1.世界崩壊の兆し
SFで冒険で恋愛。そんな話です。
きっとそれは、何百年も前からあったこと。
世界は、ゆっくりと崩壊している。
俺がその事実を知ったのは小6のゴールデンウィークだった。
5月5日午後5時55分。その一分間だけ世界は真実の姿を見せる。
小6という、幻想や夢、有り得ないことは信じない年頃だった俺は見えた景色も幻覚か何かだと思っていた。でも、そのとき見た景色は茶色くて、寂れていて、なんだか見ているだけで悲しくて、人恋しくなった俺は友達に電話をかけた。でも、何時まで経ってもコール音が続くばかりで友達は出ない。諦めて切ろうとした矢先、突然ピッという音がすると受話器の向こうから声が聞こえた。
「もしもし? もしもーし… 誰か居るなら出てください… 居ますか? もしもーし…」
出ないで置こうと思ったのより体が先に動いて、俺は受話器を取った。
「…何方ですか?」
取った以上は何かしら言わないとという思いに駆られた俺は、受話器の向こうの知らない人に話しかけてしまった。
「あ、、、出てくれて有難うございます。あの、今世界は見えていますか?」
唐突な、意味の分からない質問。
“世界はいつでも見えていますよ”そう言おうとした俺は、今見ている景色が普段と違うことを思い出した。
「…今はちょっと違うけれど、何時もならもっと綺麗な世界が見えてます」
その当時少々ませた餓鬼だった俺は、随分気取ったことを言ったような記憶がある。
だから多分そんな様なことを言ったんだろう。
「そうですか…あの、覚えておいて欲しいんです。きっと、もう少ししたら分かる筈だから。私の名前は田幡映見。歳は…13。何時か、何時か助けに来てください。そしてまた、来年のゴールデンウィーク、5月5日午後5時55分に電話をして下さい。待ってます」
その言葉を最後に、その電話は切れた。
電話が切れたと同時に、外の景色はいつもの、普通の景色に戻った。
何故、こんなにも明瞭に記憶しているのかは分からない。
でも俺はその記憶通り、毎年毎年5月5日午後5時55分に電話を掛けた。そして景色の変わっている1分間だけ田幡映見と会話をする。その内に、この世界に何が起こっていて、これから何が起ころうとしているのかを田幡の話から理解していった。
世界は、ゆっくりと崩壊している。
田幡映見はその” 真実の世界” の唯一の住人で、こっちの” 偽物の世界” と繋がるのはゴールデンウィーク中のみ。そして電話するのに一番電波がよくて一番長く話せる確率が高いのがこの1分間。そしてどうやら、この世界で見ている景色は偽物で、田幡の世界が本物らしい。元々は1つの世界だったはずがどうして、バラバラになっているのか、そして何故世界は崩壊しようとしているのかは分からないんだそうだ。
阿呆らしいと思うだろう?
馬鹿だと思うかもしれない。
“ そんなお伽噺、今時流行らないよ”と言われたこともある。
それでも事実を目の前に突きつけられた俺は田幡の言葉を信じるしか無かった。
田幡と話している時だけ、本当にその時だけ、いつもの景色ではない景色が見える。
それは俺にとって事実以外の何物でも無く、説明の付けられない現象だったのだから。
「こうやって、話している時間にも世界は崩壊していくの」
「お願い、助けて」
「もう、壊れてしまいそうなの。限界なのよ」
世界が絶望を味わうのもそう遠くない___________________