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ヨモツヘグイ  作者: うぇど
キラゴ・カシナラ 編
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第七章 ロエオス・ルター

ヨモツヘグイ


キラゴ・カシナラ編


第七章 ロエオス・ルター




 トリロはジアブロス島中隊副隊長のカウ・バンと共にカドル島大隊長カウリオ・キノスをジブロス島砦に迎え入れていた。


「早速ですが、巫女様の様態は回復には向かっておりますが、現状意識を取り戻してはいない状況です」


 カウは息を飲みながらカウリオに報告を告げた。


「この醜態、唯では済まぬぞ!お前が何故私の目の前におるのだ?ロエオスは何処にいる!」


 カウリオは血走る目でカウを叱咤した。


「中隊長はドラゴンの巣で敵の襲来を待ち構えておられます。中隊長は西から敵が来るとお考えのようです…」


 カウリオは少し考え、椅子から腰を上げた。


「カーグ領の本隊共が来たら、ドラゴンの巣に案内せよ、私は今からドラゴンの巣に向かう、ロエオスの処分を直に伝える!お前らも来い!」

「はっ!」


 カウとトリロは返事をするとカウリオの後に続き砦を後にした。砦の周りにはカドル島のキラゴの騎士達で溢れていた。彼らの士気は高く近づくだけで切り殺される程の殺気で熱を帯びていた。

 その中、トリロは酷く冷静に赤い真珠、ドラゴンの女王の卵について危機感を抱いていた。


(ジウラ領の軍隊が攻めてくるとしたら、ロエオス隊長のお考えの通り西から船で攻めてくるだろう、東はクレイス領の警戒を解くことになる、プラテイユもそこだけは手薄に出来る状況では無い、ならば、赤い真珠を奪おうとする敵は何処から攻める?…敵が何か分からない今では考えるのも無駄か…)



***



 ヒュエイはイシスと牢越しに向き合っていた。暗がりを火照らす松明が二人をほのかに彩っているようだ。


「お前を逃がしてやる、その前に一度だけ戦神キラゴの下で一度死ぬことになるけど覚悟はあるんだね?」

「死の覚悟程やりなれたことは無い、しかし今はどうであれ死ぬ気など無い」


 ヒュエイは笑みを浮かべそれで良しと頷いた。


「私の相方のトリロが言ってるには、もうじきあんた方の軍隊さんがご登場するみたいだ、その時お前はキラゴの騎士となりひと暴れしてもらう、いいかい?私達を裏切ればお前の望みを全てぶち壊す、私はお前の味方だ、お前の国盗りを助けてやろうってんだ、その位の助力はしてもらうぞ?」

「国盗りか…俺は唯あのプラテイユをぶち殺したいだけなんだがな…その後はお前との決闘をする、国盗りなどとは大げさだ」

「お前細かいな?ぐだぐだはいいからどうすんだい?」


 イシスは目をつぶりじっとした後再び目を見開いた。


「俺は今キラゴ・カシナラの騎士となった、ドラゴンを守護するフィディラー王の剣となろう」

「よっしゃ!段取りは簡単だよ、予備品の武具はこれだよ牢屋の中に隠しときな、牢の鍵は今開けて置く、外で戦が始まるまで動くんじゃないよ、騒がしくなったらどさくさに紛れて参戦して来い、そうなれば誰も気付きゃしない、そこは血の坩堝だお前のことなど気にかける余裕なんざあるわきゃ無いからね?どうだい、私は頭がきれるだろ?」


 ヒュエイの強引な作戦を聞きイシスは笑いを堪えた。


「完璧だな、清々しいくらいに完璧な作戦だ、どうせその後は海を泳いで渡って逃げろとかだろ?」


 ヒュエイは少し考えた後に一指し指を立てこう言った。


「ちょっと違うぞ、戦に勝って私と酒を飲んだ後に海に飛び込め」

「ははっ!どこまであんたは俺を殺したいんだ?酔って海を泳げってか?流石悪魔を宿すだけあるな」


 イシスの笑う姿を見て、ヒュエイは優しい顔になり一言呟いた。


「お前もその魔物に選ばれた者なんだよ」



***



 巫女の間に男は立っていた。男は煮えたぎる様なドラゴンの卵を見つめその卵に手を伸ばした。


「シュネイシス様、あなた様の計画を実行する時が今訪れようとしています、どうかお力添えを」


 ロエオス・ルターはそう呟くと赤い真珠の温もりを感じていた。肌に伝わる暖かさを確かめるとロエオスの頬に汗が流れる。


「…凄い、鼓動が伝わって来る」


 赤い真珠は女王の生命の祝福を称えるように静かに鼓動していた。ロエオスはこぼれる笑みを手で抑え、巫女の間を後にした。

 長い夜を感じつつロエオスは巫女の間への階段を降り、その足のまま誰にも会うこと無くイシスが投獄されている洞窟の入り口へと赴いた。洞窟の奥から松明の灯りが近づくのが見え、ロエオスは静かにその人影を凝視した。


「ヒュエイか?」


 髪の長い女の兵士はその声に気付き松明をこちらに掲げた、その瞬間にロエオスは女の背後に怪しげな漆黒を感じた。その黒き者はロエオスを凝視し口を開く。


「あ、隊長じゃないですか。どうですか?ジウラ共は先発隊でも寄越しそうですか?」


 ロエオスはヒュエイの問いかけに耳を貸すこともできず、魂を奪われたように硬直していた。


「ルター隊長?…どうしたんですか?」

「…コウジン」


 震える口でロエオスは無意識に呟いていた。その声はか細くとても人が聞き取れるような言葉ではなかった。


「…?申し訳ございません、聞き取れませんでした、何ですか?」


 ロエオスは黒き者の凝視から解かれ、自身を取り戻すと目の前のヒュエイに目をやる。


「ヒュエイか…、ほ、捕虜の様子はどうだ?ジウラ軍について補足はあったか?」

「無いですよ、あの男はトリロの尋問で全部吐き出し尽くしてますよ、もとよりジウラに肩入れすらしてないようですし、あの領は狂ってる、狂ってる領の兵士なんてそんなもんでしょう」


 ロエオスはその言葉を聞き、心の奥底に燃える火種が燻るのを感じた。しかし今は先程の違和感が勝りそれどころでは無く、ロエオスはヒュエイの顔を見つめた。


「お前の呪術は龍を扱うのではないか?」


 ヒュエイはロエオスの唐突な質問に一瞬ついていけず困惑したが、間を開けて答えた。


「さぁ…?あまり関わらない方が良い者としか分からないですね、龍か悪魔か神か、あるいはそれら全部か?理解したところで後悔するだけでしょう」


 ロエオスはヒュエイの答えに酷く共感し、自分の今の言動全てに気持ち悪さを感じた。


「お前もジウラ兵を馬鹿に出来ないぞ」

「知ってますよ」


 ヒュエイは笑みを見せ、戦が楽しみだと言うとその場を後にした。ロエオスはそれを見送ると腰の鍵を確認するとイシスのいる牢へと向かった。


「あいつはキラゴの騎士が全員滅んでも一人生き残りそうな奴だ…」



***



 その夜ジウラ領西の港であるカラーザよりジウラの軍船の一陣が出向した。狂気はじきに南下し油樽に火をつける。それは唯の導火線に過ぎず、やがて燃え移るその業火は火山龍カドルと双頭の龍アナンの産みの親である、龍の女王リヴァリイサの火球のごとく腐れを焼き尽くす。


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