「婚約○き」←五十音全て入ることが明らかになりました
【あ】
黒髪で切れ長の眼を持つ伯爵令息ベルフ・オーソンと金髪セミロングの伯爵令嬢エアルナ・マベーラが、道を歩いていた。
ベルフが並木道を眺めながら、ささやく。
「エアルナ、紅葉が美しいね」
「そうね、ベルフ」
「こんな季節にこそ、君に言いたい言葉がある」
「え?」
ベルフはエアルナに向き直り、まっすぐに言葉を紡いだ。
「婚約しよう」
「はい……!」
『婚約秋』
***
【い】
ある日、ベルフが言う。
「エアルナ、俺たちが婚約を交わした時にサインした書面はどうした?」
エアルナが答える。
「あ、いっけない。間違えてどこかに遺棄しちゃったかも!」
ベルフが慌てる。
「おいおい、あんな大切なもの捨てるなよ!」
「ごめんなさーい!」
エアルナは舌をペロリと出して謝った。
『婚約遺棄』
***
【う】
海岸で、エアルナが釣りをしている。
ベルフが後ろから声をかける。
「おっ、釣りをしてるのか」
「ええ」
ベルフが水面にある浮きを見る。
「あの浮きはもしかして……」
「婚約した時、あなたがプレゼントしてくれた浮きよ」
「エアルナ……!」
自分のプレゼントを使ってくれているエアルナを見て、ベルフは喜んだ。
『婚約浮き』
***
【え】
ベルフとエアルナは、列車に乗り、並んで座っていた。
暖かい気候もあり、二人ともウトウトしている。
車内アナウンスが流れる。
『次は~婚約~、婚約~。お降りのお客様は忘れ物にご注意ください』
二人は慌てて立ち上がる。
「やべっ、次で降りないと!」
「乗り過ごすところだったわね!」
『婚約駅』
***
【お】
昼下がり、ベルフとエアルナはカードゲームに興じていた。
エアルナが竜の描かれたカードで、攻撃を仕掛ける。
「プロミネンスドラゴン、火炎ブレスよ!」
しかし、ベルフは――
「罠カード『婚約』発動! 俺のモンスターとお前のモンスターは婚約するから、その攻撃は無効だ!」
「なんですってぇ! 罠カードを置いていたなんて……!」
『婚約置き』
***
【か】
エアルナが、ベルフに果物を手渡す。
「お、なんだこれ?」
「新種の柿よ」
「いただきまーす! お、甘くて美味いな! 名前は?」
「婚約柿って言うらしいわ」
『婚約柿』
***
【き】
ある日、ベルフとエアルナは大喧嘩していた。
「このバカ女!」
「このアホ男!」
二人は息を荒げながら睨み合う。
「お前との婚約、どうやら考え直した方がよさそうだな……!」
「そうね!」
『婚約危機』
***
【く】
花壇でエアルナが植物に水を与えている。後ろからベルフが声をかける。
「へぇ~、珍しい植物だな。特に茎が美しい」
「でしょう? 茎の美しさでは世界一なんて言われる植物なのよ」
「ところで、この植物の名前は?」
「婚約って言うのよ」
『婚約茎』
***
【け】
ベルフが叫ぶ。
「エアルナ、俺と婚約してくれ! けきーっ!」
エアルナが叫び返す。
「いいわよ! けきーっ!」
「けきーっ!」
「けきーっ!」
「けきーっ!」
「けきーっ!」
しばらく奇声を発し合うが、我に返ったベルフがつぶやく。
「なぁ……まだ九文字目でこのザマってどうなんだ?」
「ベルフ、それは言わないお約束よ」
『婚約けき』
***
【こ】
ベルフが告白をする。
「エアルナ、お前に婚約を申し込……コォォォォォ……」
独特の息の吐き方をするベルフに、エアルナが解説を加える。
「あれは……プロポーズの成功率を上げるとされる伝説の呼吸法だわ! まさかベルフが会得していたなんてね……」
『婚約呼気』
***
【さ】
ベルフが大きなチーズを持っている。
「よし、チーズを二つに裂こう」
ところが――
「あら、チーズが変な裂け方をして、婚約って文字になっちゃったわ」
エアルナは目を丸くした。
『婚約裂き』
***
【し】
