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流れ星と恋の行方(結愛と蓮)

作者: ななみさき
掲載日:2026/05/23

 

 

 夕方のチャイムが街に響き渡ると、私たちは決まってどちらかの家の前に集まっていた。

 私、佐々木結愛ささき ゆあと、同い年の幼馴染、瀬戸内蓮せとうち れん

 

 家は歩いて三分もかからない距離にあり、窓を開けて大きな声を出せば、お互いの部屋に声が届きそうなほど近かった。

 小学校の頃の記憶といえば、いつも蓮の背中を追いかけていたことばかりだ。泥だらけになって公園で泥警をし、秘密基地と称した近所の空き地でダンボールを組み立てる。

 「ゆあ、おそい! おいてっちゃうぞ!」「まってよ、れんちゃん!」

 

 あの頃、蓮は私の「ヒーロー」であり、「一番の男友達」だった。ランドセルを玄関に放り投げ、男の子たちの中に混ざって走り回る私を、蓮はいつも振り返って待ってくれた。

 性別の違いなんて意識したこともなく、お互いの母親が「本当に仲が良いわね、将来結婚しちゃえばいいのに」と笑いながら話すのを、私たちは「ゲェー、絶対にイヤだ!」と声を揃えて否定していた。




 そんな当たり前の日常に、最初の小さな、けれど決定的な亀裂が入ったのは、中学二年の時のことだった。

 中学校で蓮はサッカー部に入り、瞬く間にレギュラーの座を勝ち取った。私は吹奏楽部で地道にフルートを吹く日々。部活動が始まると少しずつすれ違うことも増えていったが、家の近さから登下校を一緒にすることもしばしばあった。ただ、段々お互いの毎日が見えなくなり、二年に上がる時には私たちの関係はあっさりしたものになっていった。そんなさなかの出来事だった。

 

 掃除の時間にクラスのみんなに蓮との登下校をしつこくからかわれ、学校の裏庭で大泣きした日。腫れた目で教室に戻れずみんなが帰るまで隠れていた私を、蓮が探しに来てくれた。

 すっかり日が暮れた地元の夜道。少し先を歩く蓮が急に立ち止まり、「あ、見ろ」と前方を指差した。

 

 「流れ星」

 

 蓮の肩越しに、二筋の光が瞬く間に駆け抜けていった。

 「願い事、したか?」

 蓮が振り返って笑った。その笑顔を見た瞬間、私を覆っていた暗雲が、嘘のように晴れていった。

 そして思った。

 いつか蓮が泣きたくなった時は、私が迎えに行ってあげようと。

 

 これまで「近所の蓮ちゃん」として見ていたはずの男の子は、幼馴染というフィルターが剥がれ落ち、急に、ひとりの男性になってしまった。

 だけど、気づいてしまった恋心は、あまりにも重く、そして苦しかった。

 だって、私たちは幼馴染だ。ずっと家族も同然の付き合いをしてきて、今さら「好き」だなんて言ったら、この心地いい関係がすべて壊れてしまう。もし拒絶されたら、毎日のように顔を合わせるこの距離感が、地獄のようなものに変わってしまう。

 だから、私は決めた。この気持ちは誰にも言わない。誰一人にも打ち明けず、あの日の流れ星とともに胸の奥の小さな箱に鍵をかけて閉じ込めておこう、と。


 けれど、私の小さな決意をあざ笑うかのように、現実は残酷に進んでいく。

 中学二年の夏、蓮に彼女ができた。相手は、同じ学年のマドンナ的存在だった、バドミントン部の女の子。明るくて、髪が綺麗で、誰からも好かれる子だった。

 「結愛、俺、あいつと付き合うことになったんだ」

 部活の帰り道、蓮からそう告げられた時、私はどんな顔をしていただろう。

 「えー! 本当に!? 蓮に彼女なんて、槍でも降ってくるんじゃない?」

 「なんだよそれ。」

 「だって、あの大人しい蓮ちゃんがねぇ。おめでとう、お幸せにね!」

 声が震えないように、精いっぱいの冗談で返した。


 家に帰った瞬間、自室に駆け込んでベッドに顔をうずめ、声を殺して泣いた。胸が引きちぎれるほど痛かった。

 その日から、蓮の隣は私の場所ではなくなった。登下校を一緒にすることもなくなり、廊下ですれ違っても、隣にその女の子がいるのを見ては、私はできるだけ自然に視線を逸らした。


