私のファッショニスタ
韓国と日本の遠距離恋愛を描いた小説。
主人公の日本人の彼女ヌナ(韓国語で「お姉さん」)と、韓国人のジヨン。
ふたりのあったかエピソード。
あれも持った、これも持った!
確認よし!!
抜かりなしっ! 完璧!!
ぎゅううぅぅ~.....ぐぐっ...
「ちょっと、全然閉まらない!」
楽しみしていた彼との一泊旅行の準備の為、どんな服を着ようか?
お化粧は彼が起きる前には完璧に仕上げていたい!
服が汚れてしまったらどうしよう?予備がいるよね??
何てことを考えてたら、いつの間にか『何泊するの?』ってぐらいの荷物になってしまった。
「やっぱり減らそう……」
しぶしぶと荷物を減らそうとしたが、何を減らせばいいのか、もはや分からない状態……。
その時スマホのアラームが、もうすぐ家を出ないと間に合わないよ~?と私に教えてくれる。
「ちょっとマジ? もうそんな時間!?」
仕方なくカバンの上に勢いよく馬乗りし、無理やり閉めると(カチャ)とカバンから軽い金属音が鳴った。
「やったぁ! 閉まった!!」
重いカバンを持って、やっとの思いで待ち合わせの空港に到着した。
いつも空港には彼よりも早く着くようにしてる。
彼を待つ時間が幸せで、いつもソワソワこの後の出来事を想像しては、にやけるのが私の楽しみなのだ。
ワールドワイドで働く彼はとても忙しく、なかなか日本には来れないから、毎日のメッセージは欠かせない。
電話も毎日したいけど、私の仕事の都合や彼の都合が合わないといけないので、毎日出来ないのが寂しい所……。
でも、今日はやっと会える!
この日をどれだけ楽しみにしていたか。
「前回会った時よりも綺麗になったね」
そう言われたくてダイエットもしたし、彼好みの化粧も洋服も選んだつもり。
以前、ふたりで撮った写メを見ながらワクワクしていると
「わっ!」
いきなり背中をトンっと叩かれて、びっくりして持っていたスマホを落としそうになった。
「びっくりした?」
久々に聞く、電波を通さないシュガーボイスにドキドキしながら振り向くと、そんな声にぴったりの可愛い顔が、こちらを見てにっこり微笑んだ。
「もう、ジヨン! 凄くびっくりしたよ!」
「何見てたの? すっごいニヤニヤしてたけど?」
ふいに携帯を取り上げられ、慌てて取り返そうとしたけど、高く腕を上げられてしまい、私の身長では届かない場所まで引き離されてしまった。
「ふぅん……」そう言った彼はこちらに振り向き、ニヤリと笑みを浮かべている。
「僕の写真見てニヤニヤしてたんだ~!そんなに待ち遠しかった?」
彼がわざとイタズラっ子のように質問をしてきた。
「ちょっ……! もう……」
図星を突かれて、きっと私の顔は真っ赤だ。
頭から湯気が出ているんじゃないか?って程に顔が熱い。
「そっか、そっか!」
満足気に彼が私の頭をワシワシ撫でた時、彼が何かに気付いたのか「ん?」と声を上げ、怪訝な表情を見せた。
——え!? 私、何か変!? 何か付いてる!?
「……何?」
焦りながら彼に質問をすると
「ねぇ? ヌナ最近、何か変わった事でもあった?」
彼が逆に私に質問をしてきた。
「え? 何も無いよ? どうして……?」
「いや……じゃあいい」
彼は歯切れの悪い返事をすると、私の肩を抱き寄せ無言で歩き始めた。
——何だろう……?
何かおかしな所でもあったかな...?
モヤモヤしながら私の車へ向かうと、彼は沈黙のまま荷物を乗せ、そのまま助手席に深く腰を降ろした。
そんな彼の行動が気になりつつ、私も運転席に乗り込んでエンジンを掛けようとした時、さっきからずっと黙ったままだった彼が、急に私の顔を両手で掴みじっと見つめてきた。
「やっぱりヌナ、何かあった! 絶対~!!」
——ええぇ~!? 何それ!?