エアルナがベルフに話しかける。
「ベルフ、この間コンサートやったんだって? どうだった?」
「“婚約行進曲”って曲の指揮を担当したよ。大成功だった」
「おめでとう!」
『婚約指揮』
***
【す】
お茶をしながら、エアルナが笑う。
「私ね……“婚約”って言葉、大好きなの!」
ベルフも笑顔で答える。
「俺もさ! “婚約”大好き!」
「“こ”で始まり“く”で終わる! 言葉の響きがいいわよね~」
「ああ、座右の銘は“婚約”にしたいぐらいだ!」
『婚約好き』
***
【せ】
ベルフとエアルナが二つ並んだ席を見つける。
「なんだこれ?」
「婚約者同士が座る席だって」
「へぇ~、座るとそのカップルは幸せになれる、みたいな言い伝えがあるとか?」
「別にないんだって」
「ないのかよ!」
とりあえず、二人は席に座った。
『婚約席』
***
【そ】
エアルナが息を弾ませて、走ってきた。
「ベルフー!」
「エアルナか。どうした?」
「曽木さんが婚約したんだって!」
「曽木さん!? あの東方の国から、我が国に引っ越してきたっていう曽木さんか!」
「めでたいわよね~」
「ああ、今度曽木さんにお祝いを贈ろう!」
『婚約曽木』
***
【た】
ベルフとエアルナは大きな滝を見に来ていた。
「婚約者と見る滝ってのもいいもんだな」
「本当ね」
「俺たちも滝のように、高いところから落ちても大丈夫なカップルになろう!」
「……まず落ちたくないんだけど」
『婚約滝』
***
【ち】
ベルフが報告する。
「俺の知り合いが婚約することになったよ」
エアルナはふと思い出したように言う。
「そういえば、知り合いって、“知己”とも言うわよね」
『婚約知己』
***
【つ】
夜の庭園で、ベルフとエアルナは空を見上げる。
「月が綺麗だな……エアルナ」
「本当ね、ベルフ」
「愛する婚約者と見る月は格別だ」
「……もう。ベルフったら」
エアルナは顔を赤らめる。
二人は甘いムードを漂わせながら、静かに寄り添った。
『婚約月』
***
【て】
ベルフが顔を真っ赤にして怒る。
「伯爵家のマディンの野郎が、俺たちの婚約をバカにしてるらしい! 許せねえ!」
エアルナも憤る。
「私たちの婚約を侮辱するなんて……あいつは“敵”ね!」
「今度あいつのワインにたっぷりスパイス入れてやる!」
『婚約敵』
***
【と】
カフェで向かい合うベルフとエアルナ。
「なぁ……俺たちそろそろ婚約する時だと思わないか?」
「そうね、今ぐらいがちょうどいい時だと思うわ」
『婚約時』
***
【な】
「エアルナ、婚約しよう!」
ベルフの言葉に、エアルナは涙をこぼす。
「うっ、ううっ……!」
「どうした?」
「婚約を申し込まれたことが嬉しくて、嬉しくて……うぇぇぇぇん!!!」
釣られてベルフも泣き出してしまう。
「俺も嬉しいよ……えぇぇぇぇん!!!」
『婚約泣き』
***
【に】
ベルフが知識を披露する。
「遠い遠いどこかの国には、男性を“ニキ”って表現する文化があるらしいぞ。何とかニキみたいな具合に」
エアルナは首を傾げる。
「“ニキ”ってなに?」
「“兄貴”の略らしい」
「じゃあ、ベルフって婚約ニキじゃない」
「だな」
『婚約ニキ』
***
【ぬ】
ベルフがエアルナに呼びかける。
「注文いいですか?」
エアルナが答える。
「どうぞー」
「俺と付き合ってください! 愛とデート多め、婚約は抜きで」
「あいよー!」
こうして二人は付き合うことになった。
『婚約抜き』
***
【ね】
エアルナが知識を披露する。
「遠い遠いどこかの国には、女性を“ネキ”って表現する文化があるらしいわよ。何とかネキみたいな具合に」
ベルフは首を傾げる。
「“ネキ”ってなんだよ?」
「“姉貴”の略らしいわ」
「じゃあ、エアルナって婚約ネキじゃん」
「そうね」
ベルフたちはつい本音をこぼす。
