where justices
王都シェパードオフィス街の一角にある
一際大きなビル郡、ナックスヒルズのひとつの
53階建ての高層ビル『ランドクルビル』
中のテナントには、数々の企業が事務所を構え
料理店、衣料品店、託児所、塾など
よりどりみどりのバリエーションの店が
展開されているなかで、新装開店前の店が一つ
店名は『揉み処 浜松』
見方によっては卑猥な店のように感じるかもしれないが、マッサージ店である。
その店の新装開店前の
インテリアのチェックに訪れている
クレアと東城。
今回は前々から受けていたクレアの依頼に
東城が付き添っていく形になっている。
「いやぁ~、いい感じに癒されそうですね
クレアさんの請け負う依頼ってだいたい
こんな感じのインテリアとかの
コンサルティングなんですか?」
「まあー、多いほうではあるわね。
こんな仕事ばっかじゃないわよ
結構こーゆー依頼は空いてることがあるから
回されることが多いってだけよ。」
「ん?回されるってことは
自分で選ぶんじゃないんですか?」
「そうよ、知られてないけど
誰も請け負わない仕事は王都の幹部会議で
誰が請け負うか決められるのよ。
冷やかしと滅茶苦茶な依頼以外を
王都にいる幹部連中で請け負うのよ。」
「へぇー、うちって結構
会社っぽいことするんですね。意外でした」
てことは、クレアさんや桐谷さん、ジャガさんが集まってどれを受けるか決めるわけですね。
あれ?うちの幹部3人て少なくないですか
「うちの会社って幹部は桐谷さん、
クレアさんとジャガさんの
3人だけでしたっけ?」
クレアさんは意外そうな顔で答えました。
「そーいや、ちゃんと数えたことなかったわ……
うちの幹部は地方や他国に散らばってるから
正確な人数はわかんないわ。
1年に1回幹部全員が王都に集まって
幹部会開く時に顔合わせるぐらいだけど
私ほとんど寝てるから覚えてないのよね」
おぉぅ……さすがクレアさん
あんまり人に興味を持たないスタンスを
そんな大事そうな会議でも発揮するんですね。
というか、社員として大丈夫なんでしょうか……
私は答えがある程度わかっていながらも
質問してみます。
「居眠りして注意されたりしないんですか?」
「顔知らないやつがしてきたら、
会議が終わるまで氷付けよ。
まあ言うこと聞かないといけない人もいるから その時は嫌々起きて話聞くけどね」
「クレアさんに言うこと聞かせる
調教師みたいな方がいらっしゃるなんて……」
「人を猛獣みたいに言うんじゃないわよ」と
ちょっぴり怒ったみたいで耳たぶに
デコピンされちゃいました。
うん、地味に痛いです。
「ちなみに、クレアさんが言うこと聞かなきゃ
いけないと思う人って誰ですか?」
「そりゃ、ボスでしょ」
当たり前すぎて あぁー しか言えなかったです。
「あとは、鷹さん、ジャガくらいかな」
おっ、ジャガさんの名前がありましたね。
やっぱりただ者ではなかったのですね。
しかし鷹さん?ってどなたでしょうか
ロックフェラーに入って日の浅い私は
知っていなくて当然なんでしょうかね
そんな疑問が顔に出ていたからか
クレアさんは疑問に答えてくれます。
「あぁ、鷹さんはあだ名で名前は鷹野って男よ
ジャガにも言えることだけど
クソがつくほど真面目でね、
あと怒るとめんどくさい……」
なんとなくイメージはわかります。
ジャガさんと似たようなタイプなんでしょうね。
そんな話をしながら、内装をチェックしていく
待ち合い室を通って施術室で足が止まる。
「あれ?浜松さん、VIPルームの入口が
見当たりませんが
どちらになっているのですか?」
クレアが店主の浜松に問う
「いやぁ~、クレアさんからそのような
アドバイスは戴いていたんですが……
そのー……お客様には分け隔てなく
接客したいのが私の希望なんです……」
店主は申し訳なさそうに、体を縮めて話す
私にも浜松さんの言い分はすごく分かる
来ていただいたお客様にランクを付けるのは
そもそもお店としてどうなんでしょうか……
それに対しクレアさんも
「浜松さん、あなたの気持ちは
私自身もよくわかります。」
その言葉に胸を撫で下ろす浜松
「しかしですね、急に変更されては困ります。
VIPルームのインテリアの発注は
どうされたのですか?」
「そ……それは、キャンセルして……
その分、ベットやオイルの品質を上げるために
使いました……はい。」
「なるほど、それで予定していた予算は?」
「はい……VIPルームの内装を
キャンセルすることで浮いた資金を
そこへ使いました」
「ということは、予算はほぼないと?」
「は……はい」
どんどん縮まっていく浜松
そこでクレアは鞄からある書類を取り出す。
その書類は、私達の会社の依頼書でした。
「浜松さん、私はこの場所だからこそ
VIPルームを設置を申し出ました。
このビルに来る人達はすでに成功した人か
成功しようとしている人達なのですよ。
そんな人達が普通のお客様のように
扱ってほしがっていますかね?
少なくとも他よりも丁寧におもてなしを
してほしいに決まっています。」
ここは王都のオフィス街
社会階級で言えば上位に位置する人が集まる。
そんな人達を一般の人と同じように扱えば
怒りを覚える人もでてくるかもしれない
逆も然りだが、一般の人と
オフィス街に集う人達では経済力が違う
当然、後者を優遇するほうが儲かる
そして前者と後者の違いは、経済力だけでなく
他人よりも勝とうとする競争力もあり
社会的立場から称号や肩書に拘る傾向にある
他にも、有力者の友達も有力者などなど。
ここオフィス街で繁盛するかは
いかに有力者を常連客になってもらえるかが
重要となってくる。
「言葉が悪くなりますが、
太い客は太い客を呼ぶのです。
店を経営するなかでは初歩の初歩です
もし、浜松さんの言うような
経営をしたいのであればオフィス街じゃなくて どこか違う……そうですね、百貨店や
大型スーパーのテナントなんかでやるのが
ベストかと……
少なくともここのニーズではありません。」
すでに泣きそうな顔になっている浜松
私はあまりにも浜松さんがかわいそうなので
クレアさんの背中をツンツン指で押します
「クレアさん、何かいい案はないんですか……
これじゃ自分なりのやり方をしたい
浜松さんがあんまりじゃないですか?」
それに対し、妙に納得したように
握り拳を口に当て、考えるポーズをとるクレア
「そうですね、浜松さんはここじゃなきゃ
店を開店しないッ!といった
要望はありませんでしたよね?
あえて言うならお客様を集めやすいって
理由だけでしたね?」
「はい、そうです。」
「なるほど……20分程お時間戴けますか?
代案を早急に見つけます。」
「はい、すいません……よろしくお願いします」
「では、お待ちになってください…行くわよ忍」
はい! と返事しクレアさんの後を付いていく
店を出たクレアさんの顔は心中穏やかな顔に
見えなかった私は声をかけます。
「あの~……クレアさん…浜松さんは」
「うにゃあああーーー!!!
あんにゃろ!メンドクサイにも程があるわ!
勝手にあんなことされても知らんわッ!!
どーすんのよ、もぉおおおお!!!」
どうやら予定通り行かなかったことに
憤慨されているご様子なので
「クレアさんクレアさん、
ティーブレイクにしましょう。
どこか喫茶店にでも……」
「ん?まあそうね、こういう時は甘い物よ
確か近くにケーキ屋があったはずよ
どこだったかな~」
ふぅ~、なんとか静まってくれましたぁ~
とりあえずエレベーターに乗って
飲食店のあるエリアの階まで行きます。
ですがここで私はある人物を発見します。
「あれ、新堂先輩じゃないですか?」
「誰よそ……れ……」
ん?なにか見つけたんですかね
クレアさんが小声でブツブツ呟いていたので
不安に思った私はどうしたんですかと声をかけると我に帰ったように私を見て
「忍、あそこに女の子二人見えるわよね
ケーキ屋の近くにいる」
「あ、はい!私、目はいいほうです」
そう と返した後顎を摘まみ持ち上げあれ
キスしてくるのではと思うほど顔を近付けます
「どどどどど、どうしました?」
「ちょっとごめんね忍」
すると急にクレアさんの片目が
ピカッと光ります。
なにが起こったのかわからない私に向い
「なにをしたか後で説明してあげるから
今はあの二人を尾行しなさい
なにかあったらすぐに私か
桐谷に連絡をいれなさい、いいわね」
そんな命令をするクレアさんの顔は
いつになく真剣そのもの。
なにが起こっているか分からない私でも
良くない状況ということがわかったので
開いたエレベーターを飛び出し
目標の二人の近くまで猛ダッシュする。
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念願の王都に到着し、一泊泊まってから
まずは奈美とオフィス街と言われてる
経済都市に到着し、スイーツの旅を進める真奈
ロックフェラー人材派遣会社の人間の心配など
関係なく悠々と街を散策し
正午を待たずしてナックスヒルズにも足を運ぶ
最初に『ランドクルビル』に
奈美の目をつけていたケーキ屋がある
そこを目指し到着した一行だが
お目当てのケーキはすでに完売であった。
「残念だったね奈美、でも明日の朝の帰りに
買ってかえればいいじゃない」
「くぅ~、まあそうなんだけどさ~
もうその口で来てたのにあんまりよね~」
そのケーキを求めやってきた奈美には
残念極まることではあったが
今回目当てはこのケーキのみではない
「まあ落ち込んでいても仕方ないね!
