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編み物好きの女子が悪役令嬢に転生したら、国を丸ごと癒やしてしまった話  作者: 南蛇井


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28/40

第28話:学園パーティー前夜

――学園の中庭が、いつもより少しだけきらびやかに見えた。


年に一度の「交流舞踏会スクール・ガラ」を翌日に控え、

生徒たちは誰もが浮き足立っていた。

廊下には色とりどりのリボンが飾られ、音楽室からは練習の旋律が漏れ、

校庭の噴水には花びらが浮かべられている。


そんな華やかな雰囲気の中心で、ひときわ騒がしいのが――アメリアの教室前だった。


「ねぇ、アメリアさんの編んだリボン、ひとつだけでいいの!」

「ボタンカバーでもいい! あの光る糸のやつ!」


次々に飛び交う声。

机の前には、列を成した生徒たちが詰めかけている。

両手を胸の前で握る女子生徒もいれば、恥ずかしそうに帽子を差し出す男子生徒も。


アメリアは目を丸くした。


「え、えっと……そんなにたくさんは、作れませんよ……!」

「お願い、アメリアさん! “幸運のお守り”なんでしょ?」

「俺、これつけて踊ったら、きっと告白成功する気がする!」


どうしてそんな噂が広まったのか、アメリア本人にもわからない。

ただ、あの“癒やしの糸”で編まれた小物がほんのりと光るたび、

周囲の笑顔が広がっていくのを見て、彼女は断れなかった。


――ほんの少しでも、誰かの背中を押せるなら。


「……わかりました。じゃあ、できるだけ頑張りますね」


その言葉に、列の後ろまで歓声が湧いた。


「やったー! アメリアさん最高!」

「これで明日のダンスも完璧だ!」


光の差し込む窓際で、アメリアは小さく息を吐き、

糸巻きを握りしめながら微笑んだ。


いつのまにか、彼女の“優しさ”は、

学園全体を包む祝祭の光になっていた。


夜の学園寮。

静まり返った部屋の中に、ひとつだけ、規則的な編み針の音が響いていた。


――カチ、カチ、カチ。


アメリアの指先は休むことを知らない。

机の上には、半ば完成したリボンやカフス、髪飾りが山のように積まれている。

ランプの光を受けて、糸のひとすじひとすじが柔らかく光っていた。


「……これで十五個目。あと十個……」

彼女が小さくつぶやいたその背後で、ふっと紅茶の香りが漂う。


「あなた、もはや学園の公式ブランドね。――“アメリア印”。」


呆れたように微笑みながら、ミラベルがティーカップを差し出した。

彼女の声には、かつての冷たさはもうない。

かわりに、優しいからかいが滲んでいた。


「そ、そんな大げさな! 私、ただ編んでるだけです!」


アメリアは慌てて手を振る。

だがミラベルはカップを手渡しながら、ゆっくり首を振った。


「“ただ”って言葉ほど、軽くて重いものはないのよ。

 その“だけ”を続けられる人が、いったいどれほどいるかしら」


アメリアは一瞬、言葉を失った。

けれど次の瞬間には、頬を染めて笑っていた。


「……それでも、誰かが喜んでくれるのが嬉しくて」


「ええ、だから放っておけないのよね、あなたのこと」


ミラベルはそう言って、机の端に並ぶ毛糸を整え始めた。

巻き戻された糸が指の間をすべるたび、光が小さく瞬く。


「……ミラベルさま、手伝ってくださるんですか?」

「仕方ないわ。あなたが倒れたら、明日の舞踏会に出られないでしょう?」


その言葉にアメリアは目を丸くし、すぐに笑い声を漏らした。


――かつて冷たいと噂された令嬢が、今では友の作業をそっと支えている。


ランプの光の中で、二人の影が並び、重なり、ゆっくりと揺れた。

外では、舞踏会の飾り付けの灯りが風に揺れている。


明日、この優しい夜が、きっと祝祭の光へと変わるのだろう。

昼下がりの学園は、まるで市場のような喧騒に包まれていた。

校舎前の芝生広場――そこには長い行列ができている。


その先頭に立つのは、真面目で知られる生徒会長・ルイス。

その姿を見て、誰もが目を疑った。


「……ま、まさか生徒会長まで!?」

「そりゃあ、“アメリア製のタイピン”が手に入るって言うならな!」


男子Aが叫び、男子Bが調子に乗って続ける。


「恋が叶う毛糸だって聞いたぜ!」

「いや、試験に受かる毛糸らしいぞ! 勉強せずに受験突破だ!」


「どっちでもいいけど」と笑いながら、別の生徒が肩を組む。

「俺は“学食のカレーが当たりになる毛糸”が欲しい!」

「それ本気で信じてんの!?」


――あちこちで飛び交う噂と笑い声。


行列の中心では、当のアメリアが顔を真っ赤にしていた。


