路慰人生
王都ロイド地区ダン・サリンジャー宅二階
下で親父の怒鳴り声と他所から来たやつらの
話声が聞こえる。
俺は親父が嫌いだ
親父はいつもキレてる
勉強しろとか、将来どうするつもりだとか
なんだかんだで俺を怒鳴る。
俺だけじゃない……母さんだって怒鳴られてた
最近の夫婦の会話はだいたいケンカだった
結婚記念日をすっぽかして
誰かと飲み明かして帰ってきたり
母の誕生日だって当日に祝っている姿を見ない
数日過ぎてから気づけば祝うぐらいだ。
それを母さんが咎めると逆ギレする。
誰のために働いてると思っているんだ と。
俺は親父が嫌いだ
俺は親父が大嫌いだ
だが、ひとつだけ気に入っていることがある
それは他のやつに比べて金を持たせてくれるとこだ
それ以外好きなとこなんてない。
だが、今回は金を持ちすぎてるから失敗した。
金を持てば色んなやつと仲良くなれる。
バカなヤンキーやギャルがそれだ
そんなバカどもと仲良くなって
バイクのケツに乗してもらったりしてた。
そのヤンキーの友達やその友達とも仲良くなった
どんどん危ない連中と仲良くなっていくのが
たまらなく楽しかった。
そしていつの間にか暴走族に入っていて
それからいくらか時間が経って気づいた。
こいつらは俺じゃなく金が目当てで
暴走族に入れたんだと思えた……
暴走族のメンバーで集まると
金を出すのはいつも俺だったから
資金調達隊長なんて徒名まで付けれた
でもそれだけなら我慢はできた
金なら親父に言えばいくらでも出てくる。
それに暴走族に入っているだけで
学校の“魔法学”を専攻してる奴ら以外の
奴らの目が変わって来る。
俺は学校でハバを効かせられる
それが最高に気持ちよかった
けど、初めて行った抗争ですべて変わった
初めて人を鉄の棒で殴った
そいつは頭を抑えるでもなく
そのまま地面に倒れこんで起きなかった。
自分は人を殺したのかと思い
その場から逃げ出した……
ただ怖かったんだ
それに自分が弱いのさえわかった
他のやつらはそんなのお構い無しに
殴ったり殴られたりしてた
俺にはそんなの無理だ
だから逃げ出した
でも呼び出されヘッドに問い詰められ
暴走族を抜けると言い出した途端に殴られた
初めて死ぬかもって思った
俺は無我夢中で逃げ出し、
バイクに乗り途中で
車に跳ねられそうになりながらも
運良く逃げ切れた。
次の日は怖くて学校を休んで
その次の日登校しようとしたら
登校途中に暴走族のメンバーに
拉致られそうになった
カバンを振り回して全力でまいた
この時は足が速くてほんとに良かったと思う
もし捕まっていたら多分五体満足ではないだろう……
それから二日間俺は怖くて外に出れていない
嫌々だが親父に相談したら
なんとかしてくれるという
そりゃそうだ、親父は法務省の役人
暴走族の1つや2つ軽いもんだ と思ってた……
だが問題は片付いていないようだ
今日も朝から族車の音がしてた。
多分俺を探してたんだろうな
階段を上がってくる音がする
親父か、他所者か……
ドアの前で足音が止まりノックが2回
「入ってくんなッ!!」
親父が怒鳴ってたってことは、
なんらかの不利益をもたらす奴らなはず
んなやつら部屋に入れれるかよ!
部屋にある金属バットを持ってもしもに備える。
親父はなにやってんだよ!
少し間が空き他所者が話し出した
「自分はあなたの父から警護の依頼を受けた
恵口です。ここを開けてはもらえませんか?」
「へっ、嘘ついてんじゃねーぞ
入れるもんなら入ってみろよバーカ」
ドアノブからカシャカシャ音がする
鍵かけてんだ、入れるわけねぇだろ
ドアノブからの音がしなくなり
他所者がドアから離れていく足音だけがする
ホッとした、このまま帰ってくれ
そのあと親父にどーいうことか聞くとしよう
俺はドサっと椅子に座る
あいつが玄関を出る音を確認してから行こう。
ドドドンと廊下を力強く走る音の後
ゴキャンッッと聞いたことがない音共に
知らないゴツい男がドアを壊して突っ込んできた
なんだこいつ、スーツで短髪でゴツい
マフィアかなんかかよ
しかも顔だけこっち向けて睨んでやがる
な、なんだってんだよ、全然怖かねぇぞ、
あいつぶっ殺してやる
「死ね、うらぁ!」
金属バットを手に相手の頭目掛けて
思いっきり横に振り抜いたけど
相手はしゃかんで避けて
そのままタックルしてきた
こんなデケェのどうやって避けんだよ
しかもびびって足が動かねぇ
まとも相手のタックルを食らい
後ろにぶっ飛ばされた
飛びながらも踏ん張ろうと脚に力を入れたが
誰かに膝カックンされたかのように
衝撃があり膝から力が抜けた
後ろにあったのは椅子だっていうのは
椅子にドサっと座る形になって気がついた
気づいて立ち上がろうとしたけど
もう男は相手は目の前に立っていて
自分の額になにかを押し付けて座らされていた
よ、よく見りゃなけけけ拳銃じゃねぇかよ
なんでこいつが持ってんだよ!?
