第121話 空も飛べるはず???
ベータ勢、相変わらずテスターめいているという話。
時系列:50キャップ実装の、ちょっとだけ前。
40キャップになってから結構経った。
各サーバーのみんな達も運営の予想より早い段階で、相応の人数がカンストしたそうで、赤金鉱山のダンジョンには無事ボス部屋が実装されました!
但し、このボスの評判自体はあんまり宜しくない。
だって群れるタイプだったうえに、ゾンビ系だったんだもん……閉鎖空間で臭いはやめーや!という意見が非常に多かったのはしょうがないでしょう!
いやぁ、北のレイス通路の奥って話を聞いた時点で、嫌な予感はしてたんだけどね?
なお結局、ボスなんだから、このくらいの嫌がらせはあってしかるべき、という結論が出たので、奴ら、『パック・オブ・グレートウルフゾンビ』はそのままだ。臭いので余り行きたくない……
ただ、臭いに対する感受性の存在しない石人と絡繰さんは平然としたものだし、悪臭耐性がなぜかデフォルトで付いているドワーフ勢共々、特に気にしないで攻略に行っている。
出るものが金工士や鍛冶師向けの品物だからってのもあるかな。
絡繰さん、なんか種族特性の中に金工と錬金のスキルがあるらしいよ?
自分のメンテナンスをするんだろうか……
「いえ、それがですね、わたくしの場合、このスキルを上げないと治癒魔法の効率があがらないんですの」
「我々錬金スキルで治されてたんです……?」
「ポーションとか錬金術な訳だし、そっちはそこまで変ではないですけども……金、工?」
運営さんからのお呼び出しで、見たことないエリアに集合している現在、治癒要員として配置された藤古さんや峰雪ちゃんと並んでいたので質問したら、まさかの回答だよ!
ちなみに我々の前では空中散歩体験会、開催中です。
……どっちかというと落下死の体験会になってるけど。
なおこのエリア、通常サーバーからは隔離された『死に戻り不可エリア』だ。
ばたんきゅーしても1分待てば体力1で起きられるよ!
その代わり、フレンドチャットもクランチャットも無効なので、通常会話しかできません。
「うぅむ、歩くだけですら案外難しいですね?」
「足元がよくみえないですぅ」
「見てもなんにもないけどねっ!」
「ねえコレ俺ら何の修行させられてるの?」
「そりゃあ我々天狗ですから……あわわ」
目の前でわちゃわちゃ騒ぎながら上がっては落ちを繰り返しているのは、ノの字の鳥類系、俗称天狗勢だ。
服装も修験者風の装いで、あからさまに天狗モチーフでもあるようなんだけどねー。
「ううむ、流石にここで落ちると少し恥ずかしいですね?」
「空中静止が既にできているなら、そこまで難しくないでしょう?」
少し離れたところで、宙に浮かんで静止状態でその様子を眺めているのは、余裕顔のファディさんと、ややビビり顔という珍しい表情のアランヴィーズさんだ。
まあ二人とも、空中浮揚はサマになっているんですけどもね。どちらも姿勢が良い……
なおファディさんが余裕の表情なのは、スタート地点の小島の段階でこの特訓は既に終わっているから、だ。リアルで聞いただけで、ゲーム内では秘密だけどね。
どうやらアランヴィーズさんが一応浮いていられるのも、それに近い何かがあった感じですかね?
「いやはや、どうせなら空中歩行でいいじゃないですか、って提案したのも確かですけど!ここまで難易度が高いのはどうしてですかね?!」
「足場が見えないからですねえ!」
ミサキちゃんが愚痴り、茉莉ちゃんが明快に回答している。
二陣天狗勢の、灰翼快哉ノ真鶴族、斧ノ於通さんと、紅翼光来ノ朱鷺族、火ノ鳥郎女さんは、ずーっとガチの真剣勝負!みたいな顔して無言でずーっと上がっては落ち、上がっては落ちしている。
……しかしこの二人の名前は歴史ネタ揃えなんです?時代がバラバラだけど。
この空中歩行というスキルになる予定の何かは、透明で見えない足場の上を歩く、という、言葉にすると一見なんてことのない行動なんだけど……
見えないって、こわい。
ほぼ参加者全員がこの言葉に頷くハメになりました!
……ええ、なんでか知らないけど、私とキリカちゃんも練習させられましてね?
