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編み物好きの女子が悪役令嬢に転生したら、国を丸ごと癒やしてしまった話  作者: 南蛇井


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第25話:編み物復活、そして国へ広がる

学園の朝は、いつもより少しざわついていた。掲示板の前に群がる生徒たちの目は、誰もが一斉にそこに注がれている。


そこには、大きな文字でこう書かれていた。


『編み物・裁縫の禁止を撤回する。生徒の自由な活動として認める』


一瞬、静寂が訪れたあと、生徒たちは歓声を上げ、笑顔が校舎に溢れた。男子も女子も、嬉しさを抑えきれず、互いに顔を見合わせて笑う。


アメリアは掲示板を見上げ、息を呑む。思わず小さく拳を握った。「やっと……」


その横で、ミラベルが静かに彼女を見つめ、目を細めて微笑む。アメリアもまた、目が合うと自然に微笑み返した。


それは、ただの復活ではない。小さな勇気が、大きな認められた瞬間――学園全体が、新しい空気に包まれたその朝だった。


掲示板の告知が広まると、学園内は一変した。


男子たちはまるで勝利の旗を掲げたかのように、興奮気味に話し合う。


「よし、裁縫部を作ろうぜ!」

「男子だけの編み物部もいいな! 名前は“漢の編み部”だ!」


その声に女子たちも笑顔で応じ、興味津々に集まり始める。教室や廊下のあちこちで、針を持った手が楽しそうに動く光景が広がった。


教師たちも以前のような厳格な表情は消え、穏やかな笑みを浮かべながら生徒たちを見守る。心のどこかで、「禁止していた理由が、ただの偏見だったのかもしれない」と自覚しているのが、態度に滲み出ていた。


こうして、学園内の緊張感は消え、笑い声や会話が溢れる和やかな日常が戻った。小さな行為が、大きな変化を生み出した瞬間だった。


王家の議会は、いつになく静かな緊張感に包まれていた。


第二王子ユーグが立ち上がり、穏やかだが揺るがぬ声で宣言する。


「庶民の少女が示した力は、偶然ではありません。

 アメリア・ルヴァンの編み物は、単なる趣味ではなく、国にとって希望となる力です。

 癒やしの力は、国民を救う力として認められるべきです」


議場に一瞬の沈黙が走る。第一王子派や保守派の議員たちも、これまでの数々の実証例――カレンの奇跡的な回復や学園内での“癒しの実績”――を前に、反論の声を上げることはできなかった。


王家は公式に認める決定を下す。

アメリアの“編み物の力”は、国の公認の資源として認定される。


その瞬間、議会室にさざめくような静かな歓声が広がる。

ただの少女の小さな手仕事が、国全体の希望として認められた瞬間だった。


学園の図書室――午後の日差しが窓から差し込み、机の上にはカラフルな毛糸玉が並んでいた。


アメリアはそっと手に取り、丁寧に針を持つ。心の奥で小さな震えを感じながらも、表情は穏やかだった。


(私の力が、認められる……)


隣にはミラベルが腰を下ろし、静かに針を握る。目が合うと、微かにほほ笑みが交わされる。


二人の周囲には、これまでよりも明るく、柔らかい光が漂っている。毛糸の一本一本が、希望の温もりを帯びるように揺れていた。


ミラベル(心)

(やっと、正しいものが正しく認められた。これで、次の戦いに臆する理由はない)


アメリアは小さく息をつき、針を動かす。編み目は、以前よりも確かに力強く、そして優しく光を宿していた。


二人の間に流れる静かな温度――友情と信頼、そして共に歩む覚悟が、確かな形となって現れていた。


学園における小さな奇跡は、今や二人の手によって社会的な価値として、しっかりと根付いたのだった。


王都の広場――夕暮れ時、掲示板には王家の正式な布告が貼られ、多くの市民が足を止めて読んでいた。


「編み物・裁縫の禁止は撤回され、生徒の自由な活動として認める」


子どもたちは歓声を上げ、親たちは笑顔を交わす。小さな手に針と糸を持つ光景が、町のあちこちで生まれ始めていた。


報道官が書簡を各地の領地に送り、地方の領民にも「癒やしの編み物」が王家に認められたことが伝わる。農村の少女が、母や弟の傷を優しく包み、兵士の兵舎でも編み物が静かな慰めとして広がる。


アメリア(心)

(……こんなにも、私の小さな手が、誰かを笑顔にできるなんて)


ミラベルは窓辺からその様子を見つめ、口元に微笑みを浮かべる。


ミラベル(心)

(これが、始まりに過ぎない。誰かの優しさが、国を揺るがす日も――必ず来る)


遠くで子どもたちが糸を手に遊ぶ光景が、淡く輝く夕陽に照らされる。

小さな奇跡が、やがて王国全体の未来を変える火種となる――そう、まだ誰も気づかないまま。



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