表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/11

プロローグ

 ―どんよりと(くも)っている。空一面を、灰色の不気味(ぶきみ)な雲が(おお)いつくしていた。日が、まったくと言っていいほど届いていない。

 その空の直下に山脈(さんみゃく)がある。そこで、異変が起こっていた。

 山脈は、小さな島国の北部に位置していた。寒い土地ではあるが、自然は(ゆた)かであった。


 その豊かな自然が、燃えていた。草木に森、そして動物。あらゆるものから火の手が上がっている。所々に人間らしいものが倒れているが、その中にも燃えているものがあった。


 森の中の倒れた木々が並び、道を作っている。まるで、何かが通り過ぎたかのようである。“道”は、山脈のふもとまで続いていた。

 大気全体に、どす黒い、邪悪(じゃあく)な気が満ちている。何かを察知(さっち)した動物たちが、(おび)えながら一斉(いっせい)()け出したその時だった。

 山の中腹が、突然爆発した。吹き飛ばされたたくさんの(がん)(かい)が、森の中に落ち、()(まど)う小動物たちを押しつぶした。爆発した場所には、黒煙がもうもうと立ち込めていた。

 煙が晴れると、そこに巨大な穴が開いていた。穴の中に怪獣がいた。


 穴から出てきた怪獣は、大地に衝撃(しょうげき)を加えながら一歩一歩進み始めた。

 怪獣の姿は、太古の時代の恐竜に似ているように見えて、何かが違った。その巨体に似合わず、(うで)と足が短い。そして、頭だけが異常に大きい。そのアンバランスさに加え、頭部の横には無数の(あな)が空いている。先の爆発を(まぬが)れた動物たちも、怪獣の異常な風体に恐れをなし、一目散に逃げ出した。

 突然(とつぜん)怪獣が、歩みを止めて空を見上げた。灰色の雲が一面に広がっている。怪獣は、まるで威嚇(いかく)するかのように(うな)った。

 ―と、そのとき、灰色の彼方(かなた)に何かが見えた。

 深紅(しんく)の龍だった。深紅の巨体と翼をもった龍が、怪獣目掛(めが)けて飛んでくるのだ。

 深紅の龍は怪獣の頭上に差し掛かると、その口から(あお)い火球を数発放った。炎の(かたまり)が天空から()(そそ)ぎ、爆発して怪獣の周囲を焼いた。炎に包まれた怪獣が、さらに強く唸る。深紅の龍は空中で身を反転させると、再び怪獣に向かって飛び始めた。龍も、激しい咆哮(ほうこう)(とどろ)かせた。

 怪獣が龍を見据(みす)え、そして大きく息を吸い込みはじめた。怪獣が口を閉じた次の瞬間(しゅんかん)、怪獣の頭の孔から爆炎が噴出(ふんしゅつ)し、無数の火球となって飛んだ。自身目掛けて飛んでくる火球を、龍はスレスレで()けた。風を切る龍の翼を、小さな炎の塊が(かす)めていく。

 だが、数が多すぎた。最初の数発を避けた直後、脇から飛んできた一発が、翼を直撃(ちょくげき)した。衝撃で体勢(たいせい)(くず)れたところに、残りの火球が追い打ちをかけるように命中した。炎と煙に包まれながら、龍が落下していった。山腹に激しく身体を打ちつけた龍は、そのまま動かなくなってしまった。

 (てき)()ち落とした怪獣は、一声吼えると身を(ひるがえ)した。

 ―奴は死んだ―

 墜落(ついらく)した龍に背を向け、怪獣は再び歩みを進め始めた。

 ―だが、龍は死んでいなかった。龍はゆっくりと鎌首をもたげ、己に背を向けた怪獣を(にら)み付けた。龍の口が開かれ、頭部の2本の角が激しく発光しはじめる。

 龍の口から光線が放たれた。その光線は短い距離を進んだ後、怪獣の背後の空間に到達(とうたつ)して巨大に広がり、ブラックホールのような穴を出現させた。”穴”に向かって、風が激しく吹き込みはじめた。その力に()()せられ、怪獣の進行が止まった。怪獣は、悲鳴(ひめい)とも似つかぬ咆哮を上げたが、無駄だった。

 たちまちのうちに、怪獣は”穴”の中に吸い()まれて消えた。

 その瞬間、激しい閃光(せんこう)がほとばしった。目がくらむほどの強い光の中で、虚無の空間は圧縮され、怪獣を小さく封じ込めた。閃光が収まった時、そこには小さな岩がひとつ、立っていた。戦いが、終わったのだ。


 沈黙(ちんもく)(おとず)れた。何も動かず、何の音もしない。そこにいるのは、横たわる深紅の龍のみ。何も動かない。何も動かないまま、時が()ぎていった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