 蓮にとって、私はただの近所の幼馴染。嫌われてはいない。けれど、特別なわけではない。前から分かっていたけれども実感のなかったその現実が、私を突き刺していた。

 それは呪いとなって私の中に染み込んでいく。




 中学校の卒業とともに、私たちの距離はさらに物理的な広がりを見せた。

 蓮はスポーツ推薦で少し離れた私立の男子校へ進学し、私は地元の公立の女子高へ通うことになった。毎日着る制服が変わり、通う駅が変わり、生活リズムは完全に合わなくなった。


 それでも、家が近いという事実は変わらない。

 朝、私が家を出る時間に、たまに蓮が自転車で駅へと向かう姿を見かけることがあった。少し癖のある黒髪を風になびかせ、見慣れない紺色のブレザーを着て自転車を飛ばしていく背中。

 「……蓮」

 声に出さず、ただ唇を動かす。

 向こうが私に気づくことはほとんどなかったし、私も気づかれたくなくて、わざと物陰に隠れたり、歩く速さを変えてやり過ごした。


 蓮の近況は、中学が同じだった女友だちのネットワークで、私の耳にも届いていた。

 「蓮、中学の時の彼女とは、高校に入ってすぐ別れたらしいよ」

 「男子校だから、今はサッカー一筋だって。他校の女子から結構モテるらしいけど、全然興味ないみたい」

 そんな話をきくたびに、私の心は小さく波立った。

 別れたんだ、という安堵。もてるんだ、という焦り。けれど、どの感情も私の独りよがりでしかなかった。


 高校の三年間、私たちはただの知り合いみたいな距離感で生きていた。連絡先は知っていても、メッセージを送る勇気なんてこれっぽっちもなかった。「元気?」の一言が、世界で一番遠い言葉のように感じられた。

 私の中の蓮は中学時代のあの日で止まっていて、もうこのまま一生、私たちは交わることなく、それぞれの人生を歩んでいくのだろう。

 幼馴染というだけの関係は、大人になるにつれて自然と消滅していくものなのだと、自分に言い聞かせていた。



 しかし、運命というものは、時に意地の悪い悪戯を仕掛ける。

 大学受験の年、私は家から少し離れた地元の私立大学の経済学部を目指して猛勉強していた。

 無事に合格が決まり、春からの新しい生活に胸を躍らせていた入学手続きの日。桜が舞い散るキャンパスの正門前で、私は自分の目を疑った。

 人混みの中で、ひときわ背が高く、見覚えのある歩き方をするスーツ姿の男の子。

 「――蓮?」

 思わず声が漏れた。

 その声が届いたのか、男の子が振り返った。少し大人びた顔立ちになっていたけれど、その切れ味のある目元と、私の姿を捉えた瞬間にふわりと和んだ表情は、間違いなく蓮だった。

 「あれ、結愛? ……結愛!」

 蓮が驚いたように目を丸くし、大股でこちらに歩いてきた。

 「え、嘘、蓮もこの大学なの?」

 「ああ、経済学部。お前も?」

 「うん、経済学部……」

 「まじかよ、 一緒じゃん!」

 蓮は嬉しそうに笑い、私の頭を軽く小突いた。




 大学生活が始まると、私たちは自然と行動を共にすることが増えた。自宅通学が難しくて借りたマンションが同じだったから、ある意味必然ともいえる。

 また、同じ学部ということもあり、必修科目の講義で隣の席に座ったり、お互いの時間割を合わせて学食でランチを食べたりした。さらに、蓮に誘われるがまま、学内のテニスサークルにも一緒に入会した。

