獄潰し ~人はこれを度胸試しと呼ぶか否か~
注意:この小説を読んでくれた方が一人でも苦笑したら作者の勝ちです。勿論、鼻で笑ったとしても作者の勝ちとさせてもらいます。
獄潰し ~人はこれを度胸試しと呼ぶか否か~
スーパー内に内接されている本屋『犬の餌』。学ランに袖を通している一人の少年がゲーム雑誌を立ち読みしていた。彼の名前は天道時時雨。何処にでもいそうな少年Aでも名前は構わないのだがそれはそれで厄介であり、何処にでもいそうなというと『それじゃあ、便所にも沸いて出てくるのかよ』といった揚げ足を取ろうとするお話にならない人がいるかもしれないというので名前がついているのである。
「ふむふむ……」
今更、本を読みながら(しかも、他に客がいる前で)『ふむふむ』もないだろう。一人で本を読んでいるときに……というか、独り言を言う人は基本的に危ない人だと思っている人も多い。『オタクは基本、一人のときはぶつぶつ言っている』というのがとある友人の見解である。勿論、これが全般的に当てはまるものでもないし、オタクの人たちから見たら『俺たちはそこまで酷くないぞっ』と言いたくもなるだろう。つまり、オタクの一部の人たちが『ぶつぶつと独り言を言う』と表記するのが正しいのかもしれないのだが面倒なので割愛させてもらっている。
「やぁ、時雨君じゃないか」
時雨が偶然ギャルゲーのページを捲ったときに時雨の友人である霜崎賢治がやってきた。この少年の場合は少年Bなどではちょっと言い表せないために名前表記が必要である。もっとも、普通の人などこの世の何処にもいないということを先に言っておこう。自分が思っている『普通』と他人が思っている『普通』は違うものである。まぁ、ここで論じても仕方がないので『人それぞれ』という言葉を残したいと思う。
「おや、美少女が出てくるゲームのページを見ていたんだね」
「偶然だよ」
この場合は本当に偶然だが人によっては『偶然』やってきた友人にウソをつく人もいるのである。
「そうかい、それは勘違いをしてすまなかったな」
「いや、別にいいけど……」
友達の仲も此処までくればすばらしいというものである。どんなにおかしいことを言っても許されるという友人はなかなかいないのだ。
「それより、せっかく本屋にいるのだから度胸試しをしてみないかい」
賢治は時雨にそう提案するが、時雨のほうはいまいち理解できていない表情だった。
「本屋で度胸試しって……何するの」
「簡単だよ、エロ本を買ってくればいいんだ」
「……」
時雨は驚いたというより呆れたような顔をしており、賢治のほうはさっさと成人指定とかかれたほうへと歩いていっている。
「…はぁ」
友人としての付き合いは長いものだがいまだにつかみどころが無いなと時雨は思いながらついていくのであった。
「よし、じゃあまずはタイトルを選ぼうか」
「……そうだね、それをしないと始まらないからね……」
「先制は君に譲ろう」
「……ありがとう」
「どういたしまして」
時雨は顔を真っ赤にしながらタイトルを一生懸命選ぶのであった。出来るだけ普通のものを選びたいのだがエロ本でどれが普通で普通ではないのかわからないのである。
「じゃあ、この『メイド淫ベット』で」
「これまたマニアックな一冊を選んだね……ぼくはこの『夜専用ペット ~首輪+~』で行こうかな……」
それぞれがエロ本をもってレジのほうへと歩いていく。
「ルールは簡単だ。お互いに本を店員に渡して本のタイトルを述べた後にこれをくださいと言う」
「……うん、それで……」
「まずはこれをクリアしてもらわないとどうしようもないね」
「……わかったよ」
時雨が先にレジの店員さんにエロ本を手渡す。
「この『メイド淫ベット』ください」
「……はい、お買い上げありがとうございます」
顔を真っ赤にして告げる少年を店員はどう見たのだろうか……だが、店員さんの営業スマイルは崩れることは無かった。
時雨にとっては生まれて初めての体験。身体が固まり、目の前がゆがむ。店員さんの顔を見ていたつもりだったのだがお会計を終えた後に思い出すことなど不可能だったりする。
「……よかった」
「じゃあ、次はぼくの番だね」
そういって賢治も自分の持っていたものを提示し、微笑んだ。
「この『陰乱 ~またも登場、お股の又兵衛~』ください」
「……はい、お買い上げありがとうございます」
恙無く商売は進み、これまた賢治も無事にクリア。お互いクリアしてしまったのだから引き分け……そう時雨は考えていた。
「じゃあ、僕はこれで……」
「待ちたまえ」
時雨の肩に手を置き、引き止める。
「あと十分、待とうじゃないか」
「え、何でさ」
「十分後、バイトとして亜美がここにやってくるんだ」
「げ、マジで……」
霜崎亜美……霜崎賢治の親戚にして時雨のクラスメートでもある。なんとなく可愛い、性格もそれとなく可愛いという中堅どころの女子といっても問題はないのだが考え事をしているときが間々ある。誰が呼んだか『妄想中アーミー』という仇名がついたりしている。
「クラスメートにばれるのはやばいでしょ」
「別に構わないよ。君がこの勝負を降りたとしてもね……だけど、君がエロ本を買ったという事実に変わりは無い。後は亜美の口から皆に触れ回るのか、ぼくの口から面白おかしく話を変えられて皆に触れ回るのかの違いだよ」
「くっ、最初からこれが目的だったのか……」
「ふはははは、展開を読めない男は嫌われるぞ、時雨君」
こうして、誰も予想していなかったであろう第二ラウンドが始まったのである。
エロ本コーナーへと再び移動し、時雨はタイトルを上から下へと探していた。
「……できるだけ普通のタイトルを見つけるんだ……」
「おいおい、エロ本に普通も何も無いだろう」
「……いや、あるはずっ……目を瞑って感じるんだ……そうすれば導いてくれるはずだっ」
時雨は目を閉じて深呼吸。指先に全神経を集中して…一つのタイトルを掴みあげた。
『老化光線獣っ! ~十代があっという間に美熟女にっ!?~』
「すっごいコアなタイトルが来たァっ」
「おめでとう、君の『直感』には恐れいったよ」
賢治は時雨の後ろで拍手を送っていた。
「おっと、先に言っておくけどもう本を変えるのは……駄目だからね」
「くっ、仕方ない……僕はこいつで戦って見せるさ」
「さぁ、次はぼくの番だね……」
二人の熾烈きわまる戦いは続くのか……
~続く…言っておきますがこの小説の続編が出るのか、出ないのかは不明です~
ん、この小説が続くかどうかって……ちょっとわからないですね。面白い小説だったならば続編は望めますよ。え、この小説が面白いかどうか……それもまた、わかりませんね。だって、誰かに言われないとわからないでしょう。自己満足の小説ならチート小説で充分です。ええ、これもチート小説ですよ。主人公は最強です。何せ、目を瞑ってでもマニアックなタイトルを選びますからね。これをチートといわずして何というのでしょうか……。