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ヨモツヘグイ  作者: うぇどwed
一角獣の王 編
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第十九章 封印と忘却

ヨモツヘグイ


一角獣の王編


第十九章 封印と忘却




 ライザーはセマの右手を腰に下げ、イシスと共に出口へ向かう。


「蜘蛛共が出口を塞いだら全滅だ!」

「セマ…セマを助ける」


 ライザーはイシスの言葉を無視すると、今は腕しか無いセマの安否を心配した。


「あっちにはヒュエイとトリロが居る。あいつらならあの化け物をどうにかする!今は使命に集中しろ!」

「イシス…そうだ、俺はライザー・クレイス、アツァナだ!俺はやる!」


 イシスは不安しかない相棒に表情を歪ませたが、後ろから迫る無数の蜘蛛の足音にそれどころでは無かった。


「ライザー、マギアの熱火子は使えるか?」

「使えない!」

「それなら呪詛は何が使える?」

「使えない!」

「は?」


 イシスは混乱仕掛けるが、この状況。我を失うことを避けしっかりと踏み止まる。


「お前アツァナだろう?呪詛を使えばこそその才を生かせるはず、使えないとはどういうことだ?」

「我が神はキラゴ、呪詛は…オドが合う神がいないのだ」

「…嘘だろ」


 落胆するイシスを見やるとライザーは口を開く。


「君のその剣はキラゴの得物だろう?君は呪詛を使えるのかい?」

「あ…そうか、その手があったか!?」


 イシスは踵を返すと地面をうねる蜘蛛の大群目掛け、マギアの熱火子を使用した、その右手には獅子の剣ダリアが握られていた。


「こ、これは凄い!命が流れ込んでくる?この炎、やろうと思えば…」


 イシスはダリアの力に驚愕しつつ更なる命を注ぐ。その炎は物凄い轟音を放ち爆炎と成り無数の蜘蛛を吹き飛ばし焼き尽くした。


「そうだ、俺はアツァナ。この剣と共に俺は戦う!」


 ライザーはその炎に身を投げると自身を焼きながら後方の蜘蛛を焼き払い始めた。


「…お、おお?いや、その戦い方は狂ってる…」


 その言葉はライザーには届かず、ライザーはディケオス達が留まっているであろう場所へ戻っていった。残されたイシスは唖然とするも出口へと向かった。


「出口へ向かう、それが俺の役目。この鍵を使えば奴は力を失う…はず」


 イシスはディケオスから受け取った鍵を握り締める。


「…本当かよ」


 疑いは消せないものの先を急ぐしか彼には残されていなかった。



***



 その人形は冷たい眼差しで蜘蛛で出来た玉座に腰を下ろし、無数の蜘蛛達と交戦するトリロ達を眺めていた。


「すまぬな、まさか常世の者が居るとは思わなかった。それでは話が変わる。今すぐここで死んでもらおう」

「常世の者?ヒュエイのことか」


 トリロは体を思うように動かせないヒュエイを守り蜘蛛を蹴散らす。その横でメテユは腕を千切られたセマの介抱をしていた。


「止血はしました、私達の後ろで動かないで下さい」

「すまない、しかし何なんだあいつは、呪詛の刻印を使用せずにライザー達を俺の腕もろとも消し飛ばした。ライザー達は無事なのか?」

「そんなこと俺達が知るわけ無いだろう」


 エクリはそう言うと足元の蜘蛛を踏み潰した。そして、ディケオスはその会話を聞き終えると、口に手をやり全身を震わせた。


「あの人形は幻覚では無い、奴は…。とにかく、ライザー達は無事だろう。イシス君が私の言ったことを信じこの迷宮を封印してくれることを願おう」

「俺達はどうなる?」

「望みは無いね」

「くそっ!」


 そう言うとトリロは肩のリゲリに手をやった。それを眺めるヒュエイは歯を食いしばると自力で立ち上がる。