「うわっ、わ、わあぁぁあああー!」
やっぱりマフィアかなんかだったんだ
俺殺されるだよな……
暴走族やつらが……
いくらなんでもあんまりだ
死にたくない、まだ死にたくない
いつも困ったら助けてくれんじゃねぇのか
親父……助けくれよぉ……
恐怖で涙が溢れてくる
色々な事を考えたり思い出した
「暴れなきゃ撃たない、話をしに来ただけだ」
この一言で我に帰る
「えっ……」
「暴れなきゃ撃たない、いいな暴れるなよ……」
俺が小さく頷いたのを確認して拳銃を腰にしまう
俺は殺されなかったことに安堵して
涙を止めることができなかった
男は俺が泣き止むのをしばらく待ってくれた
「おし、泣き止んだな。」
「うっせぇよ……あんたが危ないことするからだ」
「ははは、ごめんな。バットで殴りかかるお前も
悪いんだ、当たってたら大ケガだ
暴力を振るうときは考えてからにしろ
自分の教訓のひとつだ、覚えとけ……少年」
拳銃もってるときはあんな怖かったのに
普通にしてれば気の良いアニキって感じだ……
「少年なんて歳じゃねぇぞ、歳は18だ
てか名前で呼べよ。王立星犬学園の法学1年
ロイ・サリンジャーだ。」
「ロイか、かっちょいい名前だな
自分は恵口竜也、
ロックフェラー人材派遣会社から仕事で来た。
歳は24だ。よろしくな」
マジで仕事できてたのか……
「仕事って誰からの依頼だよ……」
「ロイのお父さんから、君の警護の依頼を受けた
ロイは暴走族に追われているそうだな」
親父が頼んでくれたのか……
「ただ聞いてほしいことがある。
自分が頼まれた依頼の期限は三日間。
その間ロイにかかってくる暴走族のメンバーを
退治して諦めてもらうのを待つのが
ロイのお父さんの作戦らしい。」
「でも、そんなんあいつらが諦めるわけねぇよ
1カ月ぐらいはしつこくやってくる」
「そうだろうな、そこで自分の作戦なんだがな
俺達で暴走族を設立する」
なにいってんだよ
一応聞いてみることにしよう
向こうは仕事で来てるんだ
しばらく聞いた作戦の内容はこうだ
俺と恵口ともうひとり桐谷というやつで
暴走族を結成し、組織の吸収をかけた決闘で勝ち
向こうの暴走族を吸収してすぐ解散させる
これで俺は暴走族から狙われなくなる……
この作戦での難関は
相手がちゃんと納得してくれるのかと
決闘をしたときに勝てるかどうかだ……
チーム名“出修屠乱”『デストロン』
ヘッドの相沢琢磨、俺と同じ学園のOBで
魔法学を専攻していたエリートで
卒業してすぐにひとりで暴走族を襲撃し
ヘッドを含む30人をボコボコにして
吸収して結成したそうだ
なぜそんなことをしたかは不明だが
噂では、ただイライラしていたからとか
寝るのに族車の音がうるさかったからとか
昔にひどいめに合わされたからとか
彼女を寝とられたからとか
友達を拉致されたかとか
色々な噂があるがどれが確かか定かではない
相沢さんと一緒に飯に行ったことがあったが
やっぱり他のメンバーとはなにか違う……
なんかオーラ的なものだろうか
説明が上手くできねぇがそんな経験ないだろうか
この人の言うことを聞いていれば
安心だと思わせてくれる人
まさにこの人のことだと思う。
会計も相沢さんが出してくれた。
他のやつと行くといつも俺だったのに……
まあ規則違反を犯した俺は
殴られても仕方なかった…が
殺されるかも知れないのは話が別だ。
俺はまだ死にたくない……
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
とりあえず作戦を聞き終えた俺は恵口と一緒に
親父への作戦参加への旨を伝えに
そして、まだ見ぬ桐谷という男と会うため
1階へ降りる
やっぱり親父にお礼言うなんて……
階段を降りて左側の部屋のドアを開ける
中には椅子に座った親父と桐谷とかいう男がいた。
テレビの手前に粉々になった湯飲みが
散らかっていたが誰が掃除すんだよ
「親父、俺恵口さん達の作戦に乗ろうと思う」
「そうか、好きにしろ……」
……くっ……なんだよ、なんでそんな適当なんだ
俺には命懸けの問題なんだぞ……
「実は君の父上は君のことが心配なんだよ
君の前じゃ素直になれないみたいなんだ
父上のことを悪く思わないでほしい」
!?
んなわけねぇだろ!
勝手なこと言うなよ、こいつ……
「桐谷……貴様いらぬことを言うな
ロイよ、さっさと終らせて
学業ができる環境に戻れ
お前に向かないのは身に染みてわかったろう」
あぁ とだけ返事し部屋をでた。
そして玄関を出て何分か待っていると
恵口達が出てきた。
で、手始めになにすんだ……
こいつらはなにをする気なんだ
「とりあえずは僕らも暴走族に変身しなきゃね」
「ロイ、この辺で特効服作ってもらえる
店知らないか、特攻服って別注だろ?」
確かに暴走族って認めてもらえなきゃ
決闘申し込めないもんな。
「あぁ、歩いて5分もかからない所にある」
「おぉ、じゃ案内してよ。
特攻隊着てみたかったんだ~」
桐谷という男はずっとニコニコしている
全く闘えるようには見えない
フワフワのパーマのかかった頭が王子様みたいだ
作戦立案が本職じゃねーのかな……
2人を引き連れて
大きな道を通らず細い道から遠回りになったので
少し遠回りになったが無事目的地に到着した。
石田洋服店
主に学生服を取り扱う洋服店で
短ランや長ラン、ボンタン、特攻服やらの
昔ながらのアイテムから
アイドルグループやアニメのキャラの服のレプリカ
他の町の女子高生の制服のレプリカなども
販売している一風変わった洋服店だ
店内は棚で通路が作られているわけではなく
ただ衣装を着せられたマネキンが
壁に並んでいるだけで店内奥にレジがあるだけの
殺風景な店だ。
店長も赤と黒のチェックのジップアップ式の
パーカーにジーパンという中学生のような服装。
「なんだこの店、終わってんじゃん。
アイテムだけは一丁前だな。」
なんてこと言うんだ、この桐谷とかいうやつ
ここの店の店長はというと
レジから離れずに嫌な顔をして
俺達がなにかしでかさないか見張っている。
「価格設定もボッタクリだし……
ほら、早く買って帰ろうよ。
さっさと選びなさいよ~う」
ゲラゲラ笑いながら急かしてくる
子どもみたいなやつだな
「特攻隊って買ったってすぐできねぇよ
寸法測って、背中にチーム名つけてもらって
内側にも好きな刺繍してもらわねぇと……」
「はぁ?まじで、そんなめんどくさいの
待ってらんないよ……」
ツカツカとレジまで歩いていき
「適当に白い特攻服3着作ってくれい」
「えっ……あっあの…… 生地代と加工賃で
4万5000円……です」
んー、3人分だからそんぐらいになんのかな。
俺の特攻服は6万ぐらいしたからな
「内訳教えてもらえるよね?」
「は、はい……ひとり辺り生地代1万
加工賃5000です。」
「……ねぇ、ここ儲かってんの?」
少なくとも近くの犬星学院の学生服はここが
出しているわけだから赤字なわけがない。
「ま、まあ細々とですがやっていけてます。」
「ふーん……ねぇもっと儲けてみる気ない?