 高校時代の三年間が嘘のように、私たちの距離は急速に縮まっていった。


 周りから見れば、私たちは「いつも一緒にいる仲の良い二人」だった。

 「結愛、明日の一限のノート、見せてくんね?」

 「もう、蓮ちゃんはいつもギリギリなんだから。はい、これ」

 「サンキュ! 結愛ちゃんは今日もかわいくて頼りになるわ」

 そんなやり取りをするたび、私の胸には、嬉しさと同時に、深い切なさが澱のように溜まっていった。


 蓮にとって、私は相変わらず「気の合う幼馴染」なのだ。

 嫌われてはいないけれど、特別好きなわけではない。

 女の子として意識されている実感は、微塵もなかった。


 蓮はサークルの他の女の子たちとも気さくに話していたけど、それからすると私への態度はどこか男友達に対するものと変わらないように思えた。だから私は、せめて蓮にとって「良い存在」でありたくて、自分を磨いた。料理教室に通って、お弁当を多めに作っては蓮に分けたり、サークルでは誰よりも周りに気を配って、コート整備やボール拾いを進んで引き受けたりした。


 「結愛の作る玉子焼きって、本当に美味いよな。お前、マジでいい奥さんになるわ」

 学食のテラス席で、私のお弁当をつまみながら蓮が言った。

 「そう? ありがと。あとは誰かもらってくれる人がいればいいんだけどね」

 「ハハ、俺がもらってやろうか?」

 冗談めかして笑う蓮の顔を見て、胸が締め付けられるようだった。




 一方、蓮の胸の内は、結愛が見ていた世界とはまったく異なる色をしていた。


 蓮にとって、結愛は最初から、そして今でも、世界で一番「特別」な女の子だった。

 物心がつく前から、結愛はそばにいた。花をあげて喜ばれ、虫をあげて泣かれた。自分のすることに一喜一憂する姿がかわいかった。結愛がついてきてくれるのが嬉しくて、何度も振り返って確認した。

 中学時代に他の子と付き合ったのは、結愛が自分との仲をからかわれて泣いたと知ったからだった。小学校と変わらぬままではいけない、でも「大丈夫」な距離感が分からなかった。けれど、ほかの女の子と付き合っていても頭の中で結愛と比較してしまい、自分の愚かさに気づいて別れた。

 高校時代の三年間は、あえて連絡を取らなかった。自分をサッカーに集中させるためでもあったが、それ以上に、幼さがなくなってだんだん綺麗になっていく結愛を前にして、どう接していいか分からなくなっていたからだ。

 結愛との距離はどんどん開いて、気づいた時には友だちよりもずっと遠くなってしまった。

 だから、大学で再開した時、結愛が声をかけてくれた時、蓮は心の中でガッツポーズをした。


 本当は、結愛の進学先は母親から聞いて知っていた。サッカー部のコーチからスポーツ推薦をすすめられていたので、最初はそっちに行くつもりでいたのだ。でも、プロになれる実力ではない息子の将来に、母親は多少の心配をしていたのだろうと思う。