「もう一度奴を使う…そこをどいてくれ」

「駄目だ、ここは退路を探し逃げるしかない。お前も分かっているだろ、その体ではコウジンの力に耐えられない」

「奴は私を殺さない、癪だが奴なら上手くやるさ」

「…駄目だ。いや…そうか、それしかない」


 トリロは頷きヒュエイの目を見た。


「俺に奴を降ろせ、あの時の様に」

「馬鹿野郎、お前が死ぬぞ」

「お前を守り切って死ぬか、守り切って生き延びるかのどちらかだ。コウジンならそうする」

「…それなら私が死ぬ」


 トリロはヒュエイを平手打ちする。その場の皆がトリロに振り向いた。


「馬鹿は死んでも治らねえのか!良く考えろ、これしかないだろうが!」


 トリロはイシス同様過去にコウジンを身に宿したことがある。その時彼は半ば死にかけたがその力は凄まじくジウラ兵を多く打ち倒した。しかし、それが最後でその後その力に手を出すことは無かった。トリロは恐れたのだ、その恐怖は使った者にしか分からない。


「…」


 ヒュエイはそれでもトリロにコウジンを降ろすことを躊躇った。コウジンは彼女を守りはするが、他者は守らない。コウジンを宿した者は死ぬまで戦い続ける。

 しかし、トリロはヒュエイに考える時間を奪うようにリゲリを渡すと蜘蛛の攻撃に無防備に佇む。そして笑顔でヒュエイを見る。無数の牙がトリロの皮膚に食い込む音が聞こえた。


「どうしたヒュエイ!お前はキラゴの騎士だやるべきことをやれ!」

「くそ野郎が!」


 ヒュエイはトリロの額に左手を添えた。



***



 エフィアは親方の介抱を終えると、周りの職人の相手をぎこちなく行う。


「しかし、お前こんなに強かったのか!?驚いたぞ!」

「ははは…何か体がかってに動いたんだよ、偶々…、神様が憑りついたのかもね…」


 エフィアは逃げ出したい気持ちで取り繕う。その後辺りを見渡しプラテイユを探した。しかしその場には居なかった。溜息をつくと月を眺めようと空を見上げる、そこに彼は居た。屋根の上に腰かけ同じく月を眺めていた。


「あの野郎…!」


 エフィアは二階に上るとプラテイユを呼ぶ。


「あんた!皆に説明しなさいよ!私が説明したら頭のおかしい奴と思われるでしょうが!」

「俺が出ても混乱を招くだろう?足無しは亡霊だ。不吉でしか無い」

「それを自分で言う?それならこのまま船着きに楯突いた女職人で貫けっての!?」

「危険は無い、奴らは毒だ駆除しよう」

「城の兵を使って?それならいいけど…てか、足無しって死んでるんじゃないの?もう導きの目でもなんでもないじゃないあんた」

「…ああ、そうか俺は死んでいるのか。…俺は何者なんだろう」

「えぇ…」


 プラテイユは自分自身を想う、一度死んでいるとも言えるこの幽体。果たして自分は今も導きの目である必要があるのか?西の王に執着する気持ちも日に日に薄れているのが分かる。


「俺は…この領の責任を投げ出すことだけは出来ない」

「ならそうしてよ、この領はもう滅亡にしか向かってないわ。全てあんたのせいよ。なんなのよ、あの黒い龍もそう、どうするのさ」

「ああ、非常に申し訳ないが君にも手伝ってもらおう」


 エフィアはその言葉に驚き大声を上げた。


「はあ!?なんで私が手伝うのよ!冗談じゃない!」

「君の体は俺に馴染む、何かと便利だ」

「気持ち悪っ!」


 エフィアは二、三歩身を引くと顔を青ざめる。


「もちろん、ただとは言わない。君のヴァレリーユの荘園を再建しよう」


 プラテイユはそう言うと、エフィアの前で膝を着き彼女に願った。



***



 ヤワタリの復活により形を崩した白き蹄の城はそれでも、朝日を浴びると白く輝き見る者を魅了する程美しく聳え立つ。その城門の前に職人の出で立ちのままその女性は立っていた。