僕はもっとここ繁盛してもおかしくないと
思うんだけどなぁ……」
こちらからは桐谷の後ろ姿しか見えないが
懐をゴソゴソしているのがわかる。
「はい、これ僕の名刺。
よかったらここの
経営コンサルティングできる人材を派遣しよう」
名刺を渡された時、おっさんの表情が急に変わった
「え……い、いいんですか……うちなんかの
コンサルティングしてもらって……」
なんだ、こいつ結構すごいやつなのか
全然そんな風には見えないけどな
「モチ条件はあるよ。まあ簡単だよ。
僕の特攻服を3着、30分で作って
無料でだよ……安いもんだろ?
僕らコンサルティングについたら
ここの収益は倍以上に伸ばせる
後は君次第だ、この先どんなことがあるか
わからないけど……今、提案を受ける決断を
しなかったことを後悔することになるだろうね」
おっさんはしばらく黙り込んで
「わか……りました、30分頂きます
白の特攻服3着、なんの飾りもなしなら
できます。」
「よし、交渉成立だね。じゃあ任せたよ」
すげぇな、4万5000万を無料にしたよ……
多分見返りもでかいんだろうけど
俺の時は全然まけてもらえなかったぞ
こいつ交渉とか上手いんだろうな
これなら決闘に勝てば上手く暴走族を
言いくるめられんじゃないか
店を出て、これから30分どうするか
やることはまだある……
まず暴走族たるものバイクが必要だ
俺は自分のがあるがこいつらはないだろう
次は相手に俺達の存在を知らせること。
暴走族が新しくできたことを知られないと
決闘なぞ申し込んでも受けてもらえない。
最低でもこの2つは必要だろう。
このことを桐谷、恵口に伝える。
「バイクですか……どうします?桐谷さん」
「バイクの加工だけは適当に任せるなんて
できないからねぇ~……整備不良で死ぬのやだろ」
そりゃそうだわな
「はい……なんか良い手はないですか」
「あるにはあるが成功するかわからない、
まあひとまず休憩しようじゃないか
ロイ君このへんにコンビニある?」
こいつの考えていることが気になるが
なに考えてるかさっぱりだ……
「あぁ、あるよ。なんかする気なのか?」
「いいや、喉乾いたから飲み物買いにいくんだ
大通りを通ってあまり人の来ない
コンビニに行こう……
もしかしたら良い事あるかもね」
ほんとによくわからない
大通りなんか歩いてたら暴走族に見つかるぞ
でも、こいつの言うことは聞いた方が良さそうだ。
車の多い通りを歩き、
そこから少し人通りの少ない路地を通り
コンビニへ向かう
途中で暴走族のバイク特有の爆音が
遠くから聞こえるのを気にしながら
歩くのは生きた心地がしなかったな
コンビニについたのはいいが
運の悪いことにコンビニの前には
ガラの悪い改造を施したバイクが3台見えた
おそらくコンビニの中か近くに暴走族のメンバーが
いるんだろうな。
桐谷がニコりと悪い顔で笑う
「あらら、一発目からビンゴか……
恵口君、どのバイクがいい?」
こいつ、バイク盗む気かよ……
「バイクを借りよう、借してくれないなら
恵口君の出番だ、やっつけてやれ
ロイ君はいるだけでいい
やばくならないとは思うけど
もしものときはコンビニで警察呼んで」
「り、りょーかい」
「恵口君、借してくれずに一発でも殴られたら
敵の無力化してくれ。
相手はまだ子どもだ、加減はするように」
「はい、わかりました」
むちゃくちゃ言うやつらだ
会社員じゃなくてマフィアだろ
コンビニの中にはいなかったらしく
コンビニでそれぞれ買い物をして
バイクの前で食べていた
「うわ、雪印コーヒーってそれ
コーヒー飲めないやつが粋がって買うやつだろ
ロイ君、金持ちなのにかわいそう」
「う、うっせぇな!おめぇだってガリガリ君
買ってんじゃねぇか、人の事言えるか!」
「桐谷さん、ガリガリ君の当りが出る確率って
巷では4000分の1って知ってました?」
「えっ、まじで…………当りでちゃったよ……
なんかこんなんに幸運使うのやだな~
………………交換しても~らお!」
桐谷はさっそうとコンビニの中に消えていった
桐谷が消えたすぐ後に
向かいのアパートから
金髪ロン毛とモヒカン
そしてサングラスをかけた
いかにも不良のガキたちが出てきた
俺達に気づき歩を早めて来る。
サングラスをかけたやつ以外は
恵口よりも小さかったが態度はデカかった。
「てめぇらどけよ、俺らの道塞ぐんじゃねぇよ」
「おら、さっさとどけよ」
サングラスのやつは後ろから
黙ったまま様子を伺っていた
「悪いけど、このバイク2台借してほしいんだ
白いバイクと黒いバイク、ピンクのはいらない」
最後の言葉でサングラスのガキの
眉がピクッとなったのが分かった
お前のだったんだな、悪いが俺もいらねぇ
「なに言ってんだこいつ、しめちゃおうぜ」
「だな、よっちゃん。やっちゃおうぜ鉄」
まじか……
俺はやりたくないから後ろに下がる
ピロピロピロン♪
コンビニのドアが開くと
真っ赤な顔で桐谷が出てきた
ガリガリの当り棒を握りしめて
絡まれてる俺達を見つけた桐谷は
ツカツカと歩いてきて
それに気づいてないロン毛の後ろ髪を
下に引っ張り露なった喉を当り棒で突き
隣りにいたモヒカンの顎を手のひらで叩き上げ
浮いた脚を刈り、地面に頭を叩きつけた
そして一瞬で仲間2人がやられたことにビビった
サングラスのガキの胸ぐらを掴み
「よぉ、バイク借してよ」
サングラスのガキは大きく頭を縦に振る。
「バイクのキー探して借してよ
多分今日中に返せると思うよ」
サングラスのガキは2人のガキにキーを渡させる
ガキ3人とも完全に怯えきっている
「さてと……あとサイフ出せサングラス」
カツアゲまですんのかよ……
ほんとめちゃくちゃするな
するとサイフから免許証をだして
サイフを投げ返して免許証を携帯で撮影する。
「警察とか親にチクったの分かったら
お前んとこまで行くからな……」
カツアゲよりも質が悪かったみたいだ
サングラスのポケットに免許証と当り棒をねじ込み
「後、お前らデストロンだっけ?のメンバーだろ?
