第3話 仮想の大地に降り立つ!
十三時。
寝っ転がるのも微妙な腹具合だったから、ソファにもたれた状態でヘッドセットを装着してプレイ開始。
ロビーサーバの視界が真っ白なのも、ベータだからかなあ?と思っていたら、時報らしい音、それに続けてリンゴンと教会の鐘の音のような音が鳴り響く。
『いらっしゃいませ!!祝!ワールドサーバベータ版オープン!』
という派手なでっかいポップな文字が視界の真ん中に飛び出し、くるくる踊るように、というかくねくね曲がってもいたからガチで踊りながら消えてゆき、ついにプレイサーバが解放される。
早速のりこめー!
の、前に。
チュートリアルはどこでしょう?
『チュートリアルは降り立った先でスタートします。最初に降り立つ場所をお選びください。
貴方の種族:狐ノ命は、デフォルトを選択すると初期エリアの町の外の草原でスタートします。初期エリアの町を選ぶことも可能です』
お?シンプルな狐獣人だと思ったら、種族名が獣人じゃなかった。
かわいいかわいいでそのままセレクトしたから、その辺の情報、ちゃんと見てなかったや。
それにしても音声ガイドじゃなくて文字情報だけなのは、ちょっと面倒感あるわね。
『申し訳ございません。音声ガイドは製品版での実装となります』
お、このシステム、思考を読むのか。
まあそうじゃないと、思うように体を動かす体験は提供できないから当然と言えば当然か。
『はい、強く思考した事柄には、順次回答可能です』
順次、ということは混みあってくると回答待ちとかありそうね。
『ベータ版では人数を絞っておりますので、そこまでお待たせすることは少ないかと』
そういえばそうだった、これオープンベータだったわね。
それでも第一陣、今日から組だけで800人近くプレイヤーがいるらしいから、スタッフさん大変そう。
『開幕ダッシュ組はその半分弱ですので、現状はまだ余裕がありますね』
あー、今日平日だもんね……私みたいに曜日が関係なかったり、平日に休みを取れる人ばかりとは限らないか。
ではデフォルトの草原へ!
普段は引き籠りだから、こんな時に最初に降り立つのは、自然の中一択っしょ!
『かしこまりました。草原エリア1への転送後、チュートリアルストーリーが開始されます』
白かった視界がすうっと黒くなって、どこかに移動する、そんな感覚を認識する。
そして、気付けば、自分とは違う身体の感触を感じ取っている。
閉じられていた目を、ゆっくりと開く。
真っ青な空。視界の端に、ほんのちょっぴり、千切れ雲。
鼻をくすぐるのは、草と土の匂い。
おお、嗅覚も再現?これは料理関連が楽しみね。
どうやら私のキャラ、ひまりちゃんは、草原に仰向けに寝転がっているようだ。
上半身を腹筋の力だけでひょいっと起こしてみる。
お、リアルと同等の動きができるな、優秀優秀。
引き籠りだけど、身体は資本だと思ってるので、ちゃんと鍛えておりまっす。簡易ジムあるしね、今の我が家。
流石に腹筋割れたりはしてないけどね!
そこで唐突に身体のコントロールを奪われ、視界がキャラクターの後方ちょっと上方のものにするっと切り替わる。
成程、起き上がったところでチュートリアル開始なんだ。
それにしても視界の切り替わり方が予想以上に自然だな、どういう演算してるんだろう。
きょろきょろと周囲を見回して、森の端っこの茂みに目を留めるひまりちゃんがかわいいなあ……
……んんん?なんかいるぞ?
初期位置から立ち上がり、ゆっくりとその気配のある茂みに近づくひまりちゃん。
嗅覚が捉えるのは、僅かだけれど、血の匂い。
「キィッ!!」
茂みから、威嚇の声。
『呪符魔法が使用できます。
現在使用可能なものは『攻撃符:炎』『護身符:光』『治癒符:光』の三種です』
システムログさんから選択肢を出されたので、迷う事なく治癒を選ぶ。
いやだって、治癒が選択肢にある時点で、これ多分使い魔ゲットとか、そういう類のチュートリでしょ?
狐の場合自分が使い魔じゃねーの?という気はするけど、種族名がなんか上位種っぽいしさ!
