第63話 虎と狐とフローティングモブ。
モブ連戦。
翡翠山茶エリアは、緑が濃い。
ところどころに隣のエリアからはみ出したらしい竹が生えているけど、樹種は針葉樹寄り、そしてドングリではなく栗とクルミが生えている。
季節は初夏だか夏だかのはずだけど、あまり暑くはない。
この射干玉の大陸は南半球なので、南に行くほど涼しくなるからだね!
樹種の偏りも多分それが原因だ。
玉兎:この気候ならむしろブナ林がありそうなものだが。
ミケ:ブナが枯れ果てて針葉樹とクルミを植えたらしいぞ、師匠談
アン:栗はもとからあって、ブナ枯れの影響は受けなかったと聞いています。
アンファルの談話も話しぶりからすると師匠から聞いた感じかな。
ブナが枯れた原因はこの世界では判っていないそう。
木材に穴が開いてたかどうかも、もう二百年以上昔の話だから判らないんだって。
二百年前の植林は、もうすっかり立派な木々を育てている。
玉兎::虎以外のアクティブはどうなってる?
ひまり::そういえば虎の話しか聞いてないね?
サルガル::おう、カンスト組はよこい。手前の虎を追いやったら奥にまとまりやがった!
グレナ::ノンアク共々掲示板に出すわー!ログ流れうわああ
テッケ::おおっと済まねえ後ろに回られた!
うむ!阿鼻叫喚!どのスレかくらいは書いてほしかった!ってあったわ何故かアライアンススレにあるわ。
ひまり:虎、カモノハシ、白鳥、カラス、カピバラ……カピバラ??
北斗:あいつら冬は温泉でまったりしてるイメージなんだが?
ミケ:原産地に温泉はないがな!
ミュー:バトルフィールド仕掛けてくるモブがムジナて。
玉兎:蛟蛇と波山とムジナ……いきなり格落ちした感は否めないな。
アン:バトル中にはちょっかいかけてこない、は新情報ですね。
(ん?ああ、仕様の制限じゃな。バトルに当事者の許可なく割り込みをかけるのはプレイヤーもモンスターも不可能なんじゃよ、たとえフローティングモブであってもな)
あー、プレイヤーの無許可横取り不可の仕様は知ってたけど、モンスター側でも同じなんだ!
なおプレイヤーは戦ってる人側からの許可があれば参戦可能だし、モンスターでもハクビシンや狼は仲間を呼んで参戦させるので、絶対不可能って訳ではないよ!
そういえばアクティブに絡まれるタイミング、バトル終了直後が多い気がしてた!
というかフローティングモブ?初めて聞きました!
(うむ、あと2体ほど討伐すれば、ヘルプにも反映される頃じゃろう)
ひまり:あのバトルフィールド組んでくる奴、フローティングモブっていうんだって!
玉兎:お、毛玉情報か。
ひまり:割り込み禁止は仕様、プレイヤーと同じ縛りだってよ?
ミケ:あー、プレイヤーはまとめて漂流者って同種扱いなんだな?
ひまり:多分そう!ハクビシンや狼と同じ処理っぽいよ。
と喋ってたら横あいからごう!と吠える声。
ひまり::おおっと虎!
ミケ::Lv35か
ユー::ファースト取ります!
並走していたユーさんがいきなり【ターゲットアピール】。いや護符は走り始める前に配ってまだ効果時間はあるし、護身系技能ももう発動してる。早いな!
そのあとはドワーフ勢のハンマーとノの字のお札とシングさんの単体魔法で、スキルを使う暇もなく吹き飛ぶ虎さん。ドロップは毛皮と爪が3つずつと牙が2本。
そして討伐直後に周囲の温度がガクっと下がる。
「おっと護符張替え」
「闇はこっちで回す」
北斗さんと玉兄さんが我々とディギーさん達に手早く護符を投げる。
「2パーティまでしか拾わないんだなこのフィールド」
「3パーティって聞いた気がしたんだけど」
ディギーさんとシングさんが首を傾げつつも戦闘態勢だ。
「エリアとレベルで変動だ。蛟蛇が3パーティ対応のはずだが……君らなぜあれを1パーティで倒せてるんだ??」
そしてシンシンさんが不思議そうにこちらに質問してくる。
え、あれそんなに強かったの?
「なんでだろう……魔力とお札はかっつかつになったけど」
「多分ミケ」
「わはははは!石人を讃えよ!……とはいえ護符のおかげもあるはずだぞ」
「……ああ、呼吸しないから毒霧無効、おまけに防御がこのレベルで上がるなら奴の牙は通らんというわけか。符術師は近接しないしな……相性問題だな……」
いつも通りにしか戦ってないしな、と首をかしげてたら、北斗さんが端的に理由を述べ、ミケさんがいつも通りに吠えて、シンシンさんが納得した。
フィールドを生成したヌシは、我々の背後に降り立って盾のユーさんにバックアタックを仕掛けようとして、さっくり振り向かれて盾で躱される。
……なんだろうこれ。名称はムジナだけど。
「のっぺらぼう、にしてはちょっと違う」
「ぬっぺふほふ?」
「あ、それだ!」
「なにそれ?」
あー、シングさんが言ったぬっぺふほふ!胴体と頭の区別がつかないタイプののっぺらぼう!
