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ヨモツヘグイ  作者: うぇどwed
一角獣の王 編
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第十八章 プラテイユ・ジウラ

ヨモツヘグイ


一角獣の王編


第十八章 プラテイユ・ジウラ




 エフィアは仕事を終えると工場の二階の物置だった場所の一角の自分の部屋へと戻った。


「親方!工場の鍵は締めてから帰ってよね!誰が来るか知れたもんじゃないよ!」

「はあ?いつもそうしてらあ、今日もお疲れさん」

「…なら昨日のは何なんだい」


 エフィアは水の入った桶を床に置くと着ている服を全て脱いだ。ボロボロの布に水を沁み込ませるとその布を皮膚に優しく押し付ける。


「冷てえ…たまには湯舟に浸からないと風邪をひくわ」


 彼女は素早く体を拭うと寝間着に手を伸ばした。


「約束の時間だ、ノックなど出来ないものでな失礼する」

「おお!?簡便してよ!」

「…ふむ、湯浴み中だったか。間がどうしても合わんな、許せ。しかしこの体は欲情などはせん、構わず続けてくれ」

「この変態足無しが!何であんたの前で裸を晒さなきゃならないのよ、さっさと出て行って!」

「狂人の次は変態か…ふふ、後ろを向いているから早く済ませてくれ」

「…なんだかなあ、はい、服着たよ」


 エフィアは寝間着をするりと着終えるとベットに腰かけプラテイユをじっと睨みつけた。


「これ夢じゃ無いんだね…あなた本当にプラテイユ様なの?」

「疑うか?私を恨んでいるのだろう?ならその宿敵の顔ぐらい覚えていないのか?比べてみろ」

「私が知ってるのはもっと老人よ、噂じゃ130歳ぐらいとか言うわ。あなたはどう見てももっと若い」

「足無しだからな…生前の記憶が今の姿に影響しているのかもしれん。ここ数十年の記憶はどうも曖昧でな」

「…あれだけ好き放題やっといて覚えてないだって?殴り殺せるなら今すぐそうしてやりたいわ」

「シュネイシス狩りのヴァレリーユの滅亡か…微かにだが記憶にはある、命令を下したのは間違いなく私だ」


 エフィアは歯を食いしばり涙目でプラテイユを睨んだ。次の瞬間平手打ちがプラテイユの頭をすり抜け空を切った。


「私はお前が憎い、憎くてしようがない。でも、何も出来ない…」

「…すまない」

「謝るな!何だその言葉!誰も救いはしないよ!」


 床に崩れる彼女を眺め、プラテイユはそれ以上言葉を掛けることは出来なかった。


「何しに来たのよ…今更謝って、何が出来るのさ…お父様とお母さま、そしてお兄様を返してよ…」


 罪など感じることも無く、ユニコーンの薬物で脳を腐らせ続け、数十年もこの領を壊してきた彼は今、後悔と言う言葉を思い出しつつあった。



***



「アリアス様、私達は一度ヴァレリーユの荘園に向かおうと思います」

「何故?あそこにはもう…」

「いますよ、焼かれ滅ぼされたとしても領民は未だあの土地を守っています。父を慕う者もまだいるでしょう」


 イシスはエクリの言葉を静かに聞く。


「軍を再建します。イシス様の軍を」


 エクリはメテユを横に並べるとイシスにそう提案した。その会話にディケオスは反応した。


「君達は今何処にいるのか理解しているのかい?随分と軽々しく家路に帰ろうとしているけどここはキネカの静脈、簡単には出られない迷宮だよ」

「キネカの静脈…ラブイ・ガブアの迷宮ですか?」


 トリロは驚きディケオスに尋ねた。


「すごいね君、その通りだよ奇才建築師と呼ばれたラブイ・ガブアの迷宮だよ」


 ディケオスは関心すると続けた。


「この迷宮は人間の心を錯乱させる、まともな人間程この迷宮では生き残れない。見てみなよそこのセマを」


 ディケオスが指す人物は酷くやつれ、目には酷いくまを作っていた。


「一つ目蛙の目玉を食べないからこうなるんだよ、セマ」

「それ関係あります?…いや、あるか…腹が減った」


 セマは目を瞑ると地面に腰かける。


「セマ!元気だせ」

「うるせえ」


 ライザーはセマの背中を強く叩くとイシス達に告げる。


「よし!帰ろう!」

「今それが出来ないって話をしているんだよ!」


 セマはそう言うと立ち上がり、強くライザーを押しのけた。しかしその手には剣が握られていた。


「何で!?」

「始まったか…」


 ライザーは吐血をするとその場に膝をついてしまった。その腹からはセマの剣が突き出ていた。


「セ…マ?」

「何をしている!?今仲間割れをする状況か」