真奈、次はあんたが食べたいもの
食べにいこっか!」
「うん~、いいよ私は……
街の景色見てるだけでも
十分満足なんだけどなぁ……
他にも食べたい物あるんでしょ。
そっち行こうよ」
「こらこら、私だけ貪り歩いてたら
かっこつかないでしょーが。
三等兵はなにが食べたいのかね
大佐に行ってみたまえ、奢ってしんぜよう。」
「えぇ~!悪いよ、そんなの
いいんだってほんと」
「ん?なんだね、不服かね三等兵
いいってば、奢ったげるってば。
あれでしょ、おじさんにお土産
買って帰るから節約しようってやつでしょ
わかりやすいなぁ~、かわいいやつめぇ~」
は、恥ずかしい\\\
まさか、ばれているなんて思ってもみなかった
そんな真奈の頭をウリウリする奈美は
「ほら、早く言いなって。
私も悪く思ってんのよ、
無理矢理連れ出すみたいなことになって」
「…………アイスクリーム…が食べたいです…大佐」
ニパァと笑い
「よし!良く言った二等兵
アイスは外で食べるほうがうんまいのだ
今ならお店が広場にあるはず……
出陣じゃーー!!走るぞぉおおーー!」
あたしの手を取り走りだす奈美
あたしは奈美のこういう所が好き
元気のない人を見ると放っておけないのか
無理矢理にでも元気付けようとするところ
姉貴肌みたいな所に憧れているかもしれない
あたしみたいにすぐ考え込む人には
こんな人材が必要なんだろうと思う
頭もそこそこ良く、観察力、洞察力もあり
人徳もあたしなんかより全然ある
羨ましいって素直に思える。
そんなこんなでナックスヒルズから出て
広場に来ている真奈と奈美
「ありゃー、もう行っちゃったかぁー」
「ここになにかあったの?」
「うん、アイスクリーム屋さんよ
ワゴン車で移動しながら販売するやつ」
「あぁ、あれね。でも残念だね……」
「ふふふ、次の移動先も知ってるからね
奈美さんにまかせなさい」
数分歩き、ビル群から抜けた矢先
指で輪っかを作り
「あっ、あれはッ!」と叫ぶ奈美
その先を見ると建物と建物の間の路地に
いかにもアイスクリーム屋さんの
ワゴン車らしきものを発見する
「巡回ルート内だけど、
こんなとこに止まるんだぁ……
メモしとかないとね」
カバンからペンとメモを取りだし書き出す
メモには『王都のスイーツメモvol.03』と書かれている。
スイーツに関しては雑誌一冊書けないほどの量が書き込まれていてパッと見だが内容は濃いものだった。
路地に入る入り口には
何台か車が停まっている
もしかしたらアイスクリームを
待ってるお客さんかな?
信号を渡り路地まで来たけど
お客さんが見当たらない
運転席に人はおらず、窓口も開いていない。
店員すら見当たらない
「休憩中なのかな……」
そう思い車の後ろに回ると
2人のスーツ姿の男
お店の作業着らしきものを着た男1人
そして私と年の変わりなさそうな男2人
そんなやつらの顔見た途端
「キャァ!」と奈美の悲鳴がする
後ろを振り返ると奈美が苦痛と共に
倒れる姿が見える 。
気が動転し、なにが起こったか
分からない状況であたしにも腰から激痛
と同時に体が痺れて立っていられなくなり
崩れ落ちてしまう
地面にドシャッと倒れてしまい
体が痺れて身動きがとれないけど
意識だけはある
多分スタンガン的な何かでやられた?
「おい、まだあいつ意識あんぞ
ちゃちゃっと終わらせんぞ」
男達の声が聞こえた束の間
痛みもなくあたしは意識が飛んでしまう
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二人の女の子をクレアさんに言われるがまま
追跡中、途中で走ったりするから
見失いそうになったりしましたがようやく
追い付けました。
二人は路地に入っていきます。
あぁ、なるほど。アイスクリーム屋さんに
行きたかったようですね。
それらしきワゴン車に近づいて行くのを
見守っていると、
彼女達の後ろから男が一人が近寄ります
ちょっと見えなくなるじゃないですか!
さっさとどいて下さい!
と遠くから言えるはずもなく
もう少し近づいて見るしかないですね
すると急に女の子の一人が倒れてしまい
男はその女の子を担ぐと
ワゴン車の後ろに回り込みます
まさに事件が私の目の前で起こりました
ふっと気づくと信号も無視して
ワゴン車へと足が勝手に走ってました
あの子達を救わないとッ!!
頭の中で歯車が噛み合うような
ガチンッ!という音がします。
50メートルあっただろう距離も
おおよそ5秒弱で詰める
しかし少し遅くワゴン車には
エンジンがついてしまっています
懐に手を入れますが、そういえば
もう私は警官ではないのでした……
でも、そんなの構いません!
私は精一杯ワゴン車の前で
「止まりなさーーいッ!!」
とうせんぼして声を張り上げるしかありません
まあ犯人達が止まる訳もなく
私を曳き殺さんと急発進
咄嗟に横へ飛びましたが、
避けるのが遅かったようで
足にバンパーが当たり
横に半回転し地面にスライディング
足に当たってすぐ顔を守りながら
顔から地面に落ちたので
顔への怪我は防げましたが
犯人達はもう猛スピードで走り
角を曲がって姿も見えなくなってしまいます
どうしよう、二人がこのままでは助けられない
あっ、クレアさんに連絡を……いや先に警察かと
数秒迷っている間に
ギャギャギャァーと車のドリフト音鳴らし
タイヤから白煙をあげながら
こちらに走ってくる一台の黒いセダン
また轢かれるのではと思い
また横っ飛びをしますが
私の立っていたちょうど前に止まり
セダンの扉がバンッと開きます
「はやく乗れ!相変わらず使えんやつめ」
顔をあげるとそこにはドアを内から足で開け
私に乗車を促す新堂歩先輩の姿が……
私は突然すぎて、思考停止に入りそうになります
「だぁああぁーーー!!!はよしろ!
