堂人生 その1
王都より北に数十キロ。
ぺトロの森、通称、魔の森。
「なんでこんな目に会わなきゃならないんだ。」
今俺は全力疾走している。必死こいて走っている。
王都から北の街へ走っている途中だ。
とてもじゃないが生き残れるとは思えない。
きちんと整備された道路などない。
危険だからだ、北の街へ行くための道には
獣はもちろんのこと
かなり危険な猪や熊な獣が
赤子のようだと思えるほどの魔獣が現れる。
そのため道を整備するための工事が
できないそうだ。
王都は俺らのいる大陸の南のほうに位置する。
言ってみれば、港街といったところか。
東にも、西にも街があるそうだが
まだ行ったことがない。
まあ王都生まれ王都育ちだからな。
ただ一つ言えるのは北の街が
この国で一番危険な街ということだ。
犯罪者などの危ないやつらが集まる街。
どうやらその街には法律がないそうだ。
俺はそんな街にいこうとしているのだ。
なぜ行こうとするのか…そりゃ仕事だ。
ロックフェラー人材派遣会社の仕事。
内容は荷物の運搬。しかも徒歩。
桐谷に回された仕事だ。
報酬の良さと桐谷への信頼から
二つ返事で受けてしまったことに
今さらながら後悔しかない……
飛んだら、契約金の10倍支払い
失敗しても2倍の支払いのルールがある
どちらにしても会社が儲かるようにできてる
それに支払いする金がなければ会社から
借りることもできるが
それでは会社に借金で縛られて
まともに生活できないと聞いた。
飛ぶならこの街じゃなく、
他の国に逃げなきゃならない。
じゃなきゃすぐ見つかるそうだ。
それにしてもふざけてる、
1日走りつづけても着かない。
そんな距離を走っている。
方向は間違っていない…
地図があってもあてにはならないが
一応携帯で現在地と目標の確認はとれてる。
考慮しないといけないのは距離だった。
完璧なリサーチ不足、悪いのは俺なんだが
先にいってくれても良かったろ!?
唯一の救いは月明かりのおかげで
まだ辺りが少し見えるくらいか。
数メートル先まではなんとか見える。
だから生き物がいれば遠回りして
目的地に向かっているにも関わらず
1日で三回も魔獣に襲われた。
一回目は赤い体毛の4メートルの熊
二回目は3メートルぐらいの白い狼
三回目は何メートルかもわからない蛇
クソ最悪だ。はやく街に着いてほしい。
もう魔獣なんかに会いたくない。
そう考える俺は走り続ける。
!?
ガシャガシャと草の音が聞こえた。
色んなところから音がする。
魔獣と遭遇したときと同じ雰囲気…
殺気に近い視線をいくつも感じる……。
今まで敵が1匹だから逃げ切れたが今回はヤバい。
何匹がどこにいるかも分からない。
どの方向へ逃げたらいいんだ?
八方塞がり…逃げ道がわからない
どこにいってもやられる
俺はどうすればいい
遠めで聞こえていた草の音も徐々に近づく。
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!
ガシャガシャする音が近くなってくる。
今回ばかりは…
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「ほれ、新堂仕事だ。」
「あいあいさー」
ドラグノフに似たライフル銃を構える男、
名前は新堂歩[しんどう あゆむ]。
眼鏡にスーツ。ビジネスマンのような格好している。髪は黒のオールバック。
護衛対象を守る仕事をするべく銃を構える。
木の上からターゲットを見据えた。
護衛対象の近くには5匹のハウンド・ウルフ
平たく言えば狼男が姿勢を低くして狙う。
「新堂は右の2匹、俺は左の3匹だ。
カウント3でいくぞ。」
新堂は、りょーかいっと返事し銃を構える。
3
2
1
ダンッダダダダンッ!!
初めと最後の銃声は新堂、間の3発が付き添いの男
「早過ぎっすよ、黒さん。」
黒さんと呼ばれた肌が褐色の男、
横を剃り頭天辺に短く切り揃えた髪、
海兵隊のような髪型。
体格はやや痩せ型、身長も180センチないほど
そしてこの男もスーツを着用し胸には金のバッチ。
「新堂もまだまだだな。
また帰ったら鍛え直してやるよ。
逃げたすんじゃねーぞ。」
黒はニヤニヤししながら新堂を小バカにする。
「あいあい、黒さんに近づけるよーに
しょーじんしますよー。」
バツの悪そうな顔で答える。
これが新堂の3回目の仕事。
運び屋の護衛するのが仕事。
実は研修のような任務である。
新堂の上司である黒の任務は暗殺。
新堂は彼から暗殺のイロハの指南を受けているのだ
黒曰くまだまだ、だが確実に素質はあるそうだ。
今回は護衛対象にも気付かれず
護衛することが訓練の内容である。
本来なら護衛対象にぴったりとつき護衛するのが
普通だが今回は暗殺の訓練。
護衛対象に気付かれず狙撃という点では
かなり上出来だとなはずだが
黒は合格点を出さない。
ターゲットに切り替えがいまいちだそうだ。
狙撃し終えたらすぐにその場を移動することが
狙撃の基本ともいえるが、
1回の狙撃に狙えるターゲットが1つだと
複数名の護衛がターゲットの近くにいた場合
生き残った護衛は狙撃者の位置の特定が容易になり逃走のリスクが増す。
あらゆる場面に備えられなければ
暗殺者の業界では大成しないと黒は言う。
新堂も悔しいながらも今の評価を受け入れ
次に生かすようだ。
彼が目指すところはある人物の暗殺。
まずは暗殺の腕を磨くため、今回の任務を成功させるべく、護衛対象に近づいていく。
そして仕事の概要を説明すると
ギャーギャー騒ぎ怒りを爆発させる護衛対象と
それをなだめる2人の姿があった。
月明かりしかない、暗い野道を賑やかに歩く。
今まで重々しい空気が嘘のように軽くなったのを
運び屋の男、川田は感じた。
そして、ボルゾイでも一山稼ぐ自分の想像し
嬉々としボルゾイへ向かう。
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悪党達の街ボルゾイ。
法律のない街は悪党達には
パラダイスと言われている。
その噂を真に受けボルゾイに入った者は
確実に後悔することになる。
力なき者は力ある者の食い物にされ、
その後の一生をボルゾイで過ごすことになる。
力あるものは街の魅力の虜になり
元いた場所に戻ることはない。
噂しか知らない者達は、あそこは危ない奴がいるがそれさえ避けることができばパラダイスと勘違いする。
楽しすぎて帰ってこないのだと。
弱肉強食こそがボルゾイでの唯一の法律。
この街の支部に荷物を届け新堂と黒と別れた後、
運び屋の男、川田は後悔することになる。