わたしとお父さん
目が覚めると自分の部屋のベッドの上だった。
「夢……だったんだ。不思議な夢だったな」
カレンダーを見ると今日は土曜日。
仕事の休みを利用し溜まった洗い物と掃除を終わらせようと窓を開けた時、着信音でスマホに目を向けると母親からの電話だった。
「お母さんどしたの?こんな朝早くなんて珍しい」
「……お父さんが亡くなったの」
「え?」
「もう十数年前に離婚してるしあんな事もあったからね、伝えるか迷ったんだけど遺書に最後に娘に会いたかった。って書いてあったらしいのよ」
「そう、なんだ」
「だから嫌じゃなければ会っときなさい」
「……うん、分かった。うん、決めたらまた連絡する」
私は通話を切ったスマホと一緒にベッドにうずくまった。
普段は優しいが仕事のストレスからお酒を飲めば暴言は当たり前だった父親に私は恐怖を覚えていた。私にまで手を出さないかと恐れた母親が離婚を切り出したのは私が小学校四年生の時のことだった。
「お父さん……か」
もう二度と会うことは無いと思っていた父親。
「“最後に娘に会いたかった”」
「ッ……」
スマホから母親に電話した私は父親に会うことを伝えた。
一人暮らしを初めて四年が経っていたが実家に帰るのは初めてだった。そこから父の遺体が安置されている施設へ車で二時間かけて向かった。
「え……なんで、車掌さん?」
そして久々に見た父は今朝、夢で見た車掌さんと同じ顔をしていた。
言葉を失う私に後ろから施設の人が父の遺品である日記帳を渡してきた。
「遺体が発見された時、部屋にはこの日記帳以外物が置いてなかったそうです」
父親との面会が終わり何時間が過ぎたか分からない。近くの公園でずっと座っていた私は貰った日記帳に目がいった。
「どうして、お父さんが車掌さんと同じ顔なの。夢の中の車掌さんはお父さんなの?夢の中で話した言葉は本当なの……?それとも嘘だったのッ」
沢山の感情と考えたくない事、思いたくない言葉が浮かんでくる。
父親は怖い存在だったはずなのに、夢の中で出会った彼の言葉が全部本当なら
「“大切な人を傷つけてしまった後悔も情けなさも自分にどれだけ言い訳を言っても大丈夫だって言っても心は苦しくなるばかりで世界はモノクロのように暗く見えていました”」
「“十数年ぶりに娘と偶然再会したんです。とても暗い顔をしていました。今にも消えてしまいそうな程に弱々しく……それで分かったんです。自分はなんのために今まで生かされてたのか”」
「“自分はこの子の未来を明るいものにするために再会したのだと。それが自分に出来る最後の償いだと”」
夢の中で再会した私を心配した言葉だったんだ。
「会いたいよ、お父さん」