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プロローグ
◆ ◆ ◆
―――『間もなく当機は着陸いたします』
飛行機の中でアナウンスが響く。窓に映る一面の青景色にあった意識がこちらに戻ってきた。頬杖をついていたせいか手が軽く痺れていて、少し痛い。ビジネスクラスの席にいるからと言って、機内は快適なわけではないようだ。
「斎様」
と突然の声に振り向くと、女性乗務員がいた。
「斎理央様」
名前を呼ばれ、間違いなく自分自身が呼ばれていることを再確認したので、『なんだ』と不愛想に返そうとしてハッとした。
―――今俺は斎家の人間としてここにいる。
そう、今俺は俺じゃない。自分を殺さなければならない。この飛行機に乗った瞬間から、昨日までの斎理央はもういない。
「何でしょうか」
丁寧な応答。
「間もなく着陸致しますのでベルトの着用をお願いします」
相手の笑顔に、
「わかりました」
笑顔を向ける。これが操り人形と化した今の俺だ。
乗務員は『し、失礼します』と急いで引き下がっていった。俺はベルトを着用すると再び窓の外へと目を向ける。窓は一面真っ白だった。自由を亡くした俺を自由な雲が嘲笑うかのように青を隠していた。