映像を止めた。

 そこに映っている深紅の龍を見ようと、皆が席から身を乗り出した。

「ほぉ、これは・・・・・」

「確かこのドラゴンも、あの怪獣と同程度の大きさということでしたよね?」

 隊長が水岡に質問した。

「そうです。あ、それに、この町に飛んできてすぐ、あの怪獣に襲い掛かったんです」

「ということは・・・・・2体は敵対(てきたい)関係にあるということか。天敵(てんてき)同士、ということも考えられるな」

 その時、さっきの隊員が出し抜けに言った。

「さて、ここまで分かったことですし。誠に面倒ですが、2体に何か名前をつけなければいけませんな」

「え、名前?」

 町長の隣に座っていた女性秘書が、()頓狂(っとんきょう)な声を上げる。

「名前です。いつまでも”怪獣”とか”ドラゴン”とか、呼びにくいでしょう」

「まあ確かに・・・・・」

 でもその秘書は、まだ()に落ちないという顔をしていた。

「名前?映画じゃあるまいし・・・・・・」

 町長の方は、秘書と違って嫌悪感(けんおかん)を露にしている。

 隊長はといえば、しばらく(なや)んでこう言った。

「え~・・・・・・では名前は、それぞれの第一発見者である、水岡氏とこちらの町長に付けて頂くことにしましょう」

「フン、アホらしい!水岡くん、キミが両方つけたまえ」

「・・・・・・え?両方私がつけるんですか!?」

 隊長がかすかに頷いた。

 まさか、こんなことになるとは思っていなかった。怪獣に名前をつけるなんて、怪獣映画の中だけだと思っていたが、まさか自分がやることになるとは。しかも、2つだ。そんなすぐに、良い名前が2つも思いつく(はず)が無い。

「あ~・・・・・・・」

 昔見たことのある数少ない怪獣映画の、名前の法則(ほうそく)みたいなものを思い浮かべてみる。水岡は適当に、いくつか言葉を当てはめてみた。

「・・・・・・・?」

 と、水岡の脳裏(のうり)に名前が2つ浮かんできた。色々と考えてみたが、他にロクな名前も思いつかない。これ以上待たせるわけにも行かないし、言ってしまおう。

「えっと・・・・・『デスジラス』と『レドラ』。サイボーグ怪獣の方がデスジラスで、ドラゴンの方がレドラです。どうでしょうか?」

「お・・・・いいんじゃないですか?」

 先程の隊員が賛同(さんどう)する。

「意見のある方は?」

 隊長が聞いたが、もちろん誰も異論(いろん)(とな)えるものはいない。

「・・・・では以後(いご)、作戦においてサイボーグ怪獣を『デスジラス』、紅いドラゴンを『レドラ』と呼称(こしょう)する。メディアへの通達(つうたつ)等も、それにて行う」

 隊長が言い終わった途端(とたん)、それまで適当に頷いていたらしい町長が、口を開いた。

「名前も決まったことだし、どうやってその・・・・・デスジラス?を倒すのか教えてくれんかねぇ?」

 かなり嫌味っぽい言い方だった。

 ところが隊員は、笑っていた。

「安心してください。既に新型戦車を三台、こちらに呼んであります」

 町長は、まともな答えに面食らったようだ。

「し、新型戦車?」

「ええ、最新技術の(すい)を集めた、()世代型(せだいがた)の戦車です」

「・・・・それはどの程度最新なんだね?」

 町長がまた聞いた。

(しゅ)電源(でんげん)燃料(ねんりょう)電池(でんち)予備(よび)電源としてソーラーパネルも搭載(とうさい)しています。武器は全てレーザー系統(けいとう)を使用。専用の改造を(ほどこ)した移動指揮車と、通信用車両を経由(けいゆ)遠隔(えんかく)操作(そうさ)いたします。それに・・・・」

 隊員が説明を続けようとするのを、町長がさえぎった。

「・・・・・ま、あの怪獣がさっさと倒されるのを祈っているよ」

 そういうと町長は、秘書を従えてさっさと部屋から出て行った。

「・・・・では、会議はこれで終了とします。お(つか)れ様でした」



 水岡はその会議の様子を、避難してきたばかりの町の住民たちから離れて、マスターと吉崎に語っていた。

随分(ずいぶん)とイヤミったらしいな、町長の野郎」

 吉崎が言う。

 水岡は苦笑した。あの町長のねちっこい性格は、吉崎も気に食わないらしかった。と、マスターが思い出したように言った。

「そういや水岡さん、怪獣の名前・・・・。『デスジラス』と『レドラ』でしたっけ?それって、どういう意味なんですか」

「ああ、それは・・・・・」

 言おうとして水岡は、言葉に詰まった。自分が即興(そっきょう)で考えた名前に、今更(いまさら)だが自信がなくなってしまったのだ。仕方がないので、言ってしまった。

「『デスジラス』ってのは・・・・・”死のトカゲ”って意味だよ。”ジラ”っつーのがトカゲのことらしいんだけど。そんで『レドラ』が・・・・・”紅いドラゴン”って意味。えっと、ほら。”レッドドラゴン”を略してレドラ・・・・・・」

 マスターはキョトンとしている。吉崎が笑っているように見えたのは、気のせいだろうか。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