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ヨモツヘグイ  作者: うぇど
キラゴ・カシナラ 編
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第九章 カシナラ港攻略

ヨモツヘグイ


キラゴ・カシナラ編


第九章 カシナラ港攻略




 ジウラ領カラーザ地方カラーザ港のちょうど南、カドル川を越えた先にあるカーグ領の第二貿易港であるカシナラ港、ここはフガロ地方でありゲオ・カプノース卿が収める土地である。

 ゲオ・カプノース卿はジウラ領を警戒し軍船の配備を怠らない優秀な辺境卿である、彼のおかげでカドル島群のドラゴンを狙う盗賊の数は年々減少傾向にある。その理由として成り損ないのブダラの海流の激しさはフィディラー大陸の沖合に行くにつれ激しさを増す、よって岸沿いの航行程安定するのである。盗賊ごときが用意する粗末な船ではカシナラ港を迂回して南下することは荒波に襲われ死を意味する。

 しかし今回のジウラ軍侵攻には頭を抱えていた。ジウラ軍侵攻の情報が入って来るまでのこの半月間、盗賊と思われる船との戦闘が例年を遥かに上回り軍備が十分な状態ではなかったのである。これは恐らくジウラ領の計画の一部と推察されるが、そのことに気付くカーグ領の者は誰一人としていなかったのが現状である。

 その現状の中でも、カプノース卿は二隻の軍船と漁船を多数配備しジウラ軍との戦闘に備えていた。


「うむ、ジウラ軍は沖合からの航行を選ぶことは必須。レース卿は軍船9隻全てを投じるとは思えん、クレイス領はサノオーン領、スコース領とは同盟である、その結束は神話の時代からの固い絆だ、守備を疎かに出来る程の余裕もあるまい、それでも我が港の守備は危うい状況か…プラテイユに手の平で踊らされるとは…」


 カプノース卿はジウラ軍は沖合を航行しカシナラ港との戦闘を避け、カドル島群での短期戦闘に賭けているとふんでいた、しかし、この作戦ではジウラ軍は墓穴を掘りかねない進軍である。何故なら、当然ジウラ軍軍船がカシナラ港を通り過ぎればカシナラ港の軍船は後ろから後を追う、カドル島群とのキラゴの騎士との戦闘に入ればジウラ軍は挟み撃ちの陣形に成らざる負えない。海上での挟み撃ちなどどんな奇策もまともに通用しようがないのである。

 カプノース卿はそれでもジウラ軍はカシナラ港での戦闘を避けると踏んでいた。ジウラ軍は龍の巫女の様態回復までの作戦であるからこそ、短期決戦にこだわる。カプノース卿の考えは至極真っ当であった。

 しかしその考えは裏目となってしまう、戦とは混沌そのもの、策士程策に溺れるが戦である。



***



 広大な密林地帯である霊峰セリニの麓のカドルの森、そのカシナラ港に近い森の中に秘密裏に進軍し、息を潜めるジウラ軍の一個小隊がいた。

 カラーザ港から五隻の軍船が出発してから一日半、間もなくカシナラ港攻略作戦の刻である。この小隊所属のドゥケ・ナモスは生き残れる可能性の低いこの作戦に酷く怯えていた。


「本当に海からの援軍は来るのかな?」

「…」

「援軍が無ければ俺たち全滅だよ、本当に来るのかなぁ」

「…」

「援軍が来てもこの兵力でカシナラ港制圧は無理だよ、だって俺たち一個小隊だけだよ、軍船の大隊が全員援軍に来るわけ無いだろ?カーグ軍は軍船に警戒してるわけだから…」

「うるさい!何日同じこと言ってんだお前!考えたところで作戦が中止になることは無いんだぞ!そんなことはいいから装備は見直したのか?もう出発だぞ!」


 そう言い放つと、ドゥケの仲間のロイ・キウスはドゥケの槍を投げるようにドゥケに押し付けた。


「さぁ、出発だ…」


 震える手を隠すようにロイは隊列に加わった。ドゥケの弱音を聞き過ぎたせいで、自分の心の準備を上手く整理することが出来なかった。ロイは極度の緊張により森を抜ける間際で吐いてしまった。


「大丈夫かい?ロイ?」


 介抱するドゥケを押しのけると、ロイは立ち上がりドゥケに伝えた。


「俺が死んだら、お前が彼女に遺品を届けてくれ」

「もちろん、でも死なないように頑張ろう」


 この作戦でどう頑張ればよいんだと、言葉に出しそうになった所でロイの覚悟は決まり自分の槍を再び握り直した。


「そうだな、死んでたまるか、お互い生き残ろう」


 二人は小隊長の怒号と共に森を抜け走り出した。カシナラ港までの距離はあるがこれは奇襲である、野盗のように唯襲うのみ、お行儀よく陣形を整え進軍などはする必要がなかった。彼らは捨て石そのものであったのだ。



***



 カプノース卿は甲冑を装備し、自分の剣に手を伸ばした。まさにその時、外から敵の襲撃を知らせる角笛が鳴り響き、港町のいたる所から鐘を鳴らす音が響き始めた。


「敵襲!?迂回せずにこのカシナラ港を攻める気か?…しまった」


 カプノース卿は自分の判断の甘さを悔いた。しかし、少ない兵力ではあるが準備出来ることは全て終えている、彼はすぐさま気持ちを切り替えると自室を後にし、港に向かおうとした。


