序:佳賀里屋 瑞希という少女。
新作でございます。ついにファンタジー枠から飛び出したよ!
序文は違うの用意してたんですけどこうなってしまい。
佳賀里屋 瑞希は、引き籠りだ。
本人には一切社会的な非はないし、彼女の心身ともに、何の問題もないと医者には太鼓判を押されている。
ただ、外に出ると、命に係わるような大事故や事件に確定で巻き込まれる、という厄介な『体質』を持っていると判定された、それだけだ。
大事件や事故といっても、彼女自身がその場にいると、決して死人は出ないし、本人に至っては、かすり傷程度の怪我すらしない。
周辺で怪我人がそこそこと、破壊された建造物や車両が、これは結構な数、量産されるだけだ。
それでも、経済的損失や、市民の悪感情には代えられないよね、と、結論が出たその日から、彼女は政府の保護の元、ひっそりと引き籠りをやっている。
本人の『何らかの体質』であるらしく、手紙やメール、早々と普及したインターネットなんかは使っても全然問題は起こらないから、今は随分と便利になったネットで学業と生活に必要な買い物や手続きの全てを片付ける生活だ。
健康と体力維持に配慮した運動器具も用意され、監視役兼世話係として三人の女性まで手配されての、快適なマンション暮らしに、本人も満足しているという。
両親は彼女の事故体質に薄々感づいたあたりで、彼女を捨てた。
それは丁度義務教育が終わる、ちょうどその辺り。
そう、それが、後から見れば第三者の目でもはっきり判る程度に発現したのは、中学の修学旅行の最終日、だったので。
彼女の当時の同級生は、誰もいない。
クラス全員、否、学年の二クラスが全て、バスごと谷底に落ち、そのまま、何故か見つからなかった。
瑞希が一人残されたのは、一人だけシートベルトが切れて窓から放り出され、崖の途中の木の枝に引っかかっていたからだ。
だから彼女は知っている。
彼等がバスごと、見た事のない光の中に、本当に消えてしまった、という事を。
そして何故か、彼女の目撃談は、慎重に隠蔽されはしたものの、あっさりと事実として認定された。
ただ、流石に一人生き残ってしまった、という事実に向けられる、田舎の住人、特に同級生たちの家族の眼に耐えられなかったから、引っ越しはした。
ところがだ。高校受験の際にひとりで電車に乗っていたら、先頭車両が転覆する大事故。
幸い、後方に乗っていたので、彼女は怪我すらしないで済んだ。
遅延証明を受けてどうにか受験には間に合ったものの、試験を終えて帰ろうと試験会場を出た直後に、建物が倒壊。
これも死者は出なかったし、後遺症の残る怪我を負ったものも、出なかった。
とどめに、電車が運休しているからとバスに乗ったら、今度はこれがガス爆発に巻き込まれて盛大に傾き、信号に激突。
そんな大事故にも関わらず、ガス爆発を含む全ての案件で死者はおらず、ただ、怪我人と、後遺症のない程度の負傷者だけが大量に発生するに留まった。
そして、どれもこれも、無傷で帰還する瑞希。
流石にたったの一日でこれだけの事が続いては、両親も彼女に疑惑の目を向けた。
そもそも、住み慣れた田舎の地域社会から逃げる様に転出した事自体が、彼等には苦痛だったので、彼らの態度は修学旅行からの引っ越し以後、酷くよそよそしいものになっていた。
その結果、調査に来た政府関係者に、親権を捨てると言い放ち、夫婦は一人娘を置いて、逐電した。
「……田舎の人って、もうちょっと情に厚いイメージがあったんですが」
男性調査員は置いて行かれた側の感情など知ったこっちゃない、という調子で酷い事を言う。
「田舎都会二元論って無意味よ?都会にいるのなんて八割は田舎から出てきた人間なんだから」
女性調査員の方は男性の言葉をすっぱり否定し、瑞希に向かって頭を下げる。
「ごめんなさいね、デリカシーって奴が完全に欠如してるの、こいつ」
「いえ、事実ですし」
むしろ瑞希は、田舎の人間の情、というモノを一切信用していない。
昔から、瑞希はクラスでもちょっと浮いていた。
祖母が外国人だったそうで、隔世遺伝でちょっぴり明るい髪の色、瞳の彩。
性格は自分では良くもなく、悪くもなくだと思っているけど、流石にこの平成のご時世に異人呼ばわりは、ちょっと無知が過ぎるのではないか?と思ってしまったので、敢えて、親しい友達は作っていなかった。
「田舎ほど排他性は強いものです。おばあちゃん、よくあんなとこに嫁に来たなって、今でもよく思いますもん」
その田舎の排他性は、両親にもバッチリ受け継がれていた。
なので、両親に愛されていた、という自覚はない瑞希だ。
自分にも、両親が恋しいという感情は、ない。
義務教育まではどうにか終わらせてくれたから、それは御の字だと思っているけど。
卒業式は出ていないけど、卒業証書自体は手元にある事だし。
「まあ居なくなってしまったものを追う必要はないでしょう。
上の方で結論が出たのですが、佳賀里屋 瑞希さん。貴方は政府の保護下に置かれることになりました。
勿論生存及び基本的人権、教育や娯楽の提供は保証されます。
但し、我々の指定する家から、出ない事。これが条件となります」
「政府公認引き籠り?面白そうじゃない」
瑞希は、その話を鼻で笑うかのような表情で、口だけは面白そう、と言ってのける。
「最近ではインターネットの普及で、家から出ないで生活する事自体は、充分可能です。
無論あなたは未成年ですから、正規の後見人と、世話係兼状況監視のために、女性の係員が付くことになります。
係員の方は、お手伝いさんみたいに使って貰ってかまいません」
「引き籠りのお嬢様か、悪くないわ。乗りましょう」
そして、本人がそれを了承し、速やかに新たな住居への引っ越しが行われた。
今日まで住んでいたアパートに思い入れはないし、ここには肝心のネット回線が入っていない。
彼等が必要なものを全て持ち出し、政府調査員らしからぬ、でかいトラックとバンで立ち去った後。
アパートは下の階の住人の失火で全焼した。死者は、居なかった。
尚、その日以降、瑞希の両親の行方は知れない。
第一話以降は瑞希の一人称で、真面目モードほぼ終了のお知らせです。
あと例によってぱられるわーるどですね。