頭にロイ率いる“魔修胆紅“『マスタング』が
決闘申し込むから集会開けって連絡しとけ
バイクは明日ここにとりにこい
さっさと3ケツでもして行け」
ガキどもは1台のバイクに3人で乗る
3ケツをして走り去っていった
大丈夫なのか、あいつら捕まるんじゃないか……
てか桐谷ってこんな怖かったかのか……
さっきとはまるで別人じゃねぇか
頭をポリポリかきながら
ちょっとやりすぎたかな……と笑う桐谷
「あれなら必ず集会開かれると思うけど……
それともうガリガリ君なんて2度と買わないよ
あんなの子ども食いもんだ」
なかなか根にもっているようだ
だけどこいつ知らないのか?
「当り棒はコンビニじゃダメでも
駄菓子屋なら交換してくれるぞ」
しばらく桐谷は黙りこみ
「よし、あのガキどもから当り棒取り返すぞ」
「ちょちょちょ、やめてください。
ガリガリ君なら自分買ってきますから」
「……くそぉ~!!そんな慰めなんていらんわ!
悔しい、悔しすぎる~」
あほすぎる……
「でっ、どうすんだ……
そのバイク……乗れんのかあんたら」
おそらく車しか乗ってないんじゃないか……
ミッションのバイクなんて乗れんのか
「自分はカブと同じなら乗れますが
桐谷さんはいけますか?」
「ふぅ~、よし。まあ大丈夫だよ
これでも昔はブイブイ言わしてたかもだよ」
族車の車種はゼファーとXJR
まあよくあるやつだな
風防とシートの後ろに3段が付き
人を乗せやすくした仕様になっている。
ペイントもファイアパターン
だいたいみんなそんなもんだと思う
「じゃあとりあえずロイ君は恵口君のケツに乗って
ロイ君ん家まで先導してくれ。
ロイ君のバイク取り行ってから
服をとりにいこうか」
恵口も運転に慣れるまではガクガクしていたが
慣れてからはスムーズな運転で家まで着き
そこから石田洋服店へ
桐谷は案外普通に乗りこなしていたところを見ると
ミッションのバイクの運転の経験はあるのだろう
先ほどの洋服店に入ると店長が出てくる。
「あっ、きき桐谷さん要望の3着でで、
できてます」
「うい、よーやった。
よしみんなの特攻服の背中に
チーム名書くぞぉ~」
「えっ、書くんですか……
もしかしてマジックとかでですか?」
「ほかになにで書くのさ
ここにペンキなんかないだろ?ねぇ店長?」
店長は首を横に振り、
急いでマジックを奥からもってきた。
「さてと、漢字で“魔修胆紅”だよ
ミスったりしたら仲間はずれだかんな」
「ミスりませんよ、なあロイ君」
「お前ら、先書いてくれよ
漢字わかんねぇ…………別にバカなんじゃねぇぞ!
ただまだ習ってねぇだけだ……」
桐谷はニヤニヤしながら口で手を抑えている
「クソ!バカにすんじゃねぇよ
頭はいいけど、学がねぇんだよ」
「ついでに根性もないって付け足しなよ」
プクククと笑いを我慢するフリをする
「なぁぁああぁーー!!!
おめぇむかつくな!表出ろッ!!!」
「桐谷さん、やめて下さいよ。
ロイ君、桐谷さんを許してやってくれ
こーゆー人なんだよ」
「冗談だよロイ君、ほら書いて書いて」
ガヤガヤ言っている内に書き終わり
「よーし、書けたぁー
後はこれ着て、集会場所いって
頭ボコって終わりだな
よーゆーだね恵口君、まかせたよ」
「まあ気乗りはしませんが大丈夫です」
「そだ、集会ってどこでやんの?」
「ここから北に行って住宅街抜けて
もうちょい行ったら廃墟がある。
元病院だったっけな
そこでいつも集会が開かれる」
「ふむふむ、時間とか決まってんの?
僕ら行ってから集まってないじゃ
かっこつかないじゃない」
「だいたい飯食って集合だから
19時頃だったはずだ」
「結構はやめにやるんだな
自分は夜中にやるものと思ってた」
「頭がそういう風に決めたんだ。
後メンバーは徒歩で集合なんだ
理由は族車の音がうるさいだそうだ」
「勝手なリーダーだねぇ~」
桐谷はまあうちも似たようなもんかと溜め息をつく
「まあ僕らがそれを守る必要はないわけだ
バイクで突っ込んでやろうじゃないか」
「そうですね、登場は派手なほど
インパクトを与えるには良いですね」
「よし、パラリラして突撃しようか」
もう時間も19時になる……
そろそろ動いても良い頃だろう
メンバーも集会があるなら
徒歩で北の廃墟に向かってるはず
バイクで行けば19時過ぎにつく
こいつらで勝てるんだろうか…………
いや、勝ってもらわなきゃ困る
頭の相沢はマジで強い
軍からの誘いだってきてたはず
常人じゃ勝てない……
普通にやっても強いのに
魔法だって使える。
恵口や桐谷が強いのはわかるが
それは常人相手の話
相手が相沢じゃどうなるか……
いや、不安がっていても仕方ない
エンジンをかけて、吹かして
「集会場所まで行くぞ
ちゃんとついて来いよ
途中で怖じ気づいて帰んじゃねぇぞ」
二人も俺を見て、エンジンをかける
人を先導するときの気持ちよさ
やっぱりいいもんだと思う
なんかリーダーになった気分になる
高揚感ってのかわからんが
妙にできる気分になる
こんな強い二人をまとめている気がする
結構飛ばしていたつもりだったが
二人はちゃんとついてきている
周りも住宅が減り、空き地が増え始め
木や川が見え始める。
道も少しずつ枝分かれし、細くなりだし
長年舗装していないアスファルトに変わりだした
もうすぐ集会場所だ…………
森や川のせいだろうか、ひんやりしてきた
その冷たさが俺の不安を煽る
負けじとエンジンを吹かしてアピールする
俺たちが来たぞと
二人も盛り立てるように吹かしてくれる
進んで行くと病院の入り口の前に
火のドラム缶があり
周りを照らしている
その回りをメンバーが半円で囲む形になっていた
メンバーの中にはロン毛やサングラスも見えた
だか相沢の姿が見えないな……
メンバーから10メートル程距離をとり止まる
しばらく待つと
半円を掻き分けて相沢が出てくる。
「よぉ、ロイ。久し振りだな
うちのやつをかわいがってくれたあげく
バイクまでパクったそうじゃねぇか
正直お前がそんな根性あるやつだと
思わなかった
けど、今見てわかった……
お前やっぱ根性なしだろ
うちにゃいらねぇわ
今ならこいつらのバイク返してから
慰謝料の200万で手を打ってやる……」
後ろのメンバーからケラケラと笑い声が上がる
くそぅ……なんも言い返せない……
そんな俺を見かねてか桐谷が出てくる
「よぉ、社会のゴミくず諸君……
僕らマスタングのケンカ買えないって訳かい?