「何も無いってばっ!ホントに!」
何が何だか分からないまま答えると、さらにじっと見つめてくる彼。
「だって、ヌナ……会わないうちにすっごく可愛くなった……何だか前と化粧も違うし、いつもと何か違う。何で? もしかして……」
彼のチャームポイントでもあるベビーフェイスの大きな瞳が、急に不安そうに影を落とす。
そんな彼を見て「ぶっ」と思わず吹いてしまった。
すると急に吹いた私にびっくりしたのか、彼はキョトンとした表情で目を丸くさせている。
「あはははっ!! もうダメ~! あはははっ」
「な……何だよ!」
爆笑した私を見て、彼は少しムスッとした顔を見せた。
「ごめんごめん、違うの~、あのね、あははっ!」
「もういいっ!」
彼はぷぅっと頬を膨らませると、ふいっと反対を向いてしまった。
「ごめん、違う、ごめんね?聞いて?」
腕をグイグイするけど一向にこっちを見ない彼に、誤解を解くため笑った理由を伝えた。
「前に会った時よりも、ジヨンに可愛くなったねって言ってもらいたくて、ダイエットしたり化粧も変えてみたの……」
そうは言ってみたが沈黙は続き、気まずい空気のまま彼の様子を伺う。
すると彼は急に振り向き
「ヌナーーーーっ!!!」
と私を呼んで、甘えるように抱きついて来た。
ちょっとびっくりしたけど、子供のように抱きついて来た彼の柔らかい髪を撫でて、作戦が成功した喜びと、可愛い彼が心配して不安になってくれたことに胸がキュンとなり、さらに愛おしさでいっぱいになった。
ゴロゴロと甘える彼が顔を上げ
「でも、これ以上可愛くなったらダメだからね! 心配でほっとけない。ヌナのこと、外に出せなくなっちゃう~」
まるでハムスターみたいに可愛く、心配気な顔をしたもんだから、またまた吹き出してしまった。
「どうして笑うの!?」
また彼は膨れっ面をする。
「私って幸せ者だなぁって……嬉しくなって!」
私が笑顔でそう答えると、彼は穏やかな笑顔を浮かべた。
「ヌナ……」
彼の顔が近付き、私のおデコに軽くキスをする。
そんなことでさえ、私の心臓は跳ね上がるようにドキドキが止まらない。
韓国人の彼は、世界で活躍するモデルだ。
なので顔はもちろんのこと、スタイルやファッション全てにおいて完璧。
フリーのカメラマンとして働く私が初めて彼と会った時に感じた衝撃は、今でも鮮明に覚えている。
彼が用意された衣装を身に纏う度に、まるでこの洋服たちは彼に着てもらう為だけに作られたのでは……? そう思ってしまう程、全て完璧に着こなしてしまうのだ。
彼の魅せる表情、そして洋服の魅力を最大限に生かす動き……その全てをカメラに納めたいという気持ちで一心不乱に撮り続けた。
私が今まで生きてきて、この世の中にこんなにも可愛く、そして異彩なオーラを放つ男性が存在するなんて、彼に出会うまでは有り得ないとまで思っていた程だったのに、まるでおとぎ話から現れた王子様かのように一瞬で私の心を掴んでしまった。
彼の魅力は、それだけではない。
仕事柄、英語や日本語も一通り喋れるけれど、特に日本語を喋る彼の独特のイントネーションが、私的には可愛らしくてたまらないのだ。
それにいつもは派手な衣装を身に着けたりしている彼が、私と会う時だけはそんなに派手にはせず、いたってシンプルな服を選んで来てくれている。
今日の服装だって、黒いTシャツにジーンズの至ってシンプルな格好。
初めてのデートで、いつも通りの派手めのファッションで歩いていると、案の定すぐにジヨンだってバレてしまい、一瞬で人集りが出来てしまった。
私がその状況を遠くから見つめている……。
なんて状態になってしまったことを、とても申し訳なく思ったらしく
「ヌナとの時間は大切にしたいから」
と言って、あえてシンプルな服装で会うようになった。
だけど、シンプルな服装を選んでいるのにもかかわらず、彼から放たれるオーラはやはり世界のファッショニスタなんだなぁ~と、つくづく実感してしまう。
私は彼の職業柄、人集りが出来ても仕方が無いって理解もしていたし、着たい服を着れば良いと何度も説得したんだけど、頑なに聞こうとしないのは、私を本当に大事に想ってくれている証拠なんだと……。
私はそんな優しい彼が大好きなのだ。
「行こっか」
そう言って車を出し、予約をした人里離れた山奥の温泉宿へ向かった。
チェックインをして部屋へ案内されると、純和風の素敵なインテリアと、その奥の窓の外に広がる一面緑に囲まれた景色に
「スゴイ、スゴイ! ねぇ、ヌナ見て? このインテリアすっごく良い! あっ、こっちも! あっ、ホラホラ外の池に綺麗な魚がたくさん居るよ!」
まるで子供のように大興奮するもんだから、散々悩んだ結果やっぱりここにして良かった、そう思って自然と私の顔も綻んだ。
「ここね、温泉が凄く素敵なんだって」
「ホントに!? よしっ! 入ろう」
そう言って彼が荷物を出し始めたので、私も用意しようとカバンを開けようとすると
——ん? 開かない……。
私のカバンの鍵が、ガッチリとロックされたまま開かない。
——もしかして、無理やり閉めたから……?