後で理由は説明してやるからはよッ!!」
と大声で叫ぶので怖くなって乗り込みます。
シートに座りシートベルトを探していると
車は急発進、私は案の定シートに頭をぶつけます
あうぅ、痛い……頭がクラクラします……
私が痛がっているのを他所に
新堂先輩は誰か連絡をとっている模様
「黒さん、ちゃんと案内して下さいよ
後急に曲がれとかなしッスからね」
新堂先輩の会話相手の声は聞こえませんが
道案内をしてくれているそうです。
私はとりあえずその会話が終わるのを待ちます
「はい、とりあえず相手の尻さえ
見えりゃ大丈夫です……は ……はい、
あとは場所連絡するんスよね。……はい、
大丈夫です。了解です。」
数分後、犯人達のワゴン車のテールライトが
見えるようになると
「あっ、目標のワゴン車見えました。
後は尾行して場所伝えますんで
えっ……あぁ、途中連絡ですか……
大丈夫ですって……はい……はい……
じゃ、途中連絡の時に発信します
はい……じゃあ」
やっと終わったようですね……
普段はあまり真面目じゃないのに
仕事になると急に真面目になる新堂先輩
昔とあまり変わってないようでよかった……
「ふぅ~……さて、どっから話したらいいか……」
停車中、シートに背中を預けて一息つく新堂先輩
「にしても東城、お前尾行下手すぎんだろ
対象が若い女の子でよかったな」
あれれ、いきなり説教から入るの……
説教は八王子さんとクレアさんだけで十分なのに
「あぁ、まず先に話さないと
いけないことがあるな
とりあえず、今回は俺と上司の黒さんって
人がいるんだが、その二人で
あの女の子二人の探索と護衛が
依頼だったわけだ
こっちが護衛していることに気付かれずに
王都の旅を満喫してもらうのが主旨らしい」
ということは
「じゃあ依頼人は彼女達の
保護者ってことになるんですかね」
「あぁ、そうらしいが……ちょっと訳あって
彼女達は親には内緒で王都に出てきたそうだ」
うむぅ、プチ家出?ってことかな……
「そんでその保護者の片方が依頼してきた訳だ
まあ王都の旅を満喫してほしいっていう
親心ってとこだろうな
だからある程度距離を空けて
監視していたんだがそれが不利に働いて
この様になったんだなぁ~」
いやぁ~まさかこんなオフィス街の近くで
拐われるなんて思ってもみなかったな
と頭をかく新堂先輩
どうしようもなかったんだろう
こっちの存在もばらさずに助け出すなんて
仮面を付けたヒーローじゃないと無理だ……
この時、東城には思い付かなかったが
新堂には一つだけだが案はあった。
黒の長距離射撃で犯人を射殺することだ……
残念ながら、それは受け入れられなかった。
理由は、若い女性が人の生死に関わるような
事件に会わしてしまうことは避けたいという
黒の配慮と新堂は考えている。
事実はほとんど当たりだがほんの少し違う。
護衛対象に彼らのボスの娘がいるからだ。
彼らのボスは真奈を普通の女の子として
育てあげることを絶対としており
それを曲げることを良しとしていない。
彼らのボスの方針に合わせるのも部下の役目。
もし対象がただの学生程度なら
黒はやむなければ間違いなく
犯人の頭を一発も撃ち漏らさずブチ抜き
皆殺しにしてから逃がす手を使う
そっちの方が手っ取り早く
会社の名が上がる。
だが今回はそれを使わない。
なんとか犯人達の隙を突き
救出させる手段をとるそうだ 。
「そうですか……それは……
私達だけで大丈夫なんでしょうか?」
「まああいつらがどこに帰るかによるわな
普通にどっかの住宅地とか
ちっちゃい事務所とかだったら
なんとかなると計算してる」
私と新堂先輩と上司の方で
どうにかなるものなんでしょうか……
少なくとも、私はあってないような戦力ですのでお二方でなんとかしてもらわないといけません。
「最悪は、正義のヒーロー名乗って
犯人全員ぶちのめす案がある
そんときゃ仮面でもつけてくか」
とケタケタ笑いながら運転する新堂
急になにか思い出したのか あっ と声を出す
「そういや、昔それに似たことやったよな」
あぁ~、悪ふざけみたいな事件がありましたね
確かその事件は犯人5人組で
政治家の息子さんを誘拐し
身代金を要求する犯罪でした。
「ありましたね、あまり思い出したくたいですね けっこうバカやりましたもんね」
「よく八王子さんもOK出したもんだよな」
「いや、八王子さんが一番乗り気でしたよ」
犯人が立て籠るアパートの一室に
みんなで仮装して乗り込もうぜって計画を
新堂さんが立案して
八王子さんが計画したものなんですが……
上に八王子さんが無理矢理通したみたいで
決行されてしまった計画です。
「俺と恵口と東城と八王子さんで
やったんだっけ」
「そうです、ロビー君は外でサポートでしたね
ていうか、ロビー君みたいに
裏技みたいなのを使える子がいないと
できなかった作戦ですよ」
作戦の内容はこう
1.アパートの一室の様子は
壁の内側にいる人間の体温で
人間がどこにいるかを判別できる
映画『イレイザー』で出てくるような特殊装置を
使って完璧に観察し把握する
2.ロビー君がアパートの電力を一時落とし
部屋全体の明かりをなくし、
その隙に窓やドア、お隣さんの壁をぶち破り
犯人の一室に侵入する
3.数秒後に明かりを点灯させ
仮装した警官に動揺しているうちに
人質の安全確保と犯人の捕縛又は無力化
まあ部屋の明かりをつけ直す必要なんて
本来の救出作戦には必要ないんですけど
それだとお互いの姿が見えないんで
仮装する意味ないじゃないですか……
だから明かりを再点灯させるわけです
なにが言いたいかというと完璧な悪ふざけです
まあ悪ふざけしても救出作戦ができるほど
八王子さん率いる私達の班は優秀だったんです
「東城、お前はキューティーハニーだっけ?
確かそんな感じだった気がするけど……」
あうっ!ちゃんと覚えてらっしゃる
「は……はい、そうです……
恥ずかしいんで忘れてほしいですよ……」
まあ私の方もちゃんと覚えてはいるですけど……
「そういえば新堂先輩は
あのペンキで赤と黒を塗り分けた顔
黒いコートで80点の出来でしたね
正解はダースモールですよね」
「うん、かっこよかったろ?
でもあのライトセーバーがなかったから
大分惜しいことしたなと思ってるよ
恵口もいい勝負してたろ?」
「ははは、恵口さんは体格いいですからね
大体推測できましたよ。
ムチムチな服に肩パット
でもヘルメットは反則でしたね
「そーよなー、あいつの仮装
キャプテン・ファルコンだったもんな
あの発想はなかったわ……」
「まんまでしたよね~
あれは笑い堪えるの必死でしたよ~」
「でも八王子さんって誰の仮装だったんですか? 全然わかんなかったんですけど……」
「あぁ~あれは後で怒ったよあれ
笑い我慢できたの奇跡だよ」
「すごいキテレツな格好でしたけど
あれ一体なんの仮装だったんですか?」
「多分言ってもわかんないよ」
「勿体ぶらずに教えて下さいよぉ」
「ノーパンしゃぶしゃぶ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
犯人達を追って大方3時間
結構なスピードを出しながら向かう先は
東の町バーナード
あんな田舎まで行って何をしようというのか
意図が全くわかりません……
「ねぇ新堂先輩、このままじゃバーナードまで
行ってしまいますよ……
あんな田舎に少女二人を
連れていくんでしょうね?」
長時間の運転に少し疲れ気味の新堂
首をコキコキ鳴らし欠伸を一つ
「まあ本命はボルゾイだろうよ
バーナード経由じゃねーの?
西からは無理だかんな
あっこは兵器開発とか研究施設とかあるから
一般のやつは行けないんはずだ」
「ということは……」
「最悪は、黒さんに連絡してもらって
応援頼まないとキツい
どっかの組織の一員だったら
俺らだけじゃ無理……
もう警官じゃねえから尚更だわな」
犯人達がボルゾイに存在する犯罪組織の一員で
私達が人質確保のため組員を怪我させた場合
間違いなく報復に出てくる。
弱小組織ならどうにでもなるが
大きな組織だと話は変わってくる
私達が警官の時でも
ボルゾイには手が出せなかった
ボルゾイまで出張して犯人逮捕ができるのは
巨大組織の保護を受けられない弱小組織のみ
警察庁も政府も軍部も上層部は黒い噂が絶えない
麻薬や暗殺に賄賂、なんでもあり。
そんな上層部は私達下っ端が
ボルゾイ入りするのをやけに嫌がる。
黒い繋がりがバレてしまうのが嫌なんでしょうか
すぐに呼びだしをくらい
下手すりゃ自主退職にもっていかれてしまいます
でも一応警官である手前、報復の方はなかったのですが一般人にはそうはいきません。
そういう一般人を守るのも
警官の仕事なんですから
まあ全部を守りきるなんてできるはずもなく
最悪殺人沙汰になったこともあります。
ましてや今、私達は元警官……
もう一般人といっても差し違えない
私達の会社も大企業だけど
ちゃんと守ってもらえるかどうかは
私達にはわからない
そういう点を加味すれば
やすやすと敵陣に乗り込む真似は避けたい
「一応、バーナード経由でボルゾイ方面に
向かってるって連絡しとかないと」
新堂が黒に連絡をとっている間
東城もクレアに連絡をとる
「クレアさん、東城です。
現状の報告をしようと思って……」
『はいはい、今どんな感じ?』
「尾行してる最中に対象の二人が
人拐いに遭いまし」
『はぁぁああ!? まじで言ってんの!?
次から次へと……もぉ~!』
また浜松さんやらかしたのかな……
ますます不機嫌です、次会う時が怖いな……
「ほんとにすいません……
今黒さんの部下の新堂先輩と
犯人の追跡中です。
このままボルゾイ入りすると見ています……」
『ん?もしかして
黒が護衛の依頼受けてる感じかしらね?』
「はい、そうです。」
『ほぉ~、なるほどね……
じゃあ忍、黒の指示をしっかり聞いときなさい そしたら多分大丈夫だから。
ある程度わかったわ。
こっちは……まあ時間かかりそうだから
じゃあ死なないようにね』
「は、はい!了解しました!」
じゃあね と電話を切られ一息つく
クレアさんが太鼓判を押す
黒さんって人はどんな人なんでしょうか?
新堂先輩も連絡を終えたようですね。
「黒さん、もしものために
ボルゾイにいる知り合いに
バックアップしてくれるよう
頼んどいてくれたみたい
俺らがボルゾイ入りぐらいには追い付けるって
まあなんとかなりそうで安心したわ」
「新堂先輩の上司の黒さんって顔広いんですね
一体どんな人なんですか?」
「そうだな、俺もそんな長い間一緒じゃないから 詳しいはしらんが恐ろしく顔が広いな
それも一般人じゃなくて、政府の役人とか
小さな国の王族とか……
とりあえず人脈は半端じゃないな」
「す…すごいですね、その人の部下ってことは
新堂先輩もビックな方々とも
お知り合いなんですか?」
「俺まだまだ駆け出しのペーペーだぞ
んなわけあるか
でも俺はあんまりそーゆーの興味ないな
『周りのヤンキーだいたい俺の連れ』
みたいな感じが俺は嫌だなぁ
まあ仕事上仕様がないかもしんないけど……」
多分それとはレベルが全然違うでしょ先輩…
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
朧気な意識が少しずつ収束し
やっとまともに景色が見え始めたが
まわりは真っ暗、ガタガタ揺れる視界
うぅ……体が痛い…… ここどこ?
エンジンの機動音が聞こえる……
車の中なのかな?