なおミューちゃんは妖怪にはあまり詳しくない模様で首をかしげてる。
「あれもムジナの化けたやつ?」
「化けムジナって感覚狂わせる系のはずだけど……〈ファイアボール〉」
「それもしてますね、もう2レベルくらい差があるとひっかかりそうです」
「っつか俺引っかかるんだがそれ!」
「私もですね。戦闘職じゃないからマイナス補正があるのかも」
「あっそういや俺ら調理人だわ」
「さすがに戦闘職より活躍する調理人は勘弁してほしいところだからな!〈発勁〉!」
「下手な盾職より有能な生産職がそこにいますけどね!〈シールドバッシュ〉」
資料上のムジナの話をしていたら、ユーさんから感覚錯誤系の技を持っているという報告が。
そういわれてよく見ると、シンシンさんはちゃんと当ててるけど、ディギーさんとアンファルのハンマー、ちょいちょい変なスカり方をしているね?
ただ、それ以外に嫌らしい技を持っているわけではなかったようで、お札と魔法でざっくりと討伐だ。流石にモブ虎よりは時間かかったし、トドメを持って行ったのはシンシンさんのスキルだけど。
なおトドメを刺される直前に、ひょろっこい狸とアナグマを足して二で割ったような生き物に変化したので、あれが本来の姿らしい。しょぼかわいかった……
シンシン::フロートモブは倒した。次はゲーム内2時間後だ。
イノ::いきなりモブをタゲれなくなって何かと思ったらそっちか!面倒だから早く来い!
ディ::わりぃ、フルダッシュしてっからドワーフの足でももうすぐ着くと思う!
あー、イノさんが離れた場所にいて、こっちのエンカウントで殴れなくなってたのか!
ちょっとこれは改善が必要では?
(はぐれたものが安全になるという効果はあるのだが、逆も然りだのう……)
ドロップは貉の毛皮が人数分、それに個人報酬で謎の箱、ただし生産職勢は今回も箱なしだ。
そうそう、蛟蛇の箱の中身は小ジェネレーション水だったよ。
私はどっちかといえば魔力回復薬が欲しいけど、未開放らしいんだよね。
「あー、これ、生産職のバトル系マイナス補正、ドロップにも効くんだな?」
「そりゃあ、生産職がバトルで無双するのは完全にコンセプト外だろう」
「それもそう。それはそれとして、人数多いと無理に中級撃たなくていいのは楽だなあ」
「次は……暫く何もいないね!」
「道中はレベリング組が狩ってるから、さっきみたいにいきなり感知エリアにリポップされない限りは大丈夫のはずだ」
「既に2連続で絡まれたけどね!」
アラチャは派手に流れるので、通常会話でだべくりながら、獣道のような細く儚い道を駆け抜ける。
このエリアは黄金桜の北エリアくらい道が細いんだ。
そして白い石は全く使われていないから、ただの道しるべ以外の意味を持っていないっぽい。
なのでアクティブも容赦なく踏み込んでくるし、ノンアクの子たちがのてのて道沿いに歩いてたりもする。
「まさに獣道」
「モブにも利用されまくっている!」
「北とは対照的ですねえ」
そんな話をしながらノンアクはシカトして、かけっこして辿り着いた最前線はといえば、なんか虎がダースでいるっぽいんですがなんで?!
玉兎::なぜここまで密集している?
イノ::後衛の治癒が欲しくて、虎を持ったまま寄せ集まってきた感じだな。
ミサキ::治癒符の補充が欲しいです!使い切りそう!
ミュー::あいよ!場所判らないから街道まで取りに来てー!
早速我々も戦闘……の前に、ミューちゃんがお札を消費した勢に配るターンだ。
我々も補充を受けたら、参戦だよ!
玉兎:虎も大概だが、なぜ変顔の狐がちょっかいを出しに来る?
ひまり:戦闘が終わった直後に一番体力減ってる人に来るから、そういう生態?
アン:狡猾なタイプの狐なんですね?
北斗:レベルやジョブを見る知恵はないっぽいけどなー。
そう、イレギュラーがない限り、一番体力が減るのは盾士だ。
そしてカンストして適正スキルを持った盾士は、ちょっぴり格下になる狐程度じゃ、ろくにダメージも食らわないのだ……
なお変な顔の狐、スナカジリキツネって名前だった。スネカジリとスナギツネ?
ぐいぐいと前線を押し上げていくのが、楽しい!
時々虎のスキルで動けなくなるパーティが出てるけど、なるほど〈威圧〉かあ!
ひまり::威圧は闇護符か魔法防壁である程度防げるよ!
エルリ::護法師が少ないんだよ!!
ユー::そういえば盾士は多いけれど護法師は全魔法職でも少ない方でしたか。
シング::弱体師と統合されるって噂になってたしなあ。
苦戦の理由、そんなところにもあったのか。
盾士でも、護符も魔法防壁もなしだと食らうんだよね、〈威圧〉……
だから虎、それに隣のツァーガンは強敵なんだね、把握した。
まあ我々には関係ないんですがね!うちの盾のミケさんは生産職だから、無双まではしないけど!
スナギツネの本来の生態とは多分違うけどゲームですのでー。
なお南半球と言いながら季節経過が北半球と同じなのもゲームだからです(まがお