僕らが決闘申し込んだんだ
どーすんだ、やんのかやらんのか?」
「……どー見てもロイのダチじゃねぇな
まあいいよ、受けてやる
俺らが勝ったら300万お前らから頂く
これ以外は飲まない……
なあロイよぉ、なんもせずに
親父から金くすねてきたら
穏便に終わる話じゃねぇか」
だが桐谷がすぐに切り返す
「わかった、もし僕らが勝ったら
このチームデストロンは
マスタングの傘下にはいってもらう……以上!
なんかあるかい? 相沢君」
ねぇな と笑う相沢に桐谷は
「そうそう、決闘は三対三の勝ち抜き戦
それでもいいかな?」
あれ?決闘は一対一じゃなかったか……
「あぁ構わねぇ、
場所はみんなが見てる前でいいな?
よし、斗真いってこい」
「じゃあ、こっちは恵口君で行こっか
チャッチャと終わらしてきてね」
と言いながら煙草に火をつける
前まで一対一でやるはずだった……
なぜいきなり変えたんだ
やっぱり相沢の実力を危険視したのか……
恵口は前に出て、特攻服を脱ぎ地面に放る
斗真も出てきた
後ろから斗真コールがかかる
『とっおーま!とっおーま!』
斗真は特攻隊長を任せられたやつだ
別に格闘技をかじってたりもしない
ただ根性だけは人一倍あって
相手が武器をもっていても素手でぶつかりにいく
体格はそんなに大きくない、180オーバーの恵口に
比べて二回りくらい小さなが
なんの構えを取らずにポケットに手を入れて
肩を振りがに股で歩いていく
それに対し恵口は左手を前に出し
右手を引く正拳突きの構えを崩さない
歩く斗真の身体に恵口の左手が当たる瞬間に
恵口の正拳突きが斗真の顔面目掛け飛ぶ
斗真はデコを突きだし恵口の手を潰しにかかる
恵口もお構い無くそのまま殴り付ける
鈍い音と共に斗真が後ろに
大きく半回転して吹っ飛んだ
周りは今の一撃で静まりかえった
漫画でもあるように額で相手の拳を砕く技は
実在し、ディフェンスのテクニックでもある
だがこれには相手の拳よりも相手の拳の勢いに
負けずにデコ、実際には首の筋肉などで
押し返す必要があるのに対し
今回の斗真にはその筋肉が足りずに
押しきられてしまった
当然、脳や首にもダメージがあり
立ち上がることはまず不可能。
倒れて動かなくなった斗真を仲間が抱えて
半円のなかに消えていった……
静かに廃墟の入り口の階段に座り
傍観していた相沢だったが
今の恵口の一撃をみて立ち上がる
「こりゃ他のやつらがいっても無理だな
俺がやってやる……
骨の2,3本は覚悟しろよ」
余裕綽々に半円から出てくる
「リーダーとしては正しい判断だね
君の部下達が束になっても難しいよ
さあ恵口君、あいつもぶっ飛ばしてきて」
桐谷もケラケラ笑いながらヤジを飛ばす
特攻服を投げ捨てた恵口に対し
特攻服に腕を通さず羽織るだけの相沢
ポケットに手を突っ込み、斗真のように
恵口の射程圏内に大股で入り込む
恵口は左手に相沢の身体が当たるよりも早く
前に踏み込み、正拳突きを打つ
相沢も斗真と同じようにデコで受けるよう
拳に向かってデコを突き出す
相沢に拳を当てる前に拳を平手に切り替え
相沢の頭を鷲掴みして押し込み
それとほぼ同時に出していた右足で
相沢の足を刈りに行く恵口だか
恵口の動きが止まる
相沢の頭を押し込めておらず
刈りに行った足が相沢の足にぶつかり
止まってしまっていた
手を離し、距離を取ろうとするが
相沢の手に捕まれて
思いっきり左上に引っ張られる
がら空きになった右に相沢のボディが一発刺さる
手を振りほどこうとするが
全くびくともしていない様子で
その間にまた一発ボディが入る
崩れそうになる足を踏ん張り
相沢の左ボディに一発いれるが
相沢がニヤリと笑う
「手を持った時に、感じたが今ので確信に変わった
授業で習ったが実物に会うのは初めてだ
まああんたが使えてるのかはしらんが……」
一体なんの話かはわからんが
そんな話をしている間に
恵口はもう一発入れる
こっちまで鈍く音はするんだが
相沢の反応を見ていると
全く効いていないように見える
桐谷はというと、あまり表情から
感情を読み取れない
無表情に近いといったほうがいい
次にあの化け物と戦うのにブルっちまったんだろう
これはマジでヤバイ……
恵口が相沢に負けたら桐谷で勝てるとは思えない
相沢と恵口はボディの打ち合いをしているが
口から血を流し今にも崩れそうな恵口に対し
余裕で恵口の腕を引っ張りあげながら
ボディを打つ相沢
20発ほど殴り合い、ついに膝をついた恵口の顎を
相沢が思いっきり蹴り上げると3メートルほど
恵口が吹っ飛んだ
終わった…………
親父をなんとか説得して金を用意して
もらっても学生生活はどーなる……
多分、笑い者になって学校にいられないだろう
そうなったらもう家にいられない
どうしよう……どうしよう……どうしよう……
負の考えばかりがループする……
スタスタと歩き恵口に向い
桐谷は恵口の状態を確認していた
「こっぴどくやられたね……
肋骨は確実に折れてるね
内臓にもダメージがいってるが
命に別状はないはずだ
多分向こうもわかってやってるな……
よく頑張った、後はまかせなよ」
「うっ、す……すいま……せん」
「いや、ナイスファイトだったよ
ロイ君! ちょっと恵口君看てて」
もう無理だろ……終わってんだろ
俯いていた俺は自分の髪を引っ張り上げられる
そこには今まで見たことのない
桐谷の真剣な眼差しがあった
「僕ら、ロックフェラー人材派遣会社は
失敗を許さないんだよ……
絶対に僕が勝つから安心しなさい
それより、今は恵口君の身を君が守れ
僕はこれから廃墟のなかで
一騎討ちするつもりだ
その間、恵口君に触れる敵がいたら
全力で闘え!それが君の仕事だ、いいね?」
「お、俺はもうケンカなん
「これは俺“達”が仕掛けたケンカなんだ
仲間がお前のためにこんだけ身体張ったんだ
お前もそれぐらいしろお前の根性見してみろよ 」
……なんか、初めて仲間って呼ばれた
俺みたいな金しか取り柄のないクソガキを……
目頭が熱くなるし、鼻水も止まんねぇよ……
仲間を守れと言われて引き下がれるほど
俺は落ちぶれてはないようだ
とりあえず、涙を拭って深呼吸して
「…………まかしてくれ」
「よし、まかしたよ」
ツカツカと桐谷は相沢の元まで歩いていく
「相沢君、ちょっと廃墟の中でやんない?