ガタガタ揺れてるとこと
合わせると走ってる車の中
なんでこんなとこいんの私……
あれ?奈美は!?
暗い車内を手探りに探しまわり
周りにはなにもなく触る感触も
冷たい鉄みたいなものばかり
暗い車内であり自分の状況もわからないなか
自分の友人も手探りだけでは見つからない
先も知れぬ不安が冷たく真奈を襲う
誰かに拐われたんだろうけど…………
怖い……どうなっちゃうのあたし……
奈美……どこ…どこにいんの…
怖いよ…奈美…………おじさん
真奈は錯乱状態にありながらも
壁に頭を何度かぶつけながら奈美を探す
!?
なにかに手が当たった!
「奈美なの!? ねぇ!! ねぇってば!!」
うぅ……ん と誰かのうめき声がする
必死で奈美らしきものの全体を確認するため
手探りで全体を触って確認する
触った感触、何度も触ったあのプニプニ感
服、太もも、お尻、胸、二の腕、顔
間違いなく人間、というか奈美!
突然、私を突き飛ばし
「きゃっ!!なななな何すんの?
なにこんな時に発情してんのよ!?」
この声、間違えなく奈美の声だッ!!
胸から込み上げるものを押さえきれない
真奈は自分達がどんな状況なのかなんて
忘れて奈美に抱きつき抱き締める
奈美もなにが起こったか把握し
力いっぱい抱き締める返す
「奈あ美ぃいいぃーー!!
無事だったんだね、良かった…良かった……
エグッ……私…ヒグッ……1人だとッ…
思って……不安で…ゴホッ…怖くて…」
「そっかぁ~、怖いよな~…
もう大丈夫だぞ~二等兵……
私がいるんだ……二人で力を合わせれば
なんとかなるさ…大丈夫
よしよし、大丈夫だよ……」
私は泣き声を殺して泣きたかったけど
そんなの全然できなくって
気持ちが落ち着くまでずっと
奈美の胸に顔を埋めて泣き続けた
気が済むまで泣けた
後は、これからどうするかだ……
「ふぅ~さてと、どうしよっか真奈」
「今車の中だもんね、後ろのドアは?」
「真奈が寝てる間に試したよ、ダメでしたぁ」
「えっ!?、先に起きてたの?
なぁ~んで起こしてくんないかなぁ~」
「起こしたわよ!
真奈が寝坊助すぎて全然起きないから、
とりあえず調べたいこと調べて寝てたのよ」
なっ、なんと根性の座ったやつなんだ……
まさか誘拐されても寝れるなんて
やはり大物でしたか笑
てか号泣してしまったあたしが恥ずかしいわッ
「へ…へぇ…………んでどうだったの?」
奈美は声のトーンを落とし
ヒソヒソ話のように近づいて
近状報告する
「出口なし、向かう先ばかりボルゾイ
携帯電話は捨てられてて外と連絡がとれず
私達を拐ったのは犯罪組織の一員
多分、運転席と助手席のやつ2人」
そしてまた一段と落とし
空気がより一層冷たくなるのを感じる
「誘拐の理由は若い女を奴隷娼婦として
ボルゾイで国外とかに売りさばくそうよ……」
背筋がゾクッと冷たくなり
嫌な汗が体をじっとりと濡らす
「私達みたいな女子高生とか犬星学院の生徒
果ては軍の使えない若い女性隊員まで
拐ってるんだって……」
「このままじゃ…私達、誰かに売られるのよね……
なにか、助かる方法はないの?」
「ないわけじゃない…扉を開けて
私達を連れ出すあいつらをやっつける」
・・・・・・
「できるの?……私達だけで……」
「やるっきゃないでしょう
やるだけやってみましょうよ……」
そうよ、やるっきゃないのよ。
それしかないのよ。
男の1人ならなんとかなるかも!
「…………うん!、抵抗せず売られるのはやだ!」
「よし!よく言ったぞ二等兵
んじゃ作戦会議だっ!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あれから数十分、作戦会議を奈美とした
いかにも単純、シンプル。
その1、車が停車したらドアの前で待機
その2、ドアが開く瞬間に思いっきり
ドアを私が蹴り抜く
これでドアを開けようとしたやつの
体勢を崩す
その3、体勢を崩したやつを2人で無力化
その際は加減せず殺す気で
その4、そっからは全力で逃げる
注意、無力化してない方が銃を向けた場合は
必ず抵抗せずに捕まること。
ここで暴れるのはバカ
作戦会議の結果このように決まった
もう変更もない。あとはやるだけ……
それから停車までの道中の会話は一切なかった
さすが奈美もこれからやることを思うと
怖いんだろう……
あたしだって怖い……
あたしは奈美の側で座り
奈美の肩に頭を乗っける。
フフッと笑い声がして
あたしもなんだか嬉しくなる。
この恐怖を少しでも紛らわしたい
そこから何時間か寝てたんだろうか。
時計がないからわからないけど
意識がないってことは寝てたんだろうな
奈美が隣にいたから安心しちゃったのかな
ふと奈美を見ると壁に頭をつけ
スースーと寝息を立てて寝ている
しばらくすると奈美も目を覚ます
んあぁ~ と欠伸をし
「あらら、寝てたみたい」とおどける
急に変な力がかかり、体が横に流れる。
たぶんカーブしたんだろう……
てことは、街に入ったんだろうか
何回か体は横に振られやっと車が止まる
やっと止まった……
やるよ奈美 と目配せすると奈美も
覚悟を決めた顔でドアの前に立つ。
アスファルトを革靴が歩く
コツコツという音が横から前に移って
ドアのロックをあける音がする
ガチャンと音がほんの少し光が射し込む。
これが一縷の希望になって欲しい
その思いと共にドアを蹴り抜く
一瞬重かったけどすぐ蹴り抜けた
多分、こけたか何かだろう
よし、奈美とあいつを……
ドアを開けた奈美が視界に入った。
その顔は、目は生気を失った
今までの見たこともないものだった。
奈美の視界の先には
何十人ものスーツ姿の男達がいた
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ボルゾイの近くで黒さんの乗る車と合流できた
私達は、アイスクリームの営業車を尾行する
ボルゾイに入るなり、すぐ黒さんは違う道へ行き
別れる形になった。
それから数十分後、新堂先輩の電話に連絡があり
新堂先輩が上司の黒さんから
指示を受けて車を止めて私達は徒歩で移動。
黒さんは高いところから監視しておくとのこと
「結局、私は黒さんの顔を見れず終いですか…」
「ん?なにそんな見たかったの?
別にイケメンじゃないよ、
もう40差し掛かりそうなおじさんだぜ」
「だって、同じ会社の人なら挨拶ぐらいは
しとかないと失礼かなぁ~って……
あと、顔覚えてもらえたらなぁって。」
小走りで指示をもらった場所まで移動する。
道路もある程度舗装されていて
超無法地帯、世紀末とは違う景色で
信号もちゃんと点灯しており
ちゃんと街としては機能しているみたい。
交通量は決して多いとは言えないまでも
ある程度は通っていて
一番不思議だったのが車のルーフの部分に
三角コーンに番号が書いてある車を一台ありました
教習所が近くにあるのかな…
でもやっぱり、窓ガラスが割られていたり
開店していないお店は頑丈なシャッターで
きっちりとガードされている。
3年前に来た時と街の様子はほとんど
変わっていないと感じる
より荒廃してもいない様子をみると
しっかりとしたボルゾイ特有の
管理体制に感心する。
とまぁ、ここで北の街ボルゾイについて
少し説明しておきましょうか。
私が警官だった時、署の資料室の情報と
八王子さんに教えてもらった情報を合わせてますよ
信憑性は半々ってとこですかね。
大昔のことは知らないけど
昔から街のいくつか巨大な組織が
街を暴力と金で支配しているそうで……
この国フェラガモでいえば
軍部と政府と警察みたいなものですね。
いわゆる『マフィア』が2つと
そして商人達の集まり『ギルド』が1つ
3つがそれぞれボルゾイの街の区画を決めて
それぞれで管理しているそうです。
ボルゾイにある犯罪組織はほとんど
どちらかの『マフィア』に所属しているそうですが
中にはどちらにも所属していない所も
あるにはみたいですね…かなり少数派です。
そして、商人達が集まる『ギルド』
商人達が集まると言っていますが
やっていることは武器商人が半分で
後は、宝石などの希少な物を扱う宝石商
あとは一般の方が手に入れにくい薬草や
魔獣の素材を手に入れ売り捌くハンターなどなど
色んな分野の販売、買い付けを行っています。
なかには、『ダンジョン』にあるお宝を売ったりしてる人達もいるみたいです。
『ダンジョン』は……また今度説明しますね…
ボルゾイのどの組織からも
うちには結構依頼が来るみたいですね。
だから桐谷さんやクレアさんはマフィアの人達と
知り合いだったりするかもですねぇ。
金さえもらえば、どんな人材も派遣するのが
うちのやり方みたいですからね、えっへむ!
