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番外編:ざまぁされるほどの悪事はしていない。

 本編50話到達、ということで番外編です。

 サブタイは語り手の主観です。あくまでも、主観。

 気が付いたら、よく判らない場所にいた。

 石の壁に取り囲まれた広い部屋。

 天井も石のアーチで構成され、その中央には丸い灯りが、何の支えもなく浮いている。


 なんだこれは?

 さっきまで、妻と駅に向かって歩いていた、はずなのだが?

 隣を見れば、その妻が私と同じように目を見開いて周囲を見回している。


 周囲は無人ではない。

 昔見た洋画のような、大仰な衣装に身を包んだ西洋人……とも少し違う顔立ちの人物が十人ほど、我々を……いや、我々の立っている床に描かれた、丸い模様のある円陣を取り囲んでいる。


『+>s‘@f&$’&%$?!』


 だめだ、何を言っているのか、さっぱり判らない。

 日本語じゃないし、英語でもない、くらいは判る。

 外国語など、それこそ映画かTVでしか聞いたことはないし、ひとつとして話せないが。


『===&+R’、これで判りますかね。自動付与じゃないのが謎ですが」


 突然そのうちの一人が、我々になにかした、そんな感覚。

 そしてその瞬間から、言語が明確に翻訳された。


 そう、翻訳だ。彼ら自身の語る言葉の音声は、相変わらず意味不明で聞き取れない。

 意味だけが、脳裏に字幕のように展開されるのだ。


「……ここは、どこだ」

 妻を引き寄せつつ、問いかける。


「ブリンガーシャッセの王都、クランテルですが、ご存じないでしょう?」

「確かに、聞いたことがない」


 相手は素直に答えてくれたが、場所そのものに、一切の心当たりがない。

 見遣った妻も、首を横に振る。


「あなた方は、我々の世界、ボーテシアに召喚されたのです。

 ……召喚、って判りますかね?そちらの世界の若い方には通じたのですが」

「……呼び出された、という理解でよろしいか」

「はい、基本の意味はそれで正しいです」


 意味はあっている、と言われたものの……世界?


「……異世界、召喚……?」

 そこで妻がおそるおそる、といった様子で声を上げる。


「知っているのか?」

「瑞希の持ってた漫画に、あったのよ」


 漫画、か……男親の私は流石に娘の部屋に立ち入ったことはないから判らないな。

 都市部の人間と違って車通勤の私は、通勤時間中に何かを読むという習慣もないし。



 そこから我々は、円陣を取り囲む人々に囲まれたままで、簡単な説明を受けた。

 異世界召喚術に不備があり、本来呼ぶべき人間を連れてこれなかったから、再試行したところ、今度も本来呼び出すつもりだった人物は呼べずに、我々が現れた、という事だそうだ。


 つまり。


「瑞希がターゲットだったのね……本当に碌でもない、疫病神め」

 妻が吐き捨てるように言う。


 仕事で余り地元にいなかった私はさほどでもないが、例の事故の後からの瑞希の同級生の親からの恨みつらみ、八つ当たりに晒されていた妻の娘への感情は最悪に近いものに転げ落ちている。

 ……それを他人事のように考えている私も、世間からいえば親とは呼べたものではないが。


「……それで、我々の処遇は?勝手に呼びだしておいて別人だからポイ捨てなんてしないだろうね?」

 衣装こそ華麗な連中だが、同意なしに異世界から人間を攫ってくるような連中に、人権意識などあるわけなかろうと判断して確認をする。


「……今回の召喚に関しては、そもそも不必要だったものであり、貴方方はうちの長老の被害者です。

 帰還の陣を研究中ですので、それまでの間は魔術師協会の客人として遇させて頂きます」


 そういえば、一人だけ老人が同輩たちであろう中年の数人に取り押さえられている。

 あれが長老だろうか。


「そんな予算があるか!あの連中のように放り出してしまえ!」

「は?放り出した???長老、それ貴方が指図したんですか?!」

「王の命だ!儂じゃない!」


 ほらきた内輪揉め、って放り出されたのはまさか、瑞希の同級生だった子達か?

 最高学年とはいえ、中学生だぞ?子供を、放り出す?