ヤバイと思い、力任せに開けようと奮闘していると、その様子に気付いた彼が声を掛けてきた。
「ヌナどしたの? もしかして開かないの?」
「うん……」
「開けてあげるからどいてて」
私が少し横にズレると
「ふぬぬぬぬ~……」と彼は指先に力を入れている。
ぐぐ……ぐぐ……カチャ……
開いた! と思った瞬間、中の荷物が溢れ返り、辺りは見事な大惨事……。
着替えや化粧道具に囲まれた彼が、あまりの惨状に呆気に取られている。
私は慌てて
「ご、ごめんね! すぐに片付けるから……ありがとう」
彼にお礼を言って、慌てて洋服などを片付けようと手を伸ばしたその時……。
「ヌ~ナ~!!!! 何なのコレは!? 一泊なのに何でこんなに!? 洋服も詰め込み過ぎてシワになってるじゃん、これじゃ洋服が可哀想だよ!」
「ひいぃ! ごめんなさいぃ~!!!!」
やはり彼はファッショニスタなだけあって、洋服をとても大切に扱っている為、私のずさんな性格にかなりご立腹のようだ。
「まったく……早く片付けるよ?」
反省した私を見て、何とか彼の怒りは収まったようだ。
散らばった物を拾いカバンに入れていると、背中を向けた彼がじっと何かを手に持って見つめていることに気が付いた。
「ん?」
何を持ってるのか気になり、後ろからそっと覗き込むと、彼は私の下着を持ったまま固まっている。
「ひゃあっ! ジヨン!? ちょっと、ダメー!」
焦ってすぐに取り上げると
「ヌナ……すんごいえっち!」
そう言って振り返った彼が、またまたイタズラっ子のようにニヤリと笑った。
「ひゃあああぁぁ~!!!!」
すっごく恥ずかしくて、いてもたってもいられなくなり
「温泉行ってくる!」
慌てて荷物を取り、彼を残して部屋を飛び出した。
——もう本当に恥ずかしかった……。
温泉に浸かりながら、さっきの彼の表情を思い出し、恥ずかしさがまた込み上げてくる。
せっかくの旅行だからと、意気込んで買った下着をまさかのあのタイミングで見られてしまうなんて……。
「彼はさっきのどう思ったのかな? 誘ってるって思われたかな……?」
ふと、この後の夜の展開を妄想してしまい、カーっと顔が熱くなってきて、ドボンとお湯の中に顔を浸けた。
「ぷはっ!」と顔を上げ、ふるふると顔を横に振る。
頬を両手でペチペチ叩いて邪念を取り除き、彼の待つ部屋に戻ることにした。
温泉から戻ると、すでに彼も部屋に戻っていて
「ヌナ~、これどうやるの??」
部屋に置いてあった浴衣が、どうやら気になったらしい。
だけど、いざ羽織ってみたがいまいち着方が分からなかったのか、彼は浴衣と悪戦苦闘しているようだった。
「これはね、こうするんだよ?」
ささっと彼の腰に帯を巻いてあげると、彼は鏡の前で初めての自分の浴衣姿を嬉しそうに見ている。
「素敵」
彼の完璧な着こなしに、自然と本音が零れた。
「そう? 似合ってる?」
「うん! すっごくカッコイイ!」
「ありがとう」
本当に何でも着こなしてしまう彼に、思わず見惚れてしまう。
「ヌナは着ないの? これ」
ぼーっと見つめる私に、笑顔の彼が質問をしてきて我に返った。
「そ……そうだね、せっかくだし着ようかな」
