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街でうわさの転移の母娘  作者: 荒草むつ
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2.「皆様は我が国150年ぶりの転移者になります」

「……はい、ご記入ありがとうございました」

 ザンディニ国ヘスピューイ領ジュバッル出張所のジンヴォと名乗った耳の長い老年の役人は、3人から受け取った書類をさっと確認すると正面に座っている順番に並べた。

「……書類、和暦の欄もあるんですね」

状況ヒアリングシートとでも言うべきその書類は実によくできていた。まず日本語、それも漢字かな交じりで書いてある。それから今富佐子が指摘した通り、生年月日と転移日を記載する欄が和暦と西暦を選べるようになっていた。更に向こうでの身分や転移した状況、今心配していることなどインタビューを進めやすいよう構成されている。

「ええ。ご自分に馴染みのある歴しか覚えていないという方もおいでですので。皆様のような方がいらっしゃる度にお伺いしてなるべく最新の情報に更新しています」

和やかに応じたジンヴォがそれでは、と改まって居住まいを正した。

「この度は突然のことで驚かれたかと思いますが、皆さんの現状についてのご説明と今後についてお話させていただきます」

なんとなく座ったまま一礼してしまうのは日本人の性だろうか、なんて思いながら恵津子はジンヴォの話に耳を傾けた。


「信じられないお話かもしれませんが、皆さんはいわゆる異世界というところに移動されてきました。我々はこの現象を『転移』と呼んでおります。皆さんはこの世界への『転移者』ということですね」

ちらり、とジンヴォが3人の反応を見る。

「……大丈夫ですか?」

「……何がでしょう?」

「いえ、転移者の中にはショックで卒倒されたり叫ばれたりする方もいると聞いているもので。特に年齢によってはその反応が顕著であると」

心配げな表情が美代子に向けられる。なるほど美代子は立派なアラフィフ、御年49歳であった。一般的には柔軟な受け止め方をする年代ではないのかもしれない。が。

「全く問題ないのでどうぞ続けてください」

しれっと返答する。ジンヴォは一瞬目を見開き、

「これはこれは……大変失礼しました。あなたはしなやかな方のようだ」

少しほっとした様子で話を続けた。


「転移現象はここイコンカウ大陸の各地で断続的に発生してきました。現在では基本的な案内の体系やサポート体勢について国を越えて整備されていますのでご安心ください。ただし」

一息ついたジンヴォに富佐子が畳み掛ける。

「永年サポートではない?帰る方法は今のところわからない?」

「……おっしゃる通りです。我々で把握しているのは転移されてくる方がいらっしゃる、という事実のみです。何故転移されてくるのか、どうすれば元の世界に戻れるのか、というところまではわかりかねます。また残念ながらイコンカウ大陸では度々戦争が発生します。皆さんの生活を永年随時することはできません。他の住民たちと同じように仕事をして生活して頂く、これも各国での共通認識となっております」

まあ、このザンディニ国はこの200年ほど安定しており今も火種はとくに見られないので当面大丈夫だとは思いますが、と付け加え、ジンヴォは再び一息入れた。ついでとばかりに富佐子が尋ねる。

「ちなみに私達の前に転移された方はいつ頃……」

「少し離れたウイペという国に10年ほど前に確認されております。どういうわけか、言葉が通じる地方にそれぞれ転移されるようでして。確かあの国はあなた方の世界のベトナムといいましたか、そちらからの転移者が多いようですよ」

「この国では?」

「皆様は我が国150年ぶりの転移者となります。以前の転移者はオオサカという街でまあまあ名のある商人だったそうで、こちらでも同じ職について立派に生計を立てておいででした。皆さんも大丈夫ですよ」

にこやかに勇気づけてくるジンヴォに、幕末の大坂商人と同じにされても困るなーと3人共遠い目をしながらひとまず頷いた。

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