「……あなた方の国が我々基準でろくでもない、という事は判りました。

 だが、私も妻も、当然この世界の事は知らない。

 最低限の知識が与えられるまではあなた方の世話になるしかないようだ」


 流石にここまで来ると、できるだけ早くこの場を離れる方がマシだ、という確信が沸いてくる。

 だが、何の知識もなく中年二人が放り出されても、生活できるとは思えない。


「あなた」

「現状他に道はない。帰還の陣が研究中、つまり存在しない以上、当面はこの世界に慣れるしかないだろう」

「え、嫌よ、こんな水洗トイレもなさそうな場所」


 そして妻からは予想外の反撃が来た。だがそれは我々ではどうしようもないからな……


「水洗トイレ?百年程前に実装済みですね。魔力式ですけど」

「「……あるんだ」」


 そして我々の会話を聞いていた、先ほどからずっと我々と対話していた一人から、予想外の回答だ。

 思わず素直に納得する私と妻。


 そうして、我々夫婦はこのブリンガーシャッセ魔術組合の世話になることになった。


 なお召喚の再現実験は長老の暴走で、彼は予算を横領した扱いになって断罪された。

 斬首だそうだが、そんな恐ろしい現場は見ていない。

 被害者だから見る権利があるとは言われたのだがね。流石に野蛮が過ぎる。


 半年ほどそこで暮らしたあと、私と妻はブリンガーシャッセ国を出た。


 追い出されたわけではない。

 掃除や洗濯、書類の整理(魔法の翻訳の結果、この世界の文書の読み書きも身に着けることができたので、経理の経験を役立てることができた)などの細かな仕事を請け負い、つつましく数年暮らすだけの資金と知識は手に入れたので、自立することにしたのさ。


「ああ、貴方方が居なくなるのが思いのほかダメージが大きい……掃除も書類整理も常駐でやってくださる方、いないんですよね……」

「それだけの仕事ができるなら、どこに行っても苦労はしないと思います」


 すっかり顔なじみになった中級クラスの魔術師たちからは、それなりに別れを惜しまれた。


 この国を離れる理由は二つだ。

 まず、中学生を集団で人数が多くて扱いきれないからと放り出す国そのものの無責任さが何時か我々に及ぶ可能性を否定できない事。


 もうひとつは、この国では帰還の魔法陣の研究自体が恐らくもう進まないという確信。

 そう、書類を整理できるとね、いろいろ知れてしまうのだ。

 彼らは我々を帰すつもりなど、ほとんどない、とね。


 と、言うか……そもそも、彼らが目的としていたのは、瑞希ですらなかったんだ。

 瑞希の祖母、つまり私の母。

 世間の表向きには外国人という事にはなっていたが……


 母は、ヒトではなかった。

 この世界が欲していたのは、邪神なるものを討滅するために必要だった、母の人外の力。

 実体を一度捨てた後、母は瑞希を守護するものとなっていたからなあ。


 なお妻はその種の霊的なものに対する感性が一切ないから、この話はしていないし、この国の連中にも当然教えていない。

 私だって、目の前で消えられなければ半信半疑のままだったことだし。


 その邪神は既にこの世界にいないという。

 最初に瑞希の同級生たちが召喚されたのと同時に、消えたそうだ。


 まあ被害などの話を聞くに、母の力程度で対抗できる相手なら、彼らと交換であちらに飛ばされていたならば、神祇庁がなんとかするだろう。

 我が祖国は、霊的トラブルには世界一強いからな……


「どこに行くの?」

「まずは先に飛ばされた子供たちを探そうかと。

 碌でもないことになってなければいいがなあ」


 私たちは適性がないとかで、この世界の魔法は使えないが、水洗トイレや家事道具を動かす程度の魔力は生えたそうだから、余程の辺境に行かなければ、苦労はさほどしないでいいはずだ。


「そうね!あの子達ならいつか帰還方法を見つけられる子がいるかもだし!」


 妻は、まだ元の世界に帰るつもりであるらしい。


 天狐の長の贔屓の娘を捨てたものに、もうあの国での居場所などないというのにね。

 というわけで瑞希のとーちゃんの一人称でした。

 パッパは比較的マトモだが、それでも娘より妻を取る人だったし、ネグレクトは立派な悪事だよ?

 ※ただこの人理由があってこの行動してますけども。書く機会、あるかな?

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