見られて困ることがあるんだよ僕」
「う~ん、別に構わねぇがあんた
死にそうになっても止めてくれるやついねぇぞ」
「そりゃ君にも言えることだよ
大丈夫、僕も加減は知ってるから」
「言ってくれるな……
わかった、じゃあ中行こうか……」
二人が中に入っていく……
恐らく、先に自力で出てきたやつの勝ちなのだろう
勝ってくれよ!桐谷
桐谷が出てくるまで恵口は俺が守る
初めて仲間のために身体張るんだ
こんなに胸が高鳴ることがあったか……
どんなやつが来ても負ける気がしねぇ
いつの間にか、恵口の前に立っている俺の前に
数人メンバーが来ていた
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
廃墟一階、電灯の光りがなく外からの月明かりで
微かにしか物が見えない待ち合い室
恐らくではあるけど椅子がたくさん並んでいて
カウンターが椅子の対面にある
暗くて物の輪郭しか見えない
一応、相沢君が目の前にいて道案内してくれている
奥へ進んでいき、突き当たりを右に曲がると
少し先に屋外に出れるところを見つけた
どうやらそこへ案内したいようだ
自動ドアが動かなくなって
開きっぱなしになっていて
そこを抜けると
吹き抜けの広場のようなとこに出た
今夜は星や月が綺麗に見える……
多分、ボスにも同じように見えていて
僕と同じ感情も抱いているはずだろうね……
「さてと……やるか」
やる気満々か……やだな
僕はあまり乗り気じゃないのに……
ロイ君にはあんな事言っちゃったけども
どうしようかな、できればやりたくないな
恵口君さえ無事ならそれでいいんだけど
この子倒さないと依頼完了しないっぽいしね……
「ちょい待った……
賭けやってみない?」
「ん?なんのだ?」
「この勝負に勝ったやつに200万」
「……あぁ、いいぜ乗った」
にやにや笑いやがって
多分もう勝った気でいるんだろうな
「よし、幾分かやる気出てきた……」
残念だったね……借金確定だよ
ちょこっと稼ぐかな
やっぱりガキ相手は楽でいいなぁ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
廃墟一階ふれあい広場
賭けになった途端いきなり雰囲気が変わった
なんかヌメりと肌に纏わりつく嫌な感じ……
久々に鳥肌ものだった
北の街ボルゾイを仕切る一角である
ペゴリーノファミリーのボスと会った時も
これとは違うが出会った瞬間に鳥肌がたった
全身をなにが叩かれた感じだった……
多分あれは気迫のようなものだったと思う
だが今回は殺気だ……間違いない
初めて感じたがやばい
身体がマジで動かない
もしかしたら、こいつも組織のトップに立てる
そんな能力を持っているんだろうか……
外で見たときはそんなことなかったんだがな
この賭けに乗るのは失敗だったかもしれない……
ただ、俺にも矜持ってもんがある……
こいつに負けたら俺がやってきたことの
意味がなくなってしまう
権力に負けずに生きて抜く
これが俺が目指す生き方だ……
親父のようにはならねぇ……
だから軍部や警察、マフィアにも身を置かずに
ただひたすらに暴走族を続けた
犬星学院に進学したのも力をつけるためだ
元々魔法が使えるのは知ってた
やっとここまでグループを大きくしたんだ
また1からなんて嫌だ……
桐谷はポケットから煙草を取りだし火をつける
「煙草吸ってる間だけ待ってあげるよ……
君のターンはこの煙草を吸い終えるまでだ
吸い終わったら入院コースだ、覚悟しなよ」
ニヤリと口元だけ笑う桐谷に
危険を感じた相沢は
身体の魔力を肉体強化に一点集中させて
一気に距離を詰めるべき飛び出す
が
10メートルほど距離の会った桐谷が目の前にいた
相沢は飛び出し、2歩目を踏み出す前に
桐谷にぶつかる
ぶつかる際に少し桐谷は胸を張り
防ごうと腕を前に出した
相沢の身体を弾き返し
そのまま尻餅をつかせる
なんだ今の……
こいつも魔法使えるのか……
いやでも、そんな気配を感じなかった
普通なら押し返せるはずなんだか……
意味不明な力に驚く相沢を
上からニヤニヤと笑い見下す桐谷に
ほんの少し腰を浮かせて足を払う下段蹴り
しかしそれも見透かされていたかのように
相沢の蹴りを片足を上げることで避けて
その足で桐谷は俺の足で掬い
円を描くように回す
バランスを崩し今度は
背中と頭を地面に軽くぶつける
追撃が来る前に左へ2、3回転し立ち上がり
また距離的をとる
やばい、俺が遊ばれてる……
今までこんなこと一回もなかった
だいたい魔力を持たないやつには圧勝だった……
なぜ、魔力を持たないやつに
力、スピードで負けんだ
全然わかんねぇ……
殺す気でやらないと、こいつには勝てないか
魔力の消費が激しいから使いたくないが
そうも言ってられねぇ……
メンバーと離れた所でできてよかった
「これからあんたを殺す気で攻撃させてもらう
死んでも恨まないでくれよ、俺のためだ……
『ボルテックワークス』発動!」
周りの相沢達を囲む壁からバチバチと放電音がする
広場の四つ角と中央の街灯にも光りが灯りだす
「おぉ、軍部にも警察にも入らずその歳で
結界系の魔法かぁ~、やるなぁ」
魔法にも精通しているようで
やっぱりこいつただ者ではない……
「あぁ、ありがとよ。これからが本気だ」
『ボルテックワークス』は自分の指定したところに 指向性のある魔力製の雷を放つことができる
結界を構築する魔法。
俺自身が作った魔法ではないので
完璧に使いこなせていない
ある人が使っているのを見て真似ている
模造品の結界と呼んでもいい……
だから仲間が近くにいるときは絶対に使えないし
結界内全体に魔力を送り込まなくてはいけない分
魔力の消費が激しい
おそらく長くて1分が限界だが
今回は生身の人間が相手だ
一発当てれば即勝利
結界内に魔力が貯まっているにつれて
街灯の光りは明るさを増して行き電球が砕けた
あらゆる角度から連発で雷を落としていく
桐谷の近くの地面は雷により砕けて
砂ぼこりが舞っていくなか桐谷は
その場から動かない
うっすからと砂ぼこりの中から
桐谷の影だけが映る
予想以上に魔力の減りが速い……
最近は魔法なんて全く使わなかったからな
また魔力増加のトレーニングでもするかな
発動してから20秒足らずで結界は消えかけ
薄かった砂ぼこりは濃くなってしまい
中の様子を伺うために晴れるのを待つ
!?