 イシスは剣を抜くとそれをディケオスは制した。


「セマ、気にするなそのまま腰を下ろすんだ」

「しかし、ライザーが…」

「言うことを聞きなさい!言ったろう、全てを受け入れ気に留めるな」


 するとライザーの腹の剣は蛇になり傷口をすり抜けると部屋の隅へと姿をくらました。


「ライザーどうだい?痛くも痒くも無いだろう?」

「…?あれ?」

「これは幻覚に近いものさ、セマはライザーを手で押しただけさ。それがこの場の皆には彼が剣で刺したように見えたのさ。原理は分からない、ここは人を騙し人を喰う迷宮なのさ」

「幻覚…何が嘘で何が本当か分からないのではどうしようも無いじゃないか」


 トリロは状況を素早く把握した。


「君、トリロ君だっけ?君が一番危ないよ、今考えたこと全て忘れて」

「は?」

「考えては駄目なんだ、答えなど無い。答えを探せば喰われるよ」



***



 トリロはヒュエイに肩を貸しながらディケオス一行の後を追った。


「ヒュエイ大丈夫か?」

「今にも意識が飛びそうさ、力を使い過ぎた…」

「コウジン…まさかあれ程とは、良くやってくれた」


 ヒュエイは少しにやけると歩くのに集中した。


「イシス、あのキラゴの騎士の女性は何故疲弊しているんだい?」


 ライザーは興味深々にイシスを問いただす。


「…興味でもあるのか?あの女は止めておけ、悪魔に喰われるぞ」

「あ、悪魔?」

「大賢者アルフィアと剣の神を超える力を持つ神を宿している、要は化け物だ」

「??」


 ライザーは混乱するがそれを聞いていたディケオスは二人の口を塞ぐ。


「興味深い話だが今は無しだ、余計な戸惑いを招くよ」


 ライザーは頷くとそれ以上口を開けることをしなかった。しかし、視線は何度もヒュエイに向けることを抑えられなかった。

 すると前方から一人の男が歩いて来る。その男は笑顔でエクリに手を振った。


「エクリの旦那!あっしの宝刀は手に入れたんですね」

「グ、グレフト!?」

「兄様…」


 メテユはエクリの肩を強く握り締めた。


「…そうか、これは現実では無い」

「気を付けて、この迷宮は今までとは違うみたいだ。確実に牙を剥き始めているよ」


 ディケオスが再び警戒を促すと一同の足元を無数の蜘蛛の群れが覆いつくした。その蜘蛛が現れた方向を向くと色褪せ、綻びたドレスを纏う女性を模した人形が佇んでいた。


「セリニの使者共か、どうであれ私の封印を解いた礼をせねばなるまい。次会うまでは生かしておいてやる」


 その人形はそうとだけ言うと蜘蛛達を纏い暗がりへと姿を消した。一同は身動き一つとれずその黒い影を見送ることしか出来なかった。


「…幻覚か?」

「分からない、唯この恐怖は何だ?あの人形のオドは人が纏える物では無い」


 トリロとイシスは先程迄対峙していた神々のオドを思い出していた。


「か、考えては駄目だよ」


 流石のディケオスも今現れた禍々しい人形には動揺を隠しきれずにいた。



***



 エフィアはその日も家具や小物作りに励んでいた。彼女は華族の女性から注目を浴びる家具職人であり、今の工場を借り商売をし、自分の工場を持つのが夢であった。


「今日は来ないといいけど…」


 あれから数日、プラテイユは姿を見せずにいた。最後に見せた彼の表情がエフィアの脳裏に微かにちらつく。


「くそっ!仕事に集中出来ない。親方!先に休憩に入るね」

「おう!予約溜まってるんだ、こっちの仕事は後回しにして手伝っても良いぞ」

「大丈夫ー!」


 エフィアは階段を上ると自室のベットに腰かけた。それから数刻エフィアは下に降りて来ることは無かった。


「やばい!寝ちゃった!」


 口元の涎を拭いエフィアは飛び起きると窓の明かりを確認する。部屋は薄暗く、逢魔が時を示していた。彼女は窓から目を離すとそこに居る足無しに驚いた。


「また来たの!?」

「…すまない、何故か君と話がしたくてな」

「どの面でそんなこと言えるのさ…まあ、いいけど。あなたが本当にプラテイユ様かも疑わしいし」

「そうか、それもそうだな」


 プラテイユは自分の行動の動機が自分でも分からずここにいる。彼は何十年も忘れていた自身の人の心に、縋ろうとしていたのかもしれない。

 すると下の階から人の怒鳴り声が響いて来た。


「何!?親方かな」

「…複数人居るな、私が先にようすを見て来よう」


 プラテイユは床をすり抜けると工場での人のもみ合いを確認する。


(あれは、彼女の雇主か?どうやらもめ事になっているな、相手は船着き場組合の者だな…薄っすらではあるがこの領では奴らの権力は質が悪い、…俺のせいではあるが)


