剛人生 その1
ロックフェラー人材派遣会社 王都本部1階カフェ
階段をコツコツと早足で降りてくる足音が聞こえる。
降りてきたのは、クレアだった。
「んっ、出かけるのか?」
「そうよ、バカのせいで部屋の壁壊れたから
修理してもらう間、寿の家に泊まり込むのよ。」
「そうか、まあ気ぃつけてな。」
「ふふっ、私に気をつけてと言うのは
ボスかジャガぐらいよね。ありがと行ってくる」
まあ喜んでもらえたならよかった。
あいつはたまに可愛いとこあるんだがな。
まあ何も言うまい。
無駄の事考えず、本でも読もうか。
何人かお客が出入りし、正確ではないが20分ほど経ったあとにまた階段を下る足音がする。
さっき面接に来たお嬢さんだった
「マスター!採用されましたよー、マスターの
応援のおかげです、ありがとうございました!」
おっ、採用か。最近人採るようになったな桐谷。
カフェの人員を採用してもいい頃だと思うのだが。
「あれ?なんか難しい顔してますね?
私変なこと言いましたか?」
しまった、お嬢さんを困らせちまうとは
また桐谷におちょくられる。
「あぁ、なんでもない。考え事してただけだ。
心配ない。そうだ、採用祝いに一杯おごろう。」
「えっいいんですか。じゃあお言葉に甘えて」
エヘヘと笑うお嬢さんにカウンターに座るよう促しカウンターの奥にある厨房に入る。
厨房というほど大層な所ではない。
台所という表現のほうが正しいだろうか。
マスターと名乗ってはいるが、俺が厳選した珈琲豆をブレンドしたわけではない。
珈琲豆の配分も淹れ方もメモに書かれている通りにやってるだけだ。
できあがった珈琲をお嬢さんの前に出す。
「砂糖とミルクは?」
「いえ、ブラックで頂きます。
珈琲はブラックで飲まないと
本当の味がわからないと
先輩に教わりまして」
そうなのか、知らなかった。
だが、マスターとして知ってるように振る舞わねば
ビシッとサムズアップをかまして
「わかってるな、お嬢さん」
そこから珈琲豆や、家でも簡単に美味しい珈琲を
淹れる方法から始まり、お嬢さんの名前、
前の仕事場などの会話を交わした。
「東城、そういやお前のほかに2人の警官も
採用されてる。もしかしたら知り合いかもな」
「えっ…本当ですか。」
突然東城は暗い顔になった。
今まで笑顔を絶やさない子がどうしたというのだ。
まずい、話題を変えよう。
この会社のことは、だいたい知ってる。
この子の希望になるような話題を……
「東城、配属先はもう決まってるのか?」
「はいクレアさんとこに配属されるみたいです。」
また東城に笑顔が戻ったが、俺が苦笑いだ。
クレア
名前はボスにつけてもらったそうだ。
東の街バーナードで魔法科学について研究し、
そこで東洋の魔女の異名を持っていたらしい。
異名の由来はわからないがとりあえず
すごいのだと自慢してたのは覚えている。
性格は、まあ良くはないレベルか。
面倒見、仲間想いなとこはいいが
大きくマイナスなのがわがままなこと
そしてキレると怖いところだ。
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俺が初めて人材派遣会社で上司になった人がクレアだった。
おれが体格的に恵まれているのを良いことに
肉体労働に無賃で引っ越しの手伝い、
掃除、車の運転手、その他もろもろ。
過労で倒れた事もあったが、たいしたお詫びもなく
また仕事をさせようとする。
それでも我慢した。
正直もうブチキレそうだった。
前の職場では、キレて上司に本気で
ドロップキックしてしまい
大怪我をさせてしまった。
もうそんなことできない
俺にはボスとの約束があった。
この会社に入るための条件
“会社に入れば私達は家族同然。
家族には愛を持って接すること。
過去を反省し今を精一杯生きること。
もし誰かが家族の一員に暴力を振るうことがあればこれを持てる力を持って止めること。
もうあなたの拳はただ壊すための拳ではない
守るために壊す拳でありなさい”
この約束は死んでも守ることを拳とボスに誓った。
そして一度、ボルゾイへクレアと一緒に仕事で
行ったときに当時敵対していた企業の人間に
俺はケンカを売られた
だが俺のその時の仕事はボディーガード。
ケンカを買えばコイツを半殺しにするのは
簡単だがクレアやボルゾイ支部の人間たちにも
迷惑がかかるし、家族が傷つく可能性をつくってなるものか。
その頃、ボルゾイでは新参者の