「なんで?どうして我々まで?眷属持ちなら誰でもやれるようになれと?」
「狐は空は飛ばないよー!?むしろ今日のメンバーになんでミステルちゃんがいないんですかー!」
「ご用事だとかで、ログインしてないだけですね!」
ミステルちゃんはリアルご用事で不在だったそうで、あとになってから、違う日にソロ特訓したとかいう話をちらっと聞いた。
ちなみにミステルちゃんは有翼種だけど鳥類ではないせいか、天狗装束ではないよ。
ミニ丈のドレスアーマーっぽい恰好だったりするのよね。なおアンダースコートだかペチコートだかがフリルふわふわでパンツは見えない仕様!とは本人談だ。
なお本人最大の不満が『符術師に見えない』ことだそう。確かにドレスアーマーに槍と盾だもんな、彼女の装備……
「うーむ、予想以上に落下死が多い……」
「レベルあっても死ぬじゃないですかー!」
観察役として立っている例のGM姿のオペレッタ姉さんが唸っているのに、ミサキちゃんが感情爆発って感じで叫んでいる。
確かにベータ版の掲示板でもそういう話をしてたねえ、覚えてる。
そういやあの頃はほぼ一陣しかいない頃だったから、あれ主にミサキちゃんが喋ってたんだね……
実際私もやってみて判ったんだけど、きちんと進行方向を見て進もうとすると、ただでさえ見えない足場が余計判らなくなって途中で足踏み外すんだよねえ。
その場で設定を変えられるというので、足場なしのパントマイム式を試したら、今度は落ちなくはなったんだけど、もっと練習が必要ですねって感じの酷い姿勢の人が続出した……
なおファディさんは足場なしで浮いている。
あれは相当特訓したやつでは……?
と思ったら真龍の場合、浮く分には原理が別であるらしい。
そういや本体がデフォで巨体で空飛ぶ種族ですもんね……
但し個人としては特訓自体は不可避だった模様。まあ中の人、スーパーウーマンだけどカテゴリ的には普通に人類だしなあ。
デフォで空を飛べる系種族には、必ず空飛ぶ類似種の眷属がいる。
この子たちも個性豊かだ。
周囲を飛び回って煽っている奴もいるし、心配そうにのぞき込んだり、こんなふうにすればどう?みたいにお手本を見せようとしている子がいたりだ。
まあ現状で練習してるのは歩行であって飛行ではないので、お手本は上手くいっていませんが。
うちの朔夜はといえば、懐から出てきません!
(我は現状では飛ばぬからなあ)
……確かにそれはそう……いやそもそも、なんでひまりちゃんまで練習させられてるのかが!謎!!
「ねえ、空飛ばなくていいはずのお狐様が一番サマになってるんだけど?」
「そんな!はずは!……あわぁ!」
「ごめん……」
妙な事を言い出すアランヴィーズさんに思わず反論しようとしたら、姿勢制御が狂って転落。ぐぬぬぬう!
まあ流石に着地はきちんとキメるんですけども。鷲FMの他界たかーいで慣れました!!
あれより滞空時間長いから!自己制御でも余裕!
「あらあら、ひまりさんに治癒魔法をかける機会って本当にございませんのねえ」
「サンダーイーグル行くと100%攫われて、100%華麗に着地するもんね……」
「キリカちゃんは2割くらいコケるのにねー」
「最近は!1割よ!!」
何故か藤古さんには残念がられ、治癒符係のリツカちゃんには事実を述べられ、ミサキちゃんはキリカちゃんを引き合いに出して反論されている。
そうか、キリカちゃん最近動きが良くなってるの、気のせいじゃなかったんだね……!
「ちなみに100%攫われは間違いです。峰雪ちゃんいるとあっちに先に行くから」
「あ、そうなんだ」
「私もあれでダメージ食らったことないんですよー」
「峰雪ちゃんも体幹いい感じするけど、やっぱそうなんだ」
そうだよ!峰雪ちゃんと、あと多分三陣天狗の二人は私より!軽い!
あ、そうだ、特殊エリアにいるうちに疑問を解消しとこう。
「そういえばあれリトルフット勢には行かないですけどなんで?」
「高度が下がりすぎて飛び上がれなくなるバグがあったので対象外にしました……」
……残念すぎんか鷲系モンス?
というか奴らの飛び方、我々が思ってるのと違う疑惑ががが。
「浮力が消えるんです?」
「浮力じゃなくて揚力ですね」
あ、普通に大型鳥類の理屈で飛んでるんだあいつら。
「あれ?じゃああいつら離陸は……」
「残念なことに平地に落ちた場合ミズナギドリ式ですが、そもそもそういう時に彼らのサイズで上がれる木がない事が多く……」
翼が大きすぎて、平らな地上からは飛び上がれない、把握。
まあそういうどんくさ個体は淘汰されてもしゃーなし、であるようですけども。
「アホウドリ式でいけないんだ?アホウドリっていうか一般水鳥系」
「ちょっと翼長の加減に失敗した、とデザイナーがぼやいていましたね」
「……ミケさんがつかみ取りできる理由がなんか判った気がする」
「ええ、あの方、鷲の減速と方向転換のタイミングを見切っていますね……」
そんな話もしながら、まる2ログイン分くらいかけて練習したら、翼のある勢は全員それなりに空中移動ができるようになってきた。
私も空中歩行はモノにできそうだ。このエリアでは技能は生えないそうだけど!
「どちらにしても50キャップの後での実装ですねえこれは」
「そうねー、あと10レベル分の耐久が乗ったら練習でもあんまり死ななくなるとは思う!」
オペ姉さんとミサキちゃんの会話通り、50キャップでレベリング終った辺りでの実装になりそうですね!
……いやでもなんで私らまで練習したんだ。謎だ……
テスターめいているというより練習コースでデータ取ってるのでマジのテスター。
鷲モンスは爪が長くてモノを掴む特化、なので地面を歩くのが苦手なのもあかんようです。




