わたしと少女
わたしと少女と車掌さんと列車
「どうして、私ばかりつらいの」
「どうして、皆は幸せなのに」
そう思うと周りの人間が段々妬ましく世界はモノクロみたいに暗くなっていった。
「ここはどこ……」
気がつくと私は列車の中にいた。
周りを見渡しても誰もいない。
あぁ、そうか。残業が長引いて終電になったんだ。ご飯作るのめんどくさいな、帰ったらとりあえず寝よう。明日は休みだし溜まった家事をして……
色々と考えていると
「切符を拝見致します」
聞きなれない声に私は顔を上げた。
するとそこには車掌らしき50代くらいの男性が立っていた。切符の確認に来たらしい。
私は横にあったバッグから定期を出そうとしたが見当たらずアタフタしていると車掌らしき男性は私の胸を指さした。
「内ポケットに切符が入っていませんか?青い色をしているので直ぐ見つかると思いますよ」
そう言われ胸の内ポケットを探ると本当に青い切符が出てきた。
「なんでわかったんですか?」
「乗車される際にお客様が入れられた所を見てしまいまして、言わない方が良いのか迷ったのですが困っておられる様だったのでご迷惑でしたか……?」
「そうですか。いえ、ありがとうございます」
男性が優しい笑顔で私に「よかったです」と言ったあと列車が汽笛と共にゆっくりと停車した。
「着きましたね」
「はい」
「……降りないのですか?」
「え?」
予想外の男性の言葉に私はびっくりした。
「なんで私が降りるんですか?」
「だってほら?切符が降りてみて。って言ってます」
そうゆうと男性はまた私の切符を指さした。
切符を見てみると確かに「降りろ」と言っているかのように淡く光っていた。
「ほんとだ?」
「駅には暫く止まりますので、違っていたらまた乗車されたらいいのです。行ってみてはいかがですか?」
切符が光っている事もこの男性がその事を当然の事のように話すのも非現実的な事だと頭では理解していたが私は不思議と「あぁ、そうなのか」と思い、列車を降りた。
「何ここ」
でも、降りてみた駅はとても不自然で真っ白なホームに真っ白な椅子。そしてその椅子にはたった一人、赤いリボンをつけた少女が座っていた。
「どうしたの、迷子?」
私の問いに少女は首を横に振った。
「遠いところに行くの……誰も私をイジメないところ」
この子は私と同じなのだと思った。
小学校に入学してすぐ人と話すのが苦手な私はクラスでは浮いた存在になってしまい、友達が出来るどころか変な奴だと言われイジメられていた。
でも……
「お母さんとお父さんには言った?」
少女はまた首を横に振った。
「……そっか。怖いんだね」
私がそう言った瞬間、少女は身体を震わせた。必死に押しころした声が押さえきれずに溢れている。
この小さな身体にどれだけの気持ちがあって何を考えているのか、なぜ両親に相談しないのか、私はこの子じゃないから全てを理解する事はできないけれど……
「大丈夫」
私の言って欲しかった。
「大丈夫、大丈夫だよ?」
一番欲しかった言葉をこの子に送ろう。
「きっと大丈夫。お家に帰ろう?みんなが待ってる」
「…うんッ」
少女は小さく頷いた。
そして出会った時より少し明るい笑顔で帰っていった。
「お客さん!」
「?」
「ご乗車されますか?」
「はい」
きっと大丈夫、言って欲しかったその言葉は少しでもあの子の勇気になれただろうか。
男性との会話が始まったのは列車が発車してすぐの事だった。
初心者です。