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恵人生 その1


珍しく目覚ましベルよりも早起きができた。

みなさんにもなかっただろうか?


前の夜から『やらねばならないこと』で

頭がいっぱいになり、

布団の中でウダウダしていつの間にか

眠りについていてた。


そして目が覚めると、自分が起きたかった

時間よりも少し前ぐらいに起きて

準備ができたことがあったはずだ。


自分の場合もそれからは

いつも通りに隣の部屋にある

冷蔵庫からコンビニで買っておいた

牛肉カルビ弁当をレンジで温めなおし、

ガツガツと食べて歯磨きをし、

寝癖を直し、部屋に一礼し、

目的を遂行すべく、

バス停までツカツカと歩いて行く。


自分の家からバス停まで徒歩10分ほど。

汚いボロアパートから出て、

細い道を何度か曲がり

広い国道沿いをバス停目指しただ歩く。


お気に入りの音楽『sleepwalking』を聞きながら

いつもと代わり映えしない景色を見て思う。

こんなつまらない世の中が夢だったらいいのに。




ほぼ満員のバスに乗り込み、目的の場所へ向かう。

目的の場所とは職業安定所である。

最近仕事を解雇されてしまったのだ。

今思えば、あっさり辞めてしまわず抗議すれば

よかったと思うが時すでに遅し。


車窓から流れる景色もつまらなく

ビル、ビル、マンション、ビル。

たまに飲食店ぐらいのもの。


バス停は職業安定所の近く

政庁前で止まり下車した。


政庁のすぐ近くにあるボロい建物。

レンガ造りではあるが

暗い印象を受けざるを得ない。



手入れのされていない木や、汚い看板、

安っぽい『仕事を探すなら~』と書かれた

ポスターが無職の負け犬を出迎える。


しかし自分には今自分は負け犬の1匹だ、

だが絶対大物になって、勝ち組になってやる!

という志だけはある。

勝ち組になることが自分の目標なのだ。


勝ち組とは?…金持ち?…権力者?…妻帯者?

自分の勝ち組のイメージは

もちろん金持ちであり権力者で、

妻帯者…は別にどっちでもいいな。


要は人が羨む者を数多く持っているものこそ

勝ち組の人間なのだと自分は思う。


そんな勝ち組になるべく

とりあえずはまた職につかねば…

とのことで職業安定所のドアを開いた。


入ってすぐ右に階段があり

2階が相談窓口になっている。


その上は関係者以外立ち入り禁止と書かれた

看板があり今はそれ以上は上がることはできない。


2階に上がるとすぐに広い空間にでる。

たくさんの椅子、10あるかないかの相談窓口、

そして50人ほどいる現在無職だが、仕事を探し

人生の勝ち組になろうともがく人達がいた。


自分はこのなかの誰ひとりにも負ける気がしない。


やる気は誰よりもあるし

努力してきた自信があった。


発券機の番号札を取りに行こうとすると前から

2人の男が歩いてくる、

右の男は第一印象ちょいワルのおじさん、

左の男は気品ある若者。


どちらもスーツ姿だが、

やはり仕事が見つかるから左の若者だろうと思う。



左の若者を避けるように右斜め前に進むが、

運悪く足を躓いてしまい

おじさんのの肩あたりにぶつかってしまう。


それと同時におじさんが激怒し叫ぶ

「人にぶつかっといてすいませんもないんか!

どーしてくれんだコラ!」


すぐにお詫びを言いたがったが先に言われてはどうしようもない。



頭の中でガチンッ!と音がした気がした。

最近よく聞こえるんだがなんなんだ?



だが気のせいだと思い行動にうつる。


自分はおじさんに近寄り、

おじさんの胸ポケットに

一万円を滑り込ませ軽く言う。


「すいません、これで上手いもんでも

食べてください。」


自分の中でかっこいいランキング2位に入る

行為をする予定であった。


だが、それを若者がやってしまった。

自分が女の子だったら惚れるほどかっこよかった。

しびれる憧れるレベルでやってのける。


ちなみに彼は5万円ほど入れたように見えたので

格の差を見せつけられてしまった



おじさんは気をよくして帰って行き、


「すいません、助かりました。」と

心にも思わないことを言ってしまった。


自分で対処できる自信はあったし、

恥ずかしいけれど

あの行為をできる自信もあった。


若者はクスクス笑って言う


「思ってもないこと言うね、

全然そんな目はしてないよ、君。

んっ?仕事探してるならいい仕事あるよ、

話だけでも聞いてみない?」


まさか仕事をやる立場の人間だとは

思わなかったので素直に驚いた。




それに自分を見た時の目…

ゾワッと鳥肌がたつほどに怖い目をする若者を

二十数年生きてきたが見たことがない。


この若者になにか興味と似たような

感情が芽生えつつあった。


タメ口なのが若干腹立つが

いい仕事をもらえるなら文句は言うまい

5万円のこともある。


彼は窓口の女性に話しかけると

自分の情報が載った資料を渡されて

女性は3階に行くように促す。


彼の後ろに続き歩き、3階に行くと

ドアが向かい合わせになってズラリと並んでいる。


全て個室で仕事の契約を行う時に使う。

部屋の中は別段きれいなわけではない。

机に椅子が4脚、パソコンぐらいのものだ。


彼は向かいに座り、自分の経歴に目をサラッと

通していき途中で止まる。


「恵口君かぁ、学歴はこれと言って普通だね。

おっ、昔警官だったんだぁー。

ぽいねぇー警官ぽいよぉー」


ケラケラと笑い質問をしてきた。


「2年で解雇されてるけどなんかあったの?」


やっぱり聞かれた、

いつも聞かれるし正直答えたくないのだが、

答えるしかないな。


「自分は警察のありかた自体に不満を持ちまして

上司に相談したところ、口論になりまして、

ドロップキックをしてしまい解雇されました。」


彼はまた笑い

「はっはっは!僕の知り合いにも

そんなやついるよ 気に入った。

君にはイベントの警備を

やってもらうつもりでいたけど、

もっと良い仕事あるよ。うちに来ないかい?」


これまたビックリした。社長さんだったようだ。

ベンチャー企業の社長だろうか。

でもいい人に巡り会えた。これはチャンスだ!

チャンスに回ってきた嬉しさに胸が踊り


「はい、よろしくお願いしますッ!」と


言ってしまった。そう言ってしまった。


「そうかい、よかった。

まだ名前言ってなかったね

僕は桐谷だよろしくね。また連絡するよ。

あっ連絡先聞かなきゃ連絡できないね、

番号教えて。」


これで連絡先を教えていなかったら、

この気のいい若者と出会わなければ…


ここから今までの日常が夢だったかのように

激変してしまうことになるとは…




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