「カプノース様!敵はカドルの森からの歩兵です!」

「何!?陸からだと…?軍隊の進軍の知らせなど一切無かったのに何故?…何処に隠れていた…」


 カプノース卿は顔を青ざめその場で絶句した。


「不覚…完全に裏をかかれた、東に兵を今から動かすのはもう愚策でしか無い、どうする、どうする…、敵の数はどの程度だ?」


 カプノース卿は自身が思考停止に陥らないように、情報を精査しようとした。しかし、戦において虚を突かれると言うことは軍隊にとって、殺し合いで目つぶしを喰らうのと同じ程度の痛みを伴うものである。

 虚を突かれた者は混乱し、恐怖を伝染する、恐怖に染められた人間達は敵を過大に見誤り、真っ当な行動を何一つとれなくなり、そうしてとった行動は裏目となり、自分達の首を絞める。敵が敵だけでなく己も自身の敵となるのである。

 カプノース卿の部下は敵の数が不明であると伝えた、それを聞いたカプノース卿は中隊ぐらいかと問いただす。部下は中隊程度だと答えてしまう。


「何故今まで隠れていられたのだ!?援軍は?…ありえる、カドルの森は広大だ隠れる場所などいくらでもあるぞ…仕方ない、お前は港に走り二隻の軍船の出航の準備はそのままに、漁船配備の四個小隊を町の東に配備するよう伝えよ、港へ通じる道を死守するのだ!」

「畏まりました!」


 部下がその場を去ると、カプノース卿は剣を手にし兵を引き連れ町の東へと向かうのであった。



***



 ジウラ軍の一個小隊はほぼ無傷でカシナラ港の町に侵入することが出来た、小隊の少数は港の油樽の貯蔵庫に一直線に攻め立て、幾度となく訓練した手順によってその樽に次から次へと火をつける。驚く程にカシナラ港の抵抗が無く作戦通りに事を進めることが出来た。その他の兵は二人一組となり目につく町民をひたすら殺して回る、それは小隊長の合図がなるまで継続し続ける作戦であった。

 ロイは女、子供、老人をかまうことなく刺し殺し、一方的な虐殺行為に笑みを浮かべる程度に自分を失っていた。


「男達がいないよ…、皆、戦の準備で港の方に出かけているんだ…」


 ドゥケは子供を苦い顔をしながら突き刺すと、震える声でロイに話しかけた。しかし、ロイは無言であった。ロイは殺しを楽しんでいるのでは無かった。恐怖していたのだ。彼の笑みはその笑みであった。

 そんなロイの姿を見て、ドゥケは前を向くしかなかった。生きる為には殺すしかない、戦で情けをかけられるのは強者のみである。彼らは捨て石、決して強者と自覚することは無かったのだ、幼い子供を殺している最中でさへも。

 小隊長の合図が聞こえるとロイ達は我に返り町の広場に向かった。町は火の海と化し黒煙と荒れる空気が覆っていた。息苦しい中、港への道を封鎖しつつあるカーグ軍がこちらに対峙している、彼らにはこの黒煙によりこちらの兵の数は把握することは出来ない、各自小ぶりの弓を構えカーグ軍へと放った。

 カプノース卿の兵達は黒煙の向こうから放たれる矢に次々と倒れて行った。事前の準備も無ければまともな指揮命令も出ていないのである、彼らはばらばらの小隊で独自に現状を把握し対処する他無かったのである。


「矢を放たれています!このままここを守る為に待機していれば全滅ですよ!」

「黒煙で敵の数がわからん、突撃すれば奴らの罠にかかるかもしれない…」

「このまま死ねと言うのですか!」


 隊長の命令も無いまま突撃した兵士は、建物の屋根から射抜かれ地面に蹲り動かなくなった。この日の為に幾度となく訓練を重ねて来たジウラ軍の彼らは敵がどのような行動を取るかなど網羅していたのだ。

 次にカーグ軍は僅かな弓を用意し応戦した、それは次の合図であった。ジウラ軍の小隊はその場を引き建物の中に入り待機した。


「…、作戦通りに事が進んでいる、ドゥケ落ち着けここから勝負だぞ…!」


 しかしそこにはドゥケの姿は無かった、ロイは瞳孔が開く思いだった。


「ドゥケ?ドゥケを知らないか?この建物に一時待機する作戦だったはずだ!?誰か見ていないか?」

「黙れ!敵にこちらの場所がばれるだろうが!」


 仲間は取り乱すロイを押さえつけ、口を塞いだ。そして、少し遠くの方から微かに誰かが喋りかけた。


「死んだよ、頭を矢で射抜かれた、声も出さなかったぜ…絶対に許さねーぞあいつら…」


 ロイは口を塞がれたまま叫んだ、ここでやっと自我を取り戻すことが出来た、彼は眉間にしわをよせ怒りの表情で涙を流し、叫び続けるのであった。



***



 神話の時代、雪原の覇者フォティノースの配下に一匹の狼がいた。その狼はリアクの使いにつがいの者を殺され怒りに狂い、その底の神の子供達を喰らい殺す猛獣へと化けたと言われる。その猛獣は自身の命が尽きるまで殺し続けたと言う。周りの味方もろとも。


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