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6_秘密の通路

 ちょっといろいろあって間が開いてしまいましたが更新再開します。

「くふふ、ははは、あっはっはっは」


 魔大陸の王都にある某貴族の館、そこでまるで悪役のように一人の男が高笑いをしていた。


 彼の名前はダルクーエル、魔大陸ではそこそこ高い地位の貴族の家の当主だ。


 彼は目に入れても痛くないほどに溺愛している娘を王家に輿入れさせようと暗躍し、そのたくらみを見事に潰され、報復に燃えていた。


 そして、彼は自らの防疫所の担当官と言う立場を利用し、輿入れの邪魔をした異国の姫を貶めるために連れてきたペットを誘拐したのだ。


「グルルル」


 檻の中で唸る犬畜生(フェデリオ)を眺めながら勝利の美酒を煽るダルクーエル、わざわざこちらに連れて来るほど大切なペットだ、首でも送ればきっと寝込むだろうと算段を立てていた。


 そして異国の姫が行動不能になっている間に自分の娘を宛がう、なんてすばらしい計画なのだと自画自賛しながら彼はまた酒瓶に手を伸ばす。


 そして、それを見る目が屋根裏にあった。


「うわぁ、なんっちゅうかうわぁ」


 録音の魔術具を止めてから、ククリはそんな声を聞こえないようにもらす。


 防疫所の役員をやっている貴族が怪しいことなど割り切っていたので手の者と手分けをしたところククリは見事にアタリを引いていた。


「あんなんが陛下の嫁になれるわけあらへんやろ」


 ダルクーエルの娘は外見こそそれなりであるが、中身は傲慢、浪費癖、目障りなものは徹底的にいじめると性格面から論外であると結論付けられている。


 もし、彼のたくらみが途中まで上手くいったとしても結局のところ万に一つもダルクーエルの娘が輿入れなどあり得ないのであった。


「頭領、他の場所の確認が終了しました。指示を」


「んー他んところはどないなかんじや?」


 音もなく現れた配下を意にも留めず、ククリは尋ねた。


「ここ以外の数ヶ所の屋敷でも不穏な動きあり、との事です。報告はこちらに」


 ロールされた書類を渡され、ククリはそれを腰のポシェットに詰めると録音の魔術具もまた詰める。


「うち、坊のとこに報告いくさかい、あとは頼んだで」


「承知」


 配下に監視を任せ、ククリはその場を後にする。


 王宮に入ってから自室でククリは書類を確認した。


「あー、あったりまえやけど複数犯……黒幕はバリバリの前王弟派やな。面倒なことこの上ないっちゅう感じやし、話し通しに行かんとアカンな」


 前王弟はレヴィスから見て叔父にあたる人物は非常に野心溢れる人物で、レヴィスと王位をめぐってかなり大規模に争った末に離宮に幽閉された人物だ。


 その際の騒ぎで前王弟派の貴族はかなりの数が失脚させたのだが、うまいこと立ちまわっていまだに権力の座についているものも少なからずおり、そういった者たちが未だに細かな嫌がらせで足を引っ張り、信奉する前王弟を引っ張り出そうと暗躍している。


