通報系自粛警察の末路
特別むしゃくしゃしてたとか、そういう事じゃ無かったと思う。ただ、目に入ったおっさんを何となく憂さ晴らしにしただけだった。
「おたくのタクシーの運転手、制服着て、牛丼屋で飯食ってたけど、就業中にいいの、あれ。おたくの教育どうなってんの」
自分でも頭の悪いクレームだと思ったが、対応した女は平身低頭って感じで謝って、こっちの言葉を丁寧に聞き取って、対応致しますと返して来た。
それが面白くて、何となくSNSで呟くと、ろくにフォローもされてない俺のアカウントが大いに燃えた。
それがきっかけだった。
それから俺は、ありとあらゆるところに通報を仕掛け、自粛を促すようにネットに書き込んだ。
「不謹慎だと思わないんですか、過去に悲惨な事故のあった日に祝賀イベントなんて」
そんな事をいって、イベントを中止に追い込んだ時はスッとした。
法的措置を取られる可能性は常に考えていたが、そっちが勝手に自粛した責任を問われたところで罪に問われるとは思わないし、俺を訴えたとこで金の無駄だろうと、そう思い込んでやりたい放題に暴れまわった。
そんな俺が彼女と出会ったのもネットだった。
アカウントをフォローして来た女から、一度会いませんかとDMが来て、怪しいと思いながらも会って見ると、その後は意気投合して、いつの間にか付き合っていた。
そんな俺と彼女は結婚して、今日は1年目の結婚記念日だった。
「震災の日に結婚記念のお祝いなんて、不謹慎だと思わないの」
彼女が真顔でそんな事を言ってくる。
意味がわからなかった。
確かに婚姻届を出した日は、かつて震災被害があった日と同じだ。でも、それとこれとは別だろう。
「なっ、なにを言って……」
「だって、あなたはいつも言ってるじゃない。不謹慎だ自粛しろって」
真顔のまま言う妻に怖気る。そんなことを言う奴じゃ無かったのに、でも。
「SNSの話か」
妻と知り合ったのは俺のアカウントがきっかけだ。なら、当然、俺の投稿もしってる。
「えぇ、そうね。ねぇ、あなたも両親は他界してたけど、わたしの両親もいないでしょ、なんでか、知ってる? 」
いきなり、訳のわからないことを言われて困惑する。
「わたしね、おかーさんが早くに死んじゃって、おとーさん1人で育ててもらったの。そのおとーさんがね、会社の経営不振で依願退職があって、退職金を上乗せしてもらうかわりに辞めたの。お世話になった会社に貢献したいって、でね。そのあと、2種免許をとって、タクシー会社に再就職したの」
イヤな汗が出てきた。妻の顔を直視出来ない、あいつは今、どんな顔をしてるんだ。
「でね、就職したタクシー会社で、昼に牛丼屋でご飯食べてたってクレームだけで、クビになったんだ」
そんなバカなと思った。そんな会社があるわけ無いと。
「会社も酷いよね。そんなクレームでクビなんてさ。もちろん、わたしはおとーさんに不当解雇で争おうって言ったよ。でも、おとーさん、勝てるかもわからないし、それより、次の就職先を見つけて、学費を稼がないとなって」
「おっ、俺は悪くないっ」
思わず出た言葉に、妻が顔を顰めた。
「なんの話、……おとーさん、そのあと、就職決まらなくてね、で、ある日、マンションの屋上から飛び降りて死んじゃった」
無表情だった。怒りも恨みも悲しみもない、無だった。それが余計に怖くて。
「りっ離婚しよう。なっ、離婚」
そう言った俺に。
「しないよ。これからずっと、わたしはあなたがお祝いごとをするたびに、自粛させなきゃいけないから」
意味がわからなかった。目の前の悍ましい生き物に理解が及ばない。
でも、それは俺自身だったんだと思った瞬間。
「申し訳なかった。謝る、謝るから、だから離婚してくれ」
俺は繰り返し続けていたと思う。間髪もいれず、ただ、ひたすら。
「しないって、別にあなたは間違ってないよ。そう言ってたじゃん。だから、正しいあなたをわたしはずーっと肯定してあげるよ。だから、離婚なんてしない」
いまさら、逃げないでよ。そう囁くように付け加えられた言葉に、俺は項垂れるんだった。
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щ(゜д゜щ)カモーン