「だから、プラテイユが私を連れて来たんだよ!」

「この不届き者が、プラテイユ様に対しその御名を呼び捨てにするなど!女、それ以上は処罰に値するぞ!」

「いや、そのプラテイユは私の横に今いるんだよ。あんた見えないの?」


 ジウラ兵は目を瞑るとやれやれと頭を横に振って見せた。


「もういい、何も聞かなかったことにするからこの場を立ち去れ」

「プラテイユ何か言ってやってよ!こいつ駄目だ」

(エフィア、この太陽の下では私の存在はとても薄くなる。私はヤワタリと言うエオニオテロスと契約をした足無しが故に消えることは無いが、彼等には私を認識することは叶わないだろう)

「はあ?それじゃこのポンコツ兵士の言う通りじゃない、私風情がこの門を通れるわけがないわ。とんだ無駄足」


 プラテイユは踵を返そうとする彼女を引き留める。すると、城の方から一人の美しい軽装の兵士が歩いて来る。


「待つんだ、ヒウレスが来たこれで大丈夫だ」


 その言葉にエフィアは振り向くとその美しい兵士を見ると、身を硬直させる。


「あ、あ…ヒウレス様…こんな間近で見れる時がまた来るなんて」


 ヒウレス・キュクロはプラテイユの小姓である。側近としてそれなりの権力も持ち合わせていた。何故ならプラテイユは政を行えない日々がここ数年多く続き、宰相である導眼の杖をも殺していた。その際、彼は偽りではあったがプラテイユの命としてこの領の執政を行って来たのだ。彼はプラテイユに恩を感じこの領の首の皮を何とか繋ぎとめて来た人物である。

 故に彼の風貌も相まって、この領ではとても人気の高い人物である。特に女性の間ではとてつもない人気であった。

 エフィアも幼い頃、彼と叔父の会合に父に連れられて訪れたことがあった。その日以来彼女もヒウレスの美貌には遺恨があったとしても未だその時のときめきは忘れられずにいたのだ。


「お許し下さい。一足遅かったようですねプラテイユ様」


 プラテイユはエフィアの体に入る許可を尋ねるが、エフィアは目の前のヒウレスにくぎ付けになり反応が無い。


(エフィア、エフィア…知らんぞ、後で怒るなよ)


 プラテイユはエフィアの体に入ると口を開いた。


「ヒウレス、時間通りだ気にするな。体を手に入れた、城に戻るぞ」

「この女子ですか…嫉妬をせざるを得ませんね。体であれば私をお使いになればよろしいものを」

「あ、ああ…お前はお前の役目があるであろう」


 今のプラテイユにはここ数十年の記憶は曖昧であり、彼とヒウレスとの関係は薄っすらとはわかるものの、若かりし頃の人格が定着しつつあるプラテイユには受け入れがたかった。しかし、無下には出来ない。ヒウレスの功績は今の彼の価値観では最高の評価であった。

 ヒウレスの案内に従いプラテイユは城門を抜ける。頃合いを見て彼は彼女の体を抜けた。


「だあっ!?」

(入る前に一言は断ったぞ)

「うう…、それでもかってに入るのはよしてよお」

(なら、無視はするな)


 エフィアは気持ち悪そうに首の付け根を摩る。


「ねえ、ヒウレス様とお話なんて出来る?てか、この服…どうしよう恥ずかしくて帰りたい!一回!一回帰ろう!」

(ふむ服か…女性の衣装なら用意出来るか?しかし、この城にはシュネイシス派狩り以降、女性はいな…い)


 彼は過去の記憶の断片を旋律と共に思い出す。その記憶は自分の娘と孫娘を朝食を食べながら処刑した記憶であった。その記憶は疑いたくなり否定したくもなる光景であった。

 そのあまりにも惨たらしい所業に耐えきれず。プラテイユは胃など無いにも関わらず。嘔吐をするそぶりをした。

 

「大丈夫!?」

「どうした女!プラテイユ様に何かあったのか!?」

「あ…とても気持ち悪そうです」


 エフィアはその時にはヒウレスしか視界に入らず、苦しむプラテイユには見向きもしていなかった。



***



 狂人の記憶、その道を振り出しに戻ったとしてもその道は歩んだ後。彼は正気を保てるのであろうか。この大陸の歴史には記されていない初めての百三十年以上生きた人間の足無し。彼以外に彼をどうするかは決められないであろう。


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