 「隣の結愛ちゃん、あそこの経済学部目指してるんですって」

 「へぇ、俺もそっちにすっかな。確か指定校推薦あったはず」

 (そうすればまた結愛と一緒にいれるかな)と思って軽く返答しただけだった。だが、

 「そうしなよ!あそこは県内で一番就職に強いって、佐々木さん言ってたわよ。」

 と、母親の強い押しがあり、サッカー推薦を断って、結愛と同じ大学に行くことになった。

 また、どうせならと、ニュースを見ているときに今のご時世の物騒さを話題にしていたら、目論見通り母親同士相談して同じマンションにしてくれた。

 そんな幼馴染にしかできないずるい手を使って、結愛との距離を物理的に縮めたのだ。


 そうして始まった新しい生活は、狙った通りに子供の頃の親密さを取り戻させてくれた。

 結愛が自分に作ってくれる弁当の美味しさ、サークルでの気配りと健気な姿、自分のちょっとした変化に気づいてくれる気遣い。

 そのすべてが蓮の心をつかみ、蓮の中での「結婚したい女性」の座には、ずっと前から結愛が座っていた。


 しかし、結愛があまりにも「完璧な幼馴染」として振る舞い、自分の冗談をいつも笑顔で受け流すため、蓮は深い絶望の中にいた。

 (やっぱ結愛は、俺のことをただの『幼馴染の蓮ちゃん』としか思ってないんだな)


 完璧なすれ違い。その膠着状態が破れたのは、大学二年の冬、サークルの新年会の夜だった。




 居酒屋の座敷は、大学生の熱気とアルコールの匂いで満ちていた。

 私と蓮は、いつものように自然と隣同士に座っていた。蓮がビールを飲み干すタイミングで、私がサッとウーロン茶を注文する。

 「はい、蓮。飲みすぎ注意ね」

 「お、サンキュ。あ、これ食べた?」

 「まだ。ありがとう。」

 その様子を、対面に座っていたサークルの先輩たちがニヤニヤしながら見ていた。

 「おいおい、お前らさぁ。さっきから見てると、完全に熟年夫婦じゃん」

 「えっ?」

 私が驚いて顔を上げると、周りの部員たちも一斉に乗っかってきた。

 「本当だよな! 学部も一緒、家も隣で幼馴染。マンションも一緒なんて親公認だろ?気が合うみたいだし、お前らもう付き合っちゃえよ!」

 「そうだそうだ! 付き合っちゃえ! 付き合っちゃえ!」


 一斉に沸き起こる付き合っちゃえのコール。

 私は顔が火を吹くほど熱くなるのを感じた。心臓がうるさいくらいに脈打つ。

 (どうしよう、蓮が困ってる……。冗談だって言わなきゃ……!)

 私が慌てて「いやいや、先輩、そんなわけないじゃないですか!」と否定しようとした、その時だった。

 「じゃあ、付き合うか」

 隣で、蓮が言った。

 居酒屋の喧騒が、一瞬で遠のいた気がした。

 「え……?」

 私が蓮の顔を見ると、蓮は耳まで真っ赤にしながら、けれどまっすぐ私の目を見つめて言った。

 「まぁ、お前が嫌じゃなければ、だけど」

 周りは「おおおおー!」と大盛り上がりで拍手をし、お酒を追加している。

 私の頭は真っ白だった。

 (これって……、酔って周りの流れに流されただけだよね? 蓮は優しいから、その場の空気を壊さないように、話を合わせただけ……)

 そうに違いない、と思った。けれど、きっと私もお酒に酔っていたのだろう。中学生の頃からの恋心が、私の理性を簡単に上回ってしまった。

 たとえ流れであっても、偽りの始まりであっても、蓮の彼女になれるなら。

 「……うん。じゃぁ、よろしくお願いします」


 こうして私たちは、お互いの本音を一切知らないまま、周りの「流れ」によって、恋人同士という関係になった。




 付き合い始めてからも、私たちの関係の表面は、驚くほど変わらなかった。

 デートらしいデートを企画しても、行く先は地元の公園だったり、昔から通っているラーメン屋だったり。

 手を繋ぐのにもどこかぎこちなさがあり、キスなんて、いつすればいいのかお互いに分からなかった。


 私は常に、薄氷の上を歩いているような不安を抱えていた。

 (蓮は、本当に私のことが好きなのかな)

 デートの最中、蓮が楽しそうに笑ってくれても、「これは幼馴染として楽しいだけじゃないか」と疑ってしまう。

 私を彼女にしたのは、あの新年会のノリを断れなかったから。嫌われてはいないけれど、やっぱり特別な恋愛感情ではない。

 その不安は、私をさらに臆病にさせ、蓮に対してどこか一線を引いた態度を取らせるようになっていった。

 