「ちゅーか、これ王都近辺うろうろしてはるのアレか、やっこさんの私兵か」


 点と点をつなぎ合わせ、ククリはどう行動すべきか、どう報告すべきか、脳内で考えていた。


 その時、机の上に置かれていたまた別の配下からの報告書類が目に留まる。


「ん、ふむふむ――ふん、ふん」


 ニタリとククリは悪い笑みを浮かべた。


 その書類には王宮の様子や、魔王の身の回りで起こったことが事細かく書かれている。


 当然、アンネリースがレヴィスと図書館で交わした約束のことも書かれていた。


「せっかくやし、お(ひぃ)さんには陽動やってもらいまっか」


 ピンと書類を指先ではじき、とにかく今は警備で人手が足りない、使える物は何だって使うとククリはそう結論付けたのであった。



+*+



 気が気でないまま夕食を終え、アンネリースはいつでも出られるように準備をしていた。


 とはいっても、服を祖国でも使っていた戦闘用の衣装に着替え、髪を動きやすいようにまとめ、体を軽くほぐしておくだけのものだ。


「アンネリース様」


 名前を呼ばれ、アンネリースは体をほぐす運動をやめる。


「レヴィス様より、夜の庭園を共に散策をしようと言う招待が来ております」


 声をかけてきたのはマルガレータだ。


「ええ、今行きますと伝えてもらえる?」


 当然、庭園散策など呼び出しのための方便である。


「御意に」


 マルガレータは礼をすると、服の襟に金具で取り付けるタイプのフードをアンネリースに差し出す。


「アンネリース様の御髪は非常に目立ちます。なのでこれを」


「ありがとう」


 ひとまずはポケットにそれを詰めると、アンネリースはイザベルの後ろについて、離れを後にする。


「こちらです」


 アンネリースが通されたのは庭園のすぐ近くにある小部屋だった。


「ん、来はったで」


 その部屋にはレヴィスと、やたら露出度が高いいしょうを身にまとった狐系の獣人の女がアンネリースを待っていた。


「非公式の場だ、礼はいらん」


 礼の姿勢を取ろうとしたアンネリースを手で制し、レヴィスはため息を吐く。


「本来なら明日渡すものだがこれを持って行け」


 レヴィスは物陰から豪奢な鞘に収まった剣を出すとアンネリースに渡す。


 アンネリースは静かにそれを受け取ると半分ほど剣を鞘から出し、剣を確認した。


 剣の腹の部分に古語と思わしき何かで言葉が書かれていることからおそらく魔法剣か何かだろうとアンネリースは検討を付け、指の腹で剣の鋭さを確かめてから鞘に戻す。


「魔力を通すと身体能力が上がる。見た目が派手な物よりもこちらの方がいいだろう?明日、婚礼の際に必要になるから後で返してくれ」


「わかりました」


 吊っていた自前の剣を剣帯から外すと、受け取った剣を下げた。


 この腰に下げた剣が、明日無事に結婚すれば自分の物になると思うとアンネリースはとても不思議な気持ちになった


「それと、これもだ」


 ついでのように手渡された赤い宝石の埋まった指輪にアンネリースは首をひねる。


「これは何でしょうか?」


「隠し通路の鍵だ。行きは開けてやれるが帰りはそうはいかない。意味は分かるな?」


「なるほど」


 秘密裏に行って帰ってこいとの事らしいとアンネリースは理解し、うなずくと指輪をポケットに入れる。


「ククリ、案内は頼んだぞ」


「りょーかいや」


 ククリと呼ばれた女はそう言ってこっちこっちとアンネリースを手招きする。


「ここやでここ」


 ぽんぽんと何の違和感もない壁の装飾を叩くククリ、おそるおそるアンネリースは指輪をポケットから出すと手でその装飾に触れるが特に何も起こらない。


「指輪に魔力を流せ」


 言われるままにアンネリースは指輪に魔力を徐々に流す。


 すると壁がほんのりと光り、アンネリースから見て外側に石材が組み代わり、通路になった。


「その鍵を使えばここと出口以外には繋がらんようになっているから案内などはいらないはずだ」


「便利な物もあるのですね」


 おそらく、本来は王族として登録されている人間以外は隠し通路への入り口を開けられないが裏技として、特定の隠し通路への入り口のみに出入りできるようになっている魔術具なのだろうとアンネリースは検討を付けた。