「み、みんな! 順番にしてください! 一人一個までですよ!」


慌てて配る彼女の背後で、ミラベルが紅茶を手に見守っている。

その視線はどこか呆れ、けれどほんの少しだけ誇らしげでもあった。


「……もはや学園の経済が“アメリア毛糸”で回っているわね」

「み、ミラベルさま、笑わないでください!」

「笑ってないわ。ただ……」


ミラベルは紅茶を一口含み、静かにため息をついた。


「どっちでもいいけど――彼女を過労死させないでね」


その一言に、男子たちは一斉に姿勢を正した。


「は、はいっ!」

「殿下のご友人を酷使するなんて恐れ多い!」

「……殿下!? お前、それ言っちゃダメだろ!?」


わっと騒ぎが再燃する中、アメリアは困ったように笑う。

だがその頬には、どこか温かい光が宿っていた。


――笑い合い、はしゃぎ合う声が、校庭の空へと吸い込まれていく。

かつて編み物が“禁じられていた”学園とは思えないほど、そこには平和な空気が流れていた。


その光景を見つめながら、ミラベルはふと小さくつぶやく。


「……いいわね。優しさが、ちゃんと広がっていく」


夕暮れの陽光が、アメリアの毛糸をやわらかく照らしていた。

それは、彼女が紡いだ“絆の糸”が、学園全体を包み始めている証のようだった。


昼下がりの学園は、まるで市場のような喧騒に包まれていた。

校舎前の芝生広場――そこには長い行列ができている。


その先頭に立つのは、真面目で知られる生徒会長・ルイス。

その姿を見て、誰もが目を疑った。


「……ま、まさか生徒会長まで!?」

「そりゃあ、“アメリア製のタイピン”が手に入るって言うならな!」


男子Aが叫び、男子Bが調子に乗って続ける。


「恋が叶う毛糸だって聞いたぜ!」

「いや、試験に受かる毛糸らしいぞ! 勉強せずに受験突破だ!」


「どっちでもいいけど」と笑いながら、別の生徒が肩を組む。

「俺は“学食のカレーが当たりになる毛糸”が欲しい!」

「それ本気で信じてんの!?」


――あちこちで飛び交う噂と笑い声。


行列の中心では、当のアメリアが顔を真っ赤にしていた。


「み、みんな! 順番にしてください! 一人一個までですよ!」


慌てて配る彼女の背後で、ミラベルが紅茶を手に見守っている。

その視線はどこか呆れ、けれどほんの少しだけ誇らしげでもあった。


「……もはや学園の経済が“アメリア毛糸”で回っているわね」

「み、ミラベルさま、笑わないでください!」

「笑ってないわ。ただ……」


ミラベルは紅茶を一口含み、静かにため息をついた。


「どっちでもいいけど――彼女を過労死させないでね」


その一言に、男子たちは一斉に姿勢を正した。


「は、はいっ!」

「殿下のご友人を酷使するなんて恐れ多い!」

「……殿下!? お前、それ言っちゃダメだろ!?」


わっと騒ぎが再燃する中、アメリアは困ったように笑う。

だがその頬には、どこか温かい光が宿っていた。


――笑い合い、はしゃぎ合う声が、校庭の空へと吸い込まれていく。

かつて編み物が“禁じられていた”学園とは思えないほど、そこには平和な空気が流れていた。


その光景を見つめながら、ミラベルはふと小さくつぶやく。


「……いいわね。優しさが、ちゃんと広がっていく」


夕暮れの陽光が、アメリアの毛糸をやわらかく照らしていた。

それは、彼女が紡いだ“絆の糸”が、学園全体を包み始めている証のようだった。



夜の帳が静かに降りる。

学園の灯が一つ、また一つと消えていき、残るのは月の淡い光だけ。


アメリアは最後の一本のリボンを、丁寧に机の上へ置いた。

白い毛糸に織り込まれた光糸が、かすかに淡く輝く。

それはまるで、今日までの努力と祈りを映すようだった。


彼女は両手を重ね、その小さな作品を見つめる。

唇が、そっと動く。


「明日、みんなが笑顔で過ごせますように……」


目を閉じると、指先に優しい風が触れた。

カーテンがふわりと揺れ、夜の空気が部屋に流れ込む。

その風に誘われるように、机の上のリボンが光の粒を散らした。


金色、銀色、そして柔らかな桃色――

小さな星々のような輝きが、ゆっくりと部屋の中を漂う。

アメリアは息を呑み、微笑んだ。


(ああ……また、光ってくれた)


それはまるで“誰かの幸せ”を約束するかのような光。

祝福のように、そっと彼女の肩を包み込む。


外では、舞踏会の準備を終えた生徒たちの笑い声が遠く響く。

明日はきっと、誰もが輝く一日になる――

アメリアはそう信じながら、ゆっくりとランプの灯を落とした。


窓辺に残ったリボンが、最後にひときわ強く光を放つ。

そしてその光は夜空へと溶け、次なる物語の予感を残して消えていった。



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