2.絶望は日常に
嫌いだった。この世界も、人間も。
自分を取り巻く環境に嫌気が差したのは何時のことだったか。
今思えば、あんなお伽噺を自分でも驚く程抵抗なく信じてしまったのは、俺自身が望んでいたことだったからなのかもしれない。
「…これが、最後よ」
俺が17才になった年。電話で開口一番に彼女は言った。
「は?…どういうことだよ」
意味が分からない。
いや、分かりたくない。
「もう、終わりよ。此方の世界はもうすぐ無くなる」
疲れた様な、溜息混じりの諦めきった声。
それでもその声には否応なく俺に現実を分からせようとする響きがあった。
「…嘘だろ」
今まで支えにしてきたものが、こんなにも簡単に自分の手の届かないところで崩れていく。
「嘘じゃないわ。だからもう、来年はこの電話で貴方と話すことが出来ないの」
さっ、と自分の顔から血の気が引くのが分かった。
田幡は、誰にも見届けられず助かる見込みも無く、ただ一人で死ぬのを待つだけの日々を甘んじて受けるつもりなのだ。
「絶対にか」
如何しても確かめたくて、分かっていることを聞いてしまう。
…それが自分を追い詰めることになるとも知らずに。
「絶対によ。もう、助からない。助けて欲しくても誰もいないし、世界の崩壊は止まらない」
その言葉を聞いて気がついた。
「じゃあ、俺等の世界はどうなるんだよ?」
田幡が向こうで溜息を吐くのが分かった。
だけど言ってしまった言葉はもう戻らない。
何時かは知らなきゃいけない、真実。
それならば、今。
「分からない。だけど…此方の”真実の世界”が無くなっても”偽物の世界”が残ってるなんてことは考えにくいわ」
死ぬんだと、思った。
それでも俺は何故だか冷静だった。
否、心が冷め切っていた。
俺はこんな真実、知りたくなかったと今更思う。
田幡も、俺も、世界が崩壊するという事実を、一人で抱えて死ななければならない。
真実を、真実なのに他人に言えないまま…
なぁ、もしも神様が此の世にいるならば、俺たちに与えた運命は酷すぎやしないか?