「ほかの出入り口もそのうち教えてやるが、それはまた今度だな」


 肩をすくめながらレヴィスは苦笑いを浮かべ、首を横に振った。


「はい」


 アンネリースの返事を聞いてから、最後にレヴィスはそっと先ほどの隠し通路の鍵になっている物とはまた違ったシンプルな銀製の指輪をアンネリースに手渡した。


「弱いが守りの魔法を籠めておいた。時間がなくこのような物しか準備できなかったがな」


 どうやら手ずから魔法を籠めた品らしい、アンネリースはそれをしばらく掌で転がしてから、ちらりとレヴィスの方をうかがう。


 レヴィスはきょとんとした表情で首をひねった。


 その様子を見て、ククリはあきれたような表情を浮かべ、やれやれと肩をすくめる。


「アホか、坊。その手のシンプルな指輪はな、お(ひぃ)さんのお国やと婚約ん時に男から女に贈って、そん時に女は男に薬指に指輪、嵌めてもらうっちゅうんが鉄板やで」


 その言葉に、レヴィスは一瞬だけしまったと言う表情になり、気まずそうにアンネリースの方を見るとひょいと指輪を取った。


「失礼」


 アンネリースの右手を取るとレヴィスはその薬指に指輪を嵌める。


「すまないな」


「いえ、これから知って行けば良いだけですので」


「そろそろいかへんと時間ヤバイで」


 ククリはちらりと壁掛けの時計を見ながら酷く甘いものを食べたかのような表情でそういった。


 微かに口角を上げて笑うアンネリースにレヴィスは胸を撫で下ろし、ククリの言葉に一歩二歩と邪魔にならないように後ろに下がる。


「怪我をしないようにくれぐれも気を付けてくれ」


 何処か弛緩した空気の中でレヴィスは緊張させないように笑みを浮かべる。


 アンネリースは変わらない表情ながらも、何処か少し嬉しそうな表情で、


「はい、それでは、行ってきますね――旦那様」


 そう言って、ごく自然な笑みを浮かべるとククリと共に隠し通路の向こうへと消えていく。


「っつ!?」


 思わず顔の熱さに額を抑えるレヴィス。


 今度は、レヴィスが赤面する番であった。



+*+



「あ、せやせや、うちの自己紹介まだやったな」


 狭い通路の中を先導するククリが持つカンテラの明かりを頼りに進んでいるとそんな風に話題を切り出された。


「うちは、こん国で諜報なんか担当させてもらっとるククリっちゅうモンや。訛りひどいんはどうあがいても直せへんかったから許してぇやぁ」


 笑いながら話すククリ、にアンネリースは首を横に振る。


「いえ、構いませんよ。私はアンネリースと申します」


 そして、アンネリースの視線は、がっちりと目の前でふりふり揺れるククリのしっぽに固定されていた。


(もふもふ……)


 しっとりつややかもふもふの毛並みはアンネリースにはとても魅力的に映った。

 もふもふしたいという衝動と、仕事の邪魔をしてはいけないという理性がアンネリースの中で不毛な争いを繰り広げているがなんとか理性が勝っているようだ。


「……」


 一方でククリも職業病で後ろから漂う不穏な気配に気が付いていた。


(なんちゅーか、はずかしいなこれ)


 アンネリースの趣味嗜好的に熱視線が来ることは予想がついていたが、いざ向けられてみると何とも気恥ずかしいものがある。


「そう言えばお(ひぃ)さんは坊――陛下のことどう思うとるん?」


 空気を変えるべくククリはアンネリースに話題を振った。


「どうと言われても……」


「庭園で求愛されたんやろう?」


「そ、それは」


 どもるアンネリースに若いっていいなと言う年よりくさい感想を持つククリ。


「な、なんで知ってるんですか」


「舐めたらアカンで、人の口、完全に塞ぐんは至難の業やからなぁ」


 なにせ翌日には王宮中に広まっていた話だ、諜報活動を行っている者たちの取りまとめ役であるククリが知らないわけがない。


「ま、多分結婚終わってからの茶会で散々弄られると思うでその話題」


 からかうようにククリは笑いながら、足を止めるように合図を出す。


「ここが出口やで」


 コンコンとレリーフが刻まれた壁を叩くククリ、レリーフには魔術言語で王都貴族街花園庭園と書かれていた。


「一応、うち、契約でガッチガチにされた上やけど開ける権限は持っとるさかい、開けてもええんやけど、お(ひぃ)さんにあけてもろうか」


 ククリの言葉に、アンネリースはこくりと頷くと、指輪をポケットから出して、魔力を流しながらレリーフに触れた。


 次の瞬間、レリーフの石材が組み代わるかのように動き、出口と階段に変わる。


 そこから出ると、魔術言語の通りに庭園らしき場所に出た。


 周囲を見渡してみると、出口は何の変哲もない花壇の横にあり、幾つか目印になる物はあるが、言われなければまずわからないような場所にあった。


「っと、結構時間押しとる感じやね」


 隠し通路から時計を見ながらククリが出ると、再び石材が組み代わる様に動き、元通りになった。


「あの、帰りはどうすればいいんですかこれ」


 特にあけるための目印がない石畳の地面を見て、アンネリースはふとそんな疑問をこぼす。


「あぁ、適当に魔力もろうた指輪に流しながら近くの地面に触れば開くで。ただし上に物とか乗っとると安全装置働いて開かへんけどな」


 どうやら上手くできているらしいとアンネリースは関心すると、フードをポケットからだし、金具を取り付けるとしっかりと被った。


「ん、ちゃんとそないなもん持ってきとったか」


 ククリは満足そうに言うと、藪の中へと入っていく。


「こっちやで」


 当然普通の道は使わないのだろう、アンネリースもまたためらいもなく、そのやぶの中へと入っていく。


 こうして、アンネリースのフィデリオ奪還作戦は様々な思惑を巻き込みながら始まった。

覚えておくとちょっとだけいい知識


・魔術言語

 魔法を使う際に習得が必要な言語のひとつ。

 魔族がこちら側の世界に来る際に持ち込んだいわゆる専門用語の塊みたいなものを都合がよかった神々が世界のシステムに組み込んだのが始まり。

 魔術具には魔術言語を組み込んだ魔法陣が必ず一つは組み込まれている。

 アンネリースは魔法を使う関係で当然、読み書き発音が出来る。

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