「じゃあ、今度は僕が着せてあげるね~♪」
そう言って、彼は嬉しそうにいそいそと私の分の浴衣を用意し始めた。
「いいっ! 自分でするから~!!!!」
そんな彼の手から急いで浴衣を取り上げる。
「……ケチ」
「ケチでけっこうです」
隣の部屋で着替えを済ませ、彼の待つ部屋に戻ると、私を見た彼が満面の笑みを浮かべた。
「ヌナ、すっごく可愛い!」
「何だか照れ臭いね〜……」
「せっかくだから、ふたりで浴衣の写真撮ろうよ」
「任せて」
カバンから一眼レフを取り出した時、こっちへ歩いてきた彼がスっと私の手からカメラを取ると、唇にそっとキスをしてきた。
フワリと彼の愛用しているシャンプーのムスクの香りに包まれて、幸せな気持ちになる。
『カシャ!』
「え?」
突然シャッター音が鳴って、驚いて目を開けると、一眼レフ片手に彼が満足気な表情をしている。
「ヌナの可愛い顔撮れたよ」
「ば……ばかー!」
「あははっ! ヌナ、怒った顔も可愛いね」
彼は、追い掛ける私をうまくすり抜け、たくさんカメラのシャッターを押し続けている。
「もー! やめてよー!」
「やめなーい!」
その後もたくさんの写真をふたりで撮ったりして、楽しい時間を過ごしていると、あっという間に夕食の時間になってしまった。
部屋に食事が運ばれ、山菜の天ぷらや川魚、牡丹鍋、ふたりで美味しい料理に大満足し、お腹もいっぱいになった所で旅館の庭園に、少し散歩へ行くことにした。
昼間はもう夏のように暑いが、夜になると少し涼しくなり、肌を吹き抜けていく風がちょうど心地よい。
お揃いの浴衣を羽織り、肩を並べて歩くこの瞬間がとても幸せでたまらない。
街灯に照らされて出来たふたりの影が、仲良く並んでいるのを見て笑みが零れた。
だけど、明日にはまた彼が韓国に帰ってしまうんだ……という現実が、ふっと心をよぎっていく。
胸がギュッと苦しくなった……
——このまま時が止まってしまえば良いのに……
幸せな時間が増える程、会えなくなるのが辛くなる。
最初から分かっていたのに。
でも、寂しいなんて口にしたら、優しい彼を困らせてしまう。
彼の大切な仕事の邪魔をしたくない。
負担になりたくない。
私は彼の一番の理解者でありたいから。
「ヌナ? どうしたの?」
私が黙って考え込んでいたので、彼が心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「ううん、何でもない」
私が笑顔を見せると、少し安心したように目を細めて微笑む。
「ヌナ、僕ね、やりたい事あるんだ~」
「え? 何?」
「もっとね、上を目指そうと思う。今じゃ全然物足りない! もっと凄い男になって、世界中の人達に認められようと思ってる」
「そっか……」
——あぁ、この人は本当に凄い。
今でも充分世界で活躍しているのに……。
彼がキラキラと輝く瞳で話せば話すほど、どんどん遠くへ感じてしまう。
一番の理解者でありたい。
その気持ちに嘘はない。
だけど本当に私なんかが彼の隣に居てもいいのか……?
ただひたすら彼を好きだという気持ちだけで、才能も何も無い私は、本当にこのままでいいのかな……?