薄くなって来た砂ぼこりのなかから
赤く光る小さな灯りが灯っていた
おそらく煙草の灯りだな……
てことは、あいつ余裕で生きてる!?
砂ぼこりが晴れると無傷で
煙草を吸うニヤケ顔の桐谷が立っていた
「おやおやおやぁ~結界が消えかけですが
もしかしてもう打ち止めですかなぁ」
今回のはなんとなくわかる……
四隅の電球が割れているのに
桐谷の近くにある中央の電球は割れていない
つまり中央にはなんだかの理由で
魔力が供給されていない……
俺のコントロールがお粗末なのか
魔力を吸収しているかのどちらかだろう
だが、吸魔の魔法なんてあんのか……
少なくとも現代に普及している魔法ではない
相手が未知数すぎて冷や汗がとまらん
このままだと確実に負ける
勝てるビジョンすら思い浮かばない……
グズグズしてたら結界が完全に消滅してしまう
こりゃもうダメもとでいくしかねぇな
結界内の魔力を桐谷の後方に集中的に配置して
自分には魔力による肉体強化を全身に施し
全力で飛び出す
これでおそらく魔力が切れる
最後の一発だが当たれば勝てる
桐谷の目の前まで即移動して
顔面に拳を叩き込む
おまけに後ろからクロスで電撃を発射
後ろに下がっても横に逃げても電撃を食らう
これで、真っ正面から受けざるを得ないだろう
拳を振りかぶり、打つと桐谷は後ろに下がる
バチッと放電した音がするところを考えると
電撃が当たったと思っていいはず……
しかし、打ち出した俺の拳に桐谷がくわえている
煙草を押し当てている
「つッ!」
「ぷはははは、なに今のどや顔
決まったと思った? 残念でしたぁ~」
くそ、ほんとに吸魔かよ……
「さてと、煙草も吸い終わったし反撃開始かな……」
カチャカチャとベルトを外しだして
「知ってた?ベルトって実は昔武器として
使われてたそうだよ。
まあ、ブレスレットやネックレスと
似たような類いと思っていいよ」
確かにバックルは鉄の塊みたいなもんだ
生身の俺が受けるのは良くないな……
ベルトをグルングルン振り回し
当たる距離になると
腕の位置的に側頭部になると予測し腰を落とし
タックルを狙いに行くが
下半身しか見えていなかった視界の中に
急にバックルが降ってくる
避けたはずなのになぜ……
その一瞬が俺の反応をコンマ数秒遅らる
その後は急に目を何かで隠され暗くなり
一瞬戸惑うと急に後ろに倒される
何をされたのかわからないまま倒れて行くなかで
目の前を覆っていたのが桐谷の手だと分かるのと
同じに桐谷の靴底が見える
また一瞬真っ暗になって
ゴッと音がなったのが聞こえた
多分踏まれた
もう意識がぼやけてわからん
それから2、3度そんなことがあったが
よー わからん
いつの 間に か 視界が
テレビ の砂 あら し みた いに なって き た……
―ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
廃墟一階ふれあい広場
相沢を気絶させた桐谷は靴底についた血を
ハンカチで綺麗に拭きとっていく
片足を持ちズリズリと引きながら
来た道を戻っていく
途中段差に相沢の頭がぶつかっても気にしない
途中曲がり角で腕や身体が
ゴリゴリ当たっても桐谷は全然気にしない
相沢が痛ッとか言っても全く気にしない
しばらく廊下を歩き出口が近づき
待ち合い室に出ると椅子に座るため
相沢の足を投げ捨てる
「やっと放してくれたかよ……」
「あれ、起きてたの?
ごめんね、全然気づかなかったよ」
「どっかで頭ぶつけた辺りから目覚めて
アピールしてたんだけどな
気づいてないとか絶対嘘だろ」
まあね と笑う桐谷は話を切り
「……さて冗談はさておき商談の時間だ……」
商談とは、きっと200万のことだろうな
まずいな、負けると思ってなかったから
支払えと言われてもそんな金どこにもない……
「…200万……は……待ってくれ、時間はかかるが
必ず払う、ただ今200万もの大金はない
約束は守る、絶対だ!」
「ははは、そりゃ無理だね
そんなこと言って逃げたやつなんて
腐るほどいるよ、国外に出たやつもいるし
期限は2日がいいとこだね」
2日っ!
「期間が短すぎる!かなり時間はかかるが払う!
ちゃんと払う、ほんとだ!信じてくれ!」
「無理だよ、返せるビジョンが思い付くかい?」
200万稼ぐビジョン……
バイク売って、働いてもかなり時間がかかる
短時間で稼ぐには犯罪紛いの行為
もしくは犯罪を犯さないと無理だ……
「どう、ビジョンは見えたかな?