よし、簡単は説明はこんなものです。
なんでこんな説明したかというとですね
今回の事件、さっき説明した
二大マフィアの片方が絡んでいるそうです。
ギルドは人身売買はしないんで安心してください。
黒さんの友人の1人に
マフィアのお偉いさんがいるみたいで
この情報を頂いたそうです。
さすが我らが幹部の1人!
奴隷娼婦のオークションが明日行われるとの
情報が入ってきています。
なんて汚いことする連中でしょうか
そんな奴らみんな死んじゃえ!!
っとと、話が逸れましたね、すいません。
今回の依頼は2人の女の子の探索と護衛。
まあ無事に彼女達に家路についてもらわないと
私達は依頼失敗になりますので
彼女達を奪還しないといけません。
ですが、今奪還しに行っても私達は
相手がうじゃうじゃいるオークション会場へ行ったら一瞬で蜂の巣犬の餌です。
どうにかならないかと作戦会議したところ
ものの3秒で決まった作戦が
「女の子ふたり買っちゃおう、それが一番早ぇよ」
と新堂先輩が提案し、誰にも被害が出ないなら
それがいいとのことで電話越しに了承を得ました。
資金の方は、『心配すんな、金ならある』と
黒さんの懐深い所も問題ありません。
さて、問題は彼女達が無事に1日を過ごせるかが
今一番心配な所ですが、これもすぐ解決。
「ほら、東城お前捕まってこいよ」
「えっ?」
「えっじゃねぇよ、ほら早く行ってこい
後で絶対買い戻してやるから……なっ!?」
「なっ!?じゃないですよ!
どんだけ危ないと思ってるんですか!?」
「じゃあお前はそんな危ない所に
あのふたりだけで行かせる気なのか?」
「うっ、まあ…そうですね
行けるのって私しかいませんものね
絶対買い戻して下さいよ、絶対ですよ!」
「大丈夫、多分500ランドぐらいしか
値付かないから、ワンコインだから。」
「安ッ!!……バカにしないでください。
じゃあ行ってきますね……」
「あのふたりとお前が危なくなりそうだったら
他のやつ盾にしてでも身を守れ。
間違ってもお前が体張るんじゃねぇぞ……」
…フフッ、なんだかんだ言っても
優しい方なんですよ新堂先輩は……
「はい、なるべくそうします。
もう私は警官じゃないですからね」
踵を返し、建物から出て一直線に
営業車に集まるマフィア達に歩いていく。
さぁ、覚悟を決めろ私ッ!
何人かのマフィアが私に気付き対面する形になる。
アイスクリームの営業車のドアからは
ふたりの少女が見え、悲壮な顔付きをしてる
ドア開けたら、目の前には大勢のマフィア
そりゃ誰だってあんな顔になるよね……
でも大丈夫! 今回は私が付いてる。
「お嬢さん、なにか用があんのかなぁ?」
頬に薔薇のタトゥーを入れた若者が
マフィア達の輪を少し離れて
私を小バカにして訪ねてくる
私もクレアさんみたいにできる女性を演じなければ
「なによ、この辺で魔獣の血を素材に使った
化粧水を販売する商人と会う約束してるのよ。
あんたらこそ何やってんの?
というかあの可憐な少女達はなによ?
なんであんな車んなかいんの?」
男は少し狼狽え始めたのですかさず
大声で少し離れたマフィア達に聞こえるよう
「なに!?誘拐!?
えっ、あんたらなに誘拐したの!?」
「だ、誰もそんなこと言ってね うわッ!」
近くの男を突き飛ばしマフィア達の中に
押し入り少女達の近くに近寄る。
「早くその子達を下ろしなさい!!」
少女達は来ちゃダメ逃げてって顔してるけど
そんなのお構い無しにグイグイ入り込もうとする。
だって目的は彼女達と同じ檻に
入れられるためですからね
やっぱり案の定、頭を殴られて
多分スタンガンを数回当てられてる
痛ーーーい!やっぱ慣れててもい…た…い………な……
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
意識が戻り始め、重い瞼を開こうとしますが
いかんせん疲れていたのか
思うように開いてくれません。
ダメだ、寝てしまうぅ~
起きろぉぉーー私ぃぃーーー!!
ダメだぁーー、誰かーー
「あっ!大丈夫でしたか!?」
「へッ!? あっ、あぁダイジョブです!」
急に大きな音がしたので目が覚めました
あぁ~びっくりした…
しまった、変な返事しちゃいました
これは少し恥ずかしいです…
声をかけてくれたのは
さっき荷台の中にいた2人の少女の片方。
スリムで可愛らしい女の子です。
「ほんとにすいません、
私達を助けに来ていただいたのに
こんな目に遭わせてしまって…」
この子はなにを言っているのでしょう
なんで自分達が悪いみたいな言い方を…
「なにを言ってるんですか、悪いのは
あのマフィアみたいな人達でしょ
あなた達は悪くないんですよ。
安心して下さい、もう大丈夫です
私は東城忍と言います。」
「そう言われると助かります
ありがとうございます
私、鷹野真奈って言います。
もう1人はあそこで寝てる奈美です。
あの、すいません…質問いいですか?」
「んっ、なんですか鷹野さん?」
「もう大丈夫っていうのは
あたしたちの安全が確保されたって事ですか?
それとも違う意味ですか?」
ここは、彼女達を安心させなければ…
なにかあったら新堂先輩との約束を
破ることになりますが仕方ないですね。
やっぱり私はこんな子達をほっとけない
「100%安全って訳じゃないですよ……
でも、安心してもらって大丈夫です。
私はあなた達を守るために
やって来たんですかね。」
「でも、捕まってますよね?……」
「まあ作戦のうちです。実は外に仲間がいます。
そうですね……ありゃ、私結構寝てましたね
後半日ほどあなた達を守れれば
あなた達も私も安全です。」
「ッ! ほんとですか?」
「えぇ、間違いなく…ですから安心して下さい
後半日の間は私がお守りします
友達にも起きたら伝えてあげて下さいね」
こんな状況でヨダレを滴ながら
スヤスヤと寝ている奈美ちゃんを見て
肝の据わった女の子だと感心します。
部屋を改めて観察すると
窓が一つもなく、照明がついてるぐらい
なんの辺哲もない部屋です。
マットレスが無造作に
一つ部屋の端の方に置かれていて
そこに奈美ちゃんが寝てる状態
恐らくドアには鍵がかかっているんでしょう。
「あっ東城さん、私達ってどうやって
救出されるんですか?」
この子達には依頼を受けたことを
はぐらかさないといけません。
依頼の契約内容にも確かそうありましたから
「うーん、仲間があなた達を
奴隷娼婦のオークションで購入します。
ただそれだけです」
それを聞いた途端、真奈ちゃんの表情が曇る
酷い嘘をつかれて絶望したような顔です
「いやいやいやいや、あの変な意図はありません
純粋な私達の善意です!」
疑うような表情を崩さない真奈ちゃん。
あっ、そうだ、あの作戦でいこう
「疑われているようですね
じゃあ、こうしましょうか
助かった見返りとしてですね…
私達が今計画中であるプロジェクトの
実験台になって頂きましょうか。」
まあプロジェクトっていっても
浜松さんの一件ですけどね。
私なんて関わってすらないですもん
顔合わせた程度ですけど、これで一役買えるかも
真奈ちゃん…目をうるうるさせて口を一文字にして
上目遣いなんてやめてください。
可愛いなオイ、苛めたくなっちゃいますよ…
いかんいかん。
「まあ、うちのリラクゼーションマッサージを
受けてもらってそれを友達に
宣伝してほしいんです。勿論タダでですよ。」
「えっ、そんなんでいいんですか…
もしかして厭らしいマッサージですか?」
おいおい、なんでそっち行っちゃうんですか
「違いますよッ!ほんとただのマッサージです!」
「怪しいですね、大丈夫ですか?」
心なしか少しずつ真奈ちゃんの顔が
悪い顔になってきてる気がします。
「なんか必死なところが怪しいですねぇ~」
「いや、ほんとなんですって!
信じて下さいよぉ~」
もうできるお姉さんキャラ台無しです……
2、3回そんなやり取りをしてやっと
「フフッ、東城さんが悪い人じゃないって
分かりましたよ。
なんかいじられやすいのが顔にでてますね
普段こんなことしないのに
なんか…やっちゃいますね。なぜでしょう?」
「知りませんよ、いじらないで下さい!」
そんなこんなで奈美ちゃんも起きて
お喋りに参加してだいぶ仲良くなりました。
お二人はスイートの旅をされていたそうです。
むぅ…私も生まれてこのかた22年
ずっと王都に住んでいますが
スイート巡りはやったことないです…
学生の時にやれば良かったなぁ~……
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
俺が今いるところ、それは昔絶対に
俺達がたちいることのなかった場所。
2大マフィアのひとつ
『アルジャーノファミリー』の本部
そこのガールズバーに
俺は黒さんの言い付け通りに待っているわけだが
全然戻ってくる気配がない。
ずっと座っていて注文しないのも
バツがわるいものんだ
ちゃちゃっと帰ってくると思ったのに…
どーしたんだ、もしかしてなんかあったか?
正直、今連絡するのは気が引けるがしょうがない
「黒さん、そろそろオークションが
始まる時間っすけどどうします?」
『おっ、もーそんな時間か?