急に胸が締め付けられ、不安の影が私を襲ってくる。
彼が希望の光で輝き、その後ろに出来た影の中で、私は必死に置いて行かれないようにもがき苦しんでいる。
「ジヨン、頑張って! 応援してるからね」
そう言って精一杯の笑顔を見せると、彼は頭上高くにある月よりも素敵な笑顔を見せた。
朝起きると、彼はまだ横でスヤスヤと寝ていた。
——可愛い寝顔……。
整髪料を付けていない髪は、朝日の光で彼の白い肌に溶け込むように美しい輝きを放っている。
まるで天使のような寝顔を慈しむように見つめていると、私の目から大粒の涙が零れ、彼の頬で弾けた。
「……ん」
天使は目を覚まし
「ヌナ……? どうしたの? ……泣いてるの?」
眉を顰め、心配そうな表情を浮かべる。
「ううん、アクビしたら涙が出ちゃった」
「そう……?」
彼が少し安堵の表情を見せ、私の髪をワシワシと撫でた。
私をいつも包み込んでくれる優しさが、その大きな手が……すべてが愛おしくて、そっとその手を取りキスをした。
「いいってば~!!!!」
「ダメ!」
「帰るだけだし~」
「ダメだって言ってるだろ?」
さっきからこのやり取り。
彼は私のカバンに入りきらない荷物をどうしても郵送すると聞かない。
私の車が小さい車だから、カバンとお土産で後ろは埋まってるし、洋服が可哀想の一点張り。
こうなると彼はとても頑固になるので
「分かったよ……」
渋々と彼の意見に従うと
「よろしい!」
フフンと勝ち誇った顔付きをする彼。
「じゃあ、郵送してもらってくるからね? 動いちゃダメだよ? 変な人に声掛けられたら、すぐに逃げるんだよ?」
と言い残し、荷物をひょいっと持って去っていった。
「子供じゃ無いんだけど……」ふふっと笑みが溢れる。
空港まで車を走らせ、彼が搭乗ゲートの近くまで行くと
「ここまででいいよ」
そう言って立ち止まると、彼はニコッと笑った。
「だって、まだ時間あるし……」
「僕がヌナのこと、見送りたいから」
そう言って私を力いっぱい抱きしめ、頭をワシワシと撫でると
「ほら、早く行って?」
と可愛い笑顔を見せた。
「……うん」
「また連絡するから!」
「……うん」
後ろ髪を引かれながら彼に別れを告げ、ため息をついてドアを開けて車に乗り込む。
シートベルトを着けようと手を伸ばそうとした瞬間、我慢していた涙が溢れ出す。
大粒の涙がボロボロと零れ、私の顔はぐちゃぐちゃになった。
本当は寂しい。
もっと会いたい。
声が聞きたい。
抱きしめてキスがしたい。
大きな手で優しくワシワシされたいよ。
そう思う私は、わがままなのかな...?
もう何が何だか分からなくて、止まらない涙をただただ拭うことしか出来なかった。
車の中で彼が乗った飛行機が飛び立つのを見送り、私は家路に着いた。
何もする気にもなれず、ソファに寝転がる。
——昨日の今頃は、彼と楽しい時間を過ごしていたのに……。
ジワリと涙が込み上げてくる。
しばらくするとインターホンが鳴り、宿から送った荷物が届いた。
洗濯しなきゃ……そう思い荷物を開けると、見覚えのない小箱が入っていることに気が付いた。
「何だろう……?」
箱を開けると、とても綺麗な指輪が入っていて、それはキラキラと眩い輝きを放っている。
びっくりしたのと同時に、小さく折られた手紙らしき物が入っていて、私は急いでその手紙を広げた。
『ヌナ、いつも寂しい思いをさせてごめんね? なかなか会えないことを、ヌナがずっと我慢してることも知ってる。
電話を切る時の数秒間の間が、いつも僕にそう伝えていたよ。
でも僕はいつでもヌナのことを想っているよ。
サランヘヨ、ヌナ』
膝から崩れ落ち、声を荒らげて泣いた。
いつも私のことを気遣って、優しくしてくれる彼が好き。
凄く忙しくて、電話だって無理して睡眠時間を削ってくれていることも分かっていたつもりなのに……。
私は、私が寂しいという気持ちだけでいっぱいだった。
彼も同じように寂しい思いを抱いてくれていたはずなのに……。
自分の心の小ささに息ができないほど胸が苦しくなった。
しばらくするとまたインターホンが鳴り、涙を拭い外に出たが誰も居ない……。
いたずらかと思いドアを閉めようとすると、ドアの反対側から
「大きな荷物が届いてますよ?」
ひょこっと、さっき見送ったはずのベビーフェイスが顔を出した。
「え? ジヨン……何で?」
余りにも唐突な出来事に、思考回路が追い付かずにいると
「ヌナ、僕やりたいことあるって言ったでしょ?」
彼は笑顔で私に問い掛けた。
「うん……」
「今じゃ全然物足りない、世界中に認めさせるよ」
「うん……」
「凄い男になる為に、僕の傍に居て欲しい。
僕にはヌナが居ないとダメなんだ。だから、迎えに来たよ。ヌナ!」
私のファッショニスタは眩しい笑顔を見せて、私の中の影を一瞬ですべて吹き飛ばした。
彼は、幸せの涙を零して泣いた私の頭を、大好きな大きな手で優しくワシワシと撫でた。