 すると一人の男が刃物を取り出すと、エフィアの親方を脅す。


「そんな大げさな話はしてねえだろ。そこらの一般人向けの家具には金は求めねえ。華族の連中への運搬は俺らが取り仕切るって話だ」

「エフィアが作る物は小物が多い、お前らに仕事など頼む程じゃねえ。この地区でお前らに仕事を与えれば、それをきっかけにお前らが仕切り出すだろうが、ここは俺ら職人が集まる工場街だ」


 入り口で干し肉を齧る男が語りかける。その男はどうやらこの連中の頭と見れた。


「そこまで分かってるなら猶更、お前らが派手に稼いだせいだ。金が動く所は船着きが頂く、それがこの大陸の決まりだろう」

「知るかそんな決まり!やるなら表に出やがれ」

「出るか馬鹿、助けでも呼ぶつもりだろう?お前じゃ話にならん、エフィアとか言う女に聞くとしよう。やれ」


 その男の合図で三人の男が一斉に親方に襲いかかる、それを見たプラテイユは瞬時に考えエフィアのもとに戻った。


「エフィア、すまないが体を借りる」

「え?何を借りるって?」


 エフィアの体に入ったプラテイユは抵抗の仕方も知らない彼女の体を奪う。整理された倉庫から適当な木材を手に取ると階段を駆け下り、一言も発せず相手の虚を突く形で反撃に出た。その攻撃は美しく的確に三人の急所を捕らえる。


「お、親方…逃げろ」

「駄目だ腹を刺された、お前が逃げろ」


 攻撃を受けた三人の男は動きを鈍くするが、逆に殺意を滾らせエフィアを睨みつけた。


「この女…何しやがる」

「仕方ない、殺すか」


 エフィアの口がそう言うとエフィアの握る木材は一人目の喉を潰す。そのままその剣筋はもう一人の後頭部に打撃を与えた。喉を潰された男は息が出来ずその場に蹲る、後頭部の損傷を受けた男は床に激しく体を打ち倒した。


「ひっ!?何だこの女、強いぞ」


 三人目がそう叫ぶとエフィアは倒れた男からナイフを奪うと、躊躇なく男の額目掛け投げ飛ばす。そのナイフが突き刺さった男は目を見開いたまま後ろに倒れ込んだ。


「…動く、まるで若かりし頃そのままだ」


 プラテイユはそう言うと彼女の体が馴染むのを感じる。


「…馴染む、胸が少し邪魔だが」


 連中の頭は何も言わず後ずさりをすると工場の入り口を出た。


「しくった…あの女、あんなに強いなんて聞いてねえぞ」

「待て」


 プラテイユはそう言うと男の首を掴んだ。そのまま足を崩し道端に押し付けた。


「ここの街の領民よ!出て来てくれ!船着き場組合の連中がここに毒を巻こうとしている!」


 プラテイユはそう叫ぶと、エフィアの声に誘われその街の住人が集まり始める。


「何だエフィア?そいつが船着きの連中だってか?」

「そうだ、…おっと、頼むそこの工場の人間が刺された。…親方が刺された、助けてくれ」

「何だって!?」


 それを聞いた職人の一人が彼の安否を確認に向かう。


「本当だ!ロハリがやられてる!医者呼んで来い!」

「やろぉ…」


 数人の職人が船着き場組合の男を囲む。


「半殺しで生かしてやれ、ここに手を出すとどうなるか奴らに知らしめる為に」

「分かったぜ、お前覚悟は出来たか…」


 エフィアの指示に従い職人達はその男をリンチする。それを確認したらプラテイユはエフィアの体を離れた。


「え?今見てたのは何?そしてこれは何?」

「少し体を借りた、君の街を奪おうとする者から君を守る為だ許してくれ」

「…今私がしたことは現実…あなたがやったの?…すごい」

「私はプラテイユだ…故にこの領民を守らなければならない、償わなければならない」

「…」


 エフィアは目の前の男が仇であり、足無しであり、この領の領主であることを理解した。



***



 神話をも遡る時代、神喰いの神を封印する為にドュラスとキネカは、この地を作り生命の封蝋を施した。誰も存在しない古い現世の話である。 


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