差し当たり
異世界にやってきた。
否―――異世界にやってくる羽目になってしまった。
これまでの現実が通用しない別の世界。
これまでの現実を気にしなくて良い理想の世界。
これまでの現実を忘れなくてはならない異なる世界。
私にとってそれは、理想郷だ。
でも好きな人と離れ離れになってしまった。
現実。つまり日本に大好きな人が居た。
その人に別れを言うことも出来なかったのが、唯一心残りかもしれない。
折角頑張って勉強して、好きな人と同じ高校へ進学したのも無駄になった。
あの努力を応援し、合格を心から喜んでくれた家族や友人には申し訳ないと思う。
だが悪い事ばかりではないだろう。
この世界ならば、私は私の在り方を突き進んで生きていけるかもしれない。
この世界ならば、私は私の欲求に素直に生きていけるかもしれない。
この世界ならば、私は私が好きな人に「好き」と言っても許されるかもしれない。
この世界ならば。
今日から始まる新生活。
安全な通学路も、治安の良い町も、見知った人の待つ家もない。
待つのは異世界。剣と魔法とモンスターが渦巻くファンタジーの代名詞。
右も左も分かっていない外国ですらない世界で、私は私の生き方を探すのだ。
まるで小説の中の様な、まるでゲームの中の様な出来事。
だがこれは、私にとって紛れもない現実であり、事実なのだ。
受け入れて、そしてはじめよう。私の物語を。
差し当たり。
今日から始まる生活を小説にでも例えるなら冒頭の一文はこれが良いだろう。
私。異世界で百合してくる。