ロックフェラー人材派遣会社……のフェイク企業
新参ながら、業績はかなりよかった。
同種の関係者達は自分達の利益が
少なくなるのを嫌がる連中もいて
ちょっかい掛けてくる奴もいた。
俺は自分の出来る限りの全力で謝った。
自分の態度や言動について、関係ないところまで。
ギャラリーもチラホラ集まりだした。
まずい、このままじゃ穏便にすますどころか
会社の評判も落としてしまう。
どーしたらいいかわからん。
相手に要求されるまま土下座まで
させられそうになったとき
俺の尻に蹴りを一発入れ
「あんたのとこの偉いさんに直接謝りにいくわよ」
「あんた、そいつの上司か。
いいだろう着いてきな、クヒヒ。」
と相手に案内させた。
この時からすでにクレアはご機嫌ななめだった。
汚いコンクリートにひびが入ったビルの隙間を
いくつか抜けて、また汚いビルの中に入り
事務所に通された。
俺らの周りには明らかな
敵意を視線を送り続ける社員もといチンピラ達。
その後ろで革製の椅子でふんぞり返ってる
豚みたいな男がここのトップだろうみた。
「あんたがここの偉いさんかしら。」
「ええ、そうですが。」
クソ、いけすかねぇブタだな
顔面掴んで窓の外に放り出してやりてぇ
「あんたに謝れってそこの男がうるさいから
謝りにきてやったのよ。
ほらジャガ好きなだけ謝んないさいよ」
はあ?なんて女だ!
そんな態度で許してもらえるわけないだろ。
バカにもほどがあるぞ。
このバカ野郎、こうなりゃやけだクソッ!
チンピラどもの前まで行き、空気を全力で吸い
「私どものせいで不愉快な思いを
させてしまい申し訳ありません!
今後とも良好な関っグア 」
いきなり後ろから鈍器で殴られた。
痛えなクソ、なんだあれ文鎮かあれ?
「気に入らないからあなた達二人には
教育を施すことにしました。
2時間もすればそこの女は私の女ですかねぇ
ブヒヒ……男のほうは興味ない八つ裂きに。」
クソ、やっぱブタじゃねーか。
男達がクレアの羽交い締めし、
一人が注射器を手に取りクレアに迫る。
クレアを助けてこの場から逃げ出せても
後がヤバくなっちまう。
ほぼ確実にボルゾイ支部は狙われることになる
クレアを助けて、支部が潰されるのを見守るか
クレアをほっぽりだして
支部のみんなを街の外に脱出させるか
俺はそんな頭のいいほうじゃない。
考えたっていいことなかった。
頭がよかったら上司に
ドロップキックなんてしない。
今だ軍の人間だったろう。
本能が命令するまま動く。
内容は
「クソッタレ共をぶちのめせ」
ガチンッと頭の中で音がした。
この感覚……久しぶりだな……
最小限の敵を無力化し、
クレアと共に脱出し
支部のみんなにも街を出るように伝える。
下手な手段だが
みんなが守る手段はこれくらいだろ。
クレアの方へダッシュする
目の前に立ち塞がる男が振るう
文鎮を手の平で受け文鎮を奪い
左のミドルに蹴りを一撃。
男は腹を抑え倒れ込む。
「どけやゴラァ、その人に手ぇ出すんじゃねー!」
注射器を持つ男の頭に文鎮をぶん投げてヒット
頭を抑える男のアッパーカットで意識を飛ばす
羽交い締めしていた男は羽交い締めを解き、
横からナイフで首を刺しに来る。
ナイフを左の裏拳でへし折り
右手で相手の顔面を掴み窓の外へ放り投げる。
クレアは首をさすり
「交渉してん失敗じゃない。どーすんのよ。」
と笑った。
「あぁ、そうだな…その通りだ……
俺の仕事はあんたを守ることだ。
そして入社の条件が家族を守ることだ。
もう支部のみんなが標的にされちまう。
早くみんなを街の外に出してやらねーと」
話をしてる時間がおしい。
早くみんなを……
クレアがハァーと溜め息を吐く。
「人に平謝りしてる時は、
どうしてやろうかと思って、
あたしを助けてに走った時は見直して、
また落胆したわよ。
まあいいわ、あんたの頑張りと心意気に免じて
あんたの先輩として特別に解決してあげるわ」
「ッ!できんのか、何するんだよ。」
「簡単よ、この会社邪魔なんでしょ?潰すのよ。
そしたら他も手が出しにくくなる。」
なに言ってんだ、
どこからそんな自信沸いてくるんだ
頭沸いてんじゃねーか
「あんたに出来るわけねぇだろ。
また俺にやらす気かよ。
俺はそんなことできねぇぞ。」
「はあ?あんたが私にはできないって
なんで決めつけんのよ。」
「あんたは命令しか能のない女だろーが、
勝手に人質取られるしそんなやつに
何ができんだ!?さっさとずらかろう!