 

 一方の蓮もまた、結愛のよそよそしい態度に苦しんでいた。

 (結愛はやっぱり、無理して俺と付き合ってるのかな。あの場の空気に流されて、断れなかっただけなんだろう。俺があいつを縛り付けているんじゃないか)

 

 お互いを思いやるがゆえの、深い深いすれ違いの泥沼だった。

 


 

 そして、大学を卒業し、それぞれが社会人になって二年目に、ついにその限界が訪れた。

 ある週末の夜の結愛の部屋。外は冷たい雨が降っていた。

 

 蓮は仕事のプレッシャーから、最近ひどく落ち込んでいた。同期との出世競争や、顧客からの理不尽なクレーム。いつも前向きな蓮が珍しく、私の部屋に来るなりソファでうなだれていた。

 私は何も言わず、蓮の好物である肉じゃがと温かい味噌汁を作って、テーブルに置いた。

 「蓮、ご飯できたよ。食べられそう?」

 蓮はゆっくりと顔を上げた。その目は少し充血していた。

 「……結愛。俺さ、もうダメかもしれない」

 「何がダメなの?」

 「仕事も、何も、全部うまくいかない。いつかお前を幸せにするって、口では言ってたけど、今の俺じゃ、何もできない気がする。お前、俺といて楽しい?好きでも何でもないのに流れで付き合って、なんとなくでここまで来て、本当にこれでいいのかなって……」

 蓮の口から出た「流れで付き合って」という言葉に、私の心臓が冷たくなった。

 (やっぱり、蓮はそう思ってたのか。私との関係は、ただの流れだったのか)

 悲しみで涙が込み上げてきた。けれど、それ以上に、言っておかなければいけないことがあった。

 

 私は蓮の前にしゃがみ込み、その大きな手を両手で包み込んだ。

 「何言ってるの、蓮。いつか幸せにするとか、そんなの。私ずっと前から幸せだよ」

 「結愛……」

 「私ね、ずっと前から、蓮のことが好きだったの。覚えてる?10年前に、私が学校で大泣きした日。蓮、私のこと迎えに来てくれたでしょ?帰り道に蓮が見せてくれた流れ星。あの流れ星がぼろぼろになっていた私を救ってくれたんだよ。あの日から、ずっと、私、蓮のこと好きだったんだよ。」

 

 蓮の目が、驚愕に見開かれた。

 私は涙をこらえながら、一気に言葉を紡いだ。

 「本当は、あの時蓮がしてくれたように、いつか蓮のことを助けてあげたかったんだけど。ごめんね、頼りにならなくて。」

 蓮は呆然とし、信じられないものを見るような顔で私を見つめている。

 「……結愛、お前、まじかよ」

 耐えきれなくなった涙が溢れて止まらない。下を向くと床に涙の水たまりができる。

 部屋の中に、激しい雨の音が響く。


 蓮がソファから降り、私の震える両手を、包み込むように握った。その手もまた、微かに震えていた。

 「俺、結婚するなら結愛がいいって、ずっと思ってた。

  でも、お前があまりにも普通に幼馴染として接してくるから、俺のことなんか全然男として見てないんだと思ってた。

  新年会の時、あそこで言わなきゃ、もう一生チャンスがないと思った。

  流れに便乗したんじゃない。俺にとっては、あれが人生最大の勝負だったんだぞ。」

 「……え?」

 蓮の言葉が、私の頭の中で何度も繰り返される。「結婚するなら、結愛がいい」「人生最大の勝負」

 私たちは、お互いの顔を見合わせた。

 長い、本当に長い時間をかけて、お互いが抱えていた「片想い」の正体が、ようやく明らかになった瞬間だった。

 「なんだ……、二人してバカみたい」

 私が涙を流しながら笑うと、蓮も涙を拭いながら笑った。

 「本当だな。すげえ遠回りしたわ」

 その夜、私たちは初めて、過去のすれ違いの答え合わせをした。

 