年食うと、昔話が弾んでいけねぇな
すぐ行くわぁ、ちょい待ってろ』
うっす と短く返事し、カウンターの人に
「すいません、ノンアルの甘いのある?
コーラとかでいいよ…ペプシ以外で」
「はい、ありますよ。ちょっと待ってて下さいね」
店員は手際よくビンのコカ・コーラの栓を抜き
氷満杯のコップに注ぎ込む。
コップと余ったビンを俺の前にだし
「おまたせしました…お兄さん…
あまり見たことないですねぇ
もしかして初めてですか?」
白い肌に黒い目で金髪のロングヘアー
白いカッターシャツの上からベスト
カウンターで下は見えない
顔から推測するに二十歳未満かな…
若いなりに美人だと思う。
やっぱこういう所の女性は
どこのカウンターを見ても美人ばっかりだ。
この人達ももしかしたらかもな
…いや、余計なことは考えず時間を潰そう
とりあえず一口飲むんでから…
「ここに来たのは初めてだな、
仕事で何度か街には来たことはあるが…」
それが警官の仕事とは口が滑っても言えない
カウンターからショットガンとか
出てきたってここだと不思議じゃない
「へぇ~、じゃ結構仕事できたりするんですね
今日も何か用があっていらしたんですね」
「今日は上司がここの人に用があるみたいで
俺はその付き添いみたいなもんだよ。」
「ほぉ~、なるほど。
あっ、自己紹介まだでしたね。
私、美月って言います」
と自分の名刺を差し出す彼女。
それともう1枚のカードを差し出して
「これ、お店用じゃなくて
プライベート用の名刺です。
もしまたボルゾイにいらっしゃったら
連絡ください、えへへ」
2枚目の名刺には電話番号とアドレス
そして彼女の名前とサインが書かれていた。
俺も女性経験が少ないわけじゃないが
知らない土地の知り合いができるというのは
すごい嬉しかったりする
ただあんまり気持ちの浮き沈みを人に見られるのは
好きじゃないからクールに振る舞う
「あぁ、ありがとう。機会があったら連絡するよ
俺は新堂歩だ。君はここに勤めて長いのか?」
「う~ん……まあ長い短いの基準が
わかんないですけど約1年ですねぇ」
「そうだな、1年か…まあ長いんじゃないか
どう?ここの仕事楽しいか?」
「はい、色んな人と話せて楽しいですし
まあ…ぶっちゃけ給料もいいんで文句なしです
新堂さんはお仕事どうですか?」
「俺か?うんー……まあ上司は少し厳しいけど
教えてくれることは一流だから
スキルアップのため頑張ってるよ
いい上司を持って良かったって思ってるな
仕事は楽しいとはいわないが
充実してるとは言えるな」
いいですねぇ~とニコニコしながら話している
美月を見ていると癒されるな
多分、キャバクラにはまるのって
こんな感じなのんだろうな…
ガールズバーで良かったわ
急に彼女がハッとした顔になり
なに事かと思うと
肩に手がトンッと置かれる。
「ありゃりゃ~良い雰囲気だなぁ
おじさんも混ぜてくれよぉ~」
ニヤニヤしながら隣の席に座り
「美月ちゃん、水ちょーだい」
誰かって、うざいオヤジ化した黒さんだった
「黒さん、お久しぶり振りですね
わかりました、ちょっと待って下さいね」
「おぅ、おじさんいつまでも待っちゃうよ」
はい、どうぞと差し出された水を
一気飲みしてガンッとカウンターに置く。
「新堂さん、上司ってもしかして
黒さんの事だったんですか?」
「おう、知り合いだったりするの?」
一瞬美月と黒さんが目配せしたように見えた
「そうなんですよぉ~、なんだぁ~世の中って
意外と狭いってこういうことなんですね」
確かに良い上司ですね と呟いた美月の声は
どこか嬉しそうだったが二人には
届いてはいなかった。
「そーだよなぁー…
あぁ!お前美月ちゃんに手ぇ出すなよ!
美月ちゃんは俺のだかんな!」
結構なデカイ声で叫ぶ黒の声は
近くにいる客を一瞬振り向かせはしたが
すぐ何事もなかったように元通りに
「いきなりデカイ声出さないで下さいよ
グラス割ったら私怒られちゃいますよぉ」
「あはは、ごめんごめん。
そうだ美月ちゃん、
プライベートのアドレス教えてくれよぉ
新堂ぉ~、美月ちゃんがなぁ~
全然アドレス教えてくんないんだぜぇ~
おじさんはどうすればいいんだぁーーー!」
美月はちらっと俺を見てウィンクする
その姿にドキッとしたのは秘密だ
恐らく年下の女性に誘惑されるほど
俺もまだ年食ってねぇはずだ
「だって、黒さんいつもエッチなことばっか
言うんですもん。
私エッチな人嫌いだなぁ~」
「黒さん、こんなとこでも言ってんすか
ほんとどこでも言ってますね」
「しょーがねぇーだろー、生理現象だよ
おじさんは言わなきゃ死んじゃうのよ
マグロが泳ぐのと同じみたいに
おじさんがハッチャけるのは普通なの」
あっ、思い出したように黒さん
「これオークションの招待状
お前もこれ持ってろ、なくすなよ。」
急に仕事モードに入るのやめてくれよ
全然切り替えできねぇから
「じゃ、美月ちゃん。また来るわ
今度また飯行こうな!」
「はい、ご来店お待ちしてます」
とお辞儀する美月を背中に
バーを出る黒の顔付きはさっきの
おじさんモードとは違い
真剣そのものだった。
こんなに人の顔って変わるもんなのか……
これが各国に強大なコネを持つ
ロックフェラー人材派遣会社の幹部、黒
国のダークサイドな部分を専門とする
殺し屋…いや、掃除屋か……
あんな演技は彼の技のほんの一部なのかと思うと
俺はほんとに全部盗みきることができるだろうか…
彼の技量の上辺しか知らない俺は
たったそれだけの技術すら
身震いするほどのものだった。
そして、店で叫んだ黒を迷惑がらなかった
彼女と黒との間にもある出来事があり
黒の登場するタイミング
会話も計算通りだったことを
新堂は知るよしもない
「さてと、今から行きゃ
オークションには間に合うだろう。
まあいつあいつらの番かまでは
分かんねぇからな、向こうで気長に待とうぜ」
「うっす、これ招待状って俺ら
誰かに成りすましたりしないと
いけないんすか?」
「いやいや、それがしなくていいんだってよ
なんかバカみたいに受け持ちの地域以外で
配りまくってたらしい…
主催は、ペゴリーノんとこの下部組織
名前はなんだったかな?忘れたわ」
「そんなんでいいんすか?」
「大丈夫大丈夫、最悪暴れても良いってよ。
ちゃんとケツ持ってくれるって
言ってくれて助かったわ」
「いいんすか?そんなんしても…
相手はマフィアっすよ」
「いいんだよ、こっちもマフィアだからな
それに今回はちょっと特例だ」
ん?特例ってのはなんのだ?
そんなどっちかの親が権力者なのか?
「そろそろ行くか。新堂、運転してくれ」
駐車場まで移動し、先に助手席のドアを開けて
黒さんを座らせてから自分も運転席へ
「あぁ~、やっばベンツのシートは気持ちいいな」
「はは、高級車っすからね。
でも一回黒さんのトランザム運転したいっすわ」
「ダメだバカ、こすったりしたら
修理費クソ高いかんな」
黒の乗るトランザムはナイト2000モデルに
カスタムチューンされた一台で
買値は家を一軒買えるんだとか
加速装置なるものや、オイルを排出したりと
ある程度はカスタムしたものの
一番再現したかったAIを現代の技術では
どうしようもなかったそうだ。
車を発進させて、さっき通った道を逆にたどり
オークション会場へ向かう。
「あ、タバコ吸っていい?」
「ダメっす、車内禁煙ですから我慢してください」
「まじか、まあしゃーねーか
そうそう良い忘れてた、わかってもかもだが
暴れてもいいけど極力荒事は避けるぞ」
「わかってますよ。最終手段でしょ?」
「おう、思慮深くて助かるわ」
そりゃ誰だって好き好んで身の危険を感じるところに突っ込んでいったりしない
それから黒さんの指示であってないような
信号をバンバンスルーして気がつけば
20分程度でオークション会場へ到着。
招待状は自分たちのシマ以外で配ったのに
オークション会場ばかりシマの中って…
なんともマヌケなことをする。
多分取れる場所がなかったんだろうな
車も会場の前や近くに勝手に止めて下さいってな感じでボーイはいない。
こんなの何かやってるだろうって
一発でバレるだろう。
多分ここの主催組織とそのトップばかり頭が弱いか
手が付けられない暴れん坊かだろーな
外見は、コンサートホールに近いな
少しボロいが煉瓦作りで三階建て
こんな街でも公演とかしてたのか?
