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そういうところがかわいいってどうしてわからないんだろう

作者: 澪ナギ
掲載日:2025/12/17

「炎上君のほんとの日本名って离憂っていうんだね」


 そうこぼせば、書類を書いていた炎上君はこっちを向いた。一瞬だけ目が合ってから、彼はもう一度書類に目を落として、「そうだな」と頷く。


 その視線の先には、役所に提出する書類。

 俺が先に書いてて、炎上君が「聞きたいことがある」ってなったからそこを教えながら書いていって。


 最後に、署名のところ。

 本名のリアス=クロウのほかに、炎上君は日本で使っている方の名前を書いていった。


 それをぼんやりと眺めていたら、「炎上」の先には、今まで見覚えのある「龍」ではなくて、「离憂」ときれいな字で書かれる。

 そうしてこぼしたのが、その言葉。炎上君は一度書き終えてから、書類を確認するように目を流しつつ。


「読めるんだな」


 と。

 言われて、今度は俺が炎上君を改めて見た。


「これはこう、学力的な方で言われてる?」

「まさか。お医者様の息子が読めないとは思わない」


 その言い方は少しいじわるを含んでいたけれど、決して学力の方ではないとわかったので。


「合ってるよね。りう」

「あぁ」

「いろんな名前あるね、炎上君」

「本来はお前が言った通り、こっちが日本名なんだがな」


 理由があって変えたとわかる言い方に、続きを促すように彼を見た。

 書類のチェックが終わったらしい炎上君は、背もたれに体を預けてひとつ、指を折る。


「ひとつは読み方。割となんて読むかで突っかかるので時間短縮で、名乗る方は変えた」


 そしてもうひとつ。


「クリスティアがな」

「氷河さん」

「あいつ呼ぶときに結構伸びるだろう?」

「のび……?」


 ―――あぁ。


 せんりーとかそんな感じのあれかな。思い出してふふっと笑いながら、頷く。


「そうだね。ふわーっと呼ぶよね」

「そう。それで、あいつなりには”りう”と呼んでいるんだが、どうしても”りゅう”にしか聞こえなくてな」


 笑いながら話す様子を見るに、別にそれが嫌というわけではなく。ただただ愛しい思い出のように続けていく。


「呼びづらさもあるんだろうということで、呼び方を”りゅう”にした」

「表記は、変えられなかったの?」

「いや」


 変えなかった、と。愛おしそうに指でその名を撫でるから。あぁ氷河さんとのことだろうなとわかって、こっちも微笑んでしまう。


「クリスティア以外は、日本名は頭と後ろをくっつけるような形で決めていてな。レグナなら蓮、カリナなら華凜。クリスティアは本名の関係上どうにも略せないということで、俺が意味をつけて名付けたが。俺はそれで”りう”に」


 そのときに。


「俺の漢字は、自分が決めたいと言い出した」

「氷河さんが」

「あぁ。自分の名を決めてくれたから、その礼のような感覚だったんだろうな。当時は辞書なんて手元にないから、図書館にこもって一生懸命調べてたよ」


 目に浮かぶその光景に、こっちの頬も緩んでいく気がした。


「そうして決まったのが、この漢字」

「意味も、ちゃんとあるんでしょ?」

「当然」


 過去を乗り越え、辛さから離れていく、と。


 愛おしげに、その口からこぼれていった。


「嬉しいやつだね」

「それはもう、な。たださっきも言った通り、表記的に読めないことが多く、あいつも呼び方がどうしてもりゅうとなる」

「悲しそうだった?」

「最初はな」


 だから言い方を変えた、と。


 今度は楽しげに言う炎上君に、身を乗り出して続きを促した。


「大切なときだけに使う、俺達だけの特別な名前と言った」

「特別な……」

「あぁ。こうした公的書類で使うもの。つまりは大事な場面で使う、特別なものだと」


 また愛おしそうに名前を撫でて、笑う。


「……そっか」

「期待外れの答えだったか」

「まさか」


 むしろ、と。肩を竦めて。


「ごちそうさまとしか言えないくらい甘いお話だなぁと」

「かわいいだろう、クリスティア」

「俺からしたら炎上君もなかなかかわいいと思うよ」

「眼科行くといいぞ」

「あはは、お断りするよ」


 だって。


「大事な恋人悲しませたくなくて、絶対変えたくなかったんでしょ、この表記」

「……」

「そのエピソードからそれが伝わるよ。かわいいなぁって思う」


 笑っていたら、炎上君は口を開いた。


「……変えたくもないだろう?」

「うん?」

「恋人が図書館にこもってまで、俺に合うような漢字を一生懸命探したんだ。それがどれだけの意味をもつか」

「……」

「何があっても一生変えるものか」


 嬉しそうに、愛おしそうに。名前を撫でながら言う炎上君に。やっぱり、と。


「炎上君」

「ん?」

「そういう心が、俺から見たらかわいいと思うんだよ」


 そう、言ったら。


「さいで」


 彼は「意味わからん」という意味で使う言葉を返してきて立ち上がる。俺もそれを追うように立ち上がった。


「もう行くの?」

「これ以上はお前にからかわれるしな。クリスティアのところにも行くし」

「あはは、照れてるんだ」

「置いてくぞ」

「あ、待ってよ!」


 歩き出す炎上君に、急いで荷物をまとめて追いかける。あ、案外足早いな? もう曲がっていっちゃった。まぁ炎上君ならこういうときなんだかんだ待ってるんだよねと走っていけば。


「え、ほんとにいないの!?」


 相当なダメージを与えていたのか、角を曲がった先にもう彼はいませんでした。


『そういうところがかわいいってどうしてわからないんだろう』/シオン




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