ひまりちゃんが、ちょっとくたびれてるけど、狩衣アレンジみたいなかわいくて布の多い衣装の袖口から白い札を出して、ぱっと投げる。
術の発動には対応した触媒が必要だけど、詠唱は不要らしい。
「キッ……ぴぃ?」
一瞬びっくり声になった茂みの中の何かだけれど、ちょっと間をおいてその声は疑問を呈するものに変わる。
ちょいとしゃがみこんで手招きするひまりちゃん。
それに応じて、そろりそろりと出てきたのは、真っ黒い獣だった。
血糊が張り付いているのか、なんだかちょっとゴワゴワして見える。
『一般水魔法:湧水が使用可能です』
洗えと?でもここは冷水で洗うには少し寒いから、それはあとのほうがいいんじゃないかな。
街の宿に行けば、お湯貰えるとかいうイベントもあるでしょ、きっと。
歩く姿が不自然だったから、もう一回治癒符を投げたら、案の定歩き方が自然なものになり、そのままゆっくりとひまりちゃんの目の前に歩いてきた、黒い獣。
服の袖で、獣をくるむ。抵抗はない。
『使い魔として契約しますか?契約の場合は名前をつけてください』
おっけー!予想通りのイベントだった!大勝利!この子絶対洗ったらかわいいわよ!
「名前をあげよう。朔夜、今日からお前はサクヤよ」
「ぴゃ」
(我は本日この時よりひまり様の使い魔、朔夜であるな。了承した)
おお!頭の中で声がする感覚!念話って奴ねこれ!今日からよろしく!
『チュートリアルストーリー1を終了します。評価:Excellent!!
最高評価を得たため、スキルポイントと魔力にボーナスを得ます。
称号:使い魔を労わるもの、称号:聖魔のあわいを征くものを得ます。後者は秘匿されます』
お?お?お?
秘匿称号なんてものまであるのか、ベータのチュートリなのに。
『チュートリアル1を完了しました。引き続きチュートリアル2が始まりますので、街への移動か、草原での狩りを選んでください』
……ここは狩りね。どうせ町が先か草原が先かで、どっちもやるんだろうし。
移動の手間は省くべき!
というかスタート時間はリアルと合わせて13時頃だったっぽいし、多分街を先にすると草原チュートリが夜になってプレイヤー不利になる予感がする!
(先読みが上手いのう、主……)
朔夜に褒められた。愛い奴め。
血糊が残ったままでちょっとごわごわだけど、洗えばきっと手触りがよくなる予感がする毛皮を軽く撫でて、次のチュートリアルイベントスタート、のその前に……
ぐるりと、周囲を見渡す。
青空の下には、一面の草原。
朔夜がいた森の茂みの反対側の、かなり遠くに、壁っぽい構造物と塔の先端が、ちらりとだけ見える。多分あれがもう一つの選択肢だった【始まりの町】じゃないかな?
どうやらこの初期位置、草原でもかなり町から離れた場所ですねコレ?
それにしても。
ああ、自然だ。あまりにも自然だ。
ここは、仮想現実というデータの世界だというのに。
遥けき蒼穹には風の渡る音。時折飛んで行く鳥たちも自由に動いている、そんな感じ。
草原には風に鳴る葉擦れの音、虫の羽音、何かの足音。
朔夜がいた森からも、ざわりざわりと木の葉の擦れる音と、小鳥の鳴き声。
今日は風がちょっと強い日のよう。少しだけ寒いから、これまたリアルに合わせて三月くらいの設定かしら?
それらを改めて、ぐるりと見まわす。
引き籠ってから、一度も触れたことのない、というかその前の普通の人生時代でもこんな草原は見た事ないから初めてなのに、どこか懐かしい感じのする、草原と森。
いや絶対日本の環境じゃないんだけど!変な感じ。
……ひまりちゃんが懐かしさを感じてるわけでもないよねえ?
そういう感じはしないんだ。ひまりちゃんは、あくまでも私の為の入れ物で、キャラクターなのよね。
これは、そうね……ゲームバランスがうっかりダメな奴だったとしても、この草原の為だけに絶対入り浸りになる。
それが私のこのゲームに対する第一印象になった。
*****プレイリザルト*****
プレイヤー:稲見ひまり Lv1
種族:狐ノ命
体力 12
魔力 20→24
SP 0→4
力 4
耐久 4
敏捷 8
器用 6
知性 9
知識 19
信仰 -
運 -
呪符魔法 Lv1
攻撃符:炎x20
護身符:光x20
治癒符:光x20→18
一般魔法 Lv1
点火
湧水
穴
微風
作氷
発雷
灯
影
称号
[漂流者]
[使い魔を労わるもの☆]
[聖魔のあわいを征くもの☆]※秘匿
耐久にポイント振るとHPが2、知性に振るとMPが2増えます。