人は物事を実行するときに
考えるビジョン以上の
行動は基本的にできないんだよ
君が今から200万稼ぐためには
考えたそのビジョンの中から選ぶしかない
まあ恐らく汚い仕事だろうとは思うけど」
「じゃあ、俺は……どうすれば……いい」
桐谷がニヤリと笑う
「そうだねぇ、今の君は暴走族の頭でもない
ただの無職の22歳
まあ年齢的には雇ってくれるところはあるだろう
だけど、僕の見立てでは君は
気に入らない仕事はしたくない人間に見える
でも、お金がほしいなら嫌な仕事だってしなきゃね
なにかほしいならそれなりに頑張らないと……
ほんとなら君の家に取り立てに行きたいけど
君が本気で自分の力で返すというなら
とりあえず、僕から200万借りるといいよ」
「えっ……貸してくれんのか」
「うん、君が本気で返すんだったらね
期限も伸ばしてあげるよ
まあ僕から借りるんだから利子はつくよ
20万プラスでいいかな
それから僕が紹介するところで
仕事をしてもらう
そこで働いて、上手くいけば
3ヶ月もしないうちに
返せるし、将来安泰になれるかもね」
期限も伸ばしてくれて、
働き口も紹介してくれんのか
こっから普通に働いても2日で220万なんて無理だ
話によればもしかしたら将来安泰とも言ってた
普通の仕事じゃねぇのはわかるが
今の俺にはこれしかない
これは乗るしかねぇな……
「あぁ、わかったそれで頼む」
「よし、連絡先交換しよーか」
桐谷と連絡先を交換し手立て外にでると
副長“長岡”の首を後ろから片腕で絞めて
片手に持った拳銃を側頭部に押し付け
周りを威嚇しているボロボロのロイと
メンバー達が目に入る
おそらく恵口を守るために奮闘し
切り札の拳銃を出したってところか
まさか拳銃持ってるなんて思わなかったな
あいつそんな危ないやつだとは思わなかった
「ほら、みんなをロイ君らへんに集めて」
と桐谷にメンバーを集合させるよう言われたので
メンバー達に状況を報告するために半円に向かう
メンバー達の前に行くとみんな不安な顔をしている
「みんな、すまねぇ負けちまった……」
メンバー達はガヤガヤし始める
「じゃ、俺たちどーなるんすか?
ロイの下につくなんて嫌っすよっ!」
「斗真……その件については、ロイから話がある……
お前ら先行け、それと長岡、斗真ちょっと来い」
斗真、長岡を横に呼び
デストロンを離れることを話す
「まじっすか…………」
「あぁ、負けたら残っても
こんな本番に弱いリーダーいてもいなくても
同じってことだ……
斗真、お前はみんなを引っ張っていけるやつだ
恐らく、ロイはすぐに解散するだろう
空席になる頭をお前がやれ……いいな?
長岡、斗真とデストロンを頼むぞ」
任せろ と返しロイの前へ向かう長岡
お世話になりました と礼をいい後を追う斗真
ロイの近くに集まるメンバー達
それを後ろから眺める
達成感といかなんというか
卒業したときと同じような気持ち
それに近い気持ちが込み上げてくる
泣きこそしないものの
目頭が熱くなるのがわかる……
そして、ロイが話始める
「お前らはたった今からマスタングのメンバーだ!
いいな、リーダーは俺だ!!
よってリーダー命令は絶対だ!
逆らうやつは絶対に許さない、いいな!?
そして、今からリーダーとして命令を下す
マスタングは今日をもって解散する!
お前らは自由だ、あとは好きにしたらいい」
メンバーがまたどよめきだす
斗真と長岡はこちらを見て
やりましたよあいつ みたいな顔をする
そこでパンパンと二回手拍子が入る
やったのは桐谷だ
「さぁ、諸君は知っているかな?
君達の“元”リーダーは勝負の際に賭けをした
勝った方が220万ってな勝負だ
そして、彼は負けたんだ!
今現在彼は僕に220万の借金をしている
そして僕が紹介する仕事をしてもらい
220万を稼がなきゃならない
220万稼ぐなんて大変だろなぁ~
さてそこでだ……彼を助けたいと思うものは
ここに残りたまえ、それ以外はすぐ帰れ」
桐谷はいい終えた後、
驚いている俺を見てニッコリ笑う
くそ、なんだよ……いいやつじゃねぇかあいつ
しばらくすると100人近くいた人数が
20名ほどになっていた
その20人が俺の前まで来て
「なんで言わねぇんだ!水くせぇぞ!」
「そっすよ、もうちょい頼ってくれもいいっすよ」
「俺相沢さんに一生付いていくって決めてますから」
「相沢さん、俺も力ぁならしてください」
「俺もやります」
皆思い思いの言葉を掛けてくれる
俺は今まで生きてきてこれほど嬉しかったことはない
これほど幸せだったこともない
ほんとに良い仲間に出会えた……
涙が溢れだすのを見られたくなかったので
後ろを向き目を手で覆う
「みんなぁ…………すま…… ねぇ…恩にきる!」
鼻水と嗚咽が止まらない
これじゃみんなにバレちまう……
後ろからクスクス笑いや鼻を啜る音がする
その後ろからコスコスと歩く音がし
おい!泣き虫!と俺に言う桐谷が近づいてくる
俺は涙と鼻水を拭き、桐谷の前に立つ
「桐谷さん、ありがとうございます。
ここまでしてもらえるとは思わなかったです
これから一生懸命に働かせて頂きます」
「ふふん、ここいるメンバーこそが
君を慕い付いてきた
真のデストロンのメンバーってことだね
大事にしなよ!じゃ明日また連絡するよ!」
桐谷は片手を揚げ、2人を連れて帰って行った
「相沢さん、これからこのメンバーで走りませんか」
そうだな、今日走らないとまたいつこのメンバーで
走れるかわからないからな……
「おう、そうだな……
んじゃ今から40分後にいつもの公園集合な」
おいっす と声を揃え返事し
バイクを取りに帰る
みんなで大通りまで行きそこから別れた
道中では今までの思い出話に花を咲かせた
みんなでパトカーに追われたこと
殴り込みに行ったことや
斗真の彼女がかわいいのが悔しくて
みんなで悪戯したこと
他にも、なぜ俺が一人で
暴走族を殴り込みに行ったのか
なぜ集会には徒歩なのかとか
あんなに笑ったのはいつぶりだろう……
今日は色々あったが最高の夜になりそうだ
色々思い浮かべていると
いつの間にか家についていた
駐車場にあるバイクにエンジンを起動させる
みんなで走るのが楽しみで仕方ない
公園へ向けて発進する
その時の風はとても清々しいものだった
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
王都ロイド地区ダン・サリンジャー宅
やっと悪夢のような日々が幾分かましになる……
明日から普通のただの法学部の学生になれる
もう学院ではハバは効かせることはできないけど
それでも全然構わない
俺はもう2度とあんな危ないとこに
足を踏み入れないことを誓う
それにしてもあいつらなに者だったんだ?
ただの会社員ではなかった……
俺の想像のマフィアに近かったけど
たぶん、そんな組織なら親父は依頼しないだろう
まあいいや、終わったことだ
さて……いつから学院行こうかな
ちょっと前よりか少しだが
人生が楽しくなった
母さんが戻ってきてくれたら文句ないんだけどな……
こんなこと考えてても意味ないな
結局親父がなんとかするだろ
今日は疲れた、もう寝よう
明日起きたらまた良いことありますように……