どろどろでぴゅあぴゅあな東京生活。
第一章
1.
-カンカンカンカン…カンカンカン-
此処は東京のとある踏切の前だ。
今でさえ住みなれた大都会の中に何かノスタルジックな感情を覚える。車の激しい通行音という雑多な音から切り離されて、ただ踏切の警報音だけが聴こえる。かつて空の先に見ていたビルのずらずらと並ぶ大都会のイメージから離れ、並ぶのは雑多に配置されたアパートとマンションだ。
-ガーッゴーッ…トントン…トントン…ゴーッガーッ-
十数秒間だろうか、数十秒間だろうか、少しレトロな電車が二組のレールの奥側を通り抜ける。
(はぁ…)
私は家を失ってしまった。この東京で一人残され、偶然にも好奇心で見つけた宿へと向かっている。民泊のウェブサイトで見つけた格安の宿だ。
踏切を渡ると、既に空は暗くなり始めていた。更に歩き進み格安の民泊付近にたどり着く。
細かい建物名などは知らなかったので、スマホから電話を掛ける。
-ツルルルルッ…ツルルルルッ-
(このスマホが止まるのはいつかなぁ…)
-プツッ-
「Hello?」
私はだたどたどしく英語のような音を出した。民泊の主はウェブサイト上でどうみても日本人には見えなかったし、そもそもやり取りをお互いに基本的な英語でしていた。
「もしもし?Cさんですか?」
声の主の女性は何処かの国に訛ってはいたものの日本語を話した。
「あ、もしもし…あ、はいCです。」
私ことCは少し面食らいくぐもった返事をした。
「大丈夫ですか?今どちらに居ますか?詳しく説明するので建物まで来てください。」
声の主の女性は少しこちらのことを気にかけてくれているようだ。電話を幾分か繋いだまま案内され私は既に暗くなりつつある路地の奥へと導かれた。
(こんなところに宿が…?)