南瓜と妖精 2
続きです。
あれから二週間後。
「そう、大空にはばたく感じで!」
「んなもん飛んだことないのに知るか!」
現在、家の近くの公園の木の上でこっそり練習中。
ちなみにここ二週間で僕は『独り言の激しい可哀想な高校生』というレッテルを近所の人に貼られた。
「よく考えてごらんよ。ここから飛べなかったら落ちて死亡だよ、ジ・エンドだよ!いいの?死んじゃうんだよ?」
「そんなん言って毎回落ちてるけど、毎回あんたが受け止めてるじゃん」
「やっぱり臨死体験が必要か・・・」
「怖いこと言わないでくれる!?」
僕の練習の方は百メートルのタイムがなんと男子高校生の平均タイムにまでなりました。
ありがとう、妖精さん。
死ぬかと思ったし、殺してやりてえと思ったけど、平均並みの運動神経になったし、全然、まったく、ソンナコトオモッテナイヨ?
「・・・なんだか、殺気が」
「気のせいじゃないかな?さあ、飛びたつんだ!」
「無理よ!」
またぎゃあぎゃあ妖精と言い合ってた時に肩をポンと叩かれた。
「よ、根暗君」
叩いてきたのは同じクラスの伊丹だった。
こいつのクラスの立ち位置は明るい皆のリーダーというとこか。ただし、空気が読めない。
「・・・僕、根暗って名前じゃないんだけど」
「でも根暗じゃーん!」
「ていうか降りろよ」
一応ここは木の上です。
「だって根暗が楽しそうだったからさ、俺も混ぜてもらおうかなーっと思って・・・て、その小さい子、何!?」
今気づいたのか、伊丹よ。
「な、何この人間、ウザッ!!」
わかります、と僕は妖精の言葉にうんうんと頷いた。
「えーっとよ・・・妖怪!」
惜しい、妖という字は合っている。
「んなわけないでしょーが!!このあたしを見て妖怪なんて醜い奴らと一緒にしないでよ!」
「・・・そろそろ降りようか」
何度も言うがここは木の上だ。
とりあえず僕たち三人?は木から降りて、ベンチに座った。
それから伊丹がしつこく妖精のことを聞くのでしぶしぶ話してやった。
伊丹は一通り聞いた後、目を輝かせながら言った。
「ふーん、それでこの妖精ちゃんと根暗君が練習して、あとは妖精ちゃんが飛ぶだけってことか。なるほどなるほど」
「・・・お前、このことクラスの奴に言うなよ?」
「えー!言おうと思ってたのにーケチー」
うぜえ、心底うぜえ。何こいつ。
ともかくこいつをなんとかしないと彼女の練習ができない。
よし、排除しよう。
「なあいた―――」
「じゃあ俺も手伝う!」
「はあ!?」
俺と彼女の声が重なった。マジで何言ってんだこいつ。
「楽しそうだしさ・・・あと、根暗君」
「なんだよ」
「そろそろ変質者になるよ?」
・・・言われてしまった、薄々気づいていたそのことを。
まさかこいつが気づくとは思わなかったが。
「と、いうわけでよろしくー!」
また面倒なのが来やがったよ。
それから伊丹は毎日一緒に練習を手伝い、僕の家で夕飯を食べ、ゲームをし、帰っていくという毎日を過ごしていた。
あれ、これどういう関係?
母曰はく『まー初めての息子のお友達だわー』らしい。
・・・僕はこいつを友達とは思っていない!
彼女も同じようでめちゃくちゃ嫌そうな顔をしている。
しかし、彼は運動神経も飛びぬけていいので僕の運動の練習の方も見てくれるし、彼女の方のアドバイスもちゃんとしている。・・・たまにKYな発言はするが。
「・・・お前、実はいい奴だったんだな」
「ひでーよ、ネックー。俺たち、友達だろ」
「お前を友達にした覚えは一度もない。そしてネックーはやめろ。なんかネッシーみたいだ」
「せっかくあだ名をつけてやったというのに。なあ、ようちゃん」
「ようちゃんって何よ!」
「妖精の・・・ようからか?もしや」
「あったりー!さすがネックー!」
お前が単純すぎるんだよ。
「あと伊丹、クラスで僕に話しかけるなよ。今日だって皆引いてただろ?」
「だってーお前、面白いじゃん。話してみたらさ」
面白い・・・だと!?
初めて言われた。でもそれはきっとからかっているんだろう。
「・・・僕をからかったって面白くないだろう?」
「からかう?俺、単純にネックーが面白いって言ってるんだけど?」
やっぱり伊丹という奴は馬鹿だ。
周りのことも考えないし、自分のことしか見ていない。
だからKYな発言をする。
でもこいつはそれでも友達が多く、皆のリーダー的存在。まさに僕と正反対にいる奴だ。
一体何が違うんだろうか。
いや、違う。この考えそのものが違う。伊丹はこんな風に考えないんだ。
自分が思うがままに行動し、発言する。それがこいつだ。
・・・そう思ったとき、少しだけ、ほんの少しだけ伊丹が凄い奴に見えた。
「・・・お前、スゲーな」
「え?俺はお前の方がスゲーと思うよ!だってこいつの面倒見てるし」
「何が面倒よ!あたしが見てあげてるんじゃない!」
前言撤回。やっぱり伊丹は馬鹿だ。
これで終わりかと思ったら予想外に長くなったので続きます。




