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両利きのテニス初心者だけど、気づいたら美少女参謀とプロを目指してた  作者: 二刀
第1章 テニス基礎編

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第4球 パコーンの向こう側


 テニス部に来て二日目。

 本格的にラリーをやる、と部長にいきなり誘われた。

 普通は昨日みたいな練習をするんじゃないの? 人と打ち合うのはこれが初めてだ。


「いくよー、千両君」


 ネットの向こうで、なっちゃん部長がラケットを構え、ポケットからボールを取り出しているのが見えた。


 来る。


 俺は右手でラケットを握り直して、腰を落とした。これって野球の守備の構えとちょっと似てるんだよな。ボールが飛んで来るところに流れるように入る。基本はそれだけ、同じ動きだ。


 部長の手から、ボールがふわっと上がって——打った。

 

 パコーン。


 まっすぐ、素直な球が飛んでくる。お、これならいける。

 足を動かしてすぐに俺は落下点に入った。昨日教えてもらったのは、打点を意識して近づくこと。

 んで、素早くラケットを後ろに構えて振る。パコーン。


 おお、返った。抜けるような音と一緒に、ボールはちゃんと向こうのコートに飛んでいった。これだよ、これ。いい音でるよな。


「お、いいね」


 部長が軽くステップを踏んで返してくる。パコーン。


 右手側に飛んできたボールは遅くもなく、速くもない。ちょうどいい打ちごろの球だった。こんなの外しようがない。

 すばやくラケットを引き、俺も打ち返す。パコーン。


 ……あ。これだ。

 昨日、球出しで一人で打ってたのとは全然違う。向こうから球が返ってくる。

 生きた球ってやつ? 俺が打った球を、誰かが打ち返してくる。で、それをまた俺が打つ。ラケットで会話してるみたいだ。

 めちゃくちゃ、楽しい。

 

 部長の球は真っ直ぐだった。変な回転もかかってなくて、俺が打ちやすいところに飛んでくる。だから俺も、まっすぐ打ち返せる。いいね、これ。クセになっちゃいそう。


 ラリーが、続く。


 途中、何回かだけ左側にちょっと逸れる球が来た。

 だから俺は考えるより先に、左手に持ち替えて打った。

 左手のフォアハンドだ。


 パコーン。


 うん、こっちも問題なし。右と同じだ。左に来たら左で打つ。当たり前だよこんなの。


 なっちゃん部長の眉が、一瞬()()っと動いた気がしたけど、ラリーは止まらなかった。


「千両君、いいよ、いいよー」


 部長の球がだんだん速くなってきた。パコン。パコン。


 さっきより、打ってから帰って間隔が短い。部長の返球が速いからだと思う。

 