「ネットスラングで二枠も埋めることができてラッキーだよな」
「ええ、助かったわね……」
『婚約ネキ』
***
【の】
ベルフとエアルナは一本の木を見上げる。
「この木の下で婚約すると、その夫婦は幸せになれるらしいぞ」
「ってことは私たち幸せになれるのね?」
「そういうことさ」
ところが、二人の頭上に木から毛虫が落ちてきた。
「うわぁぁぁぁぁっ!?」
「いきなり不幸になったじゃない!」
「襟の中に入った! 入ったぁぁぁぁぁ!」
「こっち来ないでよぉぉぉぉぉ!」
しばらく二人は悲鳴を上げ続けた。
『婚約の木』
***
【は】
「エアルナ・マベーラ、お前との婚約を破棄する!」
ベルフが高らかに宣言した。
「そんなっ……!」
エアルナは悲しげな顔をする。
だが、二人ともすぐにいつもの顔に戻る。
「うーん……いい。素晴らしい。“やっぱこれだよな”って気持ちになれた」
エアルナもうなずく。
「原点にして頂点――実家のような安心感ね」
『婚約破棄』
***
【ひ】
ベルフがエアルナに頭を下げる。
「頼む、やっぱり俺と婚約してくれ!」
「引くわ~! さっき破棄したばかりなのに、やっぱり婚約してなんて引くわ~!」
「当然の反応すぎる」
『婚約引き』
***
【ふ】
カフェでお茶をするベルフとエアルナ。
突然、ベルフが言った。
「婚約しよう」
「ブーッ!!!」
エアルナは驚きのあまり、口から紅茶を吹き出してしまった。
それを全て浴びたベルフは、無言でハンカチを取り出すのだった。
『婚約吹き』
***
【へ】
ベルフとエアルナがハァハァ言っている。
「こ、婚約してえよぉ……」
「わ、私も……」
「婚約ってやめられねえよな!」
「ええ、体が自然と婚約しちゃうわ!」
【婚約癖】
***
【ほ】
エアルナが魚を持っている。体色は銀色で、非常に細長い。
「なに、その魚?」
「ホキって魚よ」
「へえ、そんな魚があるのか」
「婚約した記念にさばくから、一緒に食べましょ」
『婚約ホキ』
***
【ま】
エアルナがベルフに声をかける。
「ねえねえ、幼馴染のマキちゃんが婚約したの」
「へえ、あのマキが? めでたいな!」
『婚約マキ』
***
【み】
エアルナがベルフに声をかける。
「ねえねえ、幼馴染のミキちゃんが婚約したの」
「へえ、あのミキが? めでたいな!」
『婚約ミキ』
***
【む】
エアルナがベルフに声をかける。
「ねえねえ、幼馴染のムキちゃんが婚約したの」
「へえ、あのムキが? めでたいな!」
そこへ謎の筋肉男が現れた。
「貴様ら……三連続でそんなオチが通ると思っているのか」
謎の筋肉男は猛ダッシュしてきた。
「貴様らを……制裁する!」
ベルフとエアルナは慌てて逃げ出す。
「ひいいっ! ムキムキ男が追いかけてきやがる!」
「ごめんなさーい!」
『婚約ムキ』
***
【め】
ある古い屋敷内で、ベルフは告白する。
「エアルナ、婚約しよう」
「……はい!」
その時、どこかから異音が聞こえた。
「今メキッていったな」
「なにしろ廃墟だからね、ここ」
「そもそもなんで俺らはこんなところでデートしてるんだよ」
『婚約メキ』
***
【も】
ベルフが愚痴をこぼす。
「婚約したはいいけど、いつ結婚するか全然決まらないな」
エアルナもうなずく。
「お互いの家の都合もあるんだろうけど、ずっと助走させられてるようで、やきもきするわね」
「“婚約やきもき”……略して」
『婚約もき』
***
【や】
ベルフとエアルナは新しい商売を始めた。
二人で屋台を出し、鉄板の上でなにやら生地を焼いている。
そこへ客がやってきた。
「婚約焼き、三つください」
「あいよ!」
ベルフは『婚約』という文字が入った焼き菓子を箱に入れて手渡す。
店は大繁盛である。
『婚約焼き』
***
【ゆ】
寒い冬の日、ベルフとエアルナは街をデートする。