俳優とかすぐ拐われそうだが
「うっし、じゃあ行こーか」
「はい…」
ドアを開け中に入ると
大理石の真似事をしたような材質の石をふんだんに使った玄関ホール、奥には2階ホールに入る為の
階段が二本、一丁前に赤いカーペットも敷いてある
玄関ホールでは構成員らしき男が招待状を
ちゃんと持っているかチェックしている。
男は、黒さんと俺の招待状を見たら
すぐに中に通した
おいおい、ボディチェックなしかよ……
どんだけ適当なんだよ…
「やべぇ、チョロすぎる笑」
「どうなってんすか、ここらでやるオークション
ってのは大体こんなもんなんですか?」
「今回だけじゃね?俺も初めてだわ」
階段をあがりながらここの管理体制を笑う
普通じゃありえんだろうな
ホールの扉を開けると
段差はあまりなく、一段ごとの間隔がとても長い
その間隔には客が寛げるようになのか
半円卓が1つ、ソファー2つがワンセットで
50セットほど舞台を半円で囲むように
配置されている
とりあえず3人を買ったらすぐ出れるように
入り口に近い席を選び着席する。
卓上にはメニュー表が置かれており
食べ物はもちろん、酒、麻薬や
バイブ、ローターなどの大人の玩具も
売っているようだ
多分、買われた女は飼い主の横まで連れてこられて
最悪の場合、大衆の前で辱しめを受けるんだろう
ほんとクソみたいなところだな
早く終わらせて王都に帰りたいな…
欲を言えばここの主催者を殺してやりてぇ
きれい事かも知れんが
やっぱゲスなやつは許せない
元警官としてじゃなく一人の人として。
「新堂……俺もこんなオークションなんて大嫌いだ
だけどな、これで回ってる世の中もあるんだ
これで幸せになったやつもいるんだぜ
なんでもかんでも自分の考えだけで
否定すんのは良くねぇことだ……
ちゃんと周りを見て、体感して考えてからだ
青臭ぇことだけで世の中は回ってないんだよ」
俺の気持ちを察したのか、そんなことを言う。
……納得できねぇよ、じゃあなんのために
法律があるんだよ…なんのための正義だよ
俺はこんなことを平気で見過ごす
上の奴らが嫌で警官やめたのに…
やっと信頼できる上司につけたと思ったのに……
「…………はい…」
「納得できないのはな……
お前がまだまだ周りを見れてないガキだからだ
俺もまだまだ周りを見れてるわけじゃないが
俺は何人もこんなオークションから
幸せになったやつらを知ってるよ
ゴミくずみたいな人生からオークションで
買われた先で幸せに過ごすやつらを
俺は何人も知ってる。」
…………
「皆が皆が幸せに過ごせるなら
どんな種族も関係なく同じ場所、
国で過ごしてもいいじゃねぇか
土地の略奪や差別なんてねぇだろ…
でも現実では皆差別し合い、同じ人間ですら
国境まで作って差別化してる…
皆が皆が幸せになれるのはほぼ不可能だ」
黒さんとは今までこんな話をしたことがなかった
なぜここまでしっかり話してくれるんだろう
なにも知らないガキは黙ってろ でいいじゃねぇか
しかし黒さんは だがな
と急ににやけ始めて話を続ける
「だけど俺の知り合いにはな
『そんな世の中間違ってる。
私はこの身命を賭けて世の中を変えてみせる』
って息巻くやつもいるんだよ。
俺はそいつを結構気に入ってたりする…
だってやることがほんとに全力なんだぜ。
こいつならできるかもって…思っちまってな」
ケタケタも笑いながら話す黒さん
その表情からは喜びの色が見え隠れする。
「まあ、俺もそんなやつを気に入ってんだ
納得いかないお前の気持ちも分からんでもない
もし、お前が本気なら俺は力を貸してやる
本気であり続ける間はな…………
どうだ?やる気はあるか?
まあないならないでいいんだよ
お前を一人前にするまでは
責任を持つようにと言われているからな」
笑ってしまう、ここまで言ってくれる
俺の考えなんてお見通しみたいに……
ほんと大正解だよ。
まじで良い上司持ってよかった……
「ハハハ……ありますよ。マジです。
俺は汚ぇことする上司達が嫌いで
警官やめたんすよ
ここでいいえなんて言っちまったら
同じ班だった奴らに顔向けできねぇっすよ」
やっぱりね と言わんばかりにニヤッと笑い
「そうか……じゃあまず蛇の道は蛇ってな
これが片付いたら俺の知り合いのマフィアに
根回しして紹介してやるよ
そこでもっと色々学べ。
俺から教えれることの基本は正直教え終えた
後は場数ぐらいじゃねぇかな?」
えっ、もうねぇのか?
「そうだな…回数こなせば嫌でも身に付くぜ
俺みたいになるかは分からんが
お前流なものはできるだろうよ
…とりあえず先にこの問題を片付けよう」
「ありがとうございます」
ほんとにこれしか言うことが思い付かなかった
泣きそうになるのを誤魔化すように
メニュー表を開き、食べ物と飲み物を選ぶ
「あっ、俺もなんか頼もうかな
なんか腐った肉とか使ってそうで怖いな
っつっても喰うんだけどよ」
二人はコーラとチキンナゲットを注文し
オークション開始までの腹ごしらえを済ます
でてきたナゲットはお世辞にも
旨いと言えるものではなかった
おそらく、レンチンでできる類いだろう
ケチャップなかったらゴミ箱行きだなこれ
ちなみに黒さんは完食。
彼の好物はジャンクフードらしい
俺もナゲットを食べ終えてしばらくすると
ホールの明かりが少しずつ暗くなり
舞台を照明が明るく照らす
舞台端から太りぎみの燕尾服の男が一人
舞台の真ん中にあるマイクをつかみ
「皆様、ようこそいらっしゃいました !
今回のオークションは各地から
あらゆる年代層のモノを用意しました!
かわいい系、美人系、熟女系なんでもありです」
なんともありきたりな前説
客達も興味なさげに聞き流している
「そして! 今回の目玉商品は!!
ドラゴンと人間のハーフです!!」
急に客がざわつきだす
ドヨドヨと周りの音がするなか
ペシッと音がしたので横を見ると
黒さんが頭を抱えていた
「黒さん、どうしたんすか?」
「いやいや、こっちの話だ気にすんな」
話したがらないので無理に話させる必要もないので
すぐに引き下がり前説の話に集中する
「今回、入札はこちらでお配りします
この電子端末にて行います」
燕尾服の男が手にとった黒い電子端末
どっかで見たことあんな、どこだったか?
「この電子端末に支払う金額を
打ち込んで頂ければ
後ろのモニターに金額が表示されます
ここに映るのはその時点での最高金額です。
金額表示から15秒以内に入札がなければ
その時点での最高金額で落札となります。」
周りの構成員らしき人達が電子端末を配り始める
配られた端末には数字のボタン10個
矢印の4つ、入力のエンターキー
削除のデリケートキーの16個のみ。
大きさはスマホとほぼ変わらないぐらい
「操作が分らなければ係のものお呼び下さい
では、少し練習致しましょうか
それでは私アゼルで競りをしましょう
お手元の私の入札金額を打ち込んで下さい」
画面には、アゼルの文字と入札金額が出る
要はアゼルってやつをいくらで入札するか
打ち込む練習をさせるわけだな
結構親切で笑いそうになった
始めの金額は0スタートで10、20、50と上がっていき100ランドでストップ
「これで私アゼルは、100ランドでお客様に
落札されたことになります」
もっと高くてもいいじゃないですかと
おどけて見せる様は手慣れていると見える。
「では、そろそろ参りましょうか
皆様、只今からオークションを開始いたします」
モニターが2分割され、1つは金額
もう1つはステージを映している。
燕尾服の男がステージから消えて
オークションがスタートする
初めにでてきた女性
肌は浅黒く、ボロい服もダボダボの服を着ていて
バサバサの金髪ロングが腰くらいまである。
目も虚ろで焦点があってないように見える
ステージの真ん中まで来て一回転し
ボケッと突っ立った所を係の人間が
舞台袖まで担いで運ぶ
なんだ、このオークション……
「ありゃ、ジャンキーじゃねぇか?
ヤクやりすぎて頭ぶっとんでるぜ、あれ
おいおい、大丈夫なのか…
下手すりゃ途中で客がいなくなっちまうぜ」
あんなぶっ飛んだやつが
何人も来るようならオークション自体が破綻する
そうなれば、買い戻す所の話じゃない
次々に女性が出てきては
ステージの真ん中で一回転し
舞台袖に消えていく
もしくは買われた客の席まで行く
ということが20分程続く
看護師、軍服、スラックス、白衣
黒、金、茶、青、赤、色んな髪色の女性がでてくる
金額も例外はあるが10~50の間を推移する
オークションらしくはなってきたが
ほんとに色んな所から拐ってきてるようだ
中には種族が違うものも混じっている
珍しい職種の服を着た女性は結構高い値段がつき
スラックスを着た女性だけは
高い値段がつかないことが
これまでの傾向でわかってきた
もちろん顔にもよるが…
ボケ~と途中に頼んだポッキーを食べながら
眺めているとスラックスを着た女性が
やたらこちらを見てくる
なんだ?仲間になりたいんだろうか
よく見たら東城じゃねぇか
スクリーンには入札なしと書かれている
憐れ!!