 でも——いける。

 球が速くなっても、来るところは見える。なんでだろ、速いほうがむしろ、集中できる。

 野球でショートやってたときもそうだった。難しい打球のほうが、取りやすい。なんか、ゾーンに入る感じ。


 パコン。パコン。パコン。


 速いけど、問題なく返せる。その分早く移動して、構えればいいだけだ。めちゃくちゃ楽しい。


 *


 どれくらい続けただろう。

 部長が、ふっとラリーを止めて、ボールをキャッチした。


 気づいたら他の部員たちも俺となっちゃん部長のラリーを見ていた。藤崎さんもこちらを見ている。おいおい、みんな自分の練習があったんじゃなかったの。


 なっちゃん部長がネット越しに声をかけてきた。


「……キミ、ほんとに昨日始めたの?」

「はい、そうですよ」

「うそでしょ」

「ほんとです」


 部長は、なんか呆れたような、でも嬉しそうな、変な顔をしてた。うんうん、美人は変な顔でも美人だなぁ。


 息はちょっと上がってるみたいだ。俺も上がってる。でも、全然まだ余裕だ。炎天下で動いてた野球少年なめんな。もっとやりたい。


「あのさ、千両君」


 部長がラケットをくるっと回した。


「今のスピード、全然平気そうだよね」

「はい、楽しいです」

「うん。じゃあさ」


 部長がにやっと笑った。

 あ、この顔。なんか考えてる。さっきの「好戦的な顔」だ。


「もうちょっと難しいことしてもいい? キミならいけるかなって思う」

「難しいこと?」

「うん」

「えっと……どういう、ことっすか?」


 部長は答えなかった。代わりに、ボールを軽く上げてラケットを構えた。


 さっきまでとちょっとフォーム、っていうか打ち方が違う。なんか、下から上に、こすり上げるみたいな。


「こういうこと!」


 パッコン。


 球が来た。

 来た、んだけど。……あれ? 球がなんか変だ。


 いつもの「まっすぐ」じゃない。山なりに膨らんで、ぐん、と伸びてきて急に沈んだ——そして、俺の前で、急に跳ねた。


 ぼよん、って。えぇっ。


 俺のラケットは、さっきまでの「まっすぐ」のつもりで振り出してた。だから、跳ねた球の、下をすかっと通った。

 ボールは、ラケットの上を越えて、後ろに飛んでいった。


 ……は?


「あはは! いい反応!」


 なっちゃん部長が、めっちゃ笑ってる。俺は、自分のラケットと、後ろに転がったボールを、交互に見た。


 なんだ、今の。

 今の、なに。


 さっきまで、あんなに気持ちよく打ててたのに。一球で、ぜんぜん打てなくなった。ラケットにかすりもしなかった。


「もう一球、いくよー」


 パッコン。


 また来る。さっきと同じ、こすり上げる打ち方。

 今度こそ、と思って構える。


 球がぐん、と伸びて——また、跳ねた。さっきより、高い!

 跳ねて飛び上がるスピードが、尋常じゃなくて。思わず振ったラケットは空を切った。


 くそっ、さっきより速い。


 ……もう一球。


 言われる前に、俺は構えていた。

 今度は、と思った。あの跳ねるタイミング。ぐん、と伸びて沈む、それから急激に弾む。そこに合わせるんだ。


「お、まだやる気だ。いいねぇ」


 なっちゃん部長が、嬉しそうにまたあのフォームで打ってくる。


 パッコン。


 来た。さっき2回見た。3回目なら、もう少し見えるはずだ。

 ぐん、と伸びる。沈む。来る、来る——今だ。

 俺は、跳ね上がる球側に、ラケットを合わせにいった。


 ガッ。


 当たった。当たったけど、変な音だった。球は、ふわっと高く浮いて、コートのちょっと手前にぽとんと落ちた。


 パコーンじゃなかった。でも――当たった。さっきは、かすりもしなかったのに。


「お——」


 部長がちょっとだけ驚いていた。


 *


 ふと気づくと、コートが、静かだった。

 いつのまにか、他のコートの音が止まっている。一年も、二年も、みんな手を止めて、こっちを見ていた。


「ねえ、今の……」

「三球目、当てたよね……?」

「うっそ、なっちゃん部長のあれ、超強烈なのに……」

「初心者だよね、あの子……」


 ひそひそ声が、聞こえる。

 え、なに。俺、また、なんかやった? いや、むしろ2回も空振りした側なんだけど。なんでそんな顔されてんの。


「どう? 今の、わかんないでしょ」

「……わかんないです」

「だよねー」


 さっきまで、あんなにパコーンって鳴ってた音が、急に出なくなった。

 すかっ、とか、ぼてっ、とかそんなのばっかりだ。


 同じ人が同じラケットで打ってるだけなのに。なんで、急にこんなわけのわからない球になるんだ。

 胸の真ん中が、さっきの「わくわく」とは、別の感じになってた。なんだろうこれ。


 ……悔しいのか。これ。


 ネットの向こうで、なっちゃん部長が、ラケットを肩に担いで、にこにこ笑ってた。

 部長は楽しそうに言った。


「それがさ、テニスなんだよ」


 俺は、後ろに転がったボールを拾いに行きながら考えてた。今の、なんだったんだ。あの、跳ねるやつ。


 悔しくて、絶対打ち返したくて、……もう1回、やりたい。今度は返す。


 拾ったボールを握って、ふと顔を上げたら——バックネットの裏で、藤崎さんがこっちを見てた。

 

 俺のプレー?を見て驚いていたような眼をしていた。

 けれどもなんか――ちょっとだけ口元が笑ってた気がした。

 なんで笑ってんだろうか?

 


【作者あとがき】

 この度はお読み頂きありがとうございました。

 

 それでは引き続きよろしくお願いします。

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