「婚約者同士、デートをするのもいいもんだな」
「寒いけど、あなたがいれば心まで暖かいわ」
「エアルナ……」
見つめ合う二人。そこに白い物が降ってくる。
「雪だ……!」
「まるで私たちの婚約を祝福してくれているようね」
『婚約雪』
***
【よ】
ベルフがしみじみと言う。
「婚約って良きことだよな」
エアルナも同じように言う。
「婚約って良きことよね」
二人は幸せを噛み締めていた。
『婚約良き』
***
【ら】
「ラキーッ! ラキーッ! ラキーッ!」
ベルフが嬉しそうに叫んでいる。
エアルナが心配そうに声をかける。
「ど、どうしたの?」
「お前と婚約できてラッキーって叫んでたのさ!」
「ふふっ、そういうことね」
『婚約ラキ』
***
【り】
ベルフが装置を発明した。
「エアルナ、これを見ろ!」
「なにこれ?」
「ここのボタンを押すと、音声が再生されるんだ」
『キミト婚約シタイ!』
エアルナは感心する。
「今や婚約の申し込みも機械でする時代なのね」
『婚約利器』
***
【る】
ベルフとエアルナが手を繋ぐ。
「婚約者同士、“気”を伝え合おう」
「そうね」
二人は自身の気を操作し、お互いの体内に巡らせる。
「おおっ、気が流れてる、流れてるぞ!」
「感じる! 感じるわぁ!」
【婚約流気】
***
【れ】
ベルフが履歴書を書いているので、エアルナがそれを取り上げる。
「履歴書? 見ちゃお!」
「おい、よせよ!」
「どれどれ、婚約歴の欄は……」
『伯爵令嬢エアルナ・マベーラとしょっちゅう婚約をし、時には破棄もしている。でもまたすぐ婚約している』
「……なにこれ。カオスすぎない?」
「事実なんだから、しょうがないだろ!」
『婚約歴』
***
【ろ】
ベルフが豆知識を披露する。
「異世界にはロキっていう神様がいるらしいぞ。せっかくだから祈らないか?」
「いいわね。私たちを幸せにしてって祈りましょう」
二人はロキに祈りを捧げる。
「ちなみに、どんな神様なの?」
「イタズラ好きで、トラブルメーカーみたいな神様らしい」
「……それ、祈らない方がよかったんじゃない?」
『婚約ロキ』
***
【わ】
ベルフが爽やかな表情をしているので、エアルナが尋ねる。
「やけにスッキリした顔してるけど、どうしたの?」
「お前と婚約したから、記念に脇の手入れをしたら、スッキリしたんだ」
「へぇ~」
エアルナは心底どうでもよさそうに答えた。
『婚約脇』
***
【を】
ベルフが笑う。
「俺たちって婚約を機に成長したよな!」
エアルナは微笑む。
「ええ、私たちって婚約を機にエレガントになったわよね!」
ベルフはうなずく。
「そう、婚約を機に……」
『婚約を機』
***
【ん】
婚約を交わしたベルフとエアルナは猿の真似をすることにした。
「ンキーッ!」
「ンキキキッ!」
二人が食べるのは、もちろんバナナである。
『婚約ンキ』
***
ついにベルフとエアルナはやり遂げた。
「婚約○き」に五十音を埋め込んでみせたのである。
「やったな、エアルナ!」
「ええ、ベルフ!」
しかし、ベルフは深刻そうな表情を見せる。
「だけど一つ重大な問題がある」
「なに?」
「埋めたのはいいんだけどさ、多分誰も内容に納得してないと思うんだよ」
すると、エアルナは笑う。
「こういうのはね、内容はどうでもいいの。やり遂げたことそのものが大事なの。テストだって同じ0点でも白紙で出すより、何か書いておいた方がマシでしょ?」
「フッ……そうだな!」
ベルフは真剣な眼差しでエアルナを見つめる。
「俺たちは偉業をやり遂げたんだ。今度こそ、正式に婚約しよう」
「二人で幸せになりましょうね、ベルフ」
中身はどうあれ、納得できるものかはさておき、ベルフとエアルナはやり遂げた。
確かな達成感に包まれつつ、二人は熱い口づけを交わした。
おわり
お読み下さいましてありがとうございました。