 蓮が私を、壊れ物を扱うように、優しく、けれど強く抱きしめた。

 蓮の体温が、私の冷えた心にじわじわと染み込んでいく。

 長年、私を苦しめていた「嫌われてはいないけど、特別じゃない」という呪いが、溶けて消えていくのを感じた。

 蓮の胸に顔を埋めながら、私は声を上げて泣いた。今度の涙は、悲しい涙ではなかった。

 私たちはたくさん遠回りをして、長い間すれ違っていたけれど、まったく同じ、恋心だったのだ。




 あの雨の夜から、私たちの世界は180度変わった。

 お互いの気持ちが一方通行ではないと確信した私たちは、それまでのぎこちなさが嘘のように、本当の恋人としての時間を歩み始めた。

 手を繋ぐことも、キスをすることも、すべてが自然で、愛おしい儀式に変わった。

 気張ったことが嫌いな性質は相変わらずだったけれど、地元の公園を歩くときも、ラーメン屋で向かい合うときも、そこにある空気は、以前とは比べ物にならないほど濃く甘くなっていた。


 そして、大学を卒業して三年経った春の日。

 「結愛、そろそろ、一緒の家に住まないか?」

 いつものように私の部屋でご飯を食べている時、蓮が何気ない風を装って、けれど緊張した声音で言った。

 「それって……」

 「うん。結婚しよう。俺の隣に、一生いてほしい」

 プロポーズの言葉も、私たちらしく、日常の延長線上にあった。

 「……うん。喜んで」

 私は笑顔で、目元を潤ませながらうなずいた。




 さらに数ヶ月が経ち、私たちはついに結婚式の日を迎えた。

 地元の、小さな、けれど月の光がたくさん差し込む美しいチャペルで行うナイトウェディング。

 

 控え室の大きな鏡の前で、私は純白のウェディングドレスに身を包んでいた。プロのメイクによって、いつもより綺麗になった自分の姿を見て、なんだか現実感が湧かない。

 

 「結愛、準備できた?」

 ドアが開き、タキシード姿の蓮が入ってきた。少し癖のある黒髪が綺麗にセットされ、いつもより何倍も凛々しく見える。

 蓮は私を見た瞬間、歩みを止め、言葉を失ったように目を見張った。

 「……すごいな。めちゃくちゃ綺麗だ」

 「ありがとう。蓮も、すごく格好いい」

 お互い、照れくさそうに笑い合う。その空気は、小学校の頃に泥だらけになって遊んでいたあの頃と何一つ変わらなかった。

 

 

 チャペルの扉が開く。

 パイプオルガンの厳かな音色が響き渡り、横には私たちの行く末を見守ってくれた家族や、大学の新年会で背中を押してくれた友人たちの笑顔が広がっていた。

 半温室のチャペルの窓からは、明るい三日月が見える。

 キャンドルで照らされた薄暗い光の中を、私は父と腕を組み、一歩一歩進む。

 これから始まる新しい日々。どんな困難があっても、もう迷わない。

 向かい合った蓮の肩越しに、一筋の光が瞬く間に駆け抜けていった。

 

 「あ、流れ星」

 

 中学生の頃、胸の奥の小さな箱に鍵をかけて封じ込めた秘密の恋が、最高の結末を迎えた。






2015年に音楽特番で見た「君は流れ星」を聞いて作ったってメモってたけど、まったく覚えてない。

大体できてたけど、歌詞をそのまま使ってて、チャッピーに変換してもらった後修正&校正。

昔書いたネタだからか、名前とかマドンナとか言葉が古いし、今ならアルハラセクハラ言われそうと思いつつ、せっかくなので当時のネタと割り切る(変換しようとしたら話の流れが変わって収拾つかなくなったので諦めた)


当時を思い出すべく歌をエンドレスで聞いていたら、流されていつの間にかまた歌詞が入り込んでる。あほです。直したつもりだけど残ってたら教えてください。

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