「はぁー、ねぇジャガ……
私の嫌いなことはね、
雑魚に舐められることとね
限界を他人に決められことなのよ
まあ他にもあるけど」
「なに訳わかんねーこと言ってんだ!」
「あんたは私の家族よ、
ボスの家族はみんな私の家族。
だから嫌いなことされても
殺さないであげるわよ。」
抑揚のない声だ、クレアとは思えない。
「一応、私は雑魚の上司って立場だから
ケツはもってあげるわ。」
「あんたに全部解決させるために
なにもしなかったのよ。
期待はずれもいいとこだわ
会社はやめることね。
あんたみたいな役立たずの雑魚は
会社の看板汚すだけよ」
「ぶひゃああぁーー!!!
お前ら生きて帰れると思うなよ
お前らも事務所も無茶苦茶にしてやるッ!」
ブタが生き返ったかのように騒ぎだした
突然突風が吹き出し、
俺は吹っ飛ばされ2階の窓を突き破り
地面に叩きつけられた。
痛ッッってえぇぇぇえー
背中が痛すぎる。
なにがおこった!?突然風が吹いたのはわかった。
そっから全然わからん。
!!!!!!!!!!!!
俺らのいた2階が爆発した。
おいおい、あいつなにやってんだ!
爆破されたコンクリート片やガラスが降ってくる
危ねぇな!当たったら大怪我だぞ!
炎が吹き出す二階の窓からクレアが飛び出し着地。
いつの間にかクレアの手には杖があった。
俺の前まで来て背中を向け、
急に光だした杖を地面につける。
「魔法制御、第一式解除……『神の雷』」
キンッという音と同時に
空から青黒い雷が降りだした。
ゴォォォオオオン!!!
眩い光のせいで目を開けられず、耳もけたたましい轟音のせいでなにも聞こえない。
建物の破片や瓦礫は飛び散ったり、浮き上がったり
あまり景色は見えなかったが
とにかく無茶苦茶だった。
事務所がある区画が消し炭になった。
そしてそんな悪魔みたいな女は俺の方を向き
何かを話しているが全く聞こえない。
俺は女に飛びかかった
殺されると思った
己を守るために拳を振った。
気がつけば、ボルゾイ支部の談話室にいた。
自分の寝ているソファーベッドの右横にある
サイドテーブルの上には
フルーツバスケットがあった。
辺りを見回すと、貸し切りのようだ。
左横に視線を向けるとクレアがいた。
「あたしよりもフルーツに先に目が行くなんて
あたしはフルーツ以下なのかしら」
「おめぇよくも! ッ痛」
立とうとするが体が痛くて立てない。
なんだ俺が寝てる間になにしやがった!
「フフッ、まだ動けないわよ。
あたしがボコボコにしてやったもの。」
クソ、なに笑ってんだ。クソ痛いんだぞ。
でもなんだこいつの強さ。
ファンタジーよろしくな技
軍の人間にも使えるやつそうはいなかったぞ。
あの憎きゴールドマン大佐とか使ってたな。
ここは冷静に聞きたいことを聞こう。
「みんなはどこだ?」
「みんな支部の中にはいるわよ。
治療に専念するって出ていってもらっだけよ。」
んっ、俺重症だったのか、というか
重症にしたのこいつか
「あんたが俺をボコボコにしてから
何時間たった?」
「1日かかってないくらいかしらね。」
「その後に支部への攻撃、仕事の妨害は?」
「ないらしいわ……
なによあんた私に怒ってないの!?
あんたのことボロカスに言って
重症で動けないくらいボコボコにしたのよ。」
なにキレてんだよ……わけわからん
「……別にどーでもいいさ、
治してくれたならプラマイゼロだ。
それよりもなに者だあんた?