こんな順番じゃなければ
入札ぐらいはされていただろうに
しょーがないから300と入力する
そのまま15秒流れて落札できた
手を上げてチョイチョイと振り
こっちに来るように促す
半ベソかきながらチョコチョコッと駆け足
ソファーにドカッと座り俯いて何も言わない
負のオーラが滲み出ていて
声をかけるか迷うところだったが
こりゃ何か言ってやらなきゃな
「よ、よぉお疲れ…どぉだった?」
これしか言葉が出なかった
冗談で言った500ランドよりも安いとは…
俺も予想してなかったよ
「……はい、大丈夫でした、異常なしでした…」
また無言を貫く東城を見かねた黒さんは
「まあ…東城さんだっけか?
今回は順番と場所が悪かったよ
ここには服と職種だけで金額を決める
変態みたいなのしかいねぇから
あんたみたいな真面目なのはウケねぇよ」
と観客に見る目がないことと
東城自体は悪くないよとフォローを入れる
さすが黒さん
「…ほんとですか?
私に魅力がないわけじゃないんですか?」
この言葉にハッと顔あげて黒を見つめる東城
そして予想通りの反応を示す東城に
「俺はこいつの上司で
ロックフェラーの幹部だぜ。
人を見る目には自信がある。安心しろぃ。」
俺の頭をポンポン叩きながら言う
そんな言葉にまんまと乗せられた東城
照れ臭そうに笑いながら
「えへへ、そうですかね!」と
ご機嫌を取り戻したようだ
俺も黒さんもこう思ったに違いない
こいつ簡単なやつだな と
それからすぐに護衛対象の片方
芦屋奈美も姿を見せた
こちらは誰かが1万ランドを入札したのを見て
5万ランドで入札をかけて問題なく落札
すぐにこちらに呼び寄せる
東城の横には座らせず
黒さんの横に着席させる
そっちのほうが安全でいいだろう
芦屋奈美は落札価格には全く興味を示さず
俺のポッキーをすべて食べ尽くす
まだ食べたいようだったが
黒さんに止められたようだった。
そして鷹野真奈がオドオド出てくる
第一印象は可愛い以外に出なかった
会場の客達も同じらしく
スクリーンの値段が高騰する
10万、
20万、
30万、
50万、
100万
と他種族ばりの高騰模様
そこにニヤリと笑う黒さんが
400万と打ち込み落札。
自分の席だけでなく会場の客たちも
驚いた表情を見せる
またもチョイチョイと手を振り
こちらに来るように促しながら
彼女が歩いてくる間に俺に耳打ちする
「こーゆーのも将来できなきゃな
考え方は帰ったら教えてやるよ」と
二人とも近くに東城がいることに
安心しているようなので
別段何事もなかった
鷹野真奈を自分の横に座らせて
両方から女子校生に囲まれるという
変態おじさんの雰囲気を漂わせて
係のものを呼び、精算し始める
3人を買うのに使った金額
合わせて405万300ランド成
基準がわからないが高ぇな
これが大人の遊びってやつなのか…
キャバクラとかの比じゃねぇ
まあ人の人生を買うわけだから
比べる対象じゃないか…
黒さんはスーツの内ポケットから
札束4つと財布から5万ランド
俺はその上から300ランドを置き
東城をチラッと見ると
背中をギュッと摘ままれる
男は札を数えに行ったのだろう
すぐに帰ってきて
精算完了の旨を伝えるとすぐに消える
「よし、外に迎えを寄越してもらってるから
東城さん、あんたがこの二人と
一緒に乗ってやってくれ。
俺と新堂は後ろから付いていく心配すんな」
「はい、わかりました。
あの、黒さんあり…」
「ストップ、ここで頭下げんな
変にややこしくなるのは勘弁だ」
「あっ、すいません……」
「おい~、お前の同僚おっちょこちょいだなぁ」
「いや、同僚てか後輩ですよ
お前黒さんに迷惑かけてんじゃねぇよ」
言葉だけで済んで良かったな東城
俺なら鉄拳制裁確定だかんな!
「うっ、すいません」
「うし、ちゃっちゃと出るぞ」
会場を抜け、玄関ホールを出ると
車の屋根に三角コーンのついた車が一台と
その運転手が一人いる
三人を車まですぐに行かせて
俺は黒さんのトランザムに乗り込む
三人を乗せた車はすぐに発進し
それを追うように付いていく
「さて、新堂…さっきの話の続きだが」
「ああ、急に大金入札した時ですね
あれっていきなり大金かけて
入札させにくくするやつですよね
それが目的だったわけですか?」
「そう、じゃなんでできたと思う?」
「まあ金があるからじゃないですか?
それとも必要経費が依頼人持ちとか?」
「後者は違うな、報酬なんて
今回の出費に比べれば雀の涙程度しかない…
まあ金があるってのが正解だな
じゃあなんで金があると思う?」
「さあ?まあ依頼の直接使命は報酬が丸々
自分のものだからっすか?」
やっぱそうくるよな と笑い
「違うな、今回俺は全く自分の金は使ってない
アルジャーノファミリーの金だよ。」
「えっ、マフィアの金なんすか?」
「てか俺ロックフェラーの幹部でもあり
アルジャーノファミリーの幹部だから
いわゆるカポ・レジームってやつ?
だからチョイ融通してもらったんわけ」
「じゃあマフィアのボスとは知り合いなんですね」
「うん、そんで俺が紹介すんのも
直接アルジャーノのとこのボスにだぜ」
「えっ?」
「マフィアのボスに紹介すんだよ
心配すんな、アルジャーノのボスの
『ピコ・アルジャーノ』も
ロックフェラーの幹部だから」
「えっ?
じゃあアルジャーノファミリーって
ロックフェラーの下請けな感じなんすか?」
「下請けかぁ~…まあそんな感じかな
まあちょい前はボルゾイ支部なんて言ってたな」
「はあー、なるほど……」
「まあんで融通してもらった理由なんだがな……
オークションの主催してた組織潰して
売り上げ金パクッちまおうってなってさ…」
「あぁ、じゃああの金返ってくるんですね?」
「そーゆーこと、だからブッ込んだのよ
俺の自慢は色んなとこに顔が効くことだ
だから今回もマフィアの力を使った
力業もできるのさ、普段はやらんけど…」
それは特殊な職業だからできることで
普通に企業で働いていてもこうはならない
「それに、知り合いが色んな方面にいるから
色んな情報も集まってくる。
調べたいこともある程度は調べられる
お前のやりたいことの一助になるかもな」
この人は俺がやりたいことを
お見通しなのだろうか…
もしかして事件の真相を知ってたりするのか
「黒さん…あんた知ってんのか
3年前の殺人事件……
もし何か知ってるなら」
「んー、俺から聞くのはズルだろ
自分で調べろ、ただお前のやりたいことは
大体分かってるつもりだぜ
事件を起こした犯人を隠蔽しようとした
警察官僚に何かするんだろ?」
「……」
何で知ってるんだ?
俺はひとりで調べていたはず
誰にも頼ってなどいない………
「まあこれから調べものをするときは
方法もしっかり選ぶことだな。
俺が知ってるならその警察官僚も知ってるな」
「誰から聞いたんすか…………黒さん…」
「ダメだって言ってんだろ
こっから先はいくらお前でも有料だ
正直な話、事件のおおよそな流れと
なぜ事件が起きたかしか知らない…
誰が隠蔽を指示したかは知らないよ
調べりゃわかるが興味がない」
「…いくらっすか?…いくら払えば
その情報売ってくれますか?」
是が非でもほしい
全然手がかりすらなかったんだ
多分俺が資料室でデスクで調べているのを
盗み見てそれを上にチクられたんだろう。
新堂が嗅ぎまわってますよ と
「1000万……だな」
なっ、、高すぎねぇか?
値段を提示する黒さんはニヤニヤしている
おそらくどう出るかわかっているのだろう
予想通りでもしゃーない
今は払うだけの金を持ってない
どっかで稼ぐしかない…
「……金ができるまで待って下さい」
「ははは、バカだなぁ新堂
んな金払うより自分で調べる方が安上がりだぜ
恐らくだが、1000万稼ぐよりも
楽に仕入れられる情報だ。
情報は相手の言い値だかんな…
しっかり考えて支払わないと
痛い目みるぜ…新堂よ」
もしかしたら教える気がないのかもしれない
俺の自力のみで解決させるつもりなのかも
「まあこれから、人脈はすごい勢いで増していく
使えるヤツもいればお前を利用しようとする
ヤツもいるだろう……
見極めミスったら尻の毛一本残らんよ。
でも得るもデカイ!お前次第…お前も目標もな」
俺はこれから裏の世界に足を踏み入れる
確かにそちら側に行くつもりはあった。
これで目標に一歩近づいたはずだ
まだゴールは見えないが進むしかない
それ以外の選択肢は事件以来捨てた
やってやるさ
今に見てろ、あの事件を隠蔽し
俺達の班をバラバラにしたヤツら…
八王子さん殺したヤツら
俺は絶対許さないッ!!