あんな化け物みたいなことできるのに……
もしかして軍の人間か?」
クレアは目を伏せ、声が小さくなる。
「やっぱりね、私は化け物で魔女
「そんで俺の家族だろ」
「えっ……」
「あんたは化け物で魔女かも知れんが
ロックフェラーの、俺の家族の一員なんだよ。
あんたブチキレても俺の事
家族って言ってくれたよな。
言われたのはボスぐらいだったよ
一瞬だが嬉しかったよ。」
「…………」
「俺はボスの約束破った。
もう俺にはロックフェラーの家族の資格はねぇ だから……ここにいることはできねぇ」
「えっ、出ていくの!?」
「あぁ、出ていく。ボスに顔向けできねぇよ
あんたは自己中のクソやろうだが、
家族のみんなを守ってくれた。
感謝してる。」
「…………ボスとはどんな約束したの……」
「守るために壊す拳になれと。
まあそれもできずあんたに手あげちまった。
逆にやられちまったがな……」
「あんた!勝手にやめるなんて絶対許さないわよ!
あのーあれだ……ほらボスとの約束よ!
そうよ自分を守るためにその拳を使ったのよ。」
急に怒鳴るし、なんだこのこじつけた理由は。
なに涙目なってムキになんじゃねーよ。
「なにわけわから
「あんたまた勘違いしてんのよ。
ボスが誰かのために何かしろって言う
人だと思ってんの!?」
確かにボスはそんなことは言わない。
優しい自己中心的な夢物語を本気で
実現させようとする人だ。
俺はそれを叶えさせてやりたかったのは確かだ。
それにボスはよく“自分のために”が口癖だった。
「それにまだ依頼は継続中よ、
私のボディーガード するんでしょ。
今は無理でも守りなさいよ!
命令よ、私を守りなさいッ!」
なんて自己中だ。
めちゃくちゃ言う。
俺が心に決めたことを無理矢理
ねじ曲げようとしてきやがる。
なんか引き止め方が強引すぎて笑えてくる。
こういうやつ結構好きだな俺
「……わかった。今はあんたの方が強ぇが
いつか必ず追い抜いて守ってやる
ボコボコに仕返してからな」
こいつを守り、約束を…
家族を守る拳を作るため強くなる!
俺のためだ、絶対強くなるぞ!
やってやろう!なんか燃えてきた!
「フフン、その意気よ。
あたしとあんたはタイプが違うから
接近戦、中距離戦を得意とする人に
付けてあげるわ。
しっかりしごかれてきなさい。」
「あぁ、頼む。あんた会社の偉いさん
だったんだな。」
「当たり前よ、私が口聞きすれば一発よ」
「脅すの間違いだろ……」
「うっさいわね、
私は軍の人間もといスパイじゃないわよ、
私は東洋の魔女であり、
ロックフェラー人材派遣会社
幹部のクレアさんよ。偉いさんなのよ。
それよりも……
あの、あれ、約束、守んなさいよ。じゃ!」
バタンとドアを閉め出ていった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
とまあ、こんなことがありクレアとは
良好な関係を続けてはいる。
配属されたのは鷹野と呼ばれる人のとこだった。
あの人のところで人生の中で一番しごかれた
毎日毎日稽古稽古、たまに仕事してまた稽古。
きつかったが、実に充実した日々だった
俺の一件以来、部下はとってなかったみたいだが。
今俺が心配なのは、この子がクレア2号になることが一番怖い。
自己中が増え過ぎるのは組織的によくない。
でも、今は東城を元気づけてやることが先だ。
「そうか、クレアか。あいつは厳しいが面倒見は
良いし、優秀なやつだよ。
今の東城にはちょうどいいな。
まあなんだ、期待してる頑張れよ。」
今言えるのはこれくらいか。
人使い荒すぎて部下が倒れたなんて言えるか。
「そうですか!私頑張ります。
ジャガさんの期待に応えまくりますよー
じゃあ私帰りますね、ご馳走様でした。
それではまた。」
東城はおじぎをし店から出た。
あの子が心配になってきた。大丈夫なのか……
采配は桐谷がやるから間違いはないんだろう
あいつそういう上手いからな
そうこうしているうちに閉店時間が近づいてきた。
閉店時間は午後6時。
前のマスターがこの時間を閉店時間に決めたので
これに従っているまでだ
実はカフェでの業務は、
ボスがロックフェラー経由で
俺に依頼してきた仕事だ。
人付き合いが苦手だった俺はこの仕事をすることで大分ましになったと思ってる。
ボスの話も長くなるのでまた今度だ
のんびり閉店作業をしていたら7時30分か。
ちょっとやりすぎたか。
そして自分の依頼が来てないか調べてもらうため
事務所